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ZEROミッシングリンクⅧ【8】ZERO MISSING LINK 8  作者: タイニ
第六十二章 あなたの中の命 
5/88

4 相変わらずの人たち



左サイドエリアの妄想チームが固まっている辺りで余裕の態度を見せるのはファイ。


「第4弾や新規ユラス組も見ているのに、また先輩方の醜態をさらすんですか?」

「…ファイ、貴様…。」

なお、同じ第4弾でもナンパ男どもはなぜかこちらで一緒に叱られている。コンビニ男もついでに。


「ファイ、チコさんかわいそうだからこのくらいの愚痴聞いてやれよ。」

河漢から来て途中から入ってきたシグマが宥めた。

「何が愚痴だ!」

チコが怒るが、誰かの一言で場が変わる。

「議長が来てるんでカリカリしてんじゃないのか?」


「へ?議長?」

いきなりチコが素になった。

「さっき、廊下にいたけど?」

「へ?」

するとその言葉の通り、ユラス議長サダルメリクがメイジス他、ユラス側の側近や護衛たちと目立ちにくい中間のドアから会場に入ってきた。相変わらずベガス陣のユラス人と違って愛想ゼロである。


「?!!」

ビビっているチコであった。





「チコさん本当に学ばないですね。」

いちいち先頭席に座って言ってのけるシグマに小声で返す。

「なんで当日入りしないんだ!」

「だからなんで旦那を当日入りさせようとするん?」

既に周りのメンバーは聞いていない。


明日のユラス教土曜礼拝にサダルメリクが公開説教をするため、この日も物凄い人が見込まれている。ライブ放送もありユラス教以外のユラス人や正道教徒、一般人も関心を寄せていた。




そしてもう一方でぼやいているのは、妄想チーム。


「どうして、議長はいつも俺らの後ろに座るんすかね?」

「こわぃ…」

サダルなど進行やゲスト席の方か、今回はユラス軍人も多いのでそっちの方に座ればいいのに、なぜかまたU字型会場席の妄想チームの後ろにいるのだ。

前回の教訓を生かし、妄想チームメンバーは会議席形態が何であれ後ろまでどうにか座り、空き席を作らないという作戦を毎回実行している。そもそも後ろ席は自称陰キャのものなのだ。ユラスにそういう暗黙の決まりはないのか。


今回はその横にも既に誰かが座るように仕向けたのに、なんとユラス陣営は丸パイプ椅子など持って来やがったのだ。ユラスVIPの頂点のくせに。妄想チームはチラッとも後ろを見ることもできない。


「ユラスは議長を壁際の背もたれすらない丸椅子に座らせてなんとも思わないのか……。」

大人しくVIP席にでも座っていてほしい。

いつもそこに隠れ潜んでいるレサトもソクサクとどこかに逃げる。「なぜ議長がそこに?もれなく怖い人たちも付いてくるのに??」と、妄想チームが迷っていると、便利ラムダが言ってくれた。



「議長!お久しぶりです!」

「?!」

なんという身の程知らず!と下町ズはビビる。


「久しぶりだな。私には構わないでくれていい。」

ならそこに座らないでくれと言いたいが、ラムダは無敵だ。

「議長、あちらの方がいい席や見やすい席がたくさんありますよ?」

「私は今はベガスから一線引いているから、ただの見学だ。若いメンバーの様子を見たいだけだ。」

「ならチコさんの方をお呼びしましょうか?」

「アーツ顧問だからいい。」

「それとこれとは別ですよ。そのお仕事ゆえにいつも会えない奥様ですよ!たまに来た時くらい、誰も気にしないので会議中もお二人で隣同士ゆっくりお過ごしください。」

そのお仕事は夫婦関係疎遠の理由にはならないし、正に誰も気にしないので、挨拶くらいはしてほしい。


「それに、そんなところに議長がいらっしゃたら構わないでなんていられないじゃないですか!気迫があり過ぎますもん。」

「そうか?」

「そうですよ!」

妄想チーム以外もラムダのグイグイ具合にビビりまくっていた。ラムダは陽キャには逃げ腰だが、目上の人や上司、先生、講師というフィルターが掛かるとなぜか安心するらしい。


「それにしても、外部顧問なのにチコはなぜアーツの先頭に座っているんだ。」

みんなの疑問はサダルの疑問でもあった。別に席順はないが顧問ならもう少し端にいてほしいものである。

「お師匠様ですからね!」

「………?」

師匠という名称に、メイジスたち以外の事情を知らない周りの兵が戸惑っている。師匠?何の?妄想チームを見ている限り格闘術の師匠にも見えない。



そんな顧問は大房民への説教をやめて既にシグマの横に座り込んでいた。無言である。

「チコ先生!お説教はおしまいですか?」

第1弾(うちら)は何でも聞きますよ?」

「チコさーん。言いたいことあったらもっと言ってよ。」

「お前ら察すれよっ。黙っとけ!」

メイジスに名指しされたくなくてチコは怒る。


しかし黙りたくないのはこの人。

「はあ…、チコさんって本当にヘタレ。そんなんだから、婚活オバさんのくせに逆婚活されちゃうんだよ。」

「?!」

「っ!」

ファイの一言に、聞こえたメンバーはユラス、アーツ陣ともにまたビビる。少し離れた位置のチコまで振り返ってファイを睨んだ。


「ホント、察してほしいのはチコさんなんだけど。ああいうとぼけてるキャラ、ウケないって分かってないのかな。婚活オバさんが婚活対象になってて心得も自覚もないなんてさ。」

爪にオイルを塗り重ねて満足気味なファイは、チラッとサダルの方を一瞬見て小瓶にブラシをしまうと満足気に爪を見た。

「…私、あの背の高い彼はちょっと好みだったわ…。チコさん見て赤くなってかわいかったー。」

「っ!?」

妄想チームは怯えて、俺はこの人とは無関係ですっ、と言いたいがリアクションのしようがなく慌てている。シグマたちまでは聴こえないが、後方のクルバト書記官が聞いた。

「誰それ?オリガン組?あの人かな?」

「誰でもいいじゃん。私の好みなんだから。」

彼が惚れ話をされて赤くなったのか、上官同士の会話に名指しされて赤くなったのかは分からないが、ファイも一応妄想チームの一員なので好き勝手妄想しておくのだ。


「…議長……。」

未だ無敵のラムダ。

「ご安心ください。」

「………」

「チコさんには河漢に行かないように言っておきますので、今夜はご夫婦でごゆっくりお過ごしください!」

「………。」

サダルどころか周りもラムダに完全に引いている。

監視ついでもあるが、チコは毎日河漢メンバーに会いに行っているのだ。サダルが無反応なのにラムダは全く意に介さずウインクしていた。



「あいつ余計なことを…。」

「何すかチコさん。気になるなら向こうに行ったらいいじゃないですか。ラムダを放っておいたらまた大変なことになりますよ?」

「………」

分かっているし、ファイにもムカつくが、ラムダに勝てる気がしない。


「チコ様ー!!」

そこに入ってきたのは、対面側にいたサウスリューシア組のララズ、チコの妹分のユラス兵であった。

「ララズ…」

「チコ様!マイラに怒って下さい!!今回全くもってチコ様に誠意がないじゃないですか!」

「……」


会議席対面向こうでは、マイラがVEGAの青年たちと何か話していた。

それを一瞬見て気が抜けた顔で伏せるチコ。ちなみにチコがいつも怒られているのは、サラサとサルガス以外では大元ユラス組なので、当人サダルやメイジスたちのいる前でその話をしないでほしいと思う。

「ララズ、いいんだ。マイラは忙しいから構うなとメイジスからも命令が出ている。」

俯いたまま答えるのでララズは焦る。

「メイジス将補?チコ様!マイラがなんかやらかしたんですか?!!言ってやりますよ。私からっ。」

チコがやらかしたのである。


「チコ様っ!……チコ様?あいつ呼び出します?!」

「ララズさん。チコさん腑抜けになってるし、構わないであげた方がいいんじゃないですか?」

いい人タチアナが救ってあげるも、ララズは納得いかない。

「マイラーー!!ちょっと来なさい!!」


チラッと向こうからマイラが見るも、無視をする。

「あいつっ。昇格したからってそういうのあり??チコ様より偉くなれるとでも思ってるの?」




「はーチコちゃんどうしたの?」

そこにまた訪れるアホな顔。

「ねえ、ララズちゃんっていうの?多分チコちゃん構ってほしくないんだと思うよ?」

「はい?」

パーカーから茶髪が見える長身男がチコに近付いて来てるくので、ララズが怪訝な顔で見た。


「…………。」

何でお前が?という顔で、チコは少しだけ顔を上げて睨んだんだがすぐにまた伏せた。

「チコちゃん?チコちゃ~ん?」

たまりかねてその兄が答えた。

「ランスア。なんでお前が来んの?」

「あれ?ロー君もいるの?俺も河漢に関わってるし、チコちゃんに用事があるの。ねえ?」

みんな悪い予感しかいない。ランスアである。

「チコちゃ~ん?チコちゃんってイヤ?ミルクっちの方がいい?それともミルキー?ミルティー?」

共通語が話せても『なんとかっち』なんて東アジアのあだ名の感覚が分からないララズが困っている。ただ、ララズにはこいつがおかしいことだけは分かった。


「あなたは?新メンバー?チコ様に気安すすぎません?」

「僕はアーツじゃないからこいつらとは違います。チコちゃんのマブダチだし。チコちゃんご指名で働いてるんす。」

ブリッコポーズをして目立っている。

「…え?ほんとですか?チコ様……。」


遂に怒るロー。

「ランスア!出てくぞ!!」

ローに引きずられようとするが、ランスアは振り切りチコの伏せるテーブルに顔を寄せた。

「待って。チコちゃんに速報!」


「あ、なんだ?」

『リシア、教員補助に合格した!』

『!?』

ランスアがチコに顔を寄せ小さな声でつぶやくと、チコが「え!」とうれしそうな顔で立ち上がって、また座り込んでテーブルに頬付いているランスアの両手を取る。

『本当か?!』


リシアはランスアの同棲相手で、河漢の子供たちにダンスを教えたいと言っていた女性だ。ベガス構築や河漢事業の、子供の教育に関わるにはアンタレスの一般受講試験内容や霊性試験の他、問題を抱える児童の扱い、国際関係や民族に関しての知識もいる。一旦この資格があれば、正規の教員でなくともベガスで学童のお稽古なども個人で担当できるのだ。

「わー!!おめでとう!」

「だろ?」


そして、ランスアは少し周囲を見渡し、アセンブルスがいないことを確認するとまたチコに顔を近付けた。

『で、チコちゃん。一緒にお祝いしようよ。俺がなんか買っとくからさ。』

『分かった!いくらほしい?』

『んー。これくらい?』

と、かわいくないのにかわいく首をかしげて手をパーにする。


小声でやたら盛り上がっている二人にローはやきもきするし、隣にいるシグマも全部は聴こえないが呆れまくっていた。だいたい想像がつく。

ララズも「何こいつ?」と警戒心むき出しだ。なんだかんだマイラもチラチラこちらを見ている上に、ユラス組がクスリともせずに2人の方を眺めていた。


ユラスでチコにここまで顔を寄せられる男は、ララズの知る範囲ではいない。ララズが間に入ろうとすると、先にローが後ろ首を引っ張った。

「ふざけんな!」

「えっ?何?お兄ーちゃん!!家族がお世話になっているチコちゃんとお話ししてるんだよ?」

そして察したローに引っ張られてどこかに連れていかれた。


「ロー?!もうすぐ始まるぞ?ここに座ってろ!大事な話してんだ。ランスア連れてくな!」

「チコさん。本当に元指揮官??」

「なんにも学んでないね?」

「チコさんがアーツ第4弾に入って、一から学び直したらどうっすか?」

「俺が先生しますよ?」

大房民にさえバカにされていた。




「……おいサダル。」


「………。」

壁を背もたれにしていたサダルが声を掛けられた方を見ると、先日到着したばかりのオリガン大陸組のフラジーアであった。

フラジーアが指で指示すると、同じく丸パイプ椅子が出され狭々とそこに座るので、フラジーアの存在を知らなかった妄想チームがさらに萎縮していた。




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