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ZEROミッシングリンクⅧ【8】ZERO MISSING LINK 8  作者: タイニ
第六十七章 光の交差 そして共鳴

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55 混乱と援護



「ファイーー!!」


粉塵の隙間に前方が見えるとイオニアは周囲を確認する。近くにいた無事だった東アジア兵がテミンの車の中を確認して、OKのサインを出した。レスキュー関係のメカは多少の圧があっても壊れないようにできている。


ラスも無事だったが、瓦礫が当たって顔を覆った腕から血が出ていた。


けれど…

「ファイ!」

イオニアが駆け寄ると、異臭がしてファイの服の背がススになっていた。東アジア兵がファイの上に消火シーツを被せる。そして少し時間を置いてから外し、胸元にいるナックスを抱き上げもう一人の兵に預けた。


「呼吸有ります!」

ナックスを預かった兵が言う。ナックスは声を殺して泣いていた。

ファイの元にいる兵が、おそらく中までは大丈夫であろうメットの隙間から消火と傷の確認し呼吸を見る。呼吸はあるがかなりゼイゼイとしていた。

すぐに酸素マスクが用意され、やけども確認される。メット自体は大丈夫だが、首上までしていたプロテクターは危険で外せない。ここには大量の水はないので、その上からある分のボトルをかけてから微弱の冷却処理を施した。

「あの、ファイは!」

「息はしている。」

呼吸に関しては、やけどなのか衝撃のショックなのかは分からない。


「ラス君、歩けるか?」

「はいっ」

他に怪我人がたくさんいる。ラスとしてはそう言うしかなかった。あの通路をまた上がっていけるのか。腕が真っ赤に滲んでいるが、バンドを巻くだけの簡単な処置をし酸素マスクを装着する。

「あの、他の皆さんは…」

まだ倒れたままの兵もいた。

「君たちの安全確保が先だ。イオニア、君も行く準備をしろ。一旦サイドに引いて、道が開けたら進む。」

「でもっ」

イオニアも一般人である。けれど倒れた兵を置いたままいけない。一緒に仕事をしてきた仲の者だっているだろう。

「余裕があるなら、避難チームを一緒に保護しろ!!」




この間にも、他のメンバーが戦闘状態であった。


ユラス兵と、そして篠崎さんは見たこともないヒューマノイドと対している。とにかく脱出口を開けること。その先にも何もいないとは限らないが、ここも何があるのか分からない。全員酸素マスクを装着する。

「ふんっ!」

と篠崎さんが一機を蹴って叩きつけた。ヒューマンセーブのせいか、篠崎さんが集中して狙われている。

しかし、篠崎さんの方が一回り全ての動きがいい。


このまま全体を制することができるか……と思った矢先、


目の前で篠崎さんの左肩から上がバン!と飛んだ。

「?!」

「っ!!」

両断されたのだ。

「篠崎!」

手当に当たっていた東アジア中佐が叫ぶ。篠崎さんはボディーがナンシーズとほぼ互換のSクラスだ。相当な機体以外、敵うわけがない。



だが、その間にまた数機のメカニックが入りラスが引きずられた。

「う゛!」

「ラス君!!」


篠崎さんを両断したアンドロイドらしき者が答える。

「大丈夫。危害は加えない。彼と少し話がしたいだけだ。」

「…ラス君と?」


そして信じられない。そう話した女性アンドロイドは誰なのか。

「…まさか………」

顔を上げられる者は息を飲む。こんな狭く、ただの民間人救出の場に?なぜ?


先の入り口ではない。一体どこから。



「…モーゼス?」

それは長い銀色の髪、ベージン社の煌めく象徴。


プラチナに輝く女神モーゼスであった。




***




目下に広がる広大なマーブルの世界。



長い髪の響は、心理層の中で自分のものとは違うそのマーブルを離れた場所から観察する。



たくさんの混濁。

たくさんの戸惑い。


少しだけ溢れそうになる目頭を拭い、目の前でひどく怒り、困惑するたった一人をまずはそっと覆った。

先の兵士だろう。



それからテーミン・シュルタン。

彼は心理層の中でも見付けやすかった。


テミン自身がチコの霊を抱きかかえ、

ファクトがムギの中に見つけた、あの森の人にも抱かれているから。




そして…緑の目の……


チコの好きな瞳に似ているからだろうか。




その横で、今、混乱しているのは?

たくさんの蠢く鋭い線が見える。針金のような、回虫のような。

爆音、爆風。ひどく大きな呼吸。


だめ、落ち着いて。そんな呼吸のままでは身が持たない。


そっと手を置くと、いろんな色が見える。



なぜ?懐かしい緑の、赤杉の山。

あの山裾の家。


たくさんの燻瓦(いぶしがわら)が流れる――

おじい様の別荘?



テミン、目の前に誰がいる?――





バジン!


「ハッ!」

急に吸われるように戻ってくる響。



咄嗟に起き上がると少しふらつくが、響は目の前にいるガジェの安否を確認する。切られた腕に自分でバンドを巻いて止血はしているようだったが、かすったのかこめかみからも血が出ていた。腕に力を入れていたせいか、頭の出血が多い。

腰のカバンからいくつかの物を取り出し、応急処置した。あまりいい状態ではない。

「響………」

「ガジェ、話さないで。」

援護が来ないのは、他でも手が離せないからか。現在アンタレスにたくさんのユラス兵がいるが、分散させている。一旦この位置を知らせて救護を求めた。


倒れた兵士の方にも向かい、目視で分かる武器を遠ざけ、どうにか手と足を拘束した。

響が心理層の中に閉じ込めたのだ。武器は脱着の仕方も分からず、想像以上に重くてびっくりしてしまう。こんなものを持ち歩いているのか。爆破物を持っていたらと動かしたいが、どうにもならないので自分たちが動いた方がいい。


そこに連絡が入る。

「ファクト?」

『響さん?!無事?大丈夫?』

「大丈夫。でも1名、ガジェが重傷を負ってる。ファクトは?」

『どうにか。民間人は避難するように言われてるから誰か来ると思う。響さんは動かない方がいい。』

「…分かった…」

他の敵兵が来ないように祈るしかなかった。




***




そして地下。


モーゼスの登場に驚く一同。



無言で辺りを見渡しているモーゼスに、一同はどう対したらいいのか分からない。

襲撃犯側か、それとも連合国家のニューロスになるのか。連合国家のオートニューロスなら人命を優先する行動をとる。

オートか、リモートか。


東アジア中将が静かに話を切り出す。

「民間人も怪我人もいる。一旦避難させてほしい。」

「……」

「………モーゼス。モーゼスなのか?」

「…………」


「ここは沈む。」

「?!」

白金のモーゼスはいきなりおかしなことを言い出す。


「……どういうことだ。」



モーゼスは言わない。

誰にも知られないように埋めてしまえばいい。

誰かに取られるくらいなら………崩してしまえばいい。


「お前たちも逃がさない。」

「!?」



ガバっと上部のない篠崎さんが起きがりモーゼスに襲い掛かるも、手に持っていたソードでもう一度打撃を入れる。両断はされなかったが、今度は一部潰れた頭部と片腕だけの部分がまた話し出す。


「この地下に、ステキな工房を作ったものね。誰にも渡したくないんでしょ。」

「?!」

「っ!」

モーゼスも連合側も反応する。

「地下の地下に。密輸品やジャンク品を集めて…………」

「…………」

モーゼスは篠崎さんを見下す目で眺め、篠崎さんもモーゼスを見下し返した。

「そんなガラクタで何ができるの?SR社のA級1機すら囲えなかったくせに。」

「……」

「首都直下で何のお遊……」

と、言ったところでバンッ!と一発ハンドガンで、篠崎さんの頭部が潰された。この威力なら、普通の人間が撃ったらスタンドがあっても吹っ飛ぶ。


『……私ですら……貴重品な……のに……』

口頭でないところから響く声の篠崎さんは、ダンッダンッともう2発食らわされた。



そして向けられる、中将への銃口。

「はっ!」

と構えて中将と数人がモーゼスに銃を向けるも……


突如、先の入り口方向からモーゼスにガツンと重量弾が入った。

「ハがっ!」

と、今度はモーゼスが斜め前に倒れる。

「!」

咄嗟に避ける中将。援軍だった。



現われたフル装備の兵は、そのままの飛び蹴り。

「?!」

直ぐに立ち上がったモーゼスをもう一度叩きつけた。


その内にさらに数人のユラス軍人が入って来ると、救出と援護に分かれ呼吸確認と大怪我者の止血だけをし、怪我人を担いだり担架に乗せる。

「行け!」

と指示を出すが、彼らが降りてきた道で再度爆音が起こった。出入り口が塞がれた可能性がある。

「大丈夫だ!来い!この一段上は行ける!そこで壁を破る。」

連合側は最初に篠崎さんが相手をしたメカから取ったデータで、脱出経路の情報をいくつか得ている。



もうどうしたらいいのか分からないイオニア。これまで以上に何が起こっているのか把握できない。


それでも進もうとした時だ。

あることに気が付く。入り口とは違う場所から敵陣のニューロスメカが入っているのだ。ここは閉鎖空間ではないのか。やはりギュグニーは独自の基地でも作っているのか。



一方、怪我人や民間人搬送をする兵にも数人の護衛が付いた。

「イオニア、早く来い!」


フェクダさん!


フェクダの声だ。

「!?民間人の男性1名拉致されました!所在、安否不明です!」

しかし現場に対応している方のもう一人の兵が急がせる。

「いい、イオニア!先に行け!!私もこちらに残る!」

「!」

アセンブルスもいた。現場では公安や軍部の命令は基本絶対だ。人が多くても足手まといになるであろう。イオニアたちは後方のフェクダに守備を任せこの場を去った。避難チームには機体がSS級の男性アンドロイド、サイアート2機が付く。



同時に起こっている、一人の兵士とモーゼスの争い。

その他数人のユラス軍人と、郊外に主に配置されていたが、こちらに来た東アジア軍男性アンドロイド、マルビーサイテックスがこの場に残る。


どこにいても何が起こるのか分からない。

でも、イオニアたちは上階に向けて走り出した。



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