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ZEROミッシングリンクⅧ【8】ZERO MISSING LINK 8  作者: タイニ
第六十五章 シリウスは臨む、空と地に

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33 コロニーから眺めていた頃



ベガス紹介の映像が流れてから、天への奉献物として今回移民として来ている代表数部族がメドレー形式で伝統舞踊を披露。


次に、アンタレス市長、内外貴賓が挨拶をしていく。


そして現ベガス総長であり、カストル総師長の代理としてエリスが感謝と今回の端的な説明と祈りを捧げた。



既に市で決定されたことに関する象徴的な編入式も行い、ここからは最後の締めの前まで企業展のノリでいいとされている。


そのためか、突然場が変わり、音楽と共にたくさんのホログラムが会場に映された。

今回は、音響も舞台も全てアンタレスの専門会社に任せてあるので、規模も導入も違う。



そして、音楽と共にまた出てくるこの人。


ワーーーー!!!!!

と歓声が起こる。

先の赤いドレスから、アイボリーの総レースの前面膝丈、後ろロングのアシンメトリードレスで登場。

ファーデン・パイである。


しかも中央に立つと、腕をあげて両手ピース。


何であんなアホが舞台に立っているんだと、国家を賛歌した時の「あいつもやる時はやるんだな」という大房身内評価が一気に落ちるが、パイは気にしない。


で、何を歌うかと思えばサビの部分はみな知っている、祖母の少ないヒット曲のアレンジだった。基本、クラシックジャスのカバーが多かったし、BGMやダンスに曲として使われる楽曲が多かったため、大流行した歌はほとんどないが、この曲は知られている。


一番まで歌うと、今度はメドレーで違和感なく繋がれた各国の郷土曲や童謡をどんどん披露し、そして前時代ではポップスに入る有名な讃美歌に入る。



「すごい………」

ヴェネレ語の発音も違和感がないし、多分古典ヴェネレの発音も間違っていない。

「先生。お姫様かっこいいね……。私も歌手になるよ。今決めた。」

養護学校。子供の相手を見ながらのながら見だが、音楽にどうしても反応してしまうロディア。教室では女の子たちが真似をしている。


有名になるよりサルガスのお嫁さんになると豪語していたらしいパイ。

ユンシーリのせいで、お前もデイスターズに行けとみんなに言われまくっていたけれど、数さえこなせば安い衣装がギリギリ買えるくらいの仕事を得ていたので、全然その気はなかったのである。


ロディアには、パイが世界で通用するレベルなのかは分からない。でもロディアでも、パイが頭一つ飛びぬけて歌が上手く、そして目立つことが今は分かる。


「……」

もしかして、スター性というのかもしれない。とにかくかわいいのだ。動作一つ一つが。

パッと目を引く。美人とかだけではなく目を、心を引く。低音から一気に上がる声。キツめのギャル顔で背も低くなさそうなのに、セクシーでもありコミカルでもありかわいい。歌の雰囲気によってはステージ上を大きく動くのだが、格好いいのにどこか動きがかわいい。


まあ、どんな話をしようと結論。パイはアンタレスを出て行かない、ということだけは言えそうだが。「私がボイストレーナーになったら、アンタレスの守り主になってやるから安心しな」と言いふらしていたらしい。



「ロディア先生、どうされました?」

「…え?」

「チナちゃんが先生がボーとしてるって…」

「え?あ、え?!何でもないです!」

あの人が私のライバルです、など恥ずかしくて言えない。結婚しても勝った気がしないのはなぜか。

この前、パイのライブ動画をじっと見ていたところをサルガスに見つかり、下町ズを見るような目で見られてしまったのは、何ともいえない出来事である。



四支誠(よんしせい)とその近辺には、昔のスタジオやレッスン場を改装できる建物がまだいくつかあるという。

ロディア父も文化事業にかなり出資している。エンタメ都市デイスターズのようなモンスター級の歌手やアイドル、ダンサーは難しいかもしれないが、モダンダンスや南アジアとユラス各地の芸術も入ってきている。


ここにもまた一つの文化が生まれそうだ。




パイの壮大な歌声が流れる中、そこにもう一人登場。


シリウスである。



「さあ、皆さま、ここで今日のビックゲストの登場、シリウスです!」


少しだけコパーに手をエスコートされたシリウスが、そのまま舞台に入る。


パイのアイボリーに合わせて、オフホワイトのスレンダーなエンパイアドレスで舞台に立ち、また大きな歓声が上がる。入場時、シリウスは下手に下がったコパーにウインクを送った。


ラムダに至っては、シリウスお友達特権を利用しアーツ本部テントに座りライトまで振っている。

「シリウス~!!!」

シリウスはこんなに大勢の観客なのに、気が付いて手を振り返してくれた。

「シリウス~~!!!!」


折角誘ったのにメインスタジアムは絶対に嫌だと来なかったリギルに、手を振るシリウスの動画を送るが、『ファクト探してただけだろ』と、冷たく返ってきた。そんなわけがない。シリウスならファクトの位置ぐらい分かるであろう。多分。


超楽しそうなラムダの横で、アイドルオタクを初めて横で見て引いている、本部スタッフの第2弾ハイバオ。いつそんなライトを準備したのだ。ライトだけでなく、デバイスをプラカードにして応援メッセージまで流している。しかも、なぜ自分にまでライトを持たせるのだ。警備本部は野外なので、こっちのスタジオ内ブースは(とが)めらはしないがやめてほしい。


「あのさ、もういい?」

「え?シリウス専用のライトじゃなくてごめんね。公式売ってなくて、他のゲームとアイドルコラボのジギーってキャラ用なんだ。……でも、それでも……シリウスは怒らないよ!」

「え?」

そういう話ではない。全然意味が分からない。

「あっちでみんなも頑張ってんじゃん!」

あっちというのは、一部ペンライトを振っている観客である。シリウスやアンドロイドファンもそれなりにいるのだが、全体を見れば部分部分にしかいないので余計に恥ずかしい。熱狂ファン以外もノリがいいことだけが救いである。

「はい右、左、右、左!でいいんだよ!」

しかも、やめさせてくれない。




パイとシリウス、二人のデュエット。


ここで特別なのは、シリウスは自分の声帯機能で声を出しているということだ。


加えてその音声の核も、ただデータから引っ張ってきたものでなく、この場の連動で生み出しているものだ。普通スピーカーさえあれば、アンドロイドはどんな音声も音楽もデータからピックアップして流せる。でもシリウスは、今自分の判断で声を出し、パイと同じセッティングのマイクを使っている。パイが動けば、パイが音にアドリブを加えれば、シリウスもそれに呼応する。前後に合わせて一般のAIで音程を変えているのではない。音源通りの歌でなくともその場の臨場感とシリウス自身の判断で歌えるのだ。突然音楽が止まれば、戸惑う姿も表現もできるであろう。


自分の声帯から出した音で。



そして歌を締めたところで、パイはシリウスの右手を取って大きくガッツポーズ。笑い合って二人はそのままの勢いで腕を下げて礼をする。アンコールもあるが、パイはシリウスとハイタッチをし、客席に胸に手を添えるようなお辞儀をして、手を振ったり投げキッスをしながら上手に去って行った。


なお、全て本番ぶっちゃけで合わせはしていない。



シリウスはそんなパイを見送って、緩やかになった音楽と共に挨拶をした。



「皆様、こんにちは。

SR社の代表アンドロイド、シリウスと申します。


何よりもまず、ベガス構築が多くの方の努力とご協力によって、ここまで成長したことに大きな祝福とますますの繁栄をお祈りします。」


少し場が落ち着く。派手な演出はなく、シリウスの顔を知らなければ人との違いが分からない(たたず)まいだ。



「私は最初に……」


少しだけハスキーな、でも女性らしい声で話し出す。


「コロニーからあなた方を見ていました。」



コロニー?衛星かな?とみんな思う。

この時代、人が基地にするぐらいのコロニー的存在はいくつかできているが、実験や業務向けしかまだない。



「………私の一番星。」


シリウスはゆっくり笑う。



「その日は本当に夜空がキレイで………


地上に雲もなく、アンタレスだけでなくこのベガスも見えたんです。

まだ見える明かりも少なくて、今は明るいのに真っ暗な場所もあって。


宇宙から見る真っ暗な場所は、だいたい無人かとても田舎。でも、ベガスは都市の中では光が見えない方なのに、とても暗いのに………。


とっても愛おしくて………とってもわくわくしたんです。」

1週間もいれば、南海広場の全ての顔が覚えられそうな人口だった。


シリウスは空を仰ぐようにいい、流れる動作でステージにあるハイチェアに座る。



「無限に広がるように思う空の中にも、見つめる星はただ一つ。」


今も深層に思い浮かべる、夜もキラキラ灯される中央区の南下に、薄暗いベガスが広がっていたあの頃。


「なんだと思いますか?」


こんなに表題がはっきりしている式典に、シリウスは具体性のない話をする。SR社のスタッフたちも何の話かと思う。システムとニューロスにおけるベガス構築とこの先の展望の話をするはずであった。

ただシリウスは、闇雲に『人間滅べ』『人間は機械の奴隷』などという横暴は言わないし、そのレベルのハッキングもされないはずなので、東アジアもSR社社員も一旦見守る。



黒い髪がサラッと揺れ、少し首をかしげて聴く姿がキレイだ。けれど、もったいぶって話した割に答えはやや平凡。

「………人間です。」


ほっとする人々と、気が抜ける人々。

でも、はぐらかされたような思いになる者もいた。


「アンドロイドは何体いても、所詮アンドロイドに過ぎません。

でも、人間はたった一人でもそこいるだけで、本来なら無限の意味をその場に与えるんです。


世の中、地震だ火事だ天災だ、戦争だ人災だと騒がしいでしょ?

でもそこに、人間がいなかったら、人間社会に影響がなければ、正直何が起こっても問題はないんです。」


「………」

考えてみる観客。当たり前の話をしているが、考えてみれば不思議ではある。


「滑稽でもありますよね。こんなに必死にあらゆる想定をして、あらゆることを防御して、あらゆる対策を立てようとしているのに、人がいなければ無に等しい。


それだけで人間の価値を証明しているのに、今の人間にはそれがまだ分からない。

一人の命が問題にもならないような国や地域もありますが、それは人間がたくさんの濁ったフィルターに覆われ、神性を失っているからそう思うだけです。」


辛辣なことを言っているが、柔らかい話し方のせいかあまり人間を煽る雰囲気にはならない。



「でも……、全てが透過したら、生命(いのち)だけが真っ直ぐに見えるようになります。」



地球の新星的存在で、数千億の開発費を注ぎ、兆の経済的価値があるシリウスさえ通り過ぎ。


スーと手を伸ばす。真剣な、強い目をして。



「さて、私は何のために作られたでしょう?」


多くの人はロボット、もっと言えば意思を持つアンドロイドの存在意義の話をしているのだと思うが、分かる人には分かった。


もっと根本的な話をしているのだ。



ネット上では、リギルのリッターさん動画サイトでも、バババババっと感想や意見、答えのコメントが上がっていく。



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