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19話 充実した日々と無意識の嫉妬


「リズリーちゃーん、悪いんだけどさ、この術式も見てくんねぇ? ゴーレムに対して有効な魔法属性と付与が研究で分かったんだけどさ、どうにもこの術式だと発動しなくて」

「ジグルドさん! 私で良ければ、もちろんです」


 リズリーが第二魔術師団で働くようになってから、約二週間が経った。

 屋敷内の把握や研究施設の設備への理解、特に関わる使用人たちや団員たちの名前も覚え、仕事内容や日々の生活リズムにも少し慣れてきた頃だろうか。


 適度に休暇があり、大好きな術式を見たり描いたり、人に教えたりする日々は、リズリーにとってまさに至福のときであった。

 第二魔術師団は実践がない際は、魔物や魔法全体のこと、呪いの研究を主にしているのだが、その全てではないにせよ、リズリーの術式絵師としての経験や知識は役に立ったのである。


 何より、ここに居る者は全員理由もなく嫌ってこない。罵倒も陰口も嫌がらせもない日々は、本当に幸せだった。


(私、こんなに幸せで良いのかしら……)


 呪いが解けたわけではないので根本的な解決はしていないものの、かなりストレスが減ったリズリー。

 そのおかげか、食欲が増え、睡眠の質が上がり、最近周りから頻繁に綺麗になったと言われた。


「この記号は消して──これは配置を入れ替えて──」

「お〜すげぇな。さっすがリズリーちゃん!」

「わっ……ジグルドさん、どれだけ頭を撫でるのですか……!」


 人当たりの良い第二魔術師団の団員だが、その中でも段違いに人の懐に入るのが上手なのはジグルドだ。

 今もナチュラルに頭をよしよしと撫でてくるあたり、女性に対しての免疫は強いのだろう。いや、女性とそれなりに遊んで来たと言ったほうが良いのかもしれない。


 だが、リズリーはそんなジグルドに触れられても緊張はおろか、殆ど動揺はなかった。


(ジグルドさんの雰囲気って何だか安心するのよね。ユランとはまた違って、面白いお兄ちゃんって感じかしら? けれど不思議……)


 ──ルカの笑顔は、見ただけで胸が高鳴ったというのに。


(……解呪の術式を試したばかりだったから、無意識に気が昂ぶっていたのかしら)


 ジグルドに引き続き頭を撫でられながら、リズリーがぼんやりとそんなことを考えていると、一人の団員が声を掛けてきた。


 ピンクの髪に小柄なその少年の名前はゼン。

 以前、「リア充は研究の失敗時に一緒に爆発すればいい」と言っていた、やや口の悪い魔術師である。


「そういえばリズリーさんさ、最近凄く手伝ってくれてるけど、体は大丈夫? ……その、無理は良くない」

「ゼン! 気にかけてくれて本当にありがとう……! 優しいのね」

「……別に。気になっただけだし」


 しかし、実はゼンは口の悪さなんて気にならないほどに優しい少年なのだ。


(ここに居る人たちは、本当に優しい方ばかりね。それに、ゼンって本当に……)


 ほんのりと頬を染めて目を逸らしているところがあまりに可愛くて、リズリーはつい手を伸ばして撫でてしまった。


「やめてほしいんだけど……」

「ごめんなさいゼン、そこをなんとか! あまりにゼンが可愛くて……」

「……全く。けど副団長はそろそろやめたほうがいいよ。命が惜しければ」

「「命?」」


 なんて物騒な……と思っていると、ジグルドと声が被る。

 すると、その時だった。


「ジグルド、人の婚約者の頭撫でている暇があるなら、この研究書類まとめろ。今日中にだ。良いな」


 いつからいたのだろう。大量の種類を持ち、ジグルドの背後で鋭い視線を向けているルカに、リズリーはゼンから手を退けてくるりと振り向いた。


「ルカ様……!」

「リズリーも済まん。直ぐに頭を洗ったほうが良いかもしれない。馬鹿の菌が移る」

「流石に酷くねぇか!? つーか、その書類、絶対今日中に片付く量じゃねぇだろ!! はっはーん、あれか。俺がリズリーちゃんに触ったからお前しっ──」

「どの属性の魔法で死にたい。選べ」


 書類を抱き抱えるようにして「誰か助けてくれー!」と叫ぶジグルドに、「許さん。それと書類は意地でやれ寝ずにやれ死に物狂いでやれ」と早口で捲し立てるルカ。


「……ふふっ」


(やっぱり、ルカ様とジグルドさんのやり取りって面白い……笑っちゃ失礼なんだろうけれど)


 リズリーが頬を綻ばせている中、触らぬ神に祟りなしというように、いつの間にか仕事に戻っているゼン。


 これ以上駄々をこねていても無意味だと諦めたのか、ジグルドも渋々自身のデスクへと戻って行くと、ルカに名前を呼ばれたリズリーは彼に視線を寄せた。


「はい、何でしょう?」

「……昨日、この部屋にある呪いの術式と解呪の術式については、一旦全て目を通したと言っていたな」

「はい。ここにあるものは全て。ただ、新たに術式を書き換えるにしろ、記号の配置を入れ替えたり付与を付け足すにしろ、私には呪いや解呪に関しての基本知識が足りないので不安がありまして……」


 二週間で呪いに関する術式を理解するのは、それだけで桁違いの天才だなんてジグルドやゼンには言われたのは記憶に新しい。

 しかし、リズリーにとってそれはさほど難しいことではなかったし、第二魔術師団の発展と解呪の為だと思えばより一層集中力が増したものだ。


 関わった人間から嫌悪される呪いの術式は発見できなかったので、それは残念だったけれど、全ての呪いが本や資料に纏められている訳ではないので、致し方ないだろう。


「それなら、書庫にある文献も読んでみるといい。理解が深まれば、解呪に近づくかもしれないからな。……というわけで、今から行くぞ」

「えっ?」


 たしかに今日、自分に回ってきた仕事はほとんど終えた。呪いと解呪の術式も一旦目を通したので、次は文献を読んで知識を広げたいと思っていたのも事実だけれど。


(もしかして、忙しいはずのルカ様が直々に案内してくださるというの……?)


 リズリーは書庫がどこにあるかは知っている。ただ、なんとなく言い出しづらくて、行けていなかっただけで。


 しかし、ルカから許可を得たのならば、話は別だ。


「ルカ様、お気遣いは大変ありがたいのですが、お忙しいと思いますし、私一人で参りますよ?」

「…………。俺も書庫に用事があるからついでだ。さっさと行くぞ」

「あっ、はい……!」


 素早く研究室から出ていくルカを、リズリーも足早に追い掛ける。


(さっきの返答、少し間があったけれど、どうしたんでしょう?)


 疑問に思ったものの、本人に質問して時間を取らせるようなことではないだろう。


 そう判断したリズリーは疑問を口にすることはなかった。


 そして、書庫に到着してからは、夢中になって文献を読み漁っていたというのに。



「……えっ、きゃあっ……!!」

「リズリー!! 危ない……!!」


 ──どうして、ルカ様に抱き止められているんだろう。

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