表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/74

15話 第二魔術師団、驚くことなかれ

 

 部下たちに背中を向けていたルカは、リズリーのそんな発言にくるりと振り向く。


 そこには彼女の言う通り、こちらをニヤけた顔で見つめてくるものが多数だ。

中には、「うわぁ、なんか団長がイチャイチャしてる」と言う者、「あれが婚約者殿なのか……可愛いな」とリズリーに目を奪われている者、「リア充は研究の失敗時に一緒に爆発すればいい」とジト目を向けるものなど、様々な感情でこちらを見つめる魔術師たちがいた。


「お前たち……余所見する暇があったら仕事をしろ仕事を。サボるなら魔物の餌にするぞ。特にジグルド」

「こっわ〜自分なんてリズリーちゃんとのイチャイチャ見せつけてきたくせに横暴じゃねぇ? なあ、お前ら?」

「「そうだそうだ!!」」


(お、思っていたよりも和気あいあいとしているのね)


 ジグルドに賛同する魔術師たちに、睨みつけるルカ。


 自身に対して嫌悪の眼差しは一切なく、リズリーはホッと胸を撫で下ろすと同時に、和やかな雰囲気につい笑みが溢れた。


「ふふ……あははっ」

「……何が面白いんだ、リズリー」

「も、申し訳ありません……! 何だか皆さんのやりとりについ、笑ってしまいました……っ、ふふっ」

「…………そうか」

「あ、お前ら今のルカの顔見てみ? 俺の婚約者の笑顔可愛い〜って思ってる顔だぞあれは」

「ジグルド、よほど死にたいらしいな。魔物の餌になる前に俺の魔法で──」

「……ふふっ、あはははっ……」


 緊張の糸が切れたからだろうか。何に対してもリズリーは笑ってしまう。

 ここまで賑やかな空間の中に入れるなんてここ三年間は無く、笑いの基準がおかしくなっているのかもしれないが、自分の意志で笑いが止まらなかった。


「……ふふ、あー……だめです、何だか笑いが止まらなくて……」

「笑い過ぎだ、阿呆」


 両手で口元を抑えるリズリーの頭に、ルカの手が振ってくる。

 コツン、と触れるか触れないか程度に小突かれ、リズリーの体はピシャリと固まったのだった。


「……? 済まない、痛かったか」

「えっ、あっ、いえっ、そう、ではなく……!」


 ルカの手が触れたことによって、先程頬に触れられたことを思い出したリズリーの顔はこれ以上なく真っ赤に染まる。

 今思えば、婚約者とはいえ、人前であんなふうに触れられて、どうして笑っていられたんだろう。


(い、今更ながら恥ずかしさが……!!)


 笑顔から一転して羞恥に染まるリズリーだったが、そんな彼女を心配したのか、ルカがじっと見つめてくる。


 そんなルカの瞳を目にしたリズリーは、向けられた視線の優しさに、何だかまた顔が赤くなった気がした。



 それからルカは事態を収拾し、忘れ物を届けてくれたリズリーに感謝の言葉を告げると、良い機会だと団員たちに紹介してくれた。

 事前にリズリーが婚約者になること、屋敷に暮らすことは伝えてあったらしく話はスムーズで、団員たちの態度は概ね良好だ。

 

 もちろん、ジグルド以外には名ばかりの婚約者だとは伝えていないらしい。


 呪いについても大まかには伝えてあるらしく、皆リズリーに対して同情や励ましの言葉を掛けてくれる。

 団員たちはリズリーが術式絵師であることや、いくつかある悪評は知っているらしいのだが、ルカがそれは呪いによるものだと事前に説明してくれたことで、誤解は生まずに済みそうだ。


 特に副団長のジグルドは明るくて話しやすく、団員たちとの仲を積極的に取り持ってくれたので、リズリーは思いの外早く団員たちと打ち解けることができ、シルビアと手を取り合って喜んだ。


とはいえ、リズリーは侯爵令嬢なので、皆に『リズリー様』と呼ばれ、少し距離を感じていた。何より、名ばかりの婚約者で公爵邸にお世話になっている身で、そんなふうに呼んでもらうのは申し訳なかった。


だから、リズリーが「気軽に呼んでください。是非仲良くしてください」と伝え、団員たちもその方がありがたいと言ってくれて、一気に親密度が増した気がした。



「よし、話は一旦終いだ。お前たちは仕事に戻れ。今日中に報告するものがいくつかあっただろ。資料に添付する術式も間違えるなよ」

「「了解でーす!」」


 ルカの言葉に、団員たちはデスクやフラスコや試験管、魔力計測器などの研究機器の前に戻っていく。

 すると、改めて研究施設内をきょろきょろと見ているリズリーに、ルカは近付いてくるとじっと見下ろした。


「興味があるなら見て行って構わないが」

「……! 本当ですか? けれど部外者の私が見てはいけないものもあるのでは……」

「そういうものは奥の部屋や書庫に置いてあるから問題ない。術式絵師のお前なら、おそらく興味が惹かれるものもあるだろう」

「ありがとうございます、ルカ様……!」



 許可をすれば、リズリーは早速団員たちの邪魔にならないように部屋を見て回っていた。どうやら、呪いに関することだけでなく、魔物を倒したときのデータや、新魔法の検証データなど、少しでも術式に関わるものには釘付けらしい。


 ルカはそんなリズリーに一瞥を送ってから自身も仕事をしようかと思っていたのだが、シルビアに呼ばれたので足を止めた。


「どうした」

「じ、実はですね……先程リズリー様に術式を教えていただいたのですが……これを見ていただきたく。因みに、この他の術式も……」

「これは……術式が描かれた魔法紙か。大した魔法の術式ではないようだが──!?」


 リズリーに内緒で、彼女が描いた術式をこっそりと持ち運び、それをルカに見せたシルビア。


 一見すれば何の変哲もない術式だというのに、ルカはそれを見て目を見開いた。


「これを、リズリーが……? 天才だとは聞いていたが……これは……天才どころでは……」


 ルカは手元にある術式からリズリーへと視線を移す。


 これは一度リズリーの話を聞いてみたいと思い、何やら団員と話している彼女の元へ向かった……のだけれど、その時に聞こえてきたリズリーの声に、ルカは目だけではなく口をあんぐりと開けることになった。


 そしてそれは、ルカだけでなくその場にいるリズリー以外の人間にも伝染するのだった。


「申し訳ありません。ちらっと見えたので居ても立ってもいられず……。今描いていらっしゃる術式ですが、一箇所ミスがあるようで……。このままだと術の効果が半減しますから、ここにはγを入れて──。それと、この付与の部分なんですが、隣り合う記号が反発しないようにαに入れ替えた方が──あ、それともし、この魔法の使用回数や威力をより増やすのであれば──それと、これって個人用の術式ですよね? 誰が使ってもある程度同じ出力になるような方法も──……って、すみません……! 調子に乗って口出しし過ぎました……! 戯言だと思って忘れてください、って……あれ? 皆さん、どうかされましたか……? そんなに驚いた顔をして……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
♦呪われ才女のかりそめ婚約~誰からも愛されなくなったはずが悪逆公爵に溺愛されています〜♦BookLive様にて先行配信されております!現在(7/19)1話無料ですので、ぜひこの機会に読んでみてくださいね!よろしくお願いします(^o^)♡ 呪われ才女
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ