54 前触れ
変更
▶チコの部下、フェクダをナオス族出身からオミクロン族に。
ナオスでもよかったのですが、妻ガイシャスがナオス、ならフェクダもかなり強いのでオミクロンにしようと思ったのか、この前作った設定資料がそうなっていたので、資料の方に合わせました。資料直す方が大変で(´;ω;`)ウゥゥ
でも、ユラス人はかなり民族混合をしているので、どちらにも両方の血が流れているでしょう。
▼外部サイト、イラストデイズにて 『ZEROミッシングリンク』設定集
6ページ目『ユラス民族4代家系』
https://illust.daysneo.com/works/58e24d1b02f33c9223b34f9771ddf1f4.html
PC版だと、ページを拡大して見ることができます。
「大丈夫だ。」
テミンの様子を確認した兵士が立ち上がった。
「マージ、担架を。」
メカニックの拘束作業を終えたもう一人が簡易担架を持って来た。階段やでこぼこの道でもある程度水平を保てるミニの車だ。
「地上に運んだらすぐに病院に。」
そこに複数名の東アジア軍が入って来た。
「子供は?」
「確認しました。イー・フォルナックス。テーミン・シュルタン。二名生存、生命にも問題なし。テミン・シュルタンが低体温症で35.5度です。」
それを聴きながら、計測から目を上げると不安そうな二人の大人と目が合う。ラスとファイだ。
「…彼らは?」
「彼らは……」
と言い始めるユラス軍人セダイルの言葉を遮り、ファイは叫ぶ。
「篠崎さんに拉致されたんです!!」
泣きそうなファイに、怒る篠崎さん。
「拉致って人聞きの悪い!お友達を誘ったんです!」
「あんなの拉致だし!こんなのひどすぎるー!!」
仲間を得たので強気のファイである。アーツへも篠崎さんへも踏み絵を踏む女。
「ファイの方がお友達にひどすぎっ!」
「はいはい、リアーズ。ごめんねっ、お友達でした!!でも不可抗力でした!」
「何その言い方!!」
「……」
東アジアの軍人は事情が分からなくて困っているが、ひとまず一般人引き上げの作業の間、ナックスや二人に間食や水分をあげる。ラスはとてもではないが、水分以外喉を通らない。
「あ、そういえば、あなたは?」
イオニアも知らないままだった、ファイといる若い男性。
「あ、中央区蟹目の…、今日ベガスに見学に来ていた者です………」
「……?」
みな顔を合わせるたところで、ファイが怒る。
「彼も、拉致されたんです!!」
「なぜ?」
思わず篠崎さんを見てしまう。
「だって、ファクトのお友達だもの。」
と、ツンと言い切る篠崎さんにラスは少し嫌そうな顔をした。いつでもどこでもファクト要員である。
篠崎さんのことを知っている東アジア軍中佐はこれで理由が分かった。
「………えっと、身元確認をするので、ファイさんとラス君はデバイスか何かあるかな?なければ手でいい。」
二人は慌ててデバイスを出した。
そして驚くイオニア。もう一人の女子は聴かれないのか。
「……そちらの方は?もしかして東アジアかユラス……特警か軍人さん?」
「……私?」
薄汚れているのに、余裕な物腰でふっと振り向く姿が美しい女性。かなり場違いである。
篠崎さんを知らなかったイオニアは恐る恐る考え………、違和感に気が付いてしまう。
「あー。………もしかして……」
チラッと見る。
「ヒューマノイド?」
「そうでーす!リアーズと呼んでもいいんだよ。」
と、ピースする。
「ウソだろ……」
落ち込むイオニア。艾葉で出会ったアンドロイドジョーイの件以来、女性型アンドロイドは苦手である。
「……そんでもって、ベージン社?」
「んー、ベージンと言えばベージンの親戚かな?ベージンより本家!でも嫁ぐ準備でSR仕様にはなったかも。」
「……」
違和感がドンピシャ過ぎて、もっと沈む。容姿が完璧で洗練されているのはベージンだが、動きや人間らしさ…というのか、人間が感じる微妙な感覚で言えば、SR社は何かが洗練………というのだろうか、柔らかく研ぎ澄まされいる。リアーズさんはどちらも感じる不思議な存在。
「…何?私と結ばれなくてがっかりした?」
「……」
顔も上げない。
ここでイオニアは意を決した。
「…あの、変な話をしてもいいですか…」
イオニアが嫌そうに両軍に話しだす。人払いをしようとしたが、どのみち今いるのは皆特殊チームや幹部クラスだ。
「………あの……ジョーイって、前に艾葉に現われた女性型アンドロイドがいたんですけど……」
「ジョーイ?知ってるよ。」
「!」
篠崎さんは知っているらしい。軍人たちも資料をさかのぼる。全く違う姿に変わっていなければだが、まだ彼女はつかまっていない。
あの美しい、いかにもベージン系の女神のような容姿。でも、憂いも抱えたしおらしさ。
「………あの……あまり言いたくないんですけど、彼女、霊性とか、人の思考とか分かるんですか?」
「…まさか。」
「?!」
篠崎さんも驚いている。
「あの……人の心の隙を突くんじゃないかと……」
言いにくそうだ。
「…?」
「…はぁ……」
察してくれそうにないので、イオニアは仕方なく説明し出す。
「……俺の好きだった人に…、変態したんです。ホログラムとかで……」
「……」
静まる全体。
「響さんに?」
「お前言うなよ!」
ファイは首を掴まれる。
「みんな知ってるのに~」
「…ははあ。響さんが好きだったのか。彼女モテるよね。」
中尉も何か感慨深いようだ。
「だから言いたくなかったんです!」
「まあまあ。うちの方でも気になっていた部下がいたからそう恥ずかしがらなくとも……」
昔のイオニアだったらこんなことでダメージは受けない。でも、響の周りをこれ以上騒がせたくなかったし、こんな混乱な中、思いもせぬ緩慢な攻撃を受けたら気が付かない可能性もあるので報告すべきだと思った。危険だ。
「………」
ラスも驚く。ニューロスは霊をまとえるため、データ以外のある程度人の感情も読み取る場合もある。けれど、感情以上の詳細な情報まで分かるのか。
「…分かった。ジョーイとホログラムの件は報告しておく。」
「響さんはもう結婚しましたってことも言っておいてください。」
ファイが間髪置かない。東アジア軍にまで目を付けられていたとは。
「そんな情報いらねーよ!」
遂にイオニアまで怒りだしてしまった。
イオニアの気持ちはみんな知っていたので、どこかで情報を得たのか。ベガス?大房?けれどアーツ河漢まで知れ渡っていることでもないし、いちいちそんなことをデジタルデータで残しておく面々でもあるまい。各所の分析から?事業阻止のため?
それなら関係性がもっと明確な人にフォーカした方がいい。
ナックスがレーションのチョコシリアルバーを食べている間、イオニアはもう一度軍人に呼び出された。
「実はもう一つ報告がある。いいか。」
「あ、はい。」
「今、地上に上がるか、地下を通るか迷っている。」
「…?」
イオニアは顔を上げる。なぜ迷う。地下は危険だ。
「地上で襲撃があった。」
「!」
ファクトたちが降りてこないのはそのせいか。もう、ナックスたちが見付かり情報も十分なので、ただ上で待機しているだけだと思っていた。
「こちらの処置が終わるまでは、不安にさせるので知らせないでいたらしい。」
「ヒムたちは?」
「彼らも河漢の住民と一旦艾葉旧商店街の方に移動させている。」
「フラジーアの隊が住民チームと合流したそうなので、対ニューロス戦も行けるかと。」
ユラス軍セダイルが言葉を付け足した。彼らの半分は強化義体で、戦闘に慣れている。
「響さんやファクトたちは?」
「一旦大丈夫と報告は受けている。」
「…こんなにネズミがいると、地下も危険ですよね。」
「それで迷っている。一般地下道に入るまでに対処を考える。」
一先ず脱出させるメンバーはここより上にあげた方がいい。こんな下層の入り組んだ地下にまともに空気があることの方がおかしいのだ。
その後、東アジアの中佐は、先程横の空間で拘束した男性アンドロイドに声をかけた。
「分かるか?」
『……』
「もしかして人か?」
どこか遠隔から聞いているのか。
中佐は静かに話しだす。
「ギュグニーが降伏した。」
『……』
「もうチートンに連合軍が入っている。本国から知らされていないのか?」
『…嘘だ…』
『そんな情報はない。』
「明日か明後日にでも世界中でニュースになる。」
『嘘をつくな!!』
「…いずれにしても、戦闘は無駄な消耗になるだけだ、一旦話し合おう。本国もほぼ話し合いで収めている。」
各国家、最主力勢力同士の争いはなかった。
しかし通話先の、おそらく男であろう者は怒り出した。
『何がだ!お前らのような、人間の可能性や崇高さも分からないような者たちに、未来を譲るなんて絶対にしない!!貴様らの作った科学など千年遅れている!!』
「…まあそうかもしれんが、話し合う余地はあるだろう。」
ギュグニーの科学には倫理も人権もない。好きなことはできるであろうが、残念ながらこちら連合国はたった一人の命と倫理と尊厳の方が重い。その上での発展だ。
「自由なことばかりでなくてすまんな。でも、身の自由はこちらの方が大きいぞ。」
『ふざけるな。どうせ私は拘束だろうに。自由な研究の場は絶対に渡さない。全ては可能性に溢れている!』
「……」
『それに、貴様らだって倫理などないだろう!未成年を被験に追いやっておいて、クソが!
我々はDNAの全ての可能性を開くんだ!お前らより未来に貢献している!』
ただ、パンドラの箱の底の希望までも使い尽くしてしまうだろうが。
「リモートでいい。話しを聞こう。」
『うるさい!!』
と、相手は切ってしまう。それ以上男性アンドロイドは話さなくなった。
「中尉。河漢でしょうか、本国でしょうか?」
今通話した相手はどこにいるのか。おそらくだが人間だ。
「……何か違和感がある。」
報告を受けたミクライ博士の勢いと非常に似ている。だが、彼はチートンで拘束されているはずだ。多くの者が非常に疲弊して懐疑的になっていたので、皆一様におかしくなっているのかもしれない。酒の場で笑顔で語る隣の同志が、明日は自分を密告や処刑するかもしれなかったような国だ。
「……まだ分からないが……。これだけメカがいるとなると、オートにしても管理やエンジニアいるはずだ。ここの可能性も高いな。」
河漢にもなにかしら拠点があるはずだ。
ここ数十年で分かったことだが、全てをオートにしても、実はメカだけでは世界が機能しなくなるのだ。
AIだけでも世界は進展しない。
なぜか。
彼らは人がいなくても動き続ける。永久機関のようにあらゆるものを生み出していく。人間より効率もよい。
なのに、
なのに人がいないとなぜかうまく発展しなくなるのだ。
人がいないと無に等しい。
人間に認識されない空間が「無機」であるように。人間に認識された途端にそれがグルグルと動き出すように。まるで人に知ってほしいかのように。
彼らは人間に認識されない場所では、物質の本質が生命を持たないのだ。
避難チーム以外はここでそのまま周辺の捜査を続ける。
こんな空洞や横道がいくつもあるなら、この辺りに何かあるかもしれない。この隅で、ユラス軍が少し前に穴に放したコマの1機が、大量のムカデに集られて機能停止をしていたのだ。戦闘用にも使えるコマだったが、狭い場所に量で負けたのか。
そして、さらに事は起こる。
東アジア軍が拡張していた入口に、急に爆音が響いたのだ。
「え?」
と、ファイがひるむ瞬間にも、横で迷彩服の誰かが吹き飛ぶ。
「?!」
「頭を伏せろ!」
誰かも叫んでいる。
対面にいるイオニアが、テミンの乗せられたレスキュー車を庇おうとした瞬間を見て、ファイは眼前でまだ乗り込む前のナックスに気が付いた。車内で横になってしまう予定だったので、プロテクターだけ被りヘルメットも何も被っていなかった小さなナックス。
「!?」
瞬間、
ファイは自分の周りの時が止まったように感じだ。
硝煙の匂いがする。
射撃場で慣れたあの匂い。
アストロアーツの整備屋の方。ヴァーゴやおじいちゃんがいて……
そんなオイルや新しい部品のパッケージを開ける匂い。
好きでも嫌いでもない、でも慣れた匂い。
自分ではなく、そんなみんながいる時の匂いの感覚。
目の前で、ひどく驚いた顔のナックスが見える。
思わずファイはナックスを背で庇うように胸に包み込んで抱いた。
そして時間が動き出す。
バーンっ!と一気に爆風の様なもの来て、ものすごい埃が舞う。
埃だけでない。目をつむった自分のあとを追うように、炎も見えた。
どこかで叫び声も聞こえる。
「ファイーーー!!」
イオニアの声だ。イオニアは助かったのだろうか。
痛いのも怖いのも嫌だって言ったのに。
子供だって好きじゃないのに。
騒々しい声がする。
起き上がらないと。
でも、ファイはナックスと倒れ込んだままだった。
●イオニアが以前出会った、女性アンドロイド
『ZEROミッシングリンクⅤ』108 侵入2
https://ncode.syosetu.com/n1436hs/109
●もう1つ、文章的な話で「」(鍵括弧)のことでお知らせです。
私の知識不足で、説明文などで「」()の文末に句読点を入れないというのはなんとなく知っていましたが、文学などの場合、「」の文末は会話文でも句読点を入れないということを知りませんでした。
ネットができて、いろんな書き方があるんだなと思っていただけでした。それが、数日前一般書籍も句読点がないことに気が付き、ショックを受けています。絵本も含めれば生涯でおそらく何百冊も本を読んで来たのに…と自分のバカさに驚きました…。
文章のルールとしては間違いではないそうですが、気になる方ごめんなさい…。こういうの、地道に直してしまうタイプなのですが、話数が果てしなくまた進まなくなってしまうので敢えてやめておきます…。




