78 花子さんは打ち破る
「中佐!
シャプレー社長が示した壁面はおそらくここですが、金属が入っています。今ある物だけでは壁面を壊せません!」
テミンたちを守るイオニア一行は、『前村工機』に面した壁面で途方に暮れていた。
サイコスが導いたシェルターの側面扉外部側まで来たものの、外側の外壁が今ある装備だけでは壊せない。
他のメンバーたちのいる場所の一方は、細い鉄筋にコンクリートだけなのでレーザーで粉砕。地盤沈下にも耐えられるほどの強度らしく、多少の刺激では扉自体は壊れないらしい。様々な物を撤去すると、そこにはシャプレーが心理層世界で垣間見たものと同じ開閉システムとその標識があったのだ。
もう一方はなんとシェルター側壁がそのまま露出していた。つまり、開門を待てばいい。
けれど、まだ何の反応もない。
そして、ここの側面も壊せない。
同時に他の出口も探させたり、外部から重機で上部入口を塞いでいる瓦礫を取り除く作業はしている。ただ、テロがあるかもしれないことと、艾葉が非常に複雑でもろくなっていることもあり、安全を確保しながら大々的に作業ができないためスピードが出せない。
もしかして、開いた内側から崩せるかもしれないが、地下構造とシェルターの隣接面もどうなっているか分からないし、調査している暇はない。
「この向こう側に赤龍の作ったシェルターがあるんですね……」
響は以前のことを思い出す。
廊下か、天井裏か。かび臭い通路をうごめくサラマンダー。
まだ名前も知らなかったボロボロの男。
アトピーの肌が「痒い、痛い」と、ただ無心にアンタレスの夜に内陸から走ってきたシェダル。
同じく汚れた格好で河漢からアーツメンバーが戻って来ていた。シェルター発覚はその夜のことだったのだ。
少し様子が見たいと、響が不思議そうに壁をなぞると中佐が教えてくれる。
「正確にはもっと過去の人間たちの遺産の改造だがな。」
少し壁に手を当てて響は祈る。心配して女性兵マーベックがまた響の横に来てくれた。
サイコスに入る手前で、響は目を閉じてみる。
「………」
少しの沈黙。
そして痛み。
響はもっと向こう側を見たくなった。
でも、そんなところに狭い換気口から降りて来る、緑の天使。
「はい!皆さまこんにちは!!」
「……っ?!」
「皆さんに舞い降りたステキな天使です!」
東アジアもユラス軍も呆然となり、直ぐに銃を向ける。
「ひいっ!」と両手を挙げるかわいそうな小柄アンドロイド。
「やめて!私は緑野花子と申します!中身は篠崎ですが……。」
「え?……なんでこんなところにいるの?」
みなが警戒する中、イオニアが呆れて見てしまう。イオニアは以前の艾葉で緑の花子さんのボディーには出会っていた。やたらファクトに執着していた弱そうなアンドロイドである。
「はーー!ジョーイに絆されそうになったイオニアさん!」
「余計な事言わなくていいんだけど。」
ムカつくのでイオニアも片手でハンドガンを向ける。
「ひっ、やめて下さい!!この体、そんなに丈夫じゃないというか、もうガタが来てるんです!シリウスがとんでもない使い方ばかりするから!」
「…イオニア?彼女は?」
「あ、少し前に艾葉に遊びに来ていた機体です。軍も把握していると思いますが。」
泣きそうな緑髪の花子さんに近付き、東アジア軍がスキャンすると、二重ロックの特殊機体として承認が通るので、驚く東アジア軍人。なにせ、シリウスがお忍びにしていた機体だ。ただのクラシックでジャミナイのジャンク屋に返されたものだが、おそらく手を加えられたのだろう。ふふんと、花子さんは偉そうな顔をするも、イオニアに睨まれてまた泣きそうだ。
「……ひどい……。イオニアさんはアンドロイドに限りなく優しい人だと思ってたのに……。」
「だから、黙ってろよ。」
イオニアがさらに銃を向ける。響のいる前で響になったジョーイの話を出されたら撃つしかない。
「えーーん!!」
「……小さい子なのにかわいそうだよ…。」
思わず当人響が横から助けた。
「こいつは子供じゃないし、人間を唆そうとした古典アンドロイドだ。」
「違います!それは緑野花子で、私はリアーズです!!」
「はあ?」
「記録は共有していますが、私は篠崎リアーズです!」
「まさか……」
中佐も驚く。篠崎さんも人間を唆してはいたが。二人は似た者同士のライバルであった。
しょうがないのでイオニアは、口調は優しく話しかけてあげる。
「折角、きれいにみんなの犠牲になって散ったのに、余韻もなくもう舞い戻ってきたのか?」
篠崎さんが散ってまだ数時間もない。
「ひどい!どうせ、何の感傷もなかったくせに!」
「で、何をしに戻ってきたんだ。」
「あ、はい!私がこの側面を開けます。」
「!?」
「できるのか?!」
東アジア軍が驚く。
「はい。先、ここに来るまでに信号を出しておいたので……」
花子さんが少し耳を澄ますと、
ガン!ガン!ジーーーーーと、イオニアたちが最初に向かってきた方から音がする。
「??」
「なっ?」
「アンドロイド?!」
数匹のムカデが連れてきた、機械面丸出しのアンドロイド。
そして数台の……
中型コマだった。
「……?!!」
こんな所でこんな機械が暴れたらどうなるか分からない。
みんな、なんだ攻撃されるのかと構えるが、向こうが構えた瞬間に花子さんも動き出す。そして、アジア軍に接して迷っているアンドロイドの前に素早く行き、頭脳部を取った。アンドロイドは引き離そうとするも、花子さんは一気に電気コントロールを入れる。味方が近距離過ぎて動けないコマがあたふたしているうちに、緑の花子さんはコマを乗っ取った。
「ハッキング?!」
違法だが、このメカたちの存在も違法だし、何ならリアーズさんはギュグニーのシステムである。半分は。
『さあ、どうぞ。』
緑のアンドロイドが機能停止をすると同時に、今度話し出すのは、見た目の性別もない先のメカニックなアンドロイド。篠崎さんは、体をこちらのアンドロイドに変えたのだ。このアンドロイドはコマの制御やコントリールを担える。
『このコマに搭載された削孔機もショベルも自由に使えます!』
篠崎さんに、みんなまた呆気にとられるしかなかった。
***
そして、その少し下層階にいたムギとシャプレーは、おそらく霊性の鍵、結界が開いたことを確認するも、それ以上何もないので一旦様子を見ていた。
何かのロックが開いたのは確かだが、実体の世界は何も動かない。
なぜ?これはあくまで開錠の一端で、他に何かがいるということもあり得るだろう。
「長い間完全なロック状態になっていたから、また内部からの操作がいるとか……」
「上部扉が開いた時は?」
「バングルを持っていたら自動で開いたそうだが。」
シャプレーが少し考える。
「その時…の状況は、青龍の子が赤いバングルを持って、『前村工機』のほぼ上に立っていた………」
「……」
バングルの直接の持ち主の子孫ではないが、サルガスは青龍の忘れ形見。もしかして、ここにもロディアがいなければいけなかったのだろうか。もしくはその血を引くカーティンおじさん。
ムギが悩んでいる。
「ここまで来て……こんなことって……」
「…その前に……、アーツのメンバーが前村工機の文字が隠されていたことに霊性で気が付いていた。赤い光に見えたらしい。まだ手順があるのかもしれない。」
ジェイのことだろう。霊性師も必要だったのだろうか。けれど、シャプレーも霊性師のはずだ。それに、ムギがここまで単独で降りてきたのは、施錠の位置を闇雲に探していたわけではない。
宝石箱に描かれた青龍がそのままこの場所に一致するのではと思ったからだ。
実は位置的にここはシェルターのへその部分になる。
狭い空気丂など一人で動くしかなく単独でここまで来た。けれど、赤龍の子孫も必要だったのか、
「何人かが青く光っていたと言っていたな……」
「青く?」
「サダルと……アーツのサルガスと、ファクトだ。」
ジェイはその3人が青く光っていると言っていた。
その時、ダン!と、後ろから銃が放たれた。
「えっ?!」
「ぐっ!!」
咄嗟に避けるも、もう一発撃たれ、シャプレーの利き腕に入る。
「しゃ…」
社長と叫びそうになるも、ムギは庇われシャプレーはもう一発肩に受ける。そして数発そのまま砲弾が飛び。
貫通はしないが、肩が歪むほどの威力で、弾かれた砲弾は周囲の壁に後を付けた。
「チっ!」
そう舌打ちするのは、先シリウスから逃げてきた白金のモーゼスだった。
モーゼスのオリジナル体である。
●イモリとの、実体での最初の出会い
『ZEROミッシングリンクⅣ』27 ワラビー
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