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ZEROミッシングリンクⅧ【8】ZERO MISSING LINK 8  作者: タイニ
第六十九章 掴んだこの手

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71 女たちは飛ぶ。河漢の天地を



響は流れる。


この河漢に、アンタレスに流れる誰かの積んだ、広大な海を。


長い黒髪を持った響は、今同調すべき世界に集中する。



河漢に飲まれる前に、この土地に徳目を積んだ者たちに感化を合わせるのだ。

この広がる荒野のために、見返りのない何かを捧げた者に。


絶対に揺らがない、既に天に繋がれた精魂。



全てが流れる。






「ユタ!」

「ゼタリア!」


ずっと昔、河漢の真ん中で抱き合う二人。



女性の方は、どこかで見たことがある、安心する顔。

二人は平手を合わせてお互いの話をする。



『こことここを繋げましょう。』

『ここの扉はシリンダー。ディンプルドアなの。』



『ほら、縦の鍵はこれ。』


『横はこっち。』



ゼタリアと呼ばれた女性は男性に赤いバングルを付ける。

青いバングルは女性が。




そして、場面は変わったのかそのままなのか。


女性はかざす。



青いバングルを――――






これだ!


響は叫んだ。心理層の中で。


一気に変わる世界。



誰かが造る。メカニックを操作して、横の扉を。



また時代が移ったのか、場所が移っただけなのか。

たくさんの人々が移り変わり響の意識を掠る。



教えて!


みんなをシェルターに移動できる位置を!







見える。



過去、ここを建て、ここを使用してきた人たちの形跡が。


けれど響にできないことは、この位置や経路を見ながら同時に現実の人を誘導することと、心理世界の中で現実との地理的位置を合致させることだ。そして、そのまま細かい記憶を持って現実に覚醒すること。



一旦、冷静になる。

彼らの意識を俯瞰するのではなく、同調して会話をしてもらうのだ。ファクトやシェダルとするようにできるかは分からないが。もしくは彼らの見ている世界をそのまま暗記する。専門でないことを曖昧な世界で把握するのは難しいかもしれないが、記憶に残すしかない。



数人の意識が見える中、より全体を知る人にまずは目を向ける。



じっと気持ちを落ち着けると、シェルターを『前村工機』に改装した人の目線になった。

響は彼を知らないが、みんなを困らせた前村さんであろう。


彼の中にはシェルターはもちろん、その近辺の様子、元の形、変化、改装の設計図が全て明確に入っている。


けれど戸惑う。薬品や化学式のようにたくさんの数字や文字が見えるが、おそらくプロダクトや機械、建築設計図。そして電気や通信など配線各分野の分布地図。いくつも見える図面が世界が建物の平面図や断面図と分かるが、一般の建物より複雑で一部以外何を示しているのか分からない。立体図も出てくるが、おそらくシェルター構造のそれと、河漢地下が素人の知識では一致しない。

響の霊性はファクトほど明確に表れないので、感覚にも頼れない。


「…どうしよう……」

どうやってこれを、現実の人間を誘導できるように持って行けばいいのか。




…………


河漢に流れる様々な世界を見ながら、響はもう一度呼吸をした。

そして目を閉じる。



深層世界で響はさらに、意識の中に潜る。


思い出すんだ。あの感覚。




深層を見ることができ、この件に関して最も頭働く存在。





ガガガガガガっーーーーーー



と、突如、世界が回る。


見目で左を確認し、もう一度響はこの世界が動くことを感じとる。




また、

ガガガガガガガガガーーーーーーー


と世界が逆半回転し、たくさんのレイヤーを重ねたように世界が映し出された。



シャプレーの意識だ。

シャプレーは深い層に入ってはいけないが、心理層を見ることができる。




***




実はシャプレーもスピカ、カペラたちと共に艾葉に入っていた。



シャプレーの世界が動かされる。

「?!」


ガガガガガガーーーーーーー


と、強制的に移り変わる荒野。



見える世界が半回転したところで、無理やり入ってきた響の声が聴こえた。

『社長!』

「??」

『私です!』

「響史か?」



また、ガガガーーーーと動いていく中で、響の心理層と合流した。



『はい、お願いがあります。』

「……」

『私が今いる世界の風景やエンジニアたちの世界から―――』

「地下にいる人間を誘導するのか?」

『!』


話が早い。


『流石社長。よく分かりましたね。』

「もう、お膳立てされている。」

『……まさか、ムギですか?』

「そうだな。」

『……』

ちょっと驚く響。



『できそうですか?私が見ている世界と全く同じものを見せられるかは分かりませんが……』

シャプレーの見る世界と響の見る世界は違うかもしれない。心理層には多くのレイヤーが、色眼鏡が入るからだ。その中でも響は、真っ直ぐに対象を見る。


『でも、シャプレー社長なら、私より彼らに同調できるかもしれません。』

アンタレスで育ち、技術者たちの中で生き、ニューロスの世界を見て、様々なドローズやセキュリティーに触れている。



「時間がない。出来るかは分からないがやってみよう。」


『はい。では、できる限りのことをしてみます―――』




***




同じ頃、ムギは実体のこの河漢を走っていた。


既にマッピングができている場所で、シェルター側面の鍵の位置を予測して動いていた。


それは過去は地下倉庫として使われ駐車場にもなり、さらにその地下まで使えば、災害があった場合の貯水池にもなる場所。

そこに、シェルター内部入口と繋がる場所があるのだ。


ただ、外部はコンクリート構造に覆われて出入り口とは思えない。


でも可能性はあった。

ロディアの持っていた本の記録によると、かつてロディアの曽祖母が、その場所を商店街から買おうとしていたのだ。商店街と行政の共用の場だったためその話は流れたが、前持ち主の時代からそこに何か設計されていたらしい。



ムギは思う。


それはおそらく、側面の扉を開ける結界の開封。




***




同時にもう一つの根回しが行われていた。



「ふざけんな、バカ野郎!」

ヴァーゴよりヤバい顔をした男が、緑頭の子供に怒っている。


「女性にバカ野郎って最悪!!」

「はいはい、お馬鹿さん!!でも思うだろ!!……死ぬ以外に何の選択肢があるんだ!」

「公務執行妨害や規正法違反で拘束。」

「だからふざけんな!ってレベルだろ!!」

「それから後で、サイバー法違反にも関わる。」

「マジふざけんな!勝手に未来の罪を作るな!!俺の未来を何だと思っている!!!」


またこのガキを乗せて河漢に走らされているのは、河漢人より柄が悪い男、ジャンク屋逆モヒ頭のジャミナイである。リゲルの従兄だ。


乗っている女性は緑頭。

「ガキじゃなくて大人なんだけど。」

ジャンク屋に眠るクラシックアンドロイド、緑野花子さんである。

けれど今の中身はシリウスではない。


「はーー、この体最悪!動きの幅が狭いし、この身長じゃこの前買った服着こなせるか分からないし。ファクトもこれじゃあ付き合ってくれないだろうし。」


そう、篠崎さんである。




「……人間と付き合う気でいるのか?最悪だな。そもそも後で換えればいいだろ。」

機体を変えるという意味だ。


「護衛に入ればよかったのに。シリウスもそこに入っていたぞ。」

ジャミナイの店の売り物に護衛機種があるのだ。

「やだ、男はヤダ。」

「あいつ、竿も玉も付いてないからな。気にするな。」

アニメや映画の変身ヒーローのように、陰部はメカニックままの平たい構造だ。

「いやでーーーすっ!!」

「いいぞ。男も。」

「ありえない!絶対いや!バカはジャミナイだ!!」


これが緑の花子さんの元々の性格なのか、篠崎さんも似たような性格になっている。東アジアに寝返りしてから少しおかしいが、もっと子供っぽい。篠崎さんも元々の機体に釣られるのか、精神性も含めたSS級アンドロイドなのに。



「遠隔ではできなかったのか?」

「物理機種に入るから物理的に近い方がいい。」

他の機種を乗っ取るのだ。


ネット上ではこのくらいの距離は関係ないと思うが、リモートでで入れなかった場合、電気操作で直接繋ぐ。それに、どんな機種に入れるか分からないし、現場で状況を把握したい。

「この緑頭でどこまでできるかは分からないけれど、Sクラスの機体に入ったら一気に行く。」



二人は撃沈されることもなく、艾葉付近に降りた。





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