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ZEROミッシングリンクⅧ【8】ZERO MISSING LINK 8  作者: タイニ
第六十五章 シリウスは臨む、空と地に

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37/88

※36 テミンは心配症


気が付いたら、この小説にも少しポイントが付いていました。説明ばかりで読む人もそんなにいないと思っていたので、数日前に知って一人で盛り上がってしまいました。少しでもご反応下さりありがとうございます!!



現行の話を書くために、確認で過去を行き来しているとやはり相違や間違えがたくさん出てきます。修正にも時間を掛けてすみません。通し番号も全部振り直したいし、2ページ目に行く手間を省きたいので、100話以上あるものは分解したい気分です(´;ω;`)ウゥゥ





「テミーン!」


四支誠の会館フロアでテミンを抱き上げるファクト。

「ファクト先生!」

「なんで飯食ってないんだ?クレープ食うか?」

「太郎君待ってた。」

「……太郎君はあきらめなよ。俺も会ってないし………」

机の方を見ると、ランチボックスが机に並べたまま残っている。昨日もこの状態だったらしい。

「……重い…」

成長が著しく、ずっと抱いていると重い。この前まで幼稚園児だったのにと思う……。


「私行くね。」

一緒に乗せて来た西アジア女子のライが、スケジュールを確認して工房の方に向かった。様子を見に来たついでに、こっちにライも送ってきたのだ。

「ファクトありがとうね!」

「うん、がんばってね。」



今日は来客が多いので、ベガスの生徒たちは子供のフリースペースで好きに遊んでいる。子供スペースもかなりの大きさだ。



「よう、ファクト。」

「あ、ウヌクお疲れ。」

「太郎、連絡ないんか?」

「ないね。」

一応東アジアを通じて、テミンが花札完成させようって言ってた、と伝えてもらってはいる。ここ数日はサイコス関連でも見ていない。


四支誠は午後から夜間まで様々な公演が行われ、歌やダンスのレッスン場や美術クラスも解放される。様々な地域の織物や衣装技術も移民によって解放され、ここで公演衣装なども制作することができる。

アンタレス別区の者ももちろん登録ができ、単発企画なら市民以外も参加可能だ。ただし、住民と同じレベルの事前教育と登録が必要となる。



「ニュースにはなっていないけど、こんな時にベガス関係者の結構な数がいない。まあ、太郎もだめだろうな。しゃーない。」

「………」

何か言ったわけではないが、やはりアーツメンバーはこの時期何かあることに気がついてはいるのだろう。ウヌクは太郎がチコの弟と知っている。しかも、表に公表していない存在。訳あり過ぎる。


「じゃあ俺行くね。」

「おう。どこだ?」

「河漢だけど仮設住宅地だから。見学は組織や企業しか来ないよ。」

「完全武装して行けよ。」

「押忍。」


そう言ってファクトはベガスを離れた。




***




どんなに切なく太郎君を待っていようが、テミンは小学1年生。しかもカウスの息子だけあって、エネルギーも有り余っている。


屋内フリースペースでみんなとトランポリンやアスレチックをしてから、対戦テーブルゲームなどをして飛び回っていると、カバンを持って玄関まで行く同じ教室の友達を見つけた。


フォルナックス。ケンカしながらも仲良くなった、河漢出身の同級生だ。

「ナックスー!」

「テミン…。」


「どうしたの今日は帰るの?珍しいね。」

母親の仕事が遅く、早くてもいつも4時半まではここにいる。

「…うん。なんか呼ばれた。門の前のところで待っててて言われた。」

二人で敷地外の門まで歩いていく。

ナックスの元気がなく話はあまり盛り上がらない。



そこに現れたのは、小さめの車に乗ったひょろっとした叔父さんだった。

「ナックス。カバン持って来たか?」

「うん。お母さんは?」

「母さんは後で来る。」

「…………」

ナックスは晴れない顔だ。


「ナックス…どうしたの?お父さん?」

「違う、うちのおじさん。おばあちゃんが調子が良くないから、河漢にお見舞いに行く。」

ペコッと礼をしてテミンは一言。

「河漢?今行かない方がいいよ?」

「?」

「何言ってんだ。そんなの家ごとの事情だろ。」

おじさんはめんどくさそうだ。


今、河漢に行くのは良くない。イベント期間は自粛を望まれている上、これはテミンの直感だった。


ナックスは少しぐずりそうである。

「……僕、お父さんもおじいちゃんも死んじゃっていなくて、おばあちゃんも歩けないから……」

「…!」

テミンはお父さんが亡くなったということにショックを受ける。ナックスが冴えないのはそのせいか。父さんも、そしておばあさんもいなくなってしまったら。


「おじさん、僕ナックスの友達なんですけど、おばあさん河漢の病院にいるんですか?」

「あ?病院なんか行くか。ずっと入院しろって言われるのに誰が金払うんだ。家だよ。」

「………」


「テミン、僕行くね。」

「あ、僕も連れて行ってください!」

急に言う子供に、愛想のない叔父さんは驚く。

「?なんでだ?」

「ナックスが心配だから……。」

上の空な友人が心配だ。


「はあ、何でもいい。サッサと乗れ。子供が楽しいもんなんてないし、帰るの少し遅くなるぞ。親に連絡しておけ。」

「あ、はい。」

身内とはいえ、このおじさんにナックスを任せたくなかったテミンは車に乗ってしまう。

河漢は現在ベガスのパートナー。よく名前が出てくるし、河漢から出勤してくる大人も多い。なのでテミンは、危険地域さえ行かなければベガスの延長だと思っていた。普段だったらもう少し慎重なテミンだが、この頃浮き沈みも多く、気分が浮ついていたのかもしれない。



「あっ」

メインデバイスは会館のロッカーのカバンの中だ。


けれどおじさんに何か言うのが怖くて、テミンはそのままの勢いで車に乗った。今腕にしているデバイスでも、位置情報やメッセージは送れる。


テミンは車窓から流れるベガスの街を見ながら、少し不安そうなナックスを支えなきゃとと四支誠を後にした。




***




会場を見回っても、ファクトの姿は見えない。


ファクトを探してあっちこっち動いていたラスは、やっと一息した。同僚から貰ったコーヒーを初めて口にすると、ゆっくり歩いて近くの椅子に座った。

「……」


ファクトにはデバイスで連絡すれば早い。


では何と言うのか。今まで無視して、いきなり「シリウスに近付くな」とでも言うのか。「目を覚ませ」とか?それもそれでどうなのか。これまで「大房に行くな」「ベガスに行くな」と言ってきたように、悪いも良いもまだはっきりしないことを勝手に結論付けてしまうのか。ずっと会話ができていなかった自分が、アドバイスのように言ってもいいのか。

それこそ「突然なに?目、覚ましたら?」と言い返されそうだ。


なんにして自分が言うのもおかしい。ファクトはシリウスに興味がなかった。興味がないしもともとシリウスを避けている人間に、シリウスに警戒しろと言うのか?



ここのSR社スタッフにでも忠告しておく?

「今日のシリウスの公演を見たら、人間を挑発してる上に、大学生男子に執着しているそうです。どうにかして下さい。」とでも言うのか。

公聴者なら似たようないちゃもんはありそうな話だ。事実、今SR社のスタッフが普通そうなおじさんに捕まっていて、ずっと説教やうんちくを受けていた。困っているが、一応顧客なので黙って聞いているのだろう。

完全に一市民、一消費者の脳内憶測。相手にされまい。


SR社の企業電話に「お宅のシリウス、ちょっとバグってませんか?」とか?悪質ではないけれど御意見おじさん、クレーマーやいたずら電話レベルである。


メールを送る?下手したら事件予告犯だ。

割り出しされたら恥ずかしくて仕事関係でもSR社に行けなくなる。



ラスが知っているSR社関係の連絡先は、ポラリス、ミザル、ファクト、そしてシリウス。…ワンクッション置いて同じく幼馴染リゲル。


シリウスは論外。ファクトの両親は…?ミザルの誘いを断ったのだ。今更連絡していいものか。

そもそも、自分でも分かるような話、SR社が把握していない訳でもあるまい。

「……」

考えれば考えるほど分からなくなる。



『私は女の中の女』


『…だからこそ…たった一人がほしいの』



シリウスからの自分一人に向けられた言葉もあったが、様々な講演でシリウスの話を聞いて、ラスが意味合いを判断したことでもある。確定的なことは何もない。


「……はあ…」

後はアーツ、大房民のいるブースに直接ファクトがそこにいるか聞くか。今まで、ファクトのベガス関連の知り合いに悪態をついて来たので気が引ける。小学生の頃から、大房は嫌いだと言ってきたのだ。そんな自分、誰かに知られているのかもしれない。


でも、言ったところで何になるのか。どのみち、だからっ?って話になるだろう。こんな忙しい時に言うのもジャマでしかない。




***




「はあ、つまらない!」


ここに来てベガスが超不満な人物。


一見普通の女子大生な、きれいなネイルをした以前よりオシャレに力を入れている篠崎さんである。今日はちょっとだけコンサバ系だ。なのに、周りはスポーティーやカジュアルが多い。自分だけ清楚女子大生?お嬢様大所属?これではアジアのキャンパス生ではなく、インターンやどこかの社員だ。

まあ、今日はそんな特別感を味わっておこうと持ち直す。



篠崎さんは自称女子大生なアンドロイドだ。


自分の正体を知るシリウスは、ベガスにまだいるらしいが仕事中。ファクトはいない。つまり知り合いがいない。勝手に友達を作ってはいけないと指示されている。


しかも、みんなみたいにマネしてカフェドリンクを買っても、自分には飲めない。正確には一口飲んだし、貯蔵もできるし内部で蒸発もさせられるが無駄な機能で面倒なので嫌である。女子気分を味わうために飲むか……と思いきや、カップの量が量なので考えてしまう。


なのでカフェオレを持っているだけ。

ファクトにあげたいのに、もう氷も全部融けそうだ。


「あーー!!もう!」

寂しいので緑野花子さんに来てもらいたいのに、連絡をくれない。


シリウスに、『忙しいなら、緑を分離体にしてこっちに寄こしなさい!』と送っても無視される。分離体にすると正確にはもう別人格になってしまうのだ。同一存在が同時に2個以上する時点で、自分ではなくコピーや別個体になるのだ。人間のクローンにも当てはまる話だが、アンドロイドさえも………。ただクローンは、自分以外はどんなに同じ核のクローンを作っても、同じ、もしくは似た性質の完全別個体だが。


アンドロイドはデータとしてなら融合や結合はさせられるとしても、シリウスが嫌がった。機械的法則性と、ニューロス規制法と、SR社との取り決めもあるし、うまくいかないとデータの上乗せではなく、自分に影響させられる。



「…思ってたのと違う………」

不満だらけでも、普通にしていれば、ただのきれいなお姉さん。

篠崎さんは、フラフラ見学をすることにした。






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