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ZEROミッシングリンクⅧ【8】ZERO MISSING LINK 8  作者: タイニ
第七十章 あなたと私

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86 あなたに



敵か、味方か。


突然現れた東アジア軍服の男は、おそらくギュグニーらしき男に一瞬でアッパーを食らわせ、蹴りを入れる。見えないほどの瞬間技だ。


と、同時に3階からバイクが1台降りて来きながら「乗れ!」と、レサトに叫ぶ。その軍人も東アジア都市軍服だった。

「でも響さんが!」

「他に任せろ!二人もいたら邪魔だ!これは命令だ!!」

そう言うと走ったままレサトを乗せ、流れるようにあっという間に上階に上がってしまった。



一方、対戦に現われた男は、恐ろしいほど強かった。

倒れたギュグニー兵を起き上がらせることすらさせない。銃も使わず数回蹴って、あっという間に少し離れた位置に転がし拘束した。ここで自爆されると困るからだ。




「……はあ……」

男は息を整える。昔なら殺していたが、今はなるべくそうしない。やり過ぎて死んだかは分からないが。



それからその男はエスカレーターの方に向かう。


「……!」

頭を下に倒れている響が息をしているか見て、脈と温度があるかも確認する。機械を当てもう一度体調を見て、気を失っているだけと分かりほっとした。


頭を打ったのか血が出ているので、自分のバイクを呼んで布を出して当てる。

動かしていいのか分からない。でも、階段から落ちたようなひどい格好だし、またいつ地盤が揺れるか分からない。


首の下に手を入れ、そっと響を持ち上げた。



少し伸びてきた、愛しい黒髪。

埃と傷だらけの顔。



今ここには、ダウンしている敵兵と、自分たちしかいない。


二人だけだ。



少しだけ力を入れて抱きしめる。

何でこの女はこんなに人に心配をかけることをするのだろう。大人しくベガスで寝ていればよかったのに。

大して強くもないのに。



ヘッドキアを外して、触れたいと思う額、頬、そして唇。


今なら奪える。



「…………」



―――けれど、もう、それだけだ。



色付く唇に触れないように、少しだけ輪郭を辿る。

顔の傷に柔らかく触れ、跡が残らないことを祈った。



自分が付けたらしい首元の跡も今はないのだろう。




なぜ自分はあちら側に生まれてしまったのかと思う。

こちら側に生まれていたら、この女と同じ世界に生きることができたかもしれないのに。


もう一度軽く抱きしめ、しばらくそうしてから、そっとバイクのサイドシートに乗せ毛布を掛けた。座席を倒して応急処置をし、ベルトで固定し風よけを出す。



倒れている男には、連絡はしておいたから運がよかったら生きて生還できるかもな、と心で言っておきバイクを動かす。




男は一気に艾葉を抜け、ベガスの空に向かって行った。

そこに、会いたい人がいたからだ。



既に太陽も落ち、涼しい風がアンタレスの夜を流れる。




***




艾葉の地下街の振動が影響しない仮設住宅地域は、現在避難民で非常に混乱していた。


これまで退去命令に従わなかった河漢住民たちも、さすがに移動している。大きな会館のある避難所に主に人が流れ、ギュグニーや地下施設の件もあり、河漢民は移動禁止である。



そのため、アーツや南海青年などで、河漢経験のある者は皆駆り出されていた。

登録や整備、手続き指示、警備などである。そんな中、仮設地区にヘルプに来ていたタラゼドは東アジアに呼ばれてさらに移動し、ベガス総合病院の裏のヘリポートまで来ていた。数人の軍人が同行している。


この忙しい時に、何だと思う。

仮設地域には緊急でない怪我人も運ばれたり、行方不明者確認をしたりで忙しかったのだ。


「あの、それで何か……」

「あ、タラゼド君。もう到着する。少し待ってくれ。」

東アジアの人間がそう言うと、少し上空からすごいスピードで一気に1台の大型バイクが降りてきた。


「……?」



バイクの男がサイドカーで何か作業をしている。




きっと、近くで見るのはこれが最後だと。


「……麒麟、着いたよ。」




タラゼドは何かと思って少し離れた所から見ていて、そして分かった。


人だ。



男はその人を抱きかかえてタラゼドの方に歩いてくる。



なんなんだと思いながらも、もしかしてと気が付く。

「……響……さん?……」


男は手前まで来たタラゼドに一言言った。

「呼吸はしてるけど頭打ってるから。エスカレーターから落ちた。稼働してないエスカレーター。」

「!?」

案外若い感じの声だ。

「多分手で庇ってはいると思う。他もぶつけてるかも。」


「響さん!あの、ストレッチャーを!」

響から血の匂いがする。病院が既に準備して待機していたので思わずお願いした。


しかし男はタラゼドに差し出す。

「あんたに預けたかったから。」

軍服の男はヘッドギアも外さずに、そう言ってタラゼドに響を託した。

「え?あっ、響さん!」


受け取って驚く。埃だらけでボロボロだ。

「響さん、なんで……」

いつもブカブカの服を着こんでいたのに、上のワンピースはもう形なくやけに響が小さく見えた。

「響さん……」

タラゼドは少しだけ響を抱きしめると、待機していたストレッチャーに乗せた。



男は何も言わずに病棟に消えていく響を眺める。



「行ってやってよ。頭打つと後でヤバい時もあるから。」

「あ、え。ありがとう……」



タラゼドたちの背中が見えなくなるまで男は見送る。


それからその場にいた東アジア軍に混ざっていった。






アンタレスの夜に龍や麒麟が舞う。



現在市内は、河漢もベガスも、そして中央区も騒がしい夜を迎えていた。






今日はもう1話更新します。

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