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ZEROミッシングリンクⅧ【8】ZERO MISSING LINK 8  作者: タイニ
第六十六章 モーゼスの包囲網

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46 世界の距離



「こっちか?」

艾葉ではいくつかのチームで動いており、赤いエレベーター側から降りたのは今回来たオリガン大陸のユラス軍人タフルクとアーツ河漢のイユーニたちであった。


イユーニたちに追いついたファクトとリゲル。そして共にいたユラス兵と、情報を照らし合わせ位置を推測していく。


「…よく住民たちは、この通路を把握できるな…」

ユラスにもオリガン大陸にも、アジア規模の地下街や設備はないので、艾葉に初めて入ったユラス兵たちが驚愕していた。


「最初の住まいを移動してからは、半分は彼らも行き当たりばったりなんじゃないか?ギリギリ生活できれば別にここから出られなくてもいい者もいるからな。」

彼らも皆が皆、把握している訳ではないだろう。デバイスを持ち歩かない者たちもいるのだ。巡回している者から何か買えばいいし、弱いものはどこかしら市場もあるので一緒に移動している。不法入国や不法滞在で延々と隠れている者の逃げ場にもなっていた。不法滞在相談の憂慮期間が設けられていたり、世代を越えていたり搾取があった場合などを考慮されることを知らないでいる者も多い。


時代ごとに改装建て増してきた地下や半地下建造物の多い艾葉や名斗(なと)は、野たれ死んでしまう人もそこそこいるが、好きに生きてきたので不幸とは言えないのかもしれない。保護施設から出て行ってしまう者も多いのだ。

ただ、その心は誰も知らないままだが。



広がるいくつかの経路にファクトもため息をつくしかない。

「……もうこれはどうしようもないよね…」

枝分かれが多過ぎて、DP(深層心理)で見たイメージだけでは何も分からない。それに、亡くなっていった人たちを思うと、ここで誰かをDPの深みに入らせるのを迷う響の気持ちも分かる。少なくともここで新規者の能力開発はしない方がいい。



「他の地点から入ったチームは?」

「今、C3チームが艾葉二区で一般人数人を見付けたけれど、子供はいないようだな…。他も人を見付けているが、やっぱり子供はいない。」

Cはユラス軍の配置されたチームだ。


ミニコマやビーも探索をしているが、彼らは狩られる可能性もあるため万能ではない。行政の探査機を狩ると罰せられるし、異常が起こった場所が割れるので普通の人間は手出ししないが、ギュグニーが入っていたら話は別だ。彼らはおそらく今、窮地。捨て身の状況だろう。


「目的地が分からないと、こんなに混乱するとはな…」

共有しているマップで緑の部分は最近人払いした場所、誰かが探索した場所は青に着色されていく。女性や子供が少ないので、犯罪に会いやすいだろう。子供たちがおじさんの保護下にいることと、あちこち動いていないことを祈るしかない。



「先、新情報が入ったが、地下路メインY23、Y36を通過した可能性がある。」

が最新情報を伝えた。Yは黄色だ。

「なんでそんなこと分かるんだ…。コマも知らないのに。」

一人のユラス兵が驚いているが、ファクトは響さんかな?と気が付く。


「23が先か36が先かでもだいぶ違うが順路は?」

「子供の見た情景らしいから、おそらくとしか言えないが23、36だと思うとしか…」

「なんだ?その曖昧な情報……。」

子供も大人もデバイスを持ち歩いていないのに、なぜ分かるのだ。何も言わないがリゲルも、サイコスの情報だと気が付いた。



河漢の基礎地図を網羅しているイユーニには分かった。

「…それって入口から23、36の経路だと……、『前村工機』の方角か?」

少し離れた場所で子供には結構な距離だが、歩きでも行ける場所だ。

「でも、『前村工機』付近だと逆にけっこう調査されてませんか?その手前地帯か……」

ファクトがイユーニに尋ねる。

「なんだかんだ言って、あの辺は余裕のある空間がいくつもあるからまた居ついてるのかもな。」

「可能性のある所は他のチームやコマちゃんが潰していると思うけど。」


『前村工機』はワラビー事件の中心。


かつての繁華街もあり、その地上までの吹き抜け地帯は、イオニアを誘惑したジョーイなど身許不明のアンドロイドが出没した近辺でもある。問題も多く、不法住民も多かったのでしっかり調査されていたはず。

心配なのは『前村工機』周辺は地盤が弱いということだ。あの大型機が外からアンタレスに入っていけることはまずありえないが、またワラビー級のロボが暴れたら、崩れる可能性もあるだろう。



「でも、子供の足で行ける場所なら、その一帯という可能性もあるな。」

昼過ぎまで四支誠にいたのだ。延々と歩き続けているか、プロの兵士などに拉致されていない限り、極端な移動はできないであろう。響の見た世界では、歩きで移動しそれなりに人のいる集落に落ち着いたのは確かだ。ファクトの感覚でも、あの時点でナックスのおじさんから離れた様子はなかった。


ファクトは姿勢を正す。

「タフルクさん。そこの可能性もあるかも。少し人を集中してもらってその辺りを探ろう。出来るか分からないけれど、一旦ここでサイコスに入ってみる。それで何か見えたらきっかけにして進もう。」

「できるのか?」

ファクトのサイコスは、一般的な霊視ということにしている。

「待って、響さんに…」

響の名前にイオニアが反応するも、響は通話に……

「…出ない……」


現在定位置があり動けない軍人の代わりに、アーツ河漢やVEGA所属の軍人が動いている。一旦、ある情報で推測していくしかなかった。




***




一方、ナックス母の妹の家には特警が入り、子供たちのカバンやデバイスなどが回収されたと情報が入る。


ナックスの母も妹も、自身の母や兄をひどく拒否していた。霊性に接触するも、彼女たちの中に黒板で何かを擦り合わせるようなキンキンした感覚が続き、そこから子供を連れ去ったおじさんに入れない。妹はコミュニケーションに問題があるのか、突っぱねて捜索に協力してくれないので、ナックス母にお願いをして妹の家に入り、兄のデバイスと子供たちの荷物は押収したのだ。



ファクトはチコの父、テニアを思い出す。


確定ではないが、テニアは霊性と物の記憶を映すサイコメトリーを兼ねた能力の持ち主だ。

サイコメトリーにも霊性を映しているものや、宇宙の記憶のホログラムを映しているものなど種類があるらしい。もし、ここに物の記録を映し出す、サイコメトリーの能力者がいたら手掛かりになるかもしれないのにと思う。

しかし、おそらくその持ち主、ニッカ、チコ、テニア。知る顔ぶれは今全員アンタレスにいない。


ベガスや軍の霊性師も追っているが、艾葉という塞がった場所であることと、今、ギュグニーの問題もあり万全に望めない。



でも……そこで思い出す。


テミンに光を感じたことがなかったし、最近使っていなかったので結びつけなかったが、自分も霊性の能力を持つ端くれだ。光でテニアを見付けたではなかったかと。


ただ、ファクトはテミンの光を知らない。それにあの力は、霊世界をどう介しているのか分からないが、あくまで地形に左右される。ビル群の上に、山脈の向こうに紫と鮮やかなピンクが見えたように、もし地下にいたら見えるのだろうか。



ただ覚えている……。カウスの光は黄色とシルバーだ。



確認のために、過去の手書きメモを見ると、汚い字で『カウスさん、黄色と明るいシルバー。輝く白?』と書いてある。


「タフルクさん、イユーニ、ちょっと待って。」

「…?」


ファクトは発想を転換する。この地下が………森であり、荒野の向こう側の山脈であり………ビル群だと考えるのだ。地下に反転した地上世界。遮るものは何もない………同じ地球。




サダルが言った。


霊には距離がないと。


何よりも小さく、何よりも大きい。

何よりも速く、そもそも定まった距離がない。


心の、精神の距離が距離である。



最も速いものは光でも何でもない。霊なのだ。




***




その頃、響は河漢入りをしていた。


赤いエレベーターから艾葉入りをしただろう行方不明の3人。

響のサイコスは遠隔でもできるが、知らない土地や人の場合、同じ空間を感じる場が呼応しやすい。



数人が見守る中、河漢の建物の壁に俯いてサイコスに入っている響を、サウスリューシアからの女性兵ガジェが支える。


「……」

近くにいるのはイオニアとシドー。イオニアは第3ラボのことを思い出し、響が心理層に入ることに気が気でない思いになり、耐えて見つめる。こんな準備のない場所で、ちゃんと戻ってくるのか。



しばらくすると、響は静かにスーと目を覚まし、虚ろな顔でこちらを見た。


相変わらず地味(じょ)響だが、眼鏡の奥に見える不思議な目線に、イオニアだけでなく周りにいた誰もが息を飲んだ。



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