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ZEROミッシングリンクⅧ【8】ZERO MISSING LINK 8  作者: タイニ
第六十五章 シリウスは臨む、空と地に

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35 巨星アンタレス



さて、シリウスは歴史を思い起こす。



過去に、世界の全土で経済崩壊とそれに伴う都市消滅時代があった。


国や都市の崩壊と統合は3つの形態で起こる。


意欲的統合。

譲歩的統合。

そして崩壊的統合、自分の重みに耐えられなくなった時。


完全に自重でつぶれると、その後の復興がほぼ自滅的だ。何故ならそこにいる人間たちの気持ちが変わっていないので、以前と同じような行動を起こし、外部に助けてもらったとしても、変われなかった過去同じく(かたく)なに同じことを繰り返し、それ以上にこれまでを保とうとする。どのみち、未来にあまり見通しはない。



それを防ぐために行われたのが、国家、都市統合であった。


前時代末に起こった、統一アジアというのは半分は目的、半分は方便だ。

なぜなら完璧に皆が同参し心を一つにして起きた統一ではない。三番めの理由に二番めを加えた妥協して譲歩だったからだ。


国民には知らされていなかったが、都市機能維持、経済崩壊の緩和策の最終手段でもあった。

人口が減り、経済やインフラ維持に耐えられなくなり、天災もあり、様々な理由で市町村や都市が崩壊しそうだったものを、できるだけ自由圏勢力の中で統合し保持できるよう最低限働いた結果だ。


とくに都市部崩壊は国の崩壊につながる。


そのアジア領域を一つも持っていかれないように、保守にはグローバル化の傀儡と言われ、前衛には正義の押し付けと言われ、それでも突き進めてきたのが連合寄りの各大陸統一である。

文句を言おうが言われようが、この時アジア圏を一つでも持っていかれていたら、今のアンタレス自体もなかったかもしれなかった。まだ自由圏は完璧ではなかったし、同時に内側から崩れようともしていた。



アンタレスはもともと一国の首都であった。


内陸でしかもアジア大陸では中央に位置し、東アジアでは西側で緯度はアジアの中心軸から見るとやや北方だ。海はなく、大陸に切り込んだ大河がいくつかあり大きな平野があった。そして北を山脈が覆うため北にしては温かい。セイガ大陸の都市機能的中間にもなれるため、誰もがほしい地域であった。

しかし、どんなに頑張ってもそれは湾岸都市のフォーマルハウトやデイスターズには及ばない。平地も他の都市を思えば広くない。ただ、周りの山地もなだらかであったのと、歴史の中で開墾や採掘の積み重ね、技術の進歩で土地を均すことができたのだ。


そしてだんだん路線開拓と航空技術が進み、全く違う未来が見えてきた。

前時代初期の段階で、アンタレスが経済最大都市になるなど誰も予想していなかったのだ。



けれど、それでも、一時期より人口は確実に減っている。


個人主義社会の来たるべき未来だ。


そしてその先に……ただの過疎、弱体化ではなく、侵略勢力があるということが問題になる。



小さくて支えられない都市もあれば、大き過ぎて維持できない都市もあり、アンタレスはその後者だ。


その時、フォーマルハウトとは離れた場所にあり、東端に集中する東アジア中核の管理影響が弱いアンタレスを支えるため、多くの自由圏側の有志がそこに入って行った。


正道教やSR社、他自由圏企業もその一つだ。


本来はリューシア大陸のように新教が先導するはずであったが、新教は西洋の新教と同じく左傾し、とくに東洋新教は完全に内輪向けの閉鎖された宗教になり、他宗教を包括できなかった。そこで新生勢力の正道教が前面に立ったがもちろん対立。

リューシアにも保守過ぎる、もしくは左傾の新教教会は多くあったが、東アジアとは何が違ったのか。東アジア新教は、自分たちが非常に左傾し内向していると気が付かなかったのである。


リューシアは主義が水と油のようにはっきりしていたが、東洋は融和精神ゆえか、何もかもが混ざり合って、乳化した様なはっきりしない状態。まだリューシアは自分たちが左傾か右傾か、何を目指しているか自覚があった。本来、キリストから始まった宗教に左傾も右傾もない。けれどリューシアはどんなに差が激しくても、自分たちの立ち位置を自覚していたので、必要ならば自由維持のために不足を理解して他宗教他教派との協力ができたのだ。


西洋新教も東洋と似た傾向があったが、自由世界厳守も突っ切っていたので、教理が狭い東洋新教よりも、他宗教を包括していきたい正道教を指示した結果になる。


けれどアジアは、融和の理想と現実、新古のバランスが取れずに……全ての世代がもがいていた。





シリウスにとって、ベガスは不思議なところだ。


手中にあるのに掴めない。

指の間からサラサラ流れていく砂のようでもあり、

手に注ぎ上げることもできない素早いサラマンダー。


あっという間に、空を掛けていく五色の麒麟。


赤と思えば青になって、青と思えば黒になる。

折角白になったのに、今度は緑の葉に揺れるように輝き、いつの間にかそれは緑青(ろくしょう)のような混ざり合った姿になる。




アンタレスは本来、赤星。


けれどなぜ青く光るのか。



愛おしいほどの一面の雪の中。ただ春を待ちながら、ひっそりと生きてきた彼ら。



東から青い狼たちが駆けてきたからだ。


シリウスは紅い麒麟になってそう思う。



西洋の青く光るサファイアは届かなかったのだ。ほんの少ししか。

だからほんの少しから必死に増長させた、青い狼を送り込んだのだ。西に、西にと。


本来シリウスも赤ではない。

でもシェダルが白く青くなったから、シリウスは赤になってみたのだ。


自分も、真っ白い冬に灯る、温かく赤い(ともしび)になりたい。



深い瞳の奥で、シリウスは霜焼けの冬を愛おしむ。

苦しくて苦しくて………長い冬。

軟膏も湯たんぽもない冷えきった家。


でも、かき抱いてあげたい思いだけが、ふわふわとどこにも行けなくて…………



胸を熱くする。







***




途中からホログラムに合わせてベガスとアンタレスに関するメカやシステムの働きの説明となり、シリウスは全体で20分ほどの話を終えて舞台を降りた。


全てが終わって、同僚にコーヒーを渡されるのは、ファクトの幼馴染のラス。


「なあ、ラス。本当にシリウスって自己判断をしてると思うか?」

と同僚に聞かれてもラスは何も答えない。

「どうせ、政府か何かに言わされてんだろ。何を言おうが所詮プログラムだし。」

ラスが答えてくれないので自分で答える。


「…………」

「おい、おいラス!」

「あ?ごめん。」

「……お前ベガス本当に嫌いなんだな…。」

「…そんなことないけど。」

「そんなことなかったらもう少し明るい顔しろよ。」

「……そうか?」


「…はあ……。」

同僚に思いっきりため息をつかれる。


「あいつ??」

「あいつ?」

あいつって何のことだ。

「あの頭にバンドしてる軽そうなやつ。」

「………」

ファクトのことだろう。


………でもそれだけじゃない。あの女総長。今はエリスに変わっているが、ファクトを引っ張って行った人間だ。調べてもいい噂は少ない。

シリウスもだ。あんなにワクワクしたシリウスにも、今は裏の顔しか見えない。はっきり言ったのだ。



『私は女の中の女』と。



その意味はどうっちだろうか。世界が理想とする、いわゆるまさしく俺の嫁?

それともそんなことを言う彼らが嫌う、俗世の女性を具現化したような、女の醜悪な部分を凝縮したような………


『女の中の女』?



自分で『分水嶺』と言っておきながら、ファクトに懸想しているのだ。


何のバグだ。何のエラーだ。

明らかに仕事と分別できている感じではない。他のアンドロイドよりよっぽどだ。



「……あ…」

ここでラスは気が付く。


これって……


もしかして、ものすごく問題なのではないだろうか?

凄いバグか、下手をしたら裏にギュグニーがいるというベージン社より危険なのではないだろうか。


ヒューマノイドの分岐点というシリウスが、考えていれば何を懸想しているのだ。


わざわざ友人の、しかも人間の自分を通してまでファクトに近くなろうとしている。結局、人に近付けようとすればするほど、人間と同じようになりたいと制御のないAIは暴走するものなのか?



モーゼスは広く浅く動いているが、シリウスは一点を突こうとしている。


何よりも明確な一点を――



「……………」

「ラス?この後ここで、既存企業のシステムの説明会が何社かあるみたいけど行くか?先に大学の方行く?」

「……いい。」

「いい?」

「俺はいい。悪いけどちょっと用事ができた。」


「は?」

「ごめん!」

「は?なんだよ!!」

そう言ってラスは駆けていく。


「せめて昼飯食ってからにしろ!!俺を一人にするのか!!」

叫ぶ同僚を背に、ラスはファクトを探しに走り出た。




●シリウスは言う。私は女だと。

『ZEROミッシングリンク』

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