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ZEROミッシングリンクⅧ【8】ZERO MISSING LINK 8  作者: タイニ
第六十五章 シリウスは臨む、空と地に

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39 アンドロイド篠崎さんの手は温かい


現在場面があちこち移り変わり、分かりにくくなっていてすみません。


現在

ファクト→ アーツ警備スタッフと河漢に

ムギ→ 河漢の社宅でロディア家族やジェイと遺品整理

ラス→ 篠崎さんと南海から移動

テミン→ ナックスの家族と河漢の地下に?

シリウス→ 南海でお仕事中

ウヌク→ ベガス四支誠で視察団体案内のお仕事

シェダル→ アンタレスの東アジア下で待機

サダル→ ギュグニーの中心国家首都チートンに

テニア→ ギュグニーのお仕事を手伝ってそのどこかに


となります。




その頃、今更ファクトとどう連絡を取っていいのか分からないラスは、南海広場で途方に暮れていた。


先、アーツのブースでファクトの知り合いだから連絡が取りたいとお願いしたけれど、断られてしまった。蟹目第三高校卒でだと言っても、そう言って心星家に取り入ってくる者が結構いるのでダメだとのこと。残念ながらデバイスで出せる範囲の幼少期からの写真も断捨離してしまった。せっかくポラリスと一緒に映っているものもあったのに、クラウドからも引き出せない。


そういえば同じ蟹目高校のリウやヒノ、ユリたちもベガスにいるはずだ。

……と思うも、最後の方は彼らとも疎遠になってしまった。


久々に気持ちが切り替わって焦ってしまったからか。

今、急ぐことかも分からないし………と、心の熱が冷めて視察の仕事に戻ろうとした時だった。



「……あの…。ラス君ですか?」

そこに声を掛けてきたのは、淡いピンクブラウンのネイルが上品に光る女性。

「え?」

「ラス・ラティックス君!」

「あ、はい。」

「あ、やっぱり!私、心星君のお友達なんです!」

「………」

一瞬、声が出ない。少しカジュアルながらもキッチリ着込んだ仕事スタイル。顔は少しアンバランスさがありながらも、ふと振り返ってしまいそうなほどきれいな人だ。


「…あ。あ、……はい。何か?」

「お友達になりましょう!」

「は?」

蟹目の学区では、性格小2のファクトと見た目で人を殺す系リゲル、そしてメカオタクだったラス。あとはほのぼの控えめ、浮いた話もとくにしないヒノやユリたちで、こんな女性にまず縁がなかった男三人組。インターンは仕事と思えば女性とも会話ができるけれど、急に声を掛けられても何が何だか分からない。


怖い。何かの勧誘か。

宗教やマルチ商法どころか、たとえスポーツ部だろうが見知らぬサークルにだって入りたくない。

それとも、また心星家ファンか。


「心星君を探してるんでしょ?先、聞きました。アーツのブースでお友達だって言ってるところ。」

「あ、はあ…。」

「私、参南(さんみなみ)大教育部の篠崎といいます。一緒に行きませんか?」

「……へ?」

「心星君の居場所、知ってるんです。」

「!」


「私、心星くん……あー、ファクト君の事、大好きなんだけど、なんか相手してもらえなくて……。」

「……」

「将来やアンタレス市のために、真面目に頑張ってベガス構築のインターンに入りたいのに、取り合ってくれなくて……ひどいですよね?」

「………そうです……ね。」

「好き!って言っても、逃げられちゃうんです。親に取り入るとでも思ってるのかな?ほら、コーヒーも買ってあげたのに氷解けちゃた。」

いや、真面目に就活というか、親でなくファクトに取り入りたいと先言ったばかりではないか……と思うが、思うだけにしておく。

「……はあ…。」

曖昧な答えしかできない。スタイリッシュな顔の女性なのに、話し方が女子大生というか女子高生だ。



それにしてもファクトはなぜこうもモテるのか。

ほのぼのほのぼのしていたけれど、実はヒノもユリも幼稚園や小学生の時からファクトのことがちょっと好きだったのを知っている。怒らないしめんどくさがりのわりにノリもいいし。さらに女子より男子の方にもっと人気があった。なにせ何を頼んでもだいたい文句ひとつで引き受けてくれる。嫌なことはサラっとかわしながら。


見た目だけはいっちょ前になったので、こんな大人な女性にも好かれるようになったのか。成人がしないような、あんな髪の毛立てているスタイルで。

そのくせ、あいつはニューロスやメカニック関連と同じく、全くその環境や運を活かしていないし活かしきるつもりもない。


また胸がグジグジ疼く。



「私ね、ファクトがシリウスに傾倒されてるのが本当に嫌なの。」

「え?」

この女性もそれを知っているのか。


「あのシリウス、アンドロイドのくせに何を考えているんだか。」

「…………」

「しかも、SR社のアンドロイドは個人所有じゃないし、博愛の象徴として作られたのに。違法行為でしょ?SR社も何なんだろうね。」

「……」

ラスは、SR社が泳がしているんじゃないかと思う。



それか……SR社でもどうにもならないのか。

シリウスと他のアンドロイドとの最大の違いは、自己判断力だ。


聖典で神が人間の言行に指示はできても強制はできなかったように、シリウスにも強制はできないのかもしれない。



「ラス君。行きましょ。ファクトのところに!」


爪キラキラ、でもオフィスな女子の篠崎さんはラスに右手を差し出す。

この人は大丈夫なんかと、躊躇しながらも握手のために手を差し出した。


その手は柔らかく、温かく、程よく細くて驚くほどきれいであった。




***




「おい、坊主。ナックスに付いて行くならそれ外せ。」

河漢までナックスに付いて来たテミンは、おじさんに言われて左手の細い腕輪を戸惑い気に擦る。


「これは…」

「それ、デバイスだろ。外せ。そういうのはめてると警察や警備に見付かってうるさいんだ。」

淡々と言うおじさんに困ってしまう。

「…うぅ…」

ナックスの方を見ると、なぜか半べそをかいているし放っておけない。

「でも……」

「だったらここで待ってろ。他人が来てもつまらんし、様子見て帰るだけだ。」


ここは河漢の住居地域だが、体の調子の悪いナックスのおばあさんは、どうやらここにいるわけではないらしい。

「いやです。ナックスと一緒にいさせてください。」

「じゃあ忘れないように、腕輪はナックスの学校のリュックに入れておけ。」


ここはおじさんの妹さんの家らしい。テミンは手ぶらで来てしまったので、腕輪を外してナックスのリュックに入れさせてもらう。

「あと、これから行くところは他人無言だからな。」

「…?」

「人に言うなってことだ。」


そう言っておじさんはショートショックを腰に付け、いくつかの食べ物や薬などの入った袋を持って外に出た。車の中でもナックスがぐずっているので小声で聞く。

「…ねえ、なんでそんなにいやそうなの?」

「……だって、あそこきらい……。母さんがいないと行くのイヤだ。暗くて怖い……」

「…?そんな所におばあちゃんいるの?」

「おじさんの家、そこ。それに、おじさん、言うこと聞かないと怒鳴って時々叩く……」

「…ナックス………」



車で現場まで行くのかと思いきやそうではなかった。込み入った場所まで来たら古い大きな建物に入る。無人なのか、人がいるのか。時々誰かが地べたに座り込んでおじさんと挨拶をしていた。

そして、おじさんは大きなライトを頭に着け手にも持つ。子供2人には頭部装着用のライトを着け、テミンの手にも小型のランタンタイプのライトを持たせた。

「はあ、お前らじゃなかったらもっと荷物持たせられるのにな。そもそもあいつらがいなけりゃバイクで行けばいいんだが。」

ガタガタ道を走行できる半浮遊の乗物には、基本GPSやデータ管理システムが付いている。


小学生2人は軽い荷物を背負わされ、ナックスと手を繋いで歩く。

「……」

照らされる細道は狭い所もあれば、大きな空洞もあった。

テミンはこんな所があるんだと驚いてしまう。アンタレスはベガスしか知らないし、ユラスは一部除いて地下都市がない。しかもこんな廃墟。


「テミンは怖くないの?」

ナックスが怖がっているのに、おじさんは知らんぷりだ。

「…うーん。ちょっと怖いけど大丈夫。」

ランタンを持って歩くなんて初めての経験で、怖くもあり、楽しくもある。

「僕は怖い………。…う、ううぅ………」

淡々としたおじさんは、ナックスの気持ちなど全然分かっていないようだった。どんどん前に進んで行き、もうどれだけ歩いたのか分からない。時々何かが近くをすり抜けたような感覚があり、ヒエッとしてしまうが、大小様々なネズミがいるらしい。

普通はネズミに恐怖を覚えるものだが、誰もいないので他の生命がいることにテミンは安心する。



「…うう……、休みたい。」

遂にしゃがみ込んでしまったナックス。


「あ?ここに置いていくか?」

「うわぁぁ!やだ!」

こんな所に置いていかれたら気が狂ってしまうだろうが、テミンはカウスの血筋のせいかアトラクションとでも思っているのか、ナックスほど怖くはないので守ってあげないとと友達を慰める。自分本位のおじさんと、恐怖中枢の感度がちょっと鈍いテミンとで散々なナックスである。

「ナックス、少しサイダー飲みなよ。」

「……ううぅ……。うん。」

一口飲んで、ナックスはここではたった一人の友人、テミンを頼って歩き出した。



そして様々な道を越え……やっとライトがいらない明るい場所に出てきた。


明るいと言ってもまだ薄暗いので、ナックスはランタンは消さないでと懇願した。

ここは一体どこなのか。




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