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ZEROミッシングリンクⅧ【8】ZERO MISSING LINK 8  作者: タイニ
第六十六章 モーゼスの包囲網

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42 底の底に溜まるもの



少しみんなから離れた場所に来たファクトは、一度響に連絡するが着信に出ない。


少し意識を集中し何度かDPサイコスを試してみるが、心理層にも入れなかった。時間をおいてもう一度デバイスで響に連絡する。


『どうしたの?』

「あ!響さん、今仕事中?」

『うん、病院だよ。ごめんね、ちょっと他の科にお使いに行ってて。』

響のほのぼのした声にホッとする。


「……今、時間大丈夫?」

『………うーん。ちょっと待って。今診察や手術とかはしてないんだけど……待ってね。』

しばらくバタバタした音が聞こえ通話に戻ってきた。

『はい、大丈夫。外に出た。』


「あのさ、まだ内々の話なんだけど、テミンがいないんだ。」

『……テミン?』

「テミンがさ……友達と河漢に来たらしくて、今のところ住居地にいない。」

飲み込めていないらしい。

「いないんだ。」

『………』

「響さん?」

『へ?どういうこと?』

「もしかして、その子の親戚に付いて行ったのかもしれなくて……。

持っていたデバイスも全部外されてる。河漢立ち入り禁止区域の住人。」

『はあ?!』


「あ、まだいなくなったって決まったわけじゃないし、艾葉だと分かったわけでもない。でも、前もって探しておいた方がいいと思って。それで位置が分からないから心理層に入ってみようと思ったけど、俺ではできなくて………」

ファクトの能力にはムラがある。そもそも使えるだけで特殊という希少能力だ。



通話の向こうで響は冷静に答える。


『ファクト………。入らなくて正解。

艾葉は危険かもしれない……。アンタレスで行き処を無くした霊たちも集まってるから。』



霊は人間だ。


霊は人に付いてくるし、人に向かおうとする。




自分を知ってほしいから。


存在を、苦しみを。




大都市は国際都市で、全ての国から人が集まる。外部からアンタレスに来た者が持っている霊が、アンタレスに入る場合もあるのだ。


本来霊は、生きて来た時に因縁のなかった場所や心の部分には行けない。

けれど、透過された非常に崇高な場合。これは良い意味のプラス作用で、その人間には死後の世界でより大きな自由が与えられる。神性、心の許容量や赦しの深さは、霊性や精神性の大きさとして霊の世界でも同じように大きく広がるからだ。


そしてその逆もある。例えば、他の地域で無念や怨みを募らせてきた霊。本来彼らはアンタレスに何も関与できないが、いくつかのルートを辿ってくるのだ。昨今の話だけでなく、時に数百年、数千年もかけて。


一つは血縁。

一つは似た思想や環境で生きてきた人間や物質を綱のように伝って。


エリスやチコたち神性の高い者にはそれが分かるので、定期的に霊の整理をしている。霊の中でも、条件が満たされれば転嫁できる者もいるが、多くは地にしがみ付こうとする。それでもコツコツと解放していくのだ。怨みを。



心、


実質的世界。


この二つが解かれ、どこかで一致した時、生者であれ死者出あれ、全ての霊性が転嫁されていく。




かつてある国を侵略した国の国民が、次世代でその国のために田畑を作る時。

全てを奪われた農地で……自分の膝も折れそうだったそんな中で……それでも誰かに施した哀れみ。


全てが叶うわけではない。

でも………そんなある条件を元に……世界は転嫁していくのだ。





けれど、今、あまりに急激に規模が大きくなった。


さらにベガスと西アジア、ユラスだけでなく、ギュグニーも入ってこようとしている。ギュグニーが入ってくるということは、北や南のメンカルも影響する。なぜかアンタレスに全てが集まろうとしている。


西アジアも、フォーマルハウトも、南にはもっと美しい国もあるのに…。



『……ファクト、今ね。少し感じるんだけど、心理層の全体がすごく揺らいでるの。多分霊性が変動し始めているからかも。二つは連動もするから。』



ファシズム極まった場所が解放されたのだ。


アジアラインのあの山で。



『この濁流に乗ったら絶対にだめ。』

「………テミンは?今、みんな各所の子供の所在を確認してはいるみたいだけど………」

『……』


どうするべきか。



過去にこの大地で、戦争やファシズムで何億人も死亡し……、

一方生活の中で、何千億も失われてきた子供や女性の肢体。



そういうものも、数十年、百年かけて解いてきたが、時代の変わり目は一気に動くことがある。


実世界に直接影響を及ぼすほどに。



他大陸で、新たな時代に入り自由平等を得られ皆が叫んでも、忘れたい過去を引っ張り出し、掘り起こされ、大きな闘争や腐敗がまた始まったことがあるように、個々人の怨みは消えない。


精神や霊の世界に永遠はあっても、肉の生に、人生にやり直しはない。たった一つの(せい)がゴミのように蹴散らされた人々の苦しみの思念は消えない。



理不尽な人生を送ってきた者は、誰もが言いたいのだ。


私はここにいる。私はこうだった。私は歴史に消された。私の苦痛を土台に今、のうのうと生きている者たちがいる。自分たちの罪を覆い隠し、私を忘れようとしている。


理不尽な人生の中、善良であった者もあてもなく彷徨っていれば、さらに強い思念に巻き込まれていく。



忘れることはできない。

全てが昇華されるまで。



見える者には見える。


全てが渦巻いているのが。



艾葉の大きな大空洞がある場所は、都市の様々な情念も巻き込み、各地から来た人たちに付いて来たあらゆる霊もおびき寄せ、地形的に霊が吸い込まれやすい。



テミンも無意識にその渦に引かれて行っているのかもしれない。

もし自分がここで動けば、自分もその一人になるであろう。けれど、この流れは止めなければならない。



底の底に………全てが集まる。






「…………」

病院の今週のスケジュールを確認していく。

イベント期間で予備人員もいる。そしてここは東アジアの管轄病院。



響は動き出した。




***




「ファクト!」

「おい、ファクト!」


みんなから離れていたファクトが呼び出された。


「あ、ごめん。」

「今連絡見たか?」

ウヌクがファイやお母さんに聞かれないように話しかけてきた。

「連絡?」

デバイスに目を落として驚く。

「襲撃?」


「艾葉西3地区…。…どこから来たのか分からないメカが攻撃を仕掛けてきた…」

「え?」

艾葉西3地区は今のところ無人だ。けれど、建築会社所有のコマ2台に侵入され、ユラス軍とガチ合ったらしい。そして戦闘のメインは人型ニューロス数台であった。

「…?それってヤバくない?」

「フェクダさんの編成部隊が対したらしい。」

「怪我人は?」

「今のところいない。」

さすがユラス軍。


ベガスに来た当初は何度かコマちゃん事件があり、それに対応していた。でも、事業拡大をしてからは、ファクトたちが知る限り、ここ最近は何も起こっていない。前回の艾葉侵入事件はメインは対メカニックでなくギュグニー兵だった。

普通、メカなどの目立つものや追えばどうにか解析が出来るものには、大掛かりなことはできない。どうやって河漢に忍び込ませたのだ。コマはハッキングされたとして、これだけの警備でその他のニューロスはどこから来たのか。


リゲルも話に入ってきた。

「コマがそのまま乗っ取られるのは無理があるだろ。」

「それはそうだ。」

そんな簡単に乗っ取られて、街で暴れてもらっては示しがつかない。そもそも純正SR社製は乗っ取られたことがない。


「シンファーム社の製品だった……」

「?!まさか…」

「まさかだな。」

シンファーム社は、古くはベージン創業者から分かれた重機会社だ。部分的に協力や取引があっても他社との差はないし、今は別会社である。市場や公共事業の独占にならないように、ある程度公平に様々な会社が入る場合がある。



でも……


三人は顔を見合わせた。


ギュグニーは最初から準備してきたのだ。



セキュリティーの関心の弱い部分に。

浅く、広く、薄い膜のように、存在も知られないように。






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