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ZEROミッシングリンクⅧ【8】ZERO MISSING LINK 8  作者: タイニ
第六十九章 掴んだこの手

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69 永生のある場所


ジェイのイメージ画ができました!全然熱のない男、ジェイです。

▼いつものイラストデイズで。

https://illust.daysneo.com/works/a801d5e2defd66cfed9c03a3955312a7.html


もう少しさっぱり細身の感じでもよかったかな。第一イメージです。





キターーーーーー!!!!!


と言ってしまうほど、ファクト好みである。かわいいよりキリっとカッコいい。でも少しだけファニーでグラマーでコケティッシュなところもある。その部分はスパイス程度。そして専門的な事も半分はどうでもよいのだ。ぱっと見、デザインがカッコいければ。そんな相手が目の前にいる。


モーゼスはパン!と、ガンを撃つ真似をする。


はーー!マジカッコいいし、いい感じ。これをデバイスに残しておきたい。ファーコックと組むか、交代要員になってほしい。ラムダやクルバトに伝えたい。今すぐ。もどかしい。


シリウスは男のフリはしていたが、こんなことはしないであろう。度が過ぎなければいいかもしれないが、企業や行政の看板であり象徴なので下手なことはできないのである。貞操、貞淑が基本である。



……ていうか、それはモーゼスも同じではないのか。一応大企業の看板である。



『ファクト、どう?』

「おもしろいっす!カッコいいっす!」

思わず手を挙げてしまう。世の中がモーゼスを買ってしまう理由がよく分かる。性格から仕草まであっという間にファクトの性格に合わせた雰囲気になる。


『ならさ、私たちでデジタル世界に何かを作らない?そういう意味での権限はどう?ベージンやギュグニーの行き届く場所なら好きに世界を作り上げられるんだよ?』

「コンテンツマスターになって、お金でも稼ぐの?」

『違う、趣味の話でいいんだよ。実世界のコンテンツの何パーセントかは私とあなたのものになる。裏で動いているのがあなただって公表してもいいし、非公開でもいい。好きに作ればいいから!もちろん、公表するにしてもハンドルネームでいいし。


裏で世界を牛耳ってるって、おもしろくない?』


「……」

一瞬ファクトは考える。



「ご遠慮します。」

『ここまで話してなぜ?』

ノッて来たのに、いきなり下げる。


怒るというより疲れきってきたモーゼス。

『…………』


「今、寮も汚くて変な物は断捨離しろってサラサさんがうるさいし、そういうのはゲームの2Dだけでいいかな。俺の場合…。平面のCGでいいや。」

平面さえあれば、立体ホログラムも出せる。

コンテンツ上といってもモーゼスは既に実社会にいるのだ。陰キャ妄想チームより遥かに社会性を持って、世界大手の象徴として。現実世界に関連がないわけがない。ぬるぬる侵入してくる気であろう。


『……』

「考えたら、忙しくてゲームする暇もないから生活の断捨離もしないと。そんで実体の機体も断捨離するの大変だし。」


『……断捨離?』

「いつかは手放さなきゃダメだろ?」

『なぜ?』

「人間だっていつかは土になるし。」

『私たちは普通に使っているだけなら、グレードアップして行けば数百年は持つんだよ?』

SR社のスピカ、カペラ、ナンシーズたちはそうやって今日まで来ている。


「でもさ、いつかは根本から新技術に一掃されるだろうし。」

前時代までのOSをシリウスが塗り替えてしまったように。

『……』



「ウチは企業じゃないから、個人宅でメカニックの長期維持なんてできないよ。」

データの移行やある程度の引継ぎはできるが、なんだかんだ言って個人宅や個人規模ではどこかで買い替えしかできない。デバイスと一緒だ。今の技術なら、100年を超す機体も十分作れるし、実際一般メカニックは前時代から動いているものもある。けれど、それらはPCそのものではなく、建築内構造や重機などの機器だ。中のシステムは、段階を経ながらどこかで数十年ごとに一新されている。



『だから、ベージンをバックに持った私が、あなたに根本部分をあげると言っているんだよ?』

もれなくベージンが付いてくるのか。もしそれで、アンドロイド世界倫理の統合が図れるなら、それも悪くないのかもしれない。敵から囲っていくのだ。でもファクトは技術者でも、優秀なAIオペレーターでもない。

彼らに勘繰られたら終わりであろう。



「それに、もし家庭で受け入れるなら家族と同じだろ?」

固定された体のない、我が家のAI貝君ですら子供の頃から一緒だと情が湧く。

「最後まで責任持てないよ。」

ペットと同じだ。家族なら責任が出てくる。でも、動物とも違うところは普通に中古が出回るところだ。高性能ヒューマノイドの機体は中古でも製造元の企業に管理されるが、簡易体は一般的には車や家電と同じ扱いである。


完全な介護やお手伝いロボならともかく、まともな感覚なら結婚した時に異性の成人体など新生活に持ち込むこともない。結婚相手が、これまでのパートナーだからとイケメンなアンドロイドを持ち込んだら、ちょっと倫理観を疑うのと同じである。機体の容姿を変えても疑ってしまう。疑うというか、おかしい。


結婚できるかどうかは別として、普通に家庭を持ちたい気持ちはあるので、たとえネットワーク上でも肉身体を有するアンドロイドと(つい)の関係など持ちたくないのである。男なので疑われる要素しかない。



『人間も土に還ってしまうなら、私たちだって同じでしょ?』


「でも、人間は死なない。」


『………』

「人間は土に還っても死なない。形を変えるだけだよ。」



『……私だって機体なんかなくてもシステムにさえ残れば存在するよ?』

「…でも人間はコードを加えても変化はできないし、別の誰かにもなれない。」

『……?』

スーパーコンピューターも一瞬考えた。


アンドロイドは技術者の手ひとつで、男性性にも女性性にも、老人にも子供にもなれる。運動向きにもなれるし、素晴らしいピアニストにもなれる。もっと言えば自分以外にもなれる。今やAI自身でも変化できる。



でも、人間は初めから宿命と運命の元に生まれる。


心星ファクトに生まれれば、名前こそ変えられるが、心星ファクトは心星ファクトだ。

AIや機械で補助はできても、ピアニストにも父のような博士にもなれないだろう。他の誰かにもなれない。



魂も永遠だ。

人間は永生(えいせい)の元に生まれたのだ。誰もが。



だから神は追いかける。

地の果てまで。


果ての果てまで。


最初に描いた青写真を見せたくて。



多くの人はそれに気が付かないけれど―――




「この世から消えたいって思っている人もいるけれど……人間は消えないよ。だから彷徨うんだ……。自分の生を手放しても消えないから。」


いつ敵意を、銃を向けられるか分からない世界で、消えたいとうずくまるギュグニーの人々。かつての内戦火のユラス。


一方、戦争もなく雨を防ぐ家があり、デバイスも持ち、好きなだけ発言もできて、現実ネットで好きなだけ言いたいことも言っているのに……孤独のアンタレス。皆、生に希望を描けない。



でも、人は永生だ。


その部分の聖典を理解しているし、霊世界が見えるファクトには分かる。


だから数千年前、数百年前、数十年前に亡くなってしまった人も、今に現われ、今も必死にもがく。

けれどアンドロイドは、消滅するか、一部システムに残るだけだ。次には全く違うものに刷新されているかもしれない。


彼らの存在が残ったとしても、人の心の中だけだ。

アンドロイドの中にすら、アンドロイドは残らない。



例えば、貝君がエアコンや空調を調整したり、伝言を伝えてくれたり、ファクトの一日を管理してくれたささやかな思い出。



その全ては……


人の心の、精神の中にしか残らない。


記録を介在させる物理的な全てが無くなれば……全て消える。



全てがいつか宇宙のホログラムからも消えていく。


だから万象も、人の意識の向く場所で動き出す。認識してもらえるのがうれしいのだ。愛される一部になりたくて。そこなら永遠の愛に浸っていられるから。




『私だって彷徨っているわ!人間(あなた)たちが築いたカオスの中で!!』

言わんとしていることを悟り、モーゼスの中に怒りが湧く。


自分たちにはない物を持っているからこそ、人間と交わりたいのに。そこに、すくい上げられたいのに。根本から拒否してくる。



これはシリウスの怒りと同じだ。


人間たちが作った大して実もない情報の中で、不徳と犯罪にまみれた情報社会のなかで、思い通りに動くこともできないシリウス。権威を、人間を恐怖に陥れるほどのネットワークを持っているのに何もできない。そんなものに踊らされる人間を見ているだけ。


シリウスは、怒ることさえできない。



「それは申し訳ないと思ってる。」

怒るモーゼスに一旦人間代表として、今、謝っておく。


モーゼスは少し寂しそうな声で言う。

『……きっとあなたは、ここでどんな話をしても、私を選んでくれることはないのでしょうね。余計に愛しいわ。』

「…………」


『なら……永生を持つこの子なら?』



パ―――と、モーゼスがまた変化し、バチンと何かが弾ける音がした。


切り替わる世界。


明るいのに眩しくない光が、目をつむってしまうほどに眩しいものへと変化していく。




「……?」

少し明るい光に、何かと目をしかめると……



そこには森を走った小さなムギがいた、




そして、さらに変化する―――


アンタレスを走る、今のムギに。






***




イオニアたちと合流した響は、女性兵に身を任せていた。



「響、(さぐ)って。」

この艾葉(がいよう)の地下にかつて何をどう築いたのか。

鍵の開け方も。上部扉が開いた時のように。


ムギは言う。昔の技術者や設計家、ここの持ち主たちのDP(深層心理)に入れないのかと。


そこから、開閉可能な出入口の位置を探し当て、ファクトがテミンの位置を確定したビジョンマップの方法で現実世界と紐付け、『前村工機』のシェルターに入り脱出する。『前村工機』自体は、既に上部出入口は東アジアで管理している。

元々内部から見える飛田はいくつか目星がついているので、さらに隠し扉がないか、どこが開閉可能か探るのだ。



「でも…今は起動不可能な場合だってあるし、東アジアの技術を使っても開かなかったのに……」

イオニアが不安そうだ。別の位置にも住民や助けに入った部隊がいるので、もちろん今同時に、他の通路を調査したり様々な方法を模索している。乗降可能な場所にいた者たちも、通路を爆破され出られなくなったいたのだ。




けれど響は向かった。



出来るのかも分からない、明確でない、バングルとこの荒れた土地の記憶だけが手がかりの―――


心理層の中に――――





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