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ZEROミッシングリンクⅧ【8】ZERO MISSING LINK 8  作者: タイニ
第六十二章 あなたの中の命 
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6 なぜ自分が標的に?と思うコミュ障



今回の会議では、アーツと南海青年を中心とする河漢チームも全体に紹介された。


アーツの河漢チームは大きく3つに分かれ、治安や自治を補助する警邏担当と、住民の保健衛生や金銭とそれに伴う物資以外の公的支援の物理的状況確認など担当、そして教育構築補助となる。


警邏はイオニアと河漢出身のイユーニが率いる初期メンバーが中心だが、イオニアは非常に優秀だったため様々な仕事を掛け持ちしていた。


医療や教育は藤湾大学の方が既に世界レベルでのノウハウを持っている。

なのになぜアーツが関わるのかと言えば、まずアーツがアンタレス市民であり東アジアの性質をよく理解しているという事だった。ならばアンタレスで大学以上の教育を受けてきた英才の市民の方が遥かにいいように見えたが、彼らは新しい時代の変革にも移民政策にもカストルにも抵抗し、変革に関わる一時代と数世代を失った。


アンタレス市民は思ってもいなかったのだ。

自分たちよりも勉学だけでなく信心においても協調性においても優秀な移民がベガスに集結していたとは。知っていてもそれは学術的な部分に関しては脅威ではないと思っていたし、政治的自治的に出しゃばってくるなら脅威と風潮すれば市民の敵意の的になり対抗勢力に仕上げられると。



しかし彼らは敵対しなかった。

彼らこそ聖典歴史の終結を望んでいたし、そんな暇はなかったからだ。


過去を生きている世代と違い、

ユラスの新世代は、虐殺で亡くなった前ナオス族長の意志を組んでいた。



そこに、世界最大の経済都市アンタレス市民ではあるが、でかいことを言っているようでものすごいプライドもないし、選民意識もないどころかそんなの知らない状態、人生どうでもよかったし、でも自分はかわいい大房民が来てしまったのだ。


広域的な意味で、プライドが高く自分がかわいいというのは大都市アンタレス市民に共通していたが、大房民は目的のために人に頭を下げることができたし、態度は悪いが知りたいことやしたいことには嫌いな人間の間にも入っていける性格の者も多かった。ベガス指導者たちにものすごく楯突いているが、反抗しつつも関わってくるのだ。


アンタレスの多くの市民は嫌悪したものには近付きもしないし、距離を好むのに。


そして大房民はもともと前時代移民混血が多いことと、世界各地の文化色が非常に色濃いこともあってか、多様な文化に慣れていた。

なにせこの混血時代の中でも特に混血。祖父世代を辿るだけで数十各国の血が混ざっている事も多い。お正月も年数回あり、何を祝っているのか、何を食べているのか自分たちもさっぱり分からないほどの混血だ。礼拝の讃美歌でも、しっとり歌いたい元旧教系とノリノリすぎるラテンやオリガン系がよく歌一つで本末転倒なケンカもしている。だったら別々に礼拝をすればいいのに、そういうこともしないのが大房民である。

なので、ユラス人にはビビって文句ばかり言っているが実際は人種的垣根も低い。彼らがユラス人とタッグを組めたのはその柔軟性であろう。ユラス人はお堅いが、生活自体は先進地域アジア人よりアバウトだ。



大房祖父母や親世代は過激な分裂傾向や自害他害傾向があるが、そんなものにも興味を失いつつあるサルガス世代はいろんな意味で彷徨ってもいたし、自由でもあった。


自分の中に正解などないことも知っていたし、態度は悪くても実際は既得権層より遥かに謙虚であった。


プライドを捨てて目の前に対さなければ、新しいものは見えないと身をもって知ったからだ。

経済大都市アンタレスに住んでも、比較的便利に生活できるという以外、過去の遺物に人生の渇きを癒すものはなかったからだ。




大房民は河漢ともいい加減さが多少似ているため間に入って行きやすく、そして人から話を聞き出すのもうまい。感じたことをアウトプットする力の弱い者が多かったが、コミュニケーション力のあるメンバーが要点をまとめ直し、アンタレスで生きるために必要な教育枠を、様々な段階ごとに一緒に構築していく。


もちろん大きくはアーツ内に大房区民以外もたくさんいるが、アーツに来たそんな彼らも大房民中心で作ったアーツを受け入れていた。第1弾はイオニア以外は、高卒や専門学校や地味無名大学卒。イオニアの兄ゼオナスもその後加わるが、ゼオナスも正しくは高学歴層から逃けた身だ。

そんなチームにライブラやミューティアなどの家系も良いエリート確定層が来て、仕事としては部下や同僚になったのだ。


大房民は専門や特殊分野の能力のある者も多い。河漢の勉強出来なさ具合も理解できたし、少なくとも大房並みには暮らせる術も知っている。そして大房中心でも国際組織規模の団体ができた事実。


中央区中央が中心だった場合に得られるような初めからの大型後援はないが、しがらみがないとも言えた。そして縁を繋げば草の根からでも協力団体や支援に繋いでいけるのだ。むしろ経済団体などはこの状況や、そこにいる人間たちを面白いと思い始めていた。


この一連のことは、人をうまく使えば河漢でも同じことができるという未来図でもあった。




***




そんな共有会議が終わったのち、妄想チームに予想だにもしないことが起きた。


全体が終わったらサッサと移動すると思っていたサダルたちが、まだ席の後ろで会話をしている。

では、自分たちがサッサと撤退すべきだろうと帰りたいのに、アーツは連絡事項があるのでゼオナスが来るまで待っていてほしいと、とんでもないことを言ってきたのだ。チコは他に仕事が入ったため、終わりと同時に「業務中でなくともベガスでナンパする奴はぶっ殺す」と爽やかに言い残し去って行った。もちろん一同ブーイングである。

それを見ていた妄想チームは、陽キャの怒りなどどうでもいいが、旦那たちも連れ去ってほしいと心の中で思った。


ファイは注目されたくなくて、サダルたちが去るまで机に顔を伏せている。

妄想チームは後ろが落ち着かなくてトイレなどに逃げたり席で黙っているか、クルバトノートを練っている陽キャ寄り妄想チームに紛れ存在を消す。



ジェイはどこにも入らずデバイスを見ていたが、一言言ってしまったせいかいきなり声が掛かった。


「あの…帰りたいんですけど。特別な話じゃなければもういいですか?リーブラに聞いておいてもらいますので。」

と、サルガスに発言したら、待ってろと言われるので黙ってまたデバイスに目を落とす。


そんな時、意外にも声を掛けたのは立ち上がったサダルであった。

「ジェイ・グリーゼ君。」

「…?」

ジェイは一瞬訳が分からなくて反応もできない。

「ジェイ君だよな?」

「あ?え?あ?はい?え?ジェイでいいです。僕です。」

怖いから近寄らないでほしいのに目の前に来た。ラスボスが来る場所ではない。

「ここではやたら私とチコのことを言われるんだが、ジェイもリーブラと夫婦だろ。」

ん?議長のような人でも自分だけ言われて不貞腐れしてる?と思う、妄想チーム。

「え?あ、はい…」

「一緒に座っていなくていいのか?」

「え?」


なんと言っても、リーブラは子供の時から陽キャのたまり場アストロアーツに出入りし、そのまま中学生辺りからバイトをしていた強者。サルガスやヴァーゴのお気に入りであるだけでなく、イオニアやタウ、その他、街でかわいい子がいれば即ナンパできる強キャラと普通に仲がいいのだ。もちろん女友達も多い。ベガスでなければジェイは関わりもしなかっただろう。ちなみに、ここで陽キャといわれる存在は、妄想チームが勝手に定義している陽キャで、実際は寡黙なタイプや不愛想な奴が多い。


はっきり言ってジェイは妻リーブラの交友関係に関わりたくないし、あの能天気エネルギーを発散させるためにも、外にいる時ぐらいは自由に生きてほしい。


「…あ、いいです。彼女は友人が多いので……。」

「一緒に話せばいいだろ?」

え?何の拷問?と思う。


「え?いいです…。」

「あんなに男性に囲まれて心配じゃないのか?」

リーブラ側はパッと見、まさか妄想チームの中に夫がいるなどと想像もできない雰囲気である。全くもって空気が違う。


でも、ジェイはボソッと言った。

「…まあ、大丈夫です。」

チラッとリーブラの方を見ても、バイト先のコンビニで女性に手を出そうとしていた男に感じたような嫌な雰囲気はない。それにさすがにリーブラも、結婚してからは男性の家に行ったりお互い共通の知り合いで第三者がいる時しか異性を家にあげたりもしない。



「失礼な話かもしれないが、子供は?」

「………」

東アジアではどちらかといえばタブーではあるが、西アジア系やユラスではこの時代でも普通に言われる話だ。それ以前になんでここでそんなこと聞くんだよ?と言いたい……が、怖いので素直に答えるしか脳内選択肢がない。

「…避妊とかしてるわけでも何かしている訳でもないけれど、ただまだって感じで……まだあまり焦ってはいないです……。」

「そうか。でも彼女、子供が好きだろ。……子供というより人が好きだな。」

「はあ…。」

「多分、何人いても面倒を見れるぞ。」

「………。」

それは自分が困る。



けれど実は正にその通りで、生きるエネルギーの少なそうなジェイ家族とは逆で、リーブラ家は家族超LOVE一家である。今でも父や母と買い物や食事をよくするのだ。父と買い物とか、ジェイにはありえない。

世の中一人っ子が多く2人とも一人っ子。それでも旧約宗教や正道教や大房は、子供がほしい家庭は比較的たくさん産む方である。なのに、あの家族大好きリーブラ父がなぜ兄弟を作らなかったのかといえば、二人目不妊であった。自分が面倒を見きれなくても、あの義家族なら何人でも孫の面倒を見るであろう。リーブラ父もまだ40前半である。


「少し失礼する。」

サダルがジェイの頭に手を掲げた。

「っ?!」

怖くてたじろくが触れることはなく、ジェイは上に注がれる手からキラキラした光を感じた。目を刺す様な眩しさはないのに、目をつむっても光が分かる。



「……大丈夫だな。少し霊性的な詰まりはあるが、まだ若いし問題ないだろう。でも、あと2、3年してもだめだったら医者の前にデネブに相談したらいい。」

「…あ、はあ。」

「ただ、子供がいない私が言うのもなんだが、子供ができる前から夫婦の生活的な関係をしっかり作っておくようにな。環境や状況が変わると、今まで回っていたものが上手く回らなくなることもある。」

「………はい。」

言われていることの意味がまだよく把握しきれていないが、考えながら一応返事はする。

「全然別の人生を歩んできた同士だからな。早めにお互い理解できないことを理解したい気持ちを作ったり、割り切っていく思いや習慣を作らないと後で大変になる。」


今ここにいる妄想チームはアギス以外未婚の上に姉や妹のいるメンバーも少なく、女性と暮らすなど想像もつかない。でも、結婚すれば結婚生活が自動で回っていくわけではないのか……と一応聞いている。



「彼女の何がよくて結婚したんだ?好みだからか?」

「…え?」

正直ジェイはリーブラの見た目も雰囲気も好みではない。好み以前に陽キャのテトリーから女性を選ぶなど考えてもいなかった。今思えば大胆なことをしたものである。タウやベイドなど既存カップル以外でアーツ内で結婚したのは、ジェイとリーブラだけだ。


なぜ、自分がこんなに話しかけられるんだ?

と、ジェイはだんだん混乱してくる。いつものように心の中で悪態をつくにしても、だんだん耐えられなくなってきた。



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