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ZEROミッシングリンクⅧ【8】ZERO MISSING LINK 8  作者: タイニ
第六十四章 今開く、世界に掛けられた鍵

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28/88

27 それぞれの夜 ラスの夜半


久々の投降で、再投稿です。


セリフに矛盾があり、修正したかった部分が見付からず、あれこれ見ているうちに全体を分けて短くして、それでも直したいところが見つかりませんでした(´;ω;`)


響とファクトがシリウスと改めて再開し、挨拶をするところなのですが…。響は数度会話をしているのに、改まった場は初めてみたいな感じになっているところです…。結果、見付からなかったのでいつか直します。





夜の12時。


サルガスはやっとロディアのいるマンションに戻ってきた。


二人のマンションのリビングでは、ロディアのカーティン家、龍家の女親族が数人…と3人ほどの男勢でお酒をたしなんでいた。



「サルガスさん、大丈夫?」

「お帰り、ロディアさん。」

玄関まで迎えに来たロディアは、片腕でぎゅーとハグされてくすぐったい。


実は夜の大会議室のオリエンテーションでゲストが去った後、またキファと石籠(いづら)の間で言い合いが始まり、そこに何でも楽しいナンパ男が加わり全員に拳を加えて場を収め、やっと帰って来れたところだ。

襟首をつかまれた経験のない石籠は、暴力だとまた騒ぎ出し、最後に第1弾の大房商店街肉屋のリーツゥオが「お前らいい加減に終われ。寝ろ。うちの姉さんたちがいないからって調子に乗るな」と静かに(いか)り、その日は終わった。怖い姉さんとたちは、妊娠子育てでさすがにこの時間は家に帰っているサラサやソアたちである。

比較的温厚だと思っていたリーツゥオがブチ切れて、いつも怒らない人が怒ると本当に怖いと経験した石籠であった。



サルガスはそのまま両腕でロディアを抱きしめる。

「?!」

二人きりでもまだ恥ずかしいのに、リビングにいっぱい人がいることを思い出し、サルガスの胸を押した。が、またギュッとされる。

「サルガスさん…っ」

「いいじゃん。」


と、やはり何人か若い面子がリビングからこちらを(うかが)ってニヤニヤしていた。

「あ、皆さん、お疲れ様です。」

彼らと目が合って、何事もないようにロディアの手を取りリビングに入って行くサルガス。


「おー!サルガスさん、お帰りさない。」

「お疲れさまー!」

「お兄さんこんばんはー!!」

「お腹空いてないですか?」


「なんかほんとに…ここまで何のお構いもできなくてすみません。」

サルガスは家のことは放置なので申し訳なくて謝る。ベガスのために手術やリハビリ中のロディアを全て任せてきたのだ。自分がヴェネレや龍家にお邪魔した時は、たくさん良くしてもらっている。彼らも経済人、ただ遊びに来ているだけではないと知っているのでいろいろベガスを案内したいが仕方ない。


「いいの、いいの!忙しいって分かってて来てるから!ウチらで好きにしてるし。」

「ここまで来たらむしろ、最後まで仕事完走してきてよ。」

「こっちはウクダーおじさんもいるしさ。」

ウクダーおじさんは、婚活おじさんのことである。あのおじさんは、自分たちのためか、ベガスのためか、とにかく来る客に様々なベガスの進歩状況を紹介説明してくれている。生きるプレゼンのような男であった。


ロディアの家族と出会って思うことは、大房のレストランアストロアーツで、それからベガスアーツで、あれだけ人が多く小忙しい生活をしていなければ、多分この親族とは付き合えなかったであろうという事だ。密すぎる。しかも、結婚前後から、疎遠だったカーティン家と龍家の一部親族がやたら仲良しになってしまった。


「遅くまで失礼しましたー!」

と、彼らは軽い飲み会状態だった部屋をササッと片付け、ホテルや借りているウィークリーに帰って行った。





サルガスがシャワーをして出てくると、寝室の椅子でロディアが本を読んでいた。もう1時近い。

「ロディアさん、疲れてない?」

ロディアもこの期間ずっと養護学校の学童を見ている。


「サルガスさん、あのね。この本。」

「ん?」

ロディアが表紙を見せる本は西アジアっぽい少し複雑な漢字などあるので、龍家側のものだろう。

「今日到着した叔父様が持って来てくれたらしいんだけど、曽おばあちゃん世代の忘備録だって。すごいよね。今、アンタレスにいるのが私だから私が預かったの。」

「……」

という事は、昔、龍家がいた河漢の話か。


自分を普通人と思って疑わないサルガスは、河漢の話はまだロディアには伝えていない。危機管理上教訓にすべきあんなワラビー事件がなければ、昔自分の血筋にマフィアがいたことなど正直忘れたいのだ。何があるか分からないし、河漢にはモーゼスも入り込んでいるので安全のために意識に入れているだけだ。


どのみち、一般人であるロディアに伝えるのは、ゆくゆくにしてくれと軍にもおじさんにも言われていた。


それでも『赤龍』の龍家だ。

「ロディアさん。今度それ俺も見ていい?」

「いいですよ。父さんからも、親族のことはあれこれサルガスさんときちんと話し合っていくように言われています。」



サルガスはベッドに腰かけ、ロディアと手を結び合った。

二人で祈ってから、そっと口を合わせる。


「う、くふっ」

しばらくして、キスに溺れそうになって、ロディアはグフッと咳き込んでしまう。

「…ごめん、大丈夫?」

「う、うん、大丈夫……」


顔を覗き込むサルガスに、思わず笑う。

「ふふ。」

「………」

少し呆気に取られていたサルガスも笑う。




うれしい。

ただ、うれしい。


こんな結婚があるなんて。

サルガスには、こんなふうに女性と同じ世界を見る向き合い方があるなんて、ロディアは結婚自体ができるなんて……思ってもいなかったから。



明日はベガス公開行事の最終日だ。四支誠の文化事業は暫く公開イベント続きだが、南海はひと段落付く。




***




蟹目の自宅で、ファクトの幼馴染ラス・ラティックスは明日のベガスのイベントのことを考えながら、昔の写真を見ていた。


みんなで将来のことを書いたボードを持ってピースをしている。いつかすっごいロボットを作ろうな、と話していた時代が懐かしい。


メカニックの、ニューロスの世界に残ったのは自分だけだ。



それから、自然豊かで、清涼な滝の水が空気に溶け込むタニアの写真。


リゲルの両親はアンタレスで自分たちをサッカーやスポーツ観戦、キャンプに連れていったりしてくれた。ラスの両親は様々な展示会にみんなを誘ってくれる。

ファクトの両親はそういう事が出来ない代わりに、ミザルはアンタレスのSR社に、ポラリスは時々タニア研究所に同行させてくれたのだ。研究所でもそこまで構ってはもらえなかったが、いろんな人が自分たちを面倒見てくれたし、警備が整っているのでニューロスの監視が付いている時は子供だけで山奥にも入ったりした。



あの、狭い山里に大きな滝を見た時の感動は忘れられない。



自分は都会っ子で、自然への感性なんてないと思っていた。けれど、キャンプなどに連れ出してもらえたおかげか。

森の自然なんてどこも同じ典型があるだけなのに。同じように山があって木があって、時には谷があって川があって。



なのにアンタレス近郊と全く違う種類の自然に、


心を奪われた。



全部同じようで、同じ世界を描いているのに、

全てに個性がある曼陀羅。


角度一つで万華鏡のように全てがきらめきを変える。



人は今ある既存文化も国も全て捨て、全てが神の世界に一つになり帰依すると昔礼拝で聴いた時、何ておもしろくない世界だろうと思った。神は多様性を許さないのかと。


でも今なら分かる。


そうじゃない。


同じような岩や土、草や木々、川や緑ばかりなのに、世界はこんなにも色彩と変動性に満ちていたのだ。



郊外のいつもの寺で、SR社の資料室で、ファクトが見ていた曼陀羅のように。小さく収まっているようで膨大な世界を表している、不思議な世界。


自然にも科学世界のように、たくさんの分子の反映と展開の仕方があるのだと知って、これが自然の万華鏡なのかと目を見開いた。


考えてみれば自然こそ科学だが。



三人とも男一人っ子。リギルに従兄弟のジャミナイがいる以外、自分たちには従弟もいない。いても又従姉弟だ。ジャミナイも大分歳が離れているので、保育園で出会った自分たち三人がいつも一緒だった。

ラスはアウトドアタイプではない。リギルやファクトがいなかったら、きっとキャンプもあんなに楽しくはなかっただろう。



ふさふさのタロウと、狼のように大きな犬、リゲルと名前を付けたトルクとエタム。最初は普通にかわいい子犬だったのに、次会った時に自分より大きくなるとは思ってもいなかった。あの、毛並みが懐かしい。都会では余裕のある人しか飼えないほどの大型犬だ。


彼らは自分を覚えているだろうか。きっともう忘れているだろうなと思う。

タロウは白いくせにいつも泥んこになって、ファクトみたいな性格で、みんなで水遊び状態で洗っていつもめちゃくちゃだった。




そこに、今の会社の同僚からメールが入る。


『明日よろしくな。SR社の社長は来んらしい』

ベガスのことだ。最終日はシリウスが挨拶に来るので仕事として一緒に見に行く。彼は既に何度かベガス見学に行っているらしい。


『分かってるけど、この時間にメールするな』

と、返すと、

『どうせ起きてんじゃん』と返ってきた。



自分はSR社の誘いを断った。

心星家云云の前に、正直SR社はラスには重荷だ。頭がいいの基準が既に違う。コンピューターなどなくとも頭の中で様々な演算ができる人たちなのだ。どんなにSR社が高待遇でも、自分程度では下手をしたら一生雑用で終わってしまう。ファクトに嫌悪を感じていたことと、メカニックの核心部に関われないならと他の会社に来てしまった。

それに、どんなに考えても自分の生まれた環境を活かさないファクトが贅沢に思う。世界には、ニューロス分野に行くために人生を捧げている者も多い。


なのに、そこまでしてもSR社には入れないのだ。


自分もすごい誘いを蹴ってしまったのかな……と不安にはなる。なぜなら自分はミザルとシリウスに声を掛けられていたのだ。ある程度メカニック分野が分かる、ただファクトの友人というだけで。何か意味があったのか。でも、だからこそ、その誘いが滑稽にも見える。言うことを聞かない男のお守でもしろというのか。



目の前のホログラムを見ると、時計は次の日を示していた。




それにしてもなぜ。


ニューロスの道を選んだ自分の方が、こんなにも端っこに追いやられてしまった気分が強いのだろうか。




●河漢とサルガスとロディアさん

『ZEROミッシングリンクⅣ』24 いつかの結界

https://ncode.syosetu.com/n0646ho/25


●タニア研究所の雰囲気

『ZEROミッシングリンクⅡ』1 森のレプシロン

https://ncode.syosetu.com/n8525hg/3/


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