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ZEROミッシングリンクⅧ【8】ZERO MISSING LINK 8  作者: タイニ
第六十六章 モーゼスの包囲網

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43 河漢警報



ファクトたちは思う。


シンフォーム社だけではないだろう。薄々違和感を感じていたが、河漢にいるジャンク屋やパーツ屋はもしかしたら………自覚のあるなし含めてそういうことかもしれない。


ファクトはもう一度響に連絡する。

「響さん。響さんの方に今河漢の報告入ってる?」

いくつか確認して、危険だから響に河漢には入らないようにお願いした。


特警のおじさんは、各地の住民の確認のため先に外に出た。




***





響は見る。


テミンの世界を。




テミンの視線。テミンの世界。


思ったよりも早くテミンを見付ける。




おじさんたちとの会話、どこからか入った通路。


暗い通路をあっちこっち巡り、その一つ一つをじっと見ている。

さびれた配管、切られたような配線。丸いのに、時々平らになる天上。ひどく寂れていたり、まだ新しい感じもするスペース。触ってもいいのか分からないほど汚れた手摺。軍手が必要だったと、一瞬触れた手摺から手を放す小さな手。



温かく手で繋がる一方の友達は、全てが恐怖に怯えている。


なのに、テミンは……

恐怖がないわけではない。でも、同じ景色を歩いても、友達とは全く違う情景を歩いていた。


怖いけれど………初めて見た世界に少しだけ新しい世界が広がる感覚。

そして、自分の手に守りたい、一緒に歩みたい、友達がいる。



シュルタン・テーミン。

彼の心の中は……族長分家でもその遺志を引き継ぎ、常に周りを見ていた。


目の前の情景、目の前の人の情、深い世界観。

目の前の……友達。



彼の背後には、緑色の目の彼がいて………

そして森で散ったその弟もいる。


だからチコに近いのだろうか。




既に彼らはおばあさんの元に到着していた。


そして、もうベガスになんて帰らなくていいからここに住めと言われている。


おばあさんに会って安心したのと同時に、お母さんのところには行かなくていいと言われた怖さと悲しさで友達はべそをかいていた。

「う、うぅ。お母さん…。」

「ナックス、泣くなよ。大丈夫だよ。多分、そんなことできないし……」

テミンは、しばらくここに住むことになったらどうしようと考え、でもアンタレスと公益事業の只中なので、誰か迎えに来てくれるだろうと推測をしていた。




響は一旦ファクトに報告をする。

「まじ?」

『ほんとです。』


「ウヌク、リゲル。やっぱ艾葉のどこかかも。」

響と通話しながら報告をすると、ウヌクが驚いている。

「……なんで響さんがそんなこと分かるんだ??艾葉にいるの?」

そういえば、響やファクトの能力に関してウヌクはあまり知らない。シェダルをよく知っているのに、DP(深層心理)サイコスターの能力を知らないという、むず痒い立場である。なお、DPサイコスターを知り、シェダルをよく知らないのはサルガスとキファ、タラゼドなど。全部知っているのは横にいる、めっちゃ役に立つのに存在感のない男リゲルだ。


「……まあね。響さんはテレパシーとか受け取れるから。」

サイコロジーサイコスターということは知られてもいいが、DP(深層心理)サイコスターということは禁句なので適当なことを言っておく。

「は?マジか?」

「多分。」

間違ってはいまい。重なる能力ではある。テレパシーもチート感があるがDPには勝るまい。



またデバイス向こうの響と話す。

『ファクト。私もテミンも、艾葉の詳細はまでは分からないから……』

「大人のおじさんの方を追ったら?」

『周りに似た性質の人がいっぱいいて……すぐには…。せめて会ったことがある人なら追い易いんだけど。』

河漢から出ていかない人たちは共通する何かがあるのだろうか。強烈にクセと固定観念があるということだろうか。

『テミンが手を繋いでいるお友達から追ってみたいけれど、お友達が周りに今、すごく心を閉ざしてるみたい。』

一体何をしたらそうなるのか。ただこれで予想は付く。テミンはナックスを心配して付いて行ったのだろう。



『今は多少の会話と、テミンが見た記憶しか辿れない。テミンが思ったよりいろいろ視界や頭に入れてるから、それを追っていくしかないかも。風景の雰囲気を話していい?』

「情景?…」

そんなことができるんか……とウヌクが驚いて見ている。チコに自分の元カノたちを当てられたらしいのに、今更何を驚いているのか。


そこに、お母さんを河漢のスタッフに任せたファイも駆けつけてきた。

「どう?」

「今、響さんにサイコスで追ってもらってる。」

リゲルが説明すると、ファイは顔をしかめた。そんな状態なの?と、信じられない様子だ。響が動かなければならない状況。穏やかとは思えない。



『…うーん。私が見たもので…覚えているのは……廃墟みたいだけど、……1階ロビーがそれなりに大きくて…物乞い…みたいなおじさんもいて……住人かな?

………正面にガラス張りの赤いエレベーターのある建物に入って行く!』

「っ?!やっぱり艾葉だ!」

ウヌクが叫ぶ。

「……知ってるの?」

「ここ、回ったことがある……。ガラス張りなのに赤いエレベーターとかだから覚えてた。響さんスゲー…。」


「でもそれって………ある意味アウトだよな……」

リゲルが核心を言ってしまう。その通りだ。

「艾葉って…前に死者が出た所だし……」

ファイも固まってしまった。

ウヌクがデバイスごしにイオニアに掛け合って詳細を報告している。河漢での出来事は基本、責任者のイオニアかイユーニを通してさらに行政なり軍なり上に伝える。



ガラス張り、エレベーター、赤いカゴ、廃墟などでAIにお願いすると、マッピングされた風景が出てきた。最終的なカメラは少し離れたところで、彼らが侵入する風景はまでは映っていない。


「今、現場に何人か向かっているから。」

ウヌクがみんなに伝えたが、今度は響がダウンだ。

『で、どんどん進んで……すっごい進んで……地下なのかな………

ダメ、もう分かんないや………』

響は深い場所に自我を保ったまま関与できる代わりに、施術中に意識を保つことができない。心理層で見てきたものを起きて思い起こすことしかできないのだ。

『目線が低いし天井も世界もすごく大きく見えて………歩く距離もすごく長く感じる。子供の目線だからかな…。実際の距離感が掴めない………』


「テミンに直接呼びかけとかは?そのまま位置確定とか……」

『テミン自身にサイコロジーサイコスはないし、そこで誘発するには危険すぎる力だから……』

テミンも霊性が高い可能性がある。


この不安定な時に不安定な環境で、周囲が気が付くような接触はしない方がいい。おそらくここまで明確に風景を描けるのも、テミンの記憶処理が明確だからであろう。普通の子供ならおそらく曖昧だ。

「分かった。響さん、一旦手掛かりになりそうな情報を送って。現場にいるイオニアに送るから。じゃ、よろしく。」

中核の東アジア軍、そしてチコに付くユラス人、イオニアなどは響の力を知っている。



「ファクト、イオニアの方着いたぞ。」

が、その時ウヌクが話していた通話先のホログラムに信じられない光景が広がった。


ダン!

と爆発音がしたのだ。


「……」

「……え?」

固まるウヌクにリゲル、ファクト。そして、ファイ。


「イオニア?」

「イオニア!!」


『…あ、大丈夫。ここじゃない。外で威嚇か?』

アーツ河漢メンバーが艾葉の細かい地形に最も詳しいため、マッピングメカが把握していないところにユラス軍に案内しに来たのだ。テミンのことだからか、レオニスとマイラも来ていた。幾つか人のいる可能性のある場所を、上からも囲い込みしようということになっているため、他の場所にもフラジーアや先鋭らしいメンバーを回しているらしい。


「…え……イオニア。河漢マジ大丈夫なの?」

『今のところニューロスの被害は住居地区には入っていない。規模によっては注意になると思うけど、河漢艾葉は既に警戒レベル4に入ってる。艾葉周辺以外の河漢は3だ。

もう少し様子を見てから判断して、一般への攻撃の可能性があったらアンタレス市に警報が発令される。』

「…それって……」

一旦ベガスのメインイベントは全部終わったが、夜まではお祭り状態だ。それも4時で撤収になるらしい。まだメカニックの異常なのか、ニューロス超反対派などどこかの民間組織の犯行なのか、ギュグニー関係のテロなのか分からない。




ファクトは他の方法も考え、心に決めた。

シリウスに電話を掛ける。


「シリウス?」

一般通話にシリウスは出ない。まだ仕事中か。

個人的繋がりを一般には悟られないように、シリウスは仕事関係以外人前で電話に出ることはあまりできない。


シリウスは自分の内部にある機能でファクトに返答する。


『どうしたの?今は動けないよ』

「テミンがいないんだ。オミクロン族のテーミン・シュルタン。その友達のイー・フォルナックスも。多分河漢艾葉のマップ3H区域から歩いて行ける場所にいる。推測できる?」



シリウスが捜索で関与できるのは、データにある場所だけだ。しかも、解析を見るにも提出するにも警備の許可を通さなければならないし、マッピングメカや監査メカの情報が届かない場所には行けない。


『……』


シリウスの権限の範囲で見守るべきか、権限を越えて動くべきか。

どちらをしても後で世間から批判の的になるであろう。あとは、警備を越えて国からの指示があるかだ。


「…シリウス………」

答えないシリウスに、ファクトは不安気に聞く。


『……何?』

「………………」

『…ファクト?』



そして思い出す。


心理層と、アジアとユラスの狭間で見た全て。



「…()()()に……『北斗』さんはいるの?」


『北斗?その?』

「……シリウスの……その胸の中に…」

『……』



北斗なら………データでなく、シリウスの機能に合わせて霊性を追えるかもしれない。



彼女はかつて、生きていた人だから。






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