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ZEROミッシングリンクⅧ【8】ZERO MISSING LINK 8  作者: タイニ
第六十七章 光の交差 そして共鳴

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49 ナックスはいない



少し時間は戻る。


もう夕方頃になって来ただろうか。

外はよく分からないが、ナックスは疲れ切っていた。



「うあああああん!」

遂にナックスが切れてしまう。


おじさんがここに住め、お前は帰らなくて今度母親も呼んでばあさんの面倒を見させると言い、嫌だとナックスが泣き出す。

「うるさい!」

手までは出さなかったおじさんも、その門答に苛立ち、周りから苦情が来てナックスの頭を(はた)いた。



「……」

テミンはどうしていいのか分からない。この人たちはナックスの話を全く聞かない。いや、聞いているのだが意図する方向性が全然違う。答えが最初から決まっている……というだけの気持ち悪さではない。家族を大切にしたい思いやりもあるし、悪い人ではないのだ。でも、他人のために選択に悩む素振りさえない。


ユラス人もかなり強引だが、強引さが違う。感覚だけの話だが、テミンの感じてきたユラスはとにかく気が強かった。初めから答えも決まっていて、意見も変えない。それでも家族や一族、国を守りたい道理はあり、誰にも誰かなりに理に適う部分があった。大人たちが悩んで、苦しんで、どうにか子供世代を守りたいと思っているのも感じていた。オミクロン一族から逃げた母にも、二人を一族に囲おうとしたオミクロンにも道理はあったのだ。


子供のテミンにもなんとなくそれが分かった。



でも、この人たちは根本がおかしい。聞いているのに聴こえていない。ユラスで母が感じただろう生きづらさとも多分違う。頭の中で言葉にならないが、なんとなくそういう感覚がある。


噛み合っていない人たちが噛み合っていないながらも、みんなそれぞれに自分勝手だから、それなりに暮らしている感じだ。ナックスは泣いているが、泣くしかないのだろう。自分でも、こんな大人に囲まれていたら泣いてしまうか、逃げ出してしまいそうだ。



と、本当にナックスは通路に逃げ出してしまった。


「ナックス!」

「ナックスーー!!」

おじさんもテミンも止める中、ナックスは雑多とした外に出る。外と言っても建築物の空間内。


そしておじさんが追う中を逃げていく。

「ナックス!いい加減にしろ!!」

端っこに逃げても追い詰められて、また走り出す。


「わあああーーー!!!」

と、どこかの隙間に入った時だった。

「わあっ」

驚いた後、わああーー!と叫ぶ声が聴こえ、ドンと音がしたような気がしてから反応が消えた。



「…ナックス?」

テミンの胸が騒めく。


「ナックスーーーー!!!」

駆けていくテミン。

「おい!ナックス!!」

おじさんも意としたことではなかったのだろう。穴に駆け寄るが尿の跡かひどい匂いがする。

「ナックス!ナックス!!」

何の声もしない。でも、ドンと音がしたということは底はあったのか。それともどこかで詰まったのか。


そこは大人では入れなさそうな空間で、なんの隙間か知らないが、一部の人たちがゴミを捨てたり立ち小便をするような所だった。


「おじさん、この中は?!」

「知るかよ!」

「警察に連絡して!」

「は?何言ってやがる。捕まるだろ!」

その「捕まる」が、ここに勝手に滞在している故のことなのか、子供をこんな目に合わせたことに対する言葉なのか分からない。


テミンは先の照明やランタンを持ち出して息を止めて穴の中を見た。先の方までは見えないが、垂直でなく少し斜めに穴が作られている。そして、口で呼吸した途端、異臭で咳き込んでしまった。

「…ナックス…」

穴の中もこんなふうだったらどうしようと思う。


「おじさんっ!」

すがるように見ると、おじさんは慌てて言った。

「待て、俺は今デバイス持ってないんだ!おふくろのデバイス…」

周りからも大人が集まってくる。


「おい!誰かこの穴拡大できないのか!」

中には、かわいそうだがとどうしようもないとまで言ってしまう人もいたが、知らない大人たちがどうにかしようと動いてくれた。

でも、警察を呼べという声と、呼ぶなという声で揉めている。


「ナックス…ナックス……」

ここに来て初めてテミンの目が潤んだ。

「……早く!早く警察を!!」

そういうテミンの焦りに、おじさんもひどく動揺していた。




***




地下2階にいたナガラのじいさん周辺から、違法住民の位置を割り出したユラス軍とイオニアたちは、あまりのことに呆れていた。



今ここには、ナックスどころかテミンもいない。



ナックスがいなくなった時点で、おじさんはナックスの祖母である母にデバイスを起動して警察を呼ぶように言ったが、祖母がそれを断ったのだ。

「ここを追い出されるのは嫌だ。先祖の先祖から住んでいた土地を、あいつらが安く買いたたくつもりだ!」と。現場を見たおじさんがそんな場合じゃないというが、「ナックスは絶対に大丈夫だ。運の強い子だ」と言ってきかない。艾葉を追い出されるのが嫌なのか、本当に大丈夫だと信じているのかは分かならない。


祖母が持っていた携帯は、かなり前の旧式で潜在バッテリー遠隔起動システムもない。警察でも探しきれないであろう。



そこでさらに信じられない事を聞く。


他の住民もデバイスの件では動かず、この穴を潜れるのはテミンしかいないのではという話になったのだ。


落ちた下の様子を見るために、テミンに紐を付けて穴に潜らせたのだ。あんな悪臭がする、先がどうなっているのかも分からない真っ暗な中を。

ライトは頭に着けた物と手に結んだサーチライト。下を照らせる隙間は胸の間からしかない。水とナイフとトランシーバーを持たせ、パーカの帽子を被らせ、紐を絞って大人の簡易作業マスクをさせた。どんなにテミンが賢くても、まだ子供だ。でも、個々の人間たちはそれが最善だと思ったのだろう。


「……」

この時点でイオニアが絶望的な顔をしていた。


ただ、テミンの声が聴こえた時点で、入口が一番臭く、中まで入ればそうでもないと言っていたらしい。そしていくつか横穴があると。ただナックスは見えないし、横穴も人が入れる大きさではないらしい。


それから、ある時点でテミン自身が最悪なことをしてしまった。これ以上届かないと言って、胸の上で結んだ紐を途中で切ってしまったのだ。垂直でなく穴が斜めで、足で身を固定できるので大丈夫だと言っていたらしい。

でも、それからトランシーバーの電波も届かないのか、音信普通になってしまった。



もう、アーツやユラス軍のチームは恐怖でしかない。

底が水だったらどうするのだ。ガスが充満していたら?溺れなくとも水があって落ちれば浸かる可能性が高い。こんなところに溜まった水なら病原になる可能性もあるし、一般人や子供なら真っ暗な中で水にはまれば、浅くてもパニックになるであろう。



河漢に詳しいマージルスというユラス軍人が、同じくセダイルと言う兵士に聞いていた。

「コマは落ちたか?」

ミニメカに内部を探索させるのだ。成人男性が入れるような隙間ではないし、穴を拡大するには危険すぎる。


しかしセダイルという軍人が固まってしまった。

「狩られてる…」

「?」

「コマが狩られてる…」

「…は?」

「2匹流したが、狩られている。」

「?!」


人艾葉に居つく河漢人さえ見ることのできない場所。そんなデッドゾーンで、コマが狩られた?

他に何かいるのか。




***




ほぼ艾葉の中央。少し上空に当たる場所。


現場付近まで来てファクトは集中した。

一旦霊性を使うが、サイコスに入ることも考えてリゲルが近くにいてくれる。



テミンがカウスと似た霊性の光を持っていたら………それを追って……チコの時のように、テニアの時の様に、彼らを見付けることができるかもしれない。



この力は精神世界に移行しなくても使える。ファクトはサイコスに入れても、その後の記憶がいつも鮮明にあるわけではない。


自分が見る世界のレイヤーの層を変えるのだ。

チコを見付けたいと思った時のように……。


そして、その先で誰かの記憶を拾い上げ、ドブの流れの音を聞き、ネズミの足音を聞き、テミンの居る場所まで辿り着く経路がないか探り出す。



自分はどうやってあの時チコを見付けたのだろう。どうやって、カウスの光を見たのだろう。あまり良く覚えていない。何かを媒介にしたのか。地上に肉眼で見えるように現れた光。


けれど、思い出そうとする。


カウスの光を。

オミクロンの光を。


お守り代わりに持って来た、オミクロンの子供たち手造りの腕輪を握る。テミンはオミクロンの地では一時期しか育っていない。これでは霊視が大陸を越えてしまうだろうか………


と言う時だった。




地上(した)に一瞬何かが輝いた。

グレーシルバーと、ライトイエローグリーンの光……。


ファクトは思い出す。この色は知っている。

カーフの色だ!



そしてさらにその下に、経度も少しずれた場所に明確な光が見える。


明るい、強烈な白い光がボッと燃えた。

音もなく、熱さもなく。


それから、周りにバチバチと黄色い火花が飛び散る。


カウスの色!



そしてさらに、次の瞬間。

バーーーーーー!

と、ファクトの目の前に光りが撃ち込まれ、何十メートル先の地下までそれを繋いだ。


まるで、道を描くように。

「???!」



「ガジェさん!今、地下に入っている兵はナオス族ですか?カーフの出身地辺り?カーフ関係?」

『えっ?…そうです。北ナオス族がいたかな…。』

「北…。」

北中央ナオスはカーフの領土。やはりこの光は血統や土地、もしくは何かの能力を表している可能性がある。北寄りのナオスは北方国の戦術なども習っている。なら、この位置をそのままと捉えていいなら………テミンはおそらくさらにその下にいる。


ファイクトは起きているので、デバイスに向かってその位置を特定できるように伝えた。ファクトのAI貝君ジュニアではなく、東アジアから借り入れているデバイスだ。二度目に出た白く輝く光は、最初に出ていたカーフの光のさらに下に見える。


けれど、デバイスも迷っている。

このAIはファクトの霊視を認識する頭脳を持っていない。



「シリウス!」

今、ファクトができる最善の手段。


ファクトはもう一度シリウスを呼んだ。



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