48 六龍市場
ご訪問ありがとうございます!
空き時間でいろいろ直しています。
ZEROミッシングリンクⅥ【6】。これを書いていた頃、5千文字越えでもいいのかなと言う気分だったのか、いちエピソードの文字数が非常に多くかなり2つに分けました。(最終的には長短どちらがいいのか分かりません…。説明説教臭い話も多く、短い方がいいのかな…と。)
二つに分けて、短すぎるところは、どうでもいい会話など足している部分もあります。
100話で「次のページ」になり、読むにも作業的にも画面移動の一手間がいるので、100話超えたくなかったのですが、話数もだいぶ多くなってしまいました。構成し直したくとも、Ⅲ【3】も100話超えてしまい、量的にすぐには無理ですね…。完結の方を先にしたいと思います。
話数のナンバリングが混乱してすみません(´;ω;`)
ナガラのじじいの連絡先を知っている――
ヒムの着信に誰かが出た。
『なんだ?今度のガサ入れ分かったのか?』
着信を受け取ると、なんの前置きもなくそのセリフ。老年期に入りかけた男の声だ。
「おー!じじい!元気してるか?」
問題がありありの発言だが、ナガラのじじいで、周囲もでかしたとサインをする。
『元気じゃねーから、金目の物と食料持ってこい。』
「いやっス。そうでなくてさ、じいさんどこにいるの?今日、その辺にさ、子供来なかった……?」
『…なんだ。情報か?タバコ200カートンと現金20万と2週間分の飯とウェットティッシュ1箱20個入、飲み水小さいサイズ36個入パック相当で手をうってやる。』
後半は自分の生活用品であろう。
『3日分の飯と、前金タバコ50カートン持ってこい。』
艾葉では金より物品の方が強い。なにせ、何か処理された記録である、デジタルフットプリントもあまり残せないほぼ逃亡生活である。現金は多く持ち過ぎると狩られて終わりだ。
「……そんなに持ってっても、いざという時移動とかできないし。」
『バーカ。隠し場所があんだよ!』
隠してたところで、若くて動ける人間の方が頭も働き隠し場所も推測が付くので、恐喝や不利な取引に負けるだけであるが。
「でも、子供見たのは確定でいいんだろ?」
テミンがじじいを見たのは間違いないだろうが、確認はする。
『確定かどうか答えるから、10日分の食料持ってこい!あとゴミ袋、黒いデカいの。ほか必要なものはメールする。』
「確定だな!」
『この野郎!ふざけるな!』
瞬時送られたメールにとんでもない物も書いてあるので、覗き込もうとする響をさすがのシドーも直感で一般女性に見せてはいけないと気が付き、肩を引っ張って止める。
「ん?」
と、驚く響。シドーは響をよく知らないので河漢民かどこかの職員だと思っていた。内容は避妊具や鎮痛剤、ステロイドや抗菌クリームなど様々な薬、その他である。
「じいさん、場所どこ?」
『場所だあ?』
現在、ヒムの周りで東アジアが通信の位置特定をしていた。
「知らなきゃプレゼント持っていけないだろ?」
『あ、そっか。』
「そう言えば今、髪の毛何色?じじいの顔忘れた。」
『お?聞きたいか?』
「んー。汚ねーうんこ色!じいさん年数回しか体洗わないんだろ?」
『ふざけんな!歳取ってめんどくなったから前ほどではないが、暑い季節は週2、3はどこかで水シャワーしとるわ!後はティッシュで拭く!臭いと商品に匂いが付くだろ!
デオドラントティッシュがいいが、あれもシャワーせずずっと使うと敏感肌にはよくないぞ。』
「え?じじいも敏感肌?繊細なの?」
『40代から肌荒れになりやすくなった。ここでは致命傷だな。寿命か?』
ガハハと笑っている。それから20年、30年は生きているので十分であろう。
「今度から労わるよ。で、髪は何?水色系?」
『そうだ。よく分かったな。蛍光スカイブルーだ。見たいか。』
この話を出した響と目が合って、シドーたちがグッドポーズをした。
「見たいっす、見たいっす!」
風呂情報に関しては間違っていたらしい。思ったよりもこまめであった。しかも、細かなアドバイスまでくれる。
そして詳しい場所を聞くが、正直曖昧だ。なぜかというと、じいさんも自分のいる場所を分かっていないらしい。ある程度の範囲にいれば迷っても誰かに会うので、その辺りのよく位置も分からず、時々しか地上に出ず、住みやすそうな空間を放浪しているのだ。
迷うと怖いので電波の届かない階層には基本行かない。艾葉なら地下2階層まではまだ広く電波があり、地下3階まではどうにかだ。ただし、住民たちもすぐ電波のあるゾーンに上がって来られる場所なら、壁の多い場所やそれ以下の階層に居つくこともある。
なお現在、数か所でビーやミニコマが動き、それも位置確認やデータ送信の島になっていた。
『まあ、チビッ子はいたな!俺の髪を見てボーと眺めてたぞ。多分カッコいいと思ったんじゃないか?』
折角染めたので、誰かに見てほしいのである。
「かっこいい、カッコいい!じいさん、また何かあったら連絡するなー。肉も持ってくから期待しとけ!」
そう言って、一旦電話を切った。
「よくやった。」
軍人たちに褒められて、グッドをする。
イオニアとユラス軍はじいさんの通信をほぼ確定して、既にその方向に動き出していた。
***
『ファクト、大まかな位置が絞り込めた!』
響から連絡を受けたファクトたちは、数人を残し一気にバイクなどで艾葉中央に向かう。ワラビー事件があった近くだ。
現場は地下市場のような造りの前時代の旧百貨店。六龍市場と言われる、半ビル、半市場の地下街であった。初期は普通のデパートだったが、閉店してから自由市場のようになった場所だ。
地下は地方から蜘蛛の巣のようにどこかしら繋がっており、地下道や吹き抜け続きをしばらく歩くと、『前村工機』のあった地下街にまで入ることができる。
問題はこの建物の大部分の階層が、大きな空洞の空間を要するデパートでなく、通路に沿った個別の店舗になっていたことだ。つまり内部構造が複雑。バックヤードも含めると、表から内部が見えない場所も多い。しかも、スラムになってからも廃墟になってからも、過去何度もあらゆる場所にあらゆる住民たちのあらゆる改造が加えられている。
東アジアに関連するチームは、全員、デパートとして栄えていた前時代やその後の市場、地下街化した時代など各年代ごとに投影ができる地図を持っている。
メカニックが進んでいない時代の地図は、初期はデパートの設計図、きちんと行政や企業が入っていた時代はその計画図とテナント歴などしかない。その後は暫く公的なものはなく、数世代に渡ってマニアが散策したり、六龍を愛する商店街の残した個人的記録しかない。現在は、小型メカニックが巡回して最新地図を描いている。なお、計画が改変された公式の記録もなくあらゆることが変わっており、かなり中抜きがあっただろうという構造もこの時代の人間にバレてしまった。おそらく市場になってから、企画書さえ通れば、違法改装も放置であったのだろう。
いずれにせよ、完璧な地図はない。
通りすがりに農協のマーク。六龍市場ならマートが入っているか銀行だ。市場は未だ現金も流通するので、人のいる銀行がある。農協関連は、銀行もマートも地下階層では2階だけであった。その後にナガラのじいさんに会っているので、その階層か周辺の可能性がある。
けれど、ナガラのじいさんは、子供連れの男はさらに別の場所に向かったと言っていたらしい。同じ階層を動いたのか。また違う階に行ったのか。
地上では、チーム再編のために再度体制を整えていた。しかし、所属不明のメカニックの侵入があったため、全てをこちらに注げない。
ガジェが近くに付き添い、響は各所の連絡を見守る。
『響さん……』
まだ、バイクでそちらに向かって走っているファクトは気が焦る。
「ファクト。まだ正確な位置確定まではできない。今、イオニアさんやみんながその場所に向かっている。」
じいさんが警戒しないように、ユラス軍と共にイオニア、そして少し遅れてヒムを送った。
同時に今この捜索に取り組んでいる一部のメンバー宛に音声が入る。
『名乗りませんが、イーという、足と腰の不自由な中年女性のいる集落が見付かりました。周りにも10人ほど人がいます。』
「!」
ホッとする一同。この地域に女性はほとんど居つかない。ここまで絞り込めたら、ほぼナックスの祖母で間違いないであろう。
『でも……』
でも?
『子供たちがいません……』
「……」
全体が再度緊張する。
「……いない?」
「いないとは?」
こんな地域で、子供を単独行動させたのか。みんな信じられない思いになる。
『二人とも小さな穴に落ちていなくなってしまったと………』
「?!!」
「穴?階段とかでなく?」
廃墟の構造の隙間か。それとも誰かが改造したものか。
「……うそ…」
声にならない響に、東アジア軍が戸惑うように伝える。
「ナックスの伯父も拘束したが、訳の分からないことを言っているらしい。」
その音声を聞きながら、ファクトは現場まで行かず、近辺の見晴らしがいいところで降りた。
地下からの吹き抜けも見渡せる広い場所だ。




