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ZEROミッシングリンクⅧ【8】ZERO MISSING LINK 8  作者: タイニ
第七十章 あなたと私

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80 君を帰したい


※怪我など表現の強い描写があります。ぼかした表現にはしてありますが、苦手な方はこの回をお避け下さい。



「イオニア!」

信じられないことに、シェルター内部ではサルガスも待っていた。

「サルガス……」

生きて地下を出たはずなのに、生きた心地のしないままのイオニア。


「俺も何かあるかもって、念のため連れてこられた。」

サルガスがここにいる理由はそんな感じだが、なにせ、本人否定するも青龍幹部がかたぎに戻せると目を付けていた部下の子孫である。



広いメカニック設備のような空間に、ゴミゴミと人や作業車や運搬車があり、地下吹き抜けを越えてそのまま地上に上がれるヘリポートまであった。中を見るのは初めてだ。


「テミン!ナックス!」

ユラス兵が冷静に動いていく中で、誰かひどく動揺した声がする。

「テミン!!どうして!」

医師インターンや看護資格を有している兵役経験のある者も呼ばれていたのだ。普段、四至誠にも出入りしているユラス学生であった。ナックスはもう一人の女性兵が、椅子でずっと抱いていた。ファイは既に重傷者と共に第一便に乗って出発。第一便と、これから出発する数機は正規の医師も同行している。


「まだ完全な安全ではないらしいけど、外のギュグニー勢力はだいぶ押さえ込んだらしい。このまま空輸する。」

サルガスもファイがこんなことになったため、態度には見せないが動揺していた。

「………」

「イオニア。イオニア!大丈夫か?先に搬送組に乗るか?次、テミンたちも送る。」

子供は現在ナックスとテミン、他の場所で見つかった障害のある兄弟2人だけだ。

「………」

どうしていいのか分からない。取り敢えず怪我人を送ってからとお願いした。

おそらくまだ響やムギも地下の中だ。



そして、イオニアは知らないがチコやそのほかのユラス軍も艾葉のどこかにいた。



と、また振動がする。敏感な者は少し前にもう感知して構えていた。


「……?」


ドドドドドッ……と地響きがして、数回地面が斜めに揺れるとドガン!と傾いた。シェルター自体が傾いたのか。

「うわっ!」

「マジか!!」


軍人たちが避難前の民間人を支えている。ユラスもアンタレスも地震が少ないため、かなり動揺している者もいた。多くのメカニック機体や車両は固定や滑り止めがしてあったり、うまく操作して人の方に流れはしなかったが、それでも内部も数か所崩壊していた。浮遊する車両も地上に連動するものは大きく位置が変わっていた。


しかもまだシェルターの横扉は開いたまま。扉の方を見ると、地下エリアの方は一部の構造物や元々置いてあった物が一方に雪崩れている。

「………」

あのままあそこにいたら潰されていたかもしれない。


間一髪ではあるが、まだ地下にいる面々は大丈夫なのか。




***




「響史!大丈夫か?」


大きな構造物の落下で、空間が一部塞がってお互いが見えない。


『はい!社長たちは?』

「大丈夫だ。一緒にいるのは誰だ?」

『…藤湾学生ナオス族レサト・バイミースです。兵役経験者です。』

「バイミース家か。」

響と同行していたのはレサトだった。自分もムギたちのいる場所に行った方がいいという響に軍が困っていた時、テミンたちのように水路の方から上がって来たレサトが来たのだ。レサトは職業軍人ではない。


なぜ?ということになるが、実はムギ弟トゥルスたちと同様、彼らと仲が良かったレサトは度々河漢に遊びに来ていたのだ。そのためみんなの知らない抜け道も知っている。ただ、今は装備もなく怪我人を抱えているチームもある。集団で行き来できる場所でもないし、何かあった時に何の保証もない地下通路。


それでも、扉が開かず、地上が開通できなかった時のための案内として来たという。レサトは軍にものすごく怒られたが、響が間に入った。サイコスで見た場所が分かれば、その場所に連れて行ってほしいとお願いしてここに来たのだ。サレトは数人を抜け道に誘導していた。



シャプレーはレサトに頼む。

「そちらで移動できれば、響史をお願いできるか?!」

『大丈夫です。先来た空気口は……見える範囲では塞がっていません。』

「分かった、お願いする。」


元々、河漢の中学生しか通らなかったような狭い場所を、部分部分レーザーで破壊しながら無理やり潜って来た二人。その後、地震もあった。元の場所に戻るべきか、別のどこかに移動すべきか。レサトは先に浮遊メカのビーを飛ばして、行ける場所を確認する。


「……響さん…」

「ん?」

「響さん、赤いよ。」

「赤い?擦った所?」

「違う。霊光かな?やっぱり赤い。体から赤い光が出てる。」

「……え?」

「先社長とムギも赤かった。」

「………」

響は自分の顔に触れるもあまりよく分からない。不思議な顔をしてレサトの顔を見た。


「…ムギ、大丈夫かな……」

ムギを思い出して響は少し震える。

「向こうは社長に任せよう。また揺れたらもっと通路が塞がるかもしれない。行こう。」


一先ずハーネスで先の空気口まで上がり、二人は歩き出した。






しかし実のところ、シャプレー側は大丈夫ではなかった。


シャプレーも体に構造物が落下し、頭を庇った時に腕をさらに負傷、片足が潰れている。

ムギの頭は見えるが、全く反応がない上にどう見ても一部、落下物と揺れた時に押し上げられた物で体が挟まれた状態であった。シャプレーは挟まった自身の右足に何か操作すると、義体部分がシューと動きカチッと外れる。片足を失ってしまったが拘束は解かれた。


「ムギ!」

呼んでも無反応だ。シャプレーの左ももの部分に細い補助義足が内蔵されているが、こんな場所では邪魔になるため、一旦片足で立ち上がるとする。



すると、上の方から声がした。

「社長!!」

「!」


上を見ると壁上部の換気口にファクトがいた。

「大丈夫ですか?!」

「こっちに降りられるか?」

「あ、はい!」

義務労働で地下を出歩いていたファクトは慣れたように網を外し、壁の突起などを伝って下に降りる。だいぶ高い場所にいたが、タウたちにいろいろ習ったので埃っぽいコンクリートにキレイに着地する。ただ、物を握ると火傷した手が痛んだ。



シャプレーを見て、一瞬その姿に止まってしまう。

「ファクト、包帯はあるか?」

「……包帯?カバンに1つ入ってますが…」

小さなサイドバックにごちゃごちゃ物が入っている。シャプレーが起き上がるのを助けて……


「……ムギ?」

ファクトは息を飲んだ。


「ムギ?!!」


瓦礫に腕を持っていかれてうずくまったまま動かない、茶色い髪。


「ムギ!!」

シャプレーを瓦礫の壁に預けてその元に駆けていく。

「ムギ、ムギ!ムギ!!」

全く返事がない。


不安で顔を上げるとシャプレーが言った。

「挟まっている腕の瓦礫から2センチのところに私のネクタイを半分に裂いて巻け。」

「あ…、え、あ、はい!」


シャプレーは器用に片手でネクタイを外しファクトに渡す。包帯でなく?と思いながら言われたとおりにすると、補助義足を少し出したシャプレーが近付いてきて様子を見る。ムギの首や額に手を当て温度を見てから、ファクトにも温度を確認させた。温かさにホッとする。


シャプレーの手の平が白く光り、何か気のような物をムギに流していた。それから腕から取り出した注射ムギに打つと、少し待つ。


「もう少し待ちたいが、時間だな。」

この空間にまた微弱な振動を感じる。



「ファクト、もっとそのままネクタイを締めろ。血が止まるくらいまで。」

「……」

何か嫌な予感がして、思わず顔を上げた。


ファクトがこれくらいでいいかと聞くと、もっとだ。と言って、ムギの腕を抑え、ネクタイの片側をファクトに持たせると、さらにガッと締め上げる。

「っ?!」

ウッという感じで、一瞬ムギの体が起き上がるように反応した。でも、それっきりだ。


「押さえているからそこで固く縛れ。」

手が震える。どうにかその位置で縛るとシャプレーはまた気のような物を流している。

「一時しのぎだが体の経路を変えた。体がここで終わりだと一旦錯覚する。」

「……!」

ファクトにも、もう分かってしまう。



シャプレーはナイフを取り出す。


「他に方法は?!」

「根元を見れば分かる。完全につぶれている。」

「でも!」



ここからは一部覚えていない。


腕周りの処置をしているのを見ると、既に半分は切り離されていた。片膝でムギの体の一部を支えていたシャプレーは手が足りずに言った。


「ファクト、お前がいけ。」

「できません。」

思わず言ってしまう。


ひどい冷や汗が出て、足がすくむ。

切断しろということだ。



まだ温かい肌。少し前まで一緒に訓練をして、笑っていたムギ。



「いけ!この子を瓦礫と一緒に埋める気か!!まだ処置がある!急げ!!」

「できません!」



魂が揺れる。

全部が胸に焼き付きそうで、自分には勇気がなかった。



「ならいい。腕とナイフを押さえていろ!絶対に動かすな。一気にいく。」





―――





何か鈍い感じがして、気が付いた時にはムギは瓦礫から解放されていた。


人形のように動かない、青白い顔。

ムギはこんなに小さかったのかと錯覚してしまうほど弱々しい。


必死だった。シャプレーに言われるままに大き目の絆創膏のようなバンドで保護し、きれいな包帯で周りを巻いていく。この作業も正直目がくらんだが、腹をくくるしかなかった。

「大丈夫なんでしょうか……」

「さあ、後はこの子次第だ………」



なぜこんなことに……

と思いながら、でもどうにかムギをあの陽気な家に、トゥルスの元に、チコやみんなの元に帰したいと、それだけを願った。





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