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ZEROミッシングリンクⅧ【8】ZERO MISSING LINK 8  作者: タイニ
第六十八章 タニアのあの日の

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58 タニアの向こう、青緑と紫の



目の前で銃を握る、勇猛な兵。



しかし、ユラス軍と思われる女性兵は、ザっと起き上がったモーゼスに身を弾かれ、銃の片方を落とす。それでも白銀のモーゼスの肩に一発打ち込んだ。


ダン!と、白銀の身が弾かれるも、モーゼスは一瞬でその女性兵の横に一撃入れヘッドギアを飛ばす。


同時に、白銀の体が近くにあった機械と腕を中心とする上半身が融和変形し、いかにもロボットな見た目になった。そんなモーゼスに乗りかかられあっという間に形勢逆転する。

メットやギアを外され、床に押さえ付けられる女性兵。


「!」

そこに広がった、金色の髪にラスは息を飲む。

その、知った顔。


元ベガス総長のチコ・ミルクだった。



よく見ると、いろんな所に血がにじんでいる。地面に擦りそうになる口からチコは叫ぶ。

「ラス!どんな言葉も必要ない!自分を蛇より下に下げるな!」

「っ?」

「天はやっとここまで人を引き上げたんだ、絶対に乗るな!」



そう、はるか昔に蛇に唆された時から。


蛇より落ち、天から人間に与えられた万物を、物より身を落としながらも天に返していく長い歴史を経て、ようやく次の段階に行ける時代を迎えたのだ。針の穴を通って来た数少ない先人たちがやっと開いた道を。



「まあ、あなた、護衛はどうしたの?引き離されちゃったの?それともお転婆だから自分からこんなところまで?」

ラス側にいる緋色のモーゼスが余裕の顔で驚いて見せる。ラスは、チコはもちろん二人もいるモーゼスの関係性も分からずそれぞれを見る。モーゼス同士はよく見ると髪色だけでなく、顔立ちも少し違う。けれど、互換性がありそうだとは分かる。


緋色のモーゼスはチコが現われたことに不快な顔を表しながらも、嬉しそうに話しだした。

「それに蛇って誰の事?失礼ね。」

「そこらの蛇を言っている訳じゃない。お前のような蛇って言ってるんだよ!」


ガン!と、白銀がチコの頬を蹴った。

「っ!」

チコでなく、ラスの方が縮こまって青くなる。

「総長!」

ラスに答えるのは白銀。

「少年、大丈夫。チコ(この子)はそんなに弱くないし、……『何かあっても歯だってまた付ければいい。

最悪、目さえきれいに残っていればね』」

「??」

『北斗』が組み込まれているモーゼスが、反撃できない人間を攻撃するのを見て、ラスは言葉がない。それに今の言葉だけ、男の言葉の様に聞こえた。



でも、白銀はまた女の様に話し出す。押さえつけられたチコを見下ろしながら。


「ずっとこの女が憎かった…。

使い捨てが当たり前の潜伏の世界で………この女はどこでも特別扱いだった…」


「…?」

もちろんラスは何の話か分からない。

「どこでも男たちに愛され、なのに宝石箱の中で真綿の様に重宝され………頂点に来るまで身を守られ……。ただ顔がいいというだけで………」

「はっ?何のたわごとだ?」

今度はチコが遮った。


「そして、全ての後にすら……男の宝石箱の中で、本当に永遠に輝こうとしている……」

白銀はうっとりとする。

「きれいな宝石箱に収まりたいでしょ?」


押さえ付けられたまま、チコはやっと飲み込めた。

「……ああ…、そういうことか。」

今の言葉の意味が分かり、かったるそうに言い放つ。

「クッソ悪趣味だな!お前がその宝石箱に収まればいい!!人間の懐に収まりたいんだろ?そんな役はいくらでもくれてやる!」

それだけ言って、ガン!とチコはもう一発白銀に蹴られた。

「!!?」


「…あーあ。動かないで。目に当たってしまう。」

チコの顔を確認して、人差し指でそっと血を辿りペロッと舐めた。

「鉄の味って言うけれど、ちゃんと鉄の味を感じているのかな?私。」

と、白銀は独り言を言っている。



「はあ…。でもダメなの。私ではダメ……。」

今後はチコの髪の毛を掴み、頭を上げられないようにしたまま、明後日の方を向いて語りだした。


「どうして?こんなに改良したのに。人と区別がつかない機体だっていくらでもいるのに、その人は満足しないの…………」

「…………」


「その人だけじゃない。高性能ニューロスは生意気だからっていうから、自分色に染められる『モーゼス・ライト』を作ったのに、


…………人はそれすら満足しない……」



世界中に報告される、簡易アンドロイドへの違法改造に虐待。最後はおかしくなってしまう、多くの持ち主。


表の世界ではそれほどニュースにならないが、自分の思い通りにカスタマできる機体なのに、カスタマしたのに、なぜ人は満足しないのか。人との煩わしい関係も気遣いも省き、理想も体現してくれ、生活の空洞も埋めてくれるはずの人類にとって新しい存在だったのに。


「その上、生物体としてヒトを物のように量産しても……人間はいつしか、人として生まれたものに帰って行こうとする………」


どんなに高性能のアンドロイドを作っても満足せず、暗闇の中で物のように人体を作っても満足せず、人はなぜかまた普通の人間に手を出してしまうのだ。


どんなに不足でも、人と人との間に生まれた人間に。人間はつまらないと言っていたくせに。



「結局人間は何もかもが嫌なんだね……」


ギリギリと手を握りしめるモーゼス。




「………そうやって、あなたたちに言いたいことが山のようにあったの。」

白銀は切なそうにチコとラスに囁く。

「…それは悪かったな。」

何を言ったらいいのか分からないラスの代わりに、チコが返事をした。


「はは。よかった。ちゃんと聞いてくれるんだね。私の愚痴。本当は世界に言いたいのに。」

「……」

「あれも嫌、これも嫌、人間は一体何をしたいの?何をしたら満足するの?だからって、昔のように人間同士であれこれがんばるのも嫌なんでしょ?」

「さあな。まあ、お前の気持ちも分かる。人間なんて、何にも満足しないからな。しても一時で。」

「あら!ユラスの大将はもしかして私と気が合う?」


「天に自分を見出していない人間に、答えなんてあるわけないだろ。」


答えを知らずに彷徨っているから。


「人間にも同情する。」

「そこは、私への理解だけでいいのに………意地悪なのね。」

モーゼスは口を尖らす。


「………それに蛇の大将は私じゃない。

それはあの、白いシリウスなのに。」



ラスも、チコも黙る。


……知っている。

そう、ラスは知っている。いつだって人間を唆そうとしていたのはシリウスだ。




白銀は唐突にチコの襟首を持ち上げ、髪を掴んだままガン!と壁にぶつけた。

「うっ!」

「あの、憎らしい女!」


ここでラスは気が付く。なぜチコは反撃しないのか。力差はあるのだろう。でも足が空いているのに。もしかして足も怪我をさせられたのか………とも考え、

自分がいるからなのでは?という答えに行く着く。

「っ?!」


ヒューマンセーブが掛かっていても、人間に全く攻撃できないわけではないし、システム自体内で弁明し合って抜け道を見出す。実質自分は人質だ。それでも決定打は下さないが、もしここに敵国の人間が現われたら……、アンドロイドが躊躇しているうちに簡単に自分たちも打たれてしまうかもしれない。



そして、もう1つ感じていた違和感。


二人モーゼスがいるのに、彼女同志は同じ目的性を有していそうなのに、会話が、相互確認が何もない。お互いの存在を認識していそうなのに、何も繋がっていないようにみえる。



チコは叫ぶ。

「ラス!私そのものを信じなくてもいい。でも、今だけは!分かるだろ!?」

と、言ったところでまたチコは頬を叩かれ、服の胸元を開かれる。チコは手でどうにかモーゼスを抑えるも、力では敵わない。

「はは。首から下も()げ替える?どこからどこまで人間は耐えられるかな?あなたの体を見たいの。なんでそんなにバランスを保っていられるの?ウェアラブルは装着型?」

「……っ」


服の下はさらに様々な物を装着しているが、そこにスペクトルの小さな輝きが揺れた。


「………何?オパール?ネックレス?戦闘態勢中は危ないんじゃない?」

と、ねじり取ろうとしたモーゼスの手をチコは止めようとするも押される。


モーゼスはそんなチコに優しく微笑んだ。

「ねえ、技術を交換しましょう。人間の筋肉には限界があるでしょ?ギリギリまでメカニック化して、最強の体を手にするの。今だって、私の腕の方が強いもの。せっかくあなたの先人たちが身を捨ててここまでにしたのに。あなたの義体に入らせて!」

ただハッキングするだけでは足りない。そのものになりたい。


「…誰がそんな悪趣味な体にするか。」

「…!」

怒ったモーゼスがネックレスを引きちぎり、それを投げて、もう一発チコに平手を食らわせた。

「総長!」


投げたネックレスに、小さな淡い虹色。スペクトルの光が輝く。

誰も気が付かないような、小さな輝き。



そして、ラスは見る。


叩かれて飛んだチコの目から外れる高性能コンタクトレンズ。


「?!」


レンズの奥に隠れていた、どこかで見た……青緑と紫の瞳。

知っている。自分はその瞳を知っている。



「人間?」

ラスは信じられなかった。


だって、その瞳はニューロスアンドロイドの物のはずだ。



地面に落ちたオパールから、煌めく虹が見える。



あれは……タニアの滝に輝く虹の光?

それとも、森に漂う水の粒子?




___





『ファクトー!』


いつもはラスでなく、リゲルとファクトでどこかに遊びに行ってしまうのに、緑と水のタニアにいる時はちょっと違う。


二人でタニアの滝を歩いていた時――



そう、自分はチコに出会っていたのだ。




『大きくなったな。』


アンタレスで最初に会った時、その言葉は自分にも向けられたのだ。

『君もね。子供は成長が速いな。ファクトをよろしく。』



あの、タニアで出会った車椅子の女の人。





●アンタレスで最初に出会った時

『ZEROミッシングリンクⅠ』5 来るか?

https://ncode.syosetu.com/n1641he/6

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