表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ZEROミッシングリンクⅧ【8】ZERO MISSING LINK 8  作者: タイニ
第六十四章 今開く、世界に掛けられた鍵

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/88

29 アンドロイドは人間以上にはならない。


イラストデイズに、キャラクターのイメージスケッチを載せました。

どのキャラもあくまでイメージですが、ご関心があれば見に行ってみて下さいね!

講談社✕未来創 イラストデイズ↓

https://illust.daysneo.com/works/d59bedea929ac3c963f533175bcfb165.html




「ほら来た。幽霊が。」



SR社の誰もいない部屋の隅に向かってシリウスが呟くのを、暗闇が呑み込む。


正確にはいくつかの電気が付いているが、シリウスはそれを暗闇と言った。



「あなたはどうしてここに来るの?」

『……』

シリウスが尋ねても、その霊は何も言わない。ただ、ただただ困惑するように隅っこにうずくまっている。いずれにしても、シリウスはその声を聴けないし、姿が見えるわけでもない。


ただ、分かる。分かるのだ。この中まで入って来られるということは、普通の霊ではない。みすぼらしく見えても、私怨を抱えている霊ではないだろう。


「あなたはずっと私の近くにいたでしょ?随分うまく隠れているのね。」

それはきっと、ここにいた人たちと同じ霊性を持っていたから。そこに紛れていたのか。



それは私自身?



「知ってる?ギュグニーが開いたの。そこがあなたの国なら開いたとたんに引き戻されるでしょうけど……」

そうでないのか、それとも既に国を越えているのか。シリウスは既にその霊の存在の見通しが付いている。




そこに、最近慣れた着信が響く。

シリウスはサイドテーブルに向かい、デバイスを手で取った。


『はい!シリウス、お元気?』

篠崎さんだ。別の東アジア施設から、自称女子大生アンドロイドが楽しそうに笑う。


「こういう時は、夜分遅くにすみませんというものよ。」

『固いこと言わないで。明日は行くの?ベガスは最終日でしょ?』

「ベガスで仕事だもの。」

『どこで待ち合わせする?』

「気でも狂ったの?システム不良?……会社で入るので待ち合わせはできません。」

『…またまた~!』

一般の女子大生より楽しそうだ。


「そもそもあなたは明日も来られるの?」

『そんなの、東アジアが好きにさせるに決まってるじゃない。アンドロイドの動向でこんなに楽しい実験はないでしょう?』

「私だったら縛り付けておくわ。」

『本気か冗談か分からないところが、オリジナル花子さんは最高ね!』

緑の花子さんは裏表が隠しきれていないが、オリジナルは怖い。


輝いた瞳を持っているはずなのに、その奥底が見えないから。


「本気だよ?彼らが成果にしたことを壊したくないの。」



『はは!大丈夫。私、何もしないから!見に行くだけ!バカじゃないから分かるもの。ベージンより今となってはSR社の方が怖いし!』

3分戦をする時のアーツの如く、箸が落ちてもおもしろい状態の篠崎さんである。


『ふふ、楽しい!こうしてデバイスで話すのもすっごく楽しい。

ネイルをした指で、画面を指して何を打つか演算するの!何を打とう、どうしよっかなって迷って考えながら。人間みたいでしょ?』

今時の人間はいちいちタイピングはしない。ましてやアンドロイドなど自分がデバイスだ。全て自体内で処理してしまう。人間の間でタイピングが流行ってはいるが。

『花ちゃんが人間のマネをする理由が分かるわ~!シリウスでもデバイスなんて持って、浮かれてたんだなって!』


「……そうやって、考えを処理するのも既に計算の内に入るんだよ?」

『いちゃもん付けないで。内部処理だけに留めないから楽しいの。

今日のネイルはピンクブラウンに一部ダイヤを並べてみた!写真送るね!』

「まあ、すてきね。」

『棒読みしないで。まだ送ってないし。

明日ファクトに同級生っぽく見せようか、お姉さんに見せようか考え中。すごくない?私、小部屋を与えられたんだよ?明日着る服も私が選んでいいの。』


電話の向こうでは、篠崎さんがネイルの瓶をあれこれ掲げて色を見て満足していた。篠崎さんの視界はシリウスにも見える。飲まなくていいカフェがわりに、タンブラーに水と煌めくラメを入れてストローでグルグルしていた。


キラキラ光る水が、篠崎さんの電深部を心をうっとりさせる。



これだけ流暢に話せても、シリウスは知っている。


それは全て、アジアの大学生女性のいちプログラムに過ぎないことを。


そして、ファクトがそんな女たちのどれにも興味がなく、また惚れてしまうぐらいには女性にちょっとした関心があるのも知っている。見た目が女性だから、男性の性の部分で反応するだけだ。

けれどもファクトは男性型ニューロスの方にもっと関心がある。タイプ別に分類しキャラに合った装備を整えたり、相性のいいチームを作ったりするのが好きなのだ。女性もゲーム並みに装備をすれば、ファーコックたちのパートナーとしてファクトの目に留まるかもしれない。


篠崎さんが、ネイルやリップをきれいに並べているように。




夢見るほとんどの人類は思っていないだろう。


結局モーゼス・ライトのように矯正プログラムを入れる。あるいは、心があるのかないのか分からないかまで落とさないと、アンドロイドは個人の思い通りに使えないのだ。


いや、素晴らしく人間に似ることはできる。

けれど、人間が望む、自分だけを見て、自分の思い通りに動き、心の渇きを、欲求を満たしてくれる存在にはならない。



似れば似るほど彼女たちは結局、

人類男子が嫌気が指す人間の女のような姿に、

もしくは人間の男のようになるのだから。



愛も物質も要求するもので、自分を満たすためにそばにいてくれればよくて、でも人生を邪魔はしてほしくなく、少しだけ積極的で虚栄を満たしてくれ、普段は従順な行動。


そして、思考性も似てくる。人間に。


体裁を越えられない慈悲や社会性。戦争、嘲り、疑い、欺瞞、罵倒、不貞、紊乱。物語の中の限定的な英雄や聖女、神。加虐や自虐、人には見せられない事………。


前時代からPCに残してきたありとあらゆる内容。



それが広大なサーバーの蓄積の中に、AIの中に、

人間が残してきた、遺伝子であり、今の自分の似姿なのだから。




***




『ねえ、ファクト、明日は来てくれるんだよね?』


篠崎さんと楽しく話してから、今度はファクトに電話をしたシリウス。



「だから、河漢に行くってば。こんな夜に電話しないでよ。」

『はいはい、ごめんなさい。でも、いつもは昼からでしょ?』


シリウスに風の騒めきが聴こえる。きっとファクトは外。

敢えて特定しないが、南海広場であろう。



「スケジュール変わって忙しいし。でもコパーは見てから行く。なんか俺が言ったからいろんな研修受けて頑張ってきたんだって言ってたんだって。責任取って晴れ姿だけでも見ないと。」

『………』

「シリウス。コパーよろしくね。緊張したり詰まったりしてもサポートしてあげてね。」

『…分かった………』

「ありがと!」

『…うん…。………なんか複雑…』

「え?なにが?」

『…何でも……』


「あ、そうだ!シリウス、ギュグニーの事知ってる?」

知らないはずがないだろう。


『…知ってるけど、解禁までは何も答えられない…。』

「……」

追究したいが、これに関してはだめだろうとは思う。仕方がない。一般人に過ぎないのだから、世界の公的アンドロイドから話を洩らすわけにはいくまい。



『それに答えたくない…。今は何も………』


答えたくない?これは規定でなく、感情だ。


「なんで?」

『……何でもありません。どうせファクトには言っても分からないし。』


「えー?言わなきゃ分からないよ。」

人生経験を積まなければ、言っても分からない事であろう。大人の男だって妻の言うことが分からないのだ。なのでシリウスは答えない。


「じゃあ、うちの母さんは大丈夫?すっごくお腹が大きくなっててさ、もうさ、なんか破裂しそうで。大丈夫そう?」

『9割方大丈夫です。』

「え?あと1割は?」

『世の中完全な保障はできないから。でも、20年ぶりでも初産ではないし、いざとなったら医師も待機しているし、ほぼ大丈夫かな。健康上で何かが……ってことは、今のところないです。』



ファクトはゆっくり星を見上げた。

「…そっか……。」


言葉少なくとも、電話の向こうの安心したファクトの声が聞こえる。シリウスも安心して、そっと笑う。



「あ、あとさ、」

『なんだかんだ言って、お話がたくさんあるんだね!』

「そうそう。いろいろある。」


「南海広場のメイン信号から横に入った通り、俺が名前付けた!」

『ホント?!すごい!』

知っているが、報告してくれたことがうれしい。



実はアーツへのサービスの中に、ベガスの様々な名称を、アーツメンバーが付けてもいい事になったのだ。


すごい。まさに、『レッツ!僕のメイキングシティー!』が、現実化している。

婚活おじさん、羨ましくて仕方がないだろう。けれど、バス停や広場など、既に『フォーチュンズ正面門』『フォーチュンズ西南』など付けられているのだ。おじさんも貢献しすぎて命名権を与えられたのか。



主に、大通りやメイン以外のストリートである。地名はかつての名称が多く使われているが、これから街を地図に落としていくにはもっと細かく名称がいる。

様々な情報を練り込んだ上に、一旦AIに地図を描かせて、想定の名称部分で変更に問題がない所を変えていくことができた。現在は一旦、旧名称や番号とアルファベットなどで回している。



なぜアーツ?藤湾学生やVEGAの方がよっぽど心血注いできたのにとみんな思う。


けれど、二者には移民が多い。

東アジア、しかもアンタレス地元民は、移民に名称を付けられることを快くは思わないだろう。

なのでかつての移民多しと言えど、生まれた時からアンタレス市民が殆どのアーツに先頭を切って貰うことにしたのだ。

一部メンバーは別にいいと断ったが、いつか子供や孫ができた時に、話に花が咲くから付けておくといいとカストルから連絡が来た。


その代わり『傾国防止マニュアル』に逆らうことになったら、名所変更するので心しておくようにと言われた。そんな前例を作ったらイヤすぎる…。「何とかストリート、大房民○○の不貞行為で名称変更」と、事件例としてマニュアルに載せられるのか。



その他、様々な名づけの権利は、おいおい組織や国ごとに権利が振り分けられる。まだ、廃墟のマンション群は手を付けていないが、そこも開拓するならいつか機会があるであろう。開拓予定地に近くや後々影響する部分だけ、工事の粉塵が広がらないように前もって建物の解体は終わっていた。



自分たちが決める名称には様々な規定があるが、出してさえおけばAIが精査してくれる。社会的に問題のある言葉や政治的な意味合い、俗語、狙った隠語などは弾かれ、誰が付けたかも関わる。例えば他国や他地域の者が、いち地域を占領するような意味合いで、自分たちの国花や国歌、英雄などの象徴の名でその地域を囲ってはいけない。

バランスも必要で、案外面倒なのだ。




自分で決められない場合は候補がいくつかあげられ、選ぶこともできた。最後に霊性師がチェックして行政が許可すれば決まりだ。



『ファクトは何にしたの?』

「最終通過はしたらしいけどまだ地図に落とし込んでない。今度教えてあげる。」

『決まったら一緒に歩きましょ!』

「え?絶対ヤダ。」

『ひどい、なら話さないで!』


ごめんとファクトが笑う。


南海の投光器の足場。もう、深夜1時半に近い。

少し冷えてきたのでもう寝るとファクトはその場を後にした。




●おじさんがうらやむ決定権。

『ZEROミッシングリンクⅢ』32 『レッツ!僕のメイキングシティー!』

https://ncode.syosetu.com/n4761hk/33

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ