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ZEROミッシングリンクⅧ【8】ZERO MISSING LINK 8  作者: タイニ
第六十二章 あなたの中の命 
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2 メモリで測れないもの



ファクトがコーヒーをすすりながらジロウの喉を撫でると、ジロウも喉を擦り付けた。

低層建築の多いベガスと、摩天楼の倉鍵。同じ市内にあるとは思えないほどの顔がアンタレスにはある。



実は母は、SR社や東アジアと特殊な約束をしている。


もし妊娠出産を通して何かあった場合、基本母体を優先させるというものだ。ミザルはとくに強く約束させられている。ミザルが亡くなった場合の損害があまりにも大きいためだ。


ニューロスの動向や力の傾きは世界情勢にも関わる。


ファクトも教えてもらった。

もし子供に何かあっても、本人の意思に関係なく母体を優先すると。残酷と思わないでほしいと。夫はだいたい子より妻を優先する場合が多いが。


その時は皆そう決意する。妊婦本人もそう了承する。

世界を天秤に掛けている身だからだ。




けれど人は難しいのだ。


子供が好きだったのに、なぜか生まれた我が子を愛せない事があるように、その逆もある。


子供の声が煩わしい、子供は嫌いだと言っていた女性でさえ、そのギリギリで産みたいと言い出す場合もある。

「自身の子供」という存在と、「生命を持つ一つの存在」を分けて考えてしまう場合もある。命は自分が生死を決められるものではない。産みたいと、生きているからと。ただ、生かしてあげたいと。


お腹を擦りながら「ここで生きているから、お願い」と。




国やSR社からそのような承諾書を書かされる場合は本当に稀だが、その時になって妊婦が生みたいと言う事例はあったのだという。


結果、子供も助からず、母体ももう動かない。


妊娠出産事情はどんどん進化しても、どうしてもだめな場合もあるのだ。SR社のお膝元でさえ。

そして強く約束しても、小さな命を前に、人の心もどうにもならない場合もある。



妊娠出産前後の精神バランスは、現在は霊性療法やホルモン治療でそれなりに緩和できるが、これも100%ではない。





「あ、起きたのかな?ファクト!触る?」

突然、ミザルがファクトを呼んだ。

「へ?起きた?」

「ほら、ここ。」

一瞬何のことか分からないでいると、ミザルのお腹がグニグニ動いている。

「うわっ。」

「これ、多分かかと!」

ファクトの手を持ってお腹の上にやると、けっこうすごい力で小さな反動が来た。

「うおっ!マジ?!」

びっくりして手を引いてしまい、また近付ける。こんなにはっきり足が分かるのかと恐ろしい。


でも、これなら自分も分かる気がする。どんなに母体優先でも、その場になって産みたいと思ってしまった女性たちの気持ちが。だって、足があるのだ。確実に動いている足が。ファクトの腹や顎を好き勝手蹴っていたターボ君のような足が。



ターボ君のような子が、もう一人いて走っているのだ。

想像をしただけでかわいくてどうしようもないような気分になる。


まだ目の色も顔も分からない。

でも、霊や気持ちとかの心的感覚だけじゃない。



命だ。


生命と、肉とを持った。




「一人ぐらい研究型が来ると思ったけど、この子もファクト似?動く系?」

「え?ホント?またターボ君似とか困るんだけど。」

「ターボ君?」

「知り合いの子。ブスッとした顔でずっと南海を走ってる。」

「はは、誰似なのかな。ウチもポラリス側も学者肌しか知らないんだけど。」


母ミザルが嬉しそうに笑った。




***




「というわけでさ、南海には行けないから。」

「本当にファクトはバカだわ!!」


大房ジャンク街の地下、ジャミナイの店でしばし時間を過ごすファクトとリゲルにラムダ。そしてココアをすするムギ。ファクトは倉鍵の母の家からここに直行した。


その真ん中で、クッラシックアンドロイド緑野花子さんはご立腹だ。日曜日の最後にベガスのイベントでシリウスの挨拶があるのだ。

「私とファクトの超お祝い講演を見に来ないなんて!」

「だから言ってるし。俺、河漢の警備だってば。」

「ファクトが人生を悩み求め見知らぬ地で始めたアーツの種が、やっとベガスで世界最大手のSR社のシステム連動として街に実るんだよ?私がトリを飾るんだよ?」

「すごい壮大な言い方だね。もう実ってるからお披露目だけなんだけど。」

世に百万といそうな自分探しに来たタイプの学生が、結局自分を見付けられず、他人にお膳立てされただけである。


「え?誰もそんな風に思ってないし。妄想すごくない?」

全て盛り上げる花子に、しれッと言ってのけるムギ。

「チビッ子、やいてるの?シリウスチップがいつもファクトと一緒だからって。」

シリウスチップは、もれなく世界中の人が揺りかごから墓場まで一緒であるが。



「…私より背が低いくせに…チビッ子って………。ふっ。」

ムギが鼻で笑ってやるので花子さんは許せない。

「~っ!!許せない!!ジャミナイ!私の足、もう少し長くしなさい!!」

「うち今、男の脚しかないけど?」

「美女を導入しなさい!!」


花子さんの言いたいことが終わると、リゲルがドリアや牛丼などレンジして持って来てくれる。

「食べられないんだね~。」

いちいち嫌味を言いながらパスタを頬張るムギに、花子さんはジリジリした顔をしている。


「その代わりウンコはしないよ!私、理想的なヒロインじゃない?」

「………」

冷めた目で見るムギ。


言ってのけるシリウスにラムダは許せない。

「花ちゃん!自分で言ってたらおしまいだよ。そこは口を閉じて!」

「摂取排泄循環も大切な神の法則で偉業です~。人間はその最たる者ですから!」

さらにムギが煽る。


「フンだ!!キレイな私が羨ましいからって!」

「身長150しかないんじゃね。スピカぐらいないと。」

現行のスピカは180センチ越えている。ムギの憧れの身長だ。

「ムギちゃん、だからそれは高過ぎだよ。何、目指してるの?」

ムギの理想はチコより長身になることであったが、叶わないと分かって空しい。


「………」

ファクトは母ミザルが健康かシリウスにも聞いておきたかったが、緑の花子さんではダメだと思うしかなかった。



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