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ZEROミッシングリンクⅧ【8】ZERO MISSING LINK 8  作者: タイニ
第六十六章 モーゼスの包囲網

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47 あっちもこっちも



近くにいるアーツ河漢のイオニアとシドーにその風景を説明していく。


そう。河漢出身で河漢事業からずっとここを見ているメンバーに状況を話し、記憶と照らし合わせていくのだ。シドーは幼い頃、ここが自分の庭だった。今は残留住民の説得のためにずっとあちこち歩いている。



「昔の建物の文字とか何もない所かな……。文字があると分かりやすいよね…。階層も多分塗りつぶされてる……。」

響はテミンの心理層で見る世界をゆっくり思い出す。

「そういう場所はいくらでもあるからな……。でも様子を聞く限り、窓もなしで……やっぱり地下か………」

周りも予測する。どこにも当てはまりそうな場所しか見えないが、そこから紐解くしかない。


「あ、そう。待って!そういえば漢字!」

「漢字?」

「…。あ、ダメだ…。テミンが漢字を習い始めたばかりだからハッキリは意識に残っていない…。でも、非常口と…消火栓?後…このマークは…農協のマート……かな。農協だと銀行とかもあるし…」

「…非常口もいっぱいあるしな……」

響自身がテミンほどの明確な記憶力がないため、サイコスの中でも注視してはいたがはっきりとは全て思い描けない。だからシェダルに心理層で現物を見せながら、そのまま動きたかったのだ。

「農協…。地下の農協……」

シドーが考えている。


「あ、そう!人を数人見てる。」

赤いエレベーターで出会った人は最初に報告をしている。

それから、数人説明をしていく。全員おじさんかお爺さんだ。

「…そうそう、ガラクタ屋の…おじさんがいた。頭のてっぺんだけ水色に染めてるおじいさん。」

「水色?」

その時、シドーが「あっ」という顔をした。


「ナガラのじじいじゃないか…。」

「ナガラさん?」

イオニアも知っている爺さんだ。白髪で頭の上だけ色を付けている。

「でも、ナガラのじいさんは、灰色とかだろ?」

「違うよ。あのじいさん。本当はいろんなカラーで染めてるんだけど、きちんと頭を洗ってないし、色を乗せに乗せていくから妙に変なピンクや緑掛かったグレーや茶系になるんだよ。そんで、映画のあのロボットたちみたいに、なんかの折にピカピカに磨いて、きれいな色が入るんだ。」

「は?」

シドーの言う意味が分からないが、他の河漢民には分かる。

「年に数回。どっかでシャワーして、サウナもして垢も落として、頭の色もきれいに落として、その時の気分で好きな色入れるから、会うと時々めっちゃきれいになっている…。ヘアカラー具合が…。」

なんだ、そのじいさん。

「は!そうだ、ヒム!」



シドーがヒムに連絡をすると、近場のチームにいたのでヒムがすぐに来た。

「ヒム、お前、ナガラのじじい知ってんだろ!」

「知ってるも何も、子供の頃あのじじいにやっっったら高くシンナ買わされてたからな。5円もしないものに50円も出してたよ!」

「俺も買わされた!懐かしー!俺は100円払ったぞ!」

シンナとはシンナーのことである。

「……」

響やガジェ、イオニア、普通の人たちがどうしたらいいか分からない顔で見ている。が、取り敢えず今は逮捕も聴き取りも拘束もされない。


「その人のことを知っているか?」

みんながヒムに聞く。

「携帯とか。」

「最近取り締まりが激しいから携帯持ってないだろ。」

これまでのリストに出てくるが、持たされたデバイスには既に手放している感じだ。最新であればあるほど機械は詳細が特定されるので艾葉民は手ば泣いてしまうことも多い。他の機器も最近はどこかに隠して、何かの折に取りに行くのだ。公安などに発見されたら諦めるしかない。



「ふっふっふっ…」

少し含め笑いをするヒム。

「こんな時にきちがえるな。」

みんなが呆れる。


「それが持ってるんだな。これが。」

「は?」


「じゃーん!」

ヒムが得意そうに番号を出す。

「商人が携帯持ってないわけないだろ。ナガラのじじいの簡易フォン番号。」

「はあ?!!」


「なんでそんなもん!もしかしてヤクとか買う気だったのか??」

「ナガラのじじいが、ヤクなんか持ってる訳ねーだろ。ヤベー奴からは逃げるし、ビビりなんだから。子供騙すので精いっぱいだよ。」

一応、アーツに入るメンバーは指定薬物はしていないし、そういう霊性背景もない。じいさんも、薬物に絡んで沈められた仲間をたくさん見ているので、小物に徹していたのだ。マフィアやヤクザはいざとなったら何の哀れみもくれないのを知っている。

ちなみにシンナに関しては、昔マフィアの幹部級に怖い警察に捕まってからやめている。河漢警察も時には仕事をするのだ。あの時、ナガラのじじいはどうにか中央区警察に逃げ出そうと必死だったらしい。河漢警察で殺されると思ったそうな。


「今すぐ艾葉を出て行かない代わりに、連絡先教えろって教えてもらった。」

と言ってヒムは直ぐ掛ける。

「あ、この、ちょっと待て!」

慌てる周囲。

「こっちに軍や公安がいるとか言うなよ!」

「オーケーオーケー。心得てる。」

ほんとかよ、とみんな思う。


「……」

と、みんながドキドキしていると……相手が着信を受けとった。

「マジか…」

イオニアが感心している。


周りは、シーと声を潜めた。




***




「いない?ファクト、先までここにいませんでした?」


ファイやウヌクが待機している場所まで来て、えーという顔をしているのは篠崎さんである。

「……」

施設の前で美人な女子大生を対応しながら、怪訝な顔をしているのはファイ。今ウヌクは他の対応をしている。


「どこかな…。みんな教えてくれないんだもん。」

と言っている篠崎さんだが、こんな時にファクトを追って河漢まで来る外部女子大生などいるのだろうか。

「不要な外出しないで下さいって、河漢で注意が出てるの知ってます?」

「不要なでしょ?」

篠崎さんは全然物おじしない。

「……」

ヤバいストーカーなのか。


そこで篠崎さんとここに来たラスが前に出てきた。

「あの、私…ファクトの蟹目時代の友人なんですけど、ファクトの場所を教えてほしいんです。」


ファイは篠崎さんと男性の顔をさらに嫌そうに見る。

「…お名前は?」

「ラス…。ラス・ラティックスです…。」

ファクトがよく落ち込んでいたので、ファイも存在は知っていた。

「なんで今になって…。」


ラスが申し訳なさそうに頭を下げた。

「…大事な話が……」

「今、もっと大事なことが起きてるから、またにしてほしいんだけど。注意報も出てるでしょ。直接連絡したら?」

ラスは難しい顔をした。ファクトとは今、亀裂ができている。そもそも、その注意報は何なのだ。まさしくシリウスがらみなのではないか。


ラスが困っていると、篠崎さんが嬉しそうにデバイスを見た。


「あ!ファクトの位置、分かった!」

「??!」

ファイと共に驚くラス。なぜいち女子大生にそんな詳細が分かるのだ。しかもここは河漢だ。


「ラス君行こ!さ、車乗って!」

「……え…」

「さ、早く!」

「………」

ラスは戸惑うも、車に乗り込もうとする。


「…?」

ラスの曖昧な態度に、もしかしてこの二人もとくに知り合いというわけでもなく……?おそらく、ラスはファクトの位置を全く知らない。怪しい女子大生は、ラスまで艾葉に連れていく気なのか。

「ちょと、お姉さん!」

ファイはドアの前まで来て止めた。一般人を河漢内部に送るわけにはいかない。


「もういいわ。あなたも乗ってしまいましょ。ファクトのお知り合いでしょ?」

「へ?」

急にすごい力で、でも痛くないように後部座席に押し込まれドアを閉められた。

「え?!」


「ファクトを釣るものは、多い方がいいし。」

「は?」

ラスとファイ、2人とも「はああ??」となる。


「なんなん!!?」

ドアは開けられず、既に車は発車。連絡をしようとするファイを篠崎さんは運転席から乗り出して止めた。

そしてなんと、ハンドガンを向けた。

「ひっ!」

「だ~め。」

かわいくガンを口元に寄せ「しー」をする。

「信号発信もだめ!」


「あたらめてご紹介します。私、シリウスのお友達で、篠崎と言います!……あ…」

時々知性的な表情になる篠崎さんは、呆気に取られている二人を無視して、何か考えている。

「そう言えば、名前はないな…。何がいい?」

「何って?」

「アイラ?リリス?リアーズ?響きは…リアースの方がいい?かわいくてきれいなのがいいな………」

「あの…、もしかしてアンドロイドですか……?」

「!?」

横で言ってしまうファイに、ラスが驚く。『判』無しか。


「はは~!勘がいいんだね!あなたお名前は?」

「……ファイ…ファイです……。」

「かわいい名前!ファクトに少し似てる!少し賢そうで、その名前でもいいな……」

何それ、怖いとファイは引いてしまう。


「ベージンですか?」

ファイが聞く。SR社関係でこれまで出会ったアンドロイドと明らかに何かが違う。会話が全て、(くう)に浮いている感じだ。

しかし、むっとする篠崎さん。

「……私をあんな奔放な製品と一緒にしないで。」

「……」

「ま、でも、ベースはベージンだけどね!」

「!?」

ラスはゾクッとする。ファクトも、シリウスもベージンだけはやめておけと言っていた。



呆気にとられる二人の心を置いて、少し上空を走りながら、軽自動車は一気に艾葉に入って行く。



「位置情報が特定されるのが早いか………それとも、私がファクトの場所にたどり着くのが早いか……」

篠崎さんはニコッと笑う。

「……」


「まあ、どうせすぐに、私なんかを追うのはやめるし。」

「……?」

「もっと入ってくるからね。余計なのが――」




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