51 河漢のネズミ
ご訪問、いつもありがとうございます!
最近毎日仕事か用事で外出している日が続きました。作業が滞っていましたが、更新できる時はできるだけしていきます。
出先でチェックしているのですが、毎回変なところが見付かり、もしかしてまだまだ「あの事情を知った」「お前がそうだったのか!」とかの同じシーンがまた来たよ!みたいな話数があるかもしれません。
すみません…
アンドロイド篠崎さんは、軽自動車を一気に地上に落とし、旧地下街のバックヤードから一気に地下に入って行く。
あまりの急な運転に、ラスとファイが叫んでしまう。
「ちょっ!わああっ!」
「ひいぃ!!!」
「シートベルトしてるでしょ?」
「そういう問題じゃない!!こんな地下走れるわけないし!」
物凄い運転をする篠崎さんにラスが訴えるも、篠崎さんは気にしていない。ファイは既に叫び声しか出せない。路上もひどく汚く、少し浮いているものの時々車が揺れ、狭い路地は車が大きく傾く。普通自家用車なら、ある程度の揺れ軽減機能があり、基本車体がここまで傾くことはないはず。
それ以上に、こんな建物の中。時々左右ギリギリに壁が迫り、しかも先は暗闇。もし物があったらぶつかるのではないか、急に狭くなったらと気が気でない。
「私たち人間だから、強い衝撃が来たら死んじゃうよ!!」
ファイはやっと声を絞る。
「そう?」
「そう?って!」
もう泣くどころの状態ではない。
「この車もヤバいんじゃ…」
見た目は大手の軽だ。
「……あ、もしかして」
ラスが気が付く。
「この車、もしかして普通車じゃない?」
「ピンポーン!軽に見えて防弾仕様です!」
「でもぶつかったら防弾も関係なくない?」
生き残るスピードではない。
が、前方が塞がっている時点まで来て、車はきれいに停止した。
「ひっ!」
「OK!ちゃんと停止!」
「……はぁ……」
「……」
しかし人間たちは、その安心の直後にすぐにここはどこなのだと絶望する。
「これ以上は車では行けないね。」
「…………」
言い方は軽いが、篠崎さんにもそんな常識はあったようだ。
本当にこんなところにファクトは来るのか?一体何をしたらそうなるんだ。なぜこんなことに関わっているんだ?
と、ラスは不安になる。そんなファクトの友人を見て、ファイはため息をついた。
ここは先、ファクトが光の道を見た始発点だ。この先は公安のマップにも落とされていない。篠崎さんはファクトから貰ったデータを確認する。ファクトの言い分ではここにも道があるかもしれないらしい。
「あなたたちどうする?ここにいる?待ってる?」
「は?!」
またもやあんぐりしてしまう。だからここはどこなのだ。そもそも今ライトは車しかない。ライトが持つとしても、こんな緊急の河漢で何か出たらどうするのだ。どっちも最悪だ。
「バックで帰らせてもらえませんか?」
先来た道を辿って帰れる自動機能がある。
「それはだめ!せっかく友達になったのに。帰るならここで待ってて。」
「……え?」
篠崎さんのお友達とは。
「しのっ…篠崎リアーズさんはどこに行くの?」
「さあ?…え?リアーズ?」
「いや、この名前がかわいかったかなって。」
「ほんと?!うれしい!」
アンドロイドの機嫌取りと自分の名前を取られないようにするためである。本当は、乙女チックな名前だなとインパクトにあったので覚えていただけだが。
「あのね、ファクトが子供のいる場所の経路を見付けてって言ったから……」
「子供?!」
「私も詳しくは知らない。」
篠崎さんには内部緊急回線は回っていない。ファクトから貰ったデータだけだ。
「テミンだ!一緒に行く!!」
「俺も………」
ラスも決意する。篠崎さんといればファクトも来るかもしれない。人間感覚の知性と理性がないかと思いきや、篠崎さんは二人のために車に常備されていた簡易装備を取り出した。
「私はプロテクター着けています。」
「ほんと?」
「やっ!」
お腹をめくられて驚くが、下は現代版鎖帷子である。
「ファイ、それ最新のだよ!いい物つけてるんだね。」
篠崎さんはにっこり笑った。
ラスは簡単なプロテクターを付けさせてもらう。篠崎さんは自分のスカートのサイドをビリっと破った。
「っ?!」
ラスが驚くが、下にはレギンスを履いていた。
「あとこれ、何かあった時の酸素。リュックに入れてね。使い方分かる?」
「…ううぅ…」
なぜか泣きそうで唸りだすファイ。なぜって、ファイは人命救助の応急処置もサバイバルも全部嫌いな授業であった。もし緊急事態が起こっても、何もしたくない。誰かを助ける自信どころか、大事が起こったら早急に目を閉じて来世に行きたい。
「ショートショックくらいなら使える?」
ラスは戸惑うが、半泣きな顔のファイは頷く。
「…でき…できますぅ……」
簡易仕様で承認のためのデジタルロックのないものだ。篠崎さんは簡単にラスに安全装置の解除とスタンガン機能を教えた。ラスは戸惑うも、ファイだって対人で武器など使ったことなどない。
「あ!すごい。この車、ボーガンもある!ファイ、見て見て!」
「…ボーガン?」
「ほんとだ―!すごいねー。」
そんな気分ではないが、フラフラと車の座席下を見てノッてあげる優しいファイである。
「クロスボウ!女性にも使えるかわいいのだよ!ファクトが喜びそう!迷彩だ!」
「……」
ワイワイ騒いでいる女性二人を眺め、あの男は、こんなアンドロイドにまで迷彩好きと知られているのかとラスは呆れた。篠崎さんもファクトの迷彩好きはシリウスから聞いて知っただけだ。
ファイが死にそうな顔、フボーガンを抱えた篠崎さんを見上げると、射撃場で使っていた物と似たタイプのアナログボーガンだ。全然かわいくはないが、小型で腕に装着できスコープもある。矢は短く6本初めから入っていた。
「安全装置分かる?」
「おぼろげだけど分かります……」
「えー!じゃあファイが着けて~!」
「…篠崎さんが着けて下さい………」
「私は他のがあるから。」
「…ぅぅ……。消火器だって怖いのに…」
ファイはいくつもの消火器の実践で噴射型も投げるタイプも怖くて仕方なく、目をつむって投げてアーツブーイングの中、何度もやり直しをしたのだ。
しかし、ここで篠崎さんの機嫌を取りながら生き残るにはそれしかないと思ったのか、もう限界に来てしまったのか、嫌がりながらもファイは装着した。コスプレでかっこつけたことはあるが、こんな死ぬかもしれない場所でまさか実物を実装するとは。
「ムギ……」
軽量武器マスター師匠ムギが恋しい‘。どうせ、対する相手がいたとしても何もできまい。
「水は?」
「多分すぐ東アジアが入ってくるでしょ?心配だったら1瓶持って。」
「この車は?放置していいの?」
「わざと放置したの。」
「…放置?」
「東アジアや軍と分かる者には、ネズミも寄ってこないでしょ?」
「……」
「この車は一般的にはただの自家用車としか認識されない。」
「…はあ。」
何のことだと思うが、おそらく高性能メカニックは避けるだろうし、識別できないメカは寄ってくるということである。
「ほら。」
篠崎さんの目が鋭くなり、後ろを見た。
「来た!」
いきなり動いた篠崎さんは、ガツッと何かを仕留めた。
「ひぇ!!!」
そしてもう一蹴り大きく舞う。
『あ!』
そう言ったのは誰か。
その誰かを篠崎さんは仕留めたもので殴りつけ、さらに踏んで地面に叩きつけた。
ドガン!とひどい音がする。
「わあ!人?!!」
ラスが驚くが、見えた物にもっと驚いた。
「こんにちは。ギュグニーのお犬さん。」
そう言って篠崎さんが掴んでいた物は中型犬ほどのムカデのような小型ロボット、地面に倒されたものは男性型アンドロイドであった。
そして、間髪入れずに篠崎さんはアンドロイドに電気操作を送る。
バチバチバチバチ!と光がして、頭脳部に入り、男性アンドロイドが痙攣していた。
「ひいぃぃ…」
ラスとファイは見ていることしかできない。これは先、攻撃されたのか、何をしているのか。こっちか有利なのか。
「……。なんでメカが攻撃を仕掛けるんだ…?篠崎さんがアンドロイドだから?」
ラスが当然の疑問を持つ。
一般的には戦闘目的のアンドロイドは存在しない。そしてアンドロイドは人間に攻撃も仕掛けないし、メカ同士も無意味な対戦はしないはずだ。自衛だけでのはずである。
「……ギュグニーだから?……」
ボソッとつぶやく。
そして篠崎さんは、頭脳部への光が消えると、バン!ともう一度地面にアンドロイドを叩きつける。片手はまだムカデを持ったままだ。
「この子たち、私がベージンの仲間だと思ったんでしょうね。私はそんなところも通過しない純正な機体なんだけど。」
純粋なギュグニーである。元は。
篠崎さんは南メンカル経由の西アジアベージン社から入らず、東アジアに完全密輸された工作員だ。あの時シャプレーに見付からなければまだ工作員のままでいられたであろう。
「行きましょ。この下。」
と言って、男性アンドロイドを引きずりそのメカの手の甲を壁に充てると、行き止まりだった壁は普通の扉の様に開いた。人用サイズの縦2メートル、横1メートルほどのものだ。手が鍵になっていたのか。
「!!?」
「早く、時間がない。」
篠崎さんは重石を置いてドアが締まらないようにし前に進む。篠崎さんの通り道は東アジアが追っている。
***
「……」
薄暗い空間。
ここが広いのか狭いのかは分からないが、自分のマンションくらいの複雑さと広さがある感じはする。高さは最初に落ちたところは低く、かなり差があり空間によっては吹き抜けのように高い所もあった。
寝込んでしまったナックスの横でランタン式ランプの豆だけを灯し、座り込んでいるのは小さなテミン。水と一緒に持たされた袋に入っていたアルミの簡易布団を首まで掛けてあげ、時々小さな吐息があるかを確認しながらずっと待っていた。
今までの図鑑や展示会で見たことのないムカデ型や変なロボットが周辺をうろついている。
少し前、テミンはあの穴からの通路を降りていたところ、急に出口が来てしまい、2メートルほどの高さから落ち少しお尻を打ってしまった。落ちる直前で構えたので最初に足が着けたのが幸いで、大きなケガはしていない。
戸惑っていたら、このムカデたちが自分を囲ったのだ。
近寄って来てズボンに絡み、最初は警戒して暴れたが攻撃するふうでもない。テミンには害ないと思ったのか、ヒューマンセーブが働いたのか、ズボンを引っ張っているようだったので言われるままに付いて行く。彼らも電気を灯してくれていた。
「?!」
するとその先の壁に、何かの塊が見えたと思ったら、倒れている人の足の裏が見える。
ナックスであった。
「ナックス!!」
テミンは駆け寄って何度も名を呼び、少し揺らした。すると、
「……ん………テミン…」
と静かに答え、それからまた寝てしまった。死んでしまったのかと何度も名を呼んで、それから心臓に耳を当てる。
ドクン、ドクンと胸の鼓動はちゃんと響いていた。
「……」
ナックスの周りを整えてテミンも座り込み、その後ずっとナックスの隣にいる。
時々ムカデが見に来ていたが、ただ周りをウロウロするだけであった。




