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ZEROミッシングリンクⅧ【8】ZERO MISSING LINK 8  作者: タイニ
第六十三章 あなたの夜明け

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20 篠崎さん、花子さん



「心星く~~ん!」

と、甘い声で駆けてきた女性にファクトは背筋が寒くなる。


長めの黒髪、ワンレンのきれいに揃ったストレート。

少し整った顔に、清楚ながらも艶のある薄く施したメイク。


シリウスではない。

シリウスはその横で、「この女~っ」という顔で、まさにその女と駆けてくる緑のチビッ子だ。緑の花子さんは帽子で緑の髪を隠していた。よく見ると、両耳の後ろから、後ろ首に流れるアンドロイドを証明する『判』が薄くある。


なんなん?こいつら?という顔で、一緒に課題を広げていたムギが驚いていた。心星家ファンか。片方は壊れアンドロイドだが。



「心星君!一緒にキャンパスライフを楽しみましょ!」

と、篠崎さんはかわいく心星くんに抱き着こうとしたところで、緑のチビッ子に後ろ髪を引っ張られた。

「きゃっ!」

「あっ!」

転ぶ!とムギが心配して立ち上がったところで、女性は後ろにドスっと倒れた。


ムギは驚愕する。目の前にいたのに支えてあげないなんて!

「うそ!ファクトのバカなの?!!緑も!!」

と、思わず駆け寄った。背中から倒れたのだ。

「いった~い!…」

しかし、その女性は半身を起こして頭を手で(さす)る。

「頭打ちましたか?!大丈夫ですか!」

と、ムギは女性の頭部を見た。下は硬い歩道、背中も心配だ。

「花子!なんてことするの!ファクトも何ぼーっとしてるの?!」

花子さんは白けた顔で見ているし、ファクトは一歩引いている。


そんなファクトが一言。

「痛いも何も、痛いわけないし。」

「は?」

「いや、こっちの話。」


「……心星君、私を助けてくれないの?ここが痛いんだけど。」

その女性は寂しそうに今度は頬を擦った。花子さんはくだらないと思いながら敢えて教える。

「そこが痛いわけないし。打ったのは背中でしょ?イカれたの?」

「花ちゃんは黙ってて下さい。」

打った女性が緑の花子さんを牽制した。


ファクトはしぶしぶ話し掛けた。

「篠崎さん、今日はどういう設定ですか?やっぱりベガス事業を手伝いに来た女子大生ですか、未来に萌える。ベガスの青年男子を誘わないで下さいね。」

「篠崎さん?」

ムギだけ分からない。見学に来た学生か。


「心星くんは何を考えてるの?するわけないでしょ、そんなこと。私が好きなのは心星君なのに。」

「っ?!」

きれいめなお姉さんがそんなことを言い出して、ムギがビビっている。

「ちょっと!ファクトは私が好きなの!」

花子さんが怒るが、モテている当人のファクトは全然ドキドキもなくうれしそうでもない。篠崎さんはさらに楽しそうにはしゃぐ。

「顔が変わったのに、よく私って分かったね!愛の力?でも敬語はやめて。あ、『年下君と構いたい屋のお姉さん』って設定?」

「……。」

ラムダの読む小説ではないが、誰かの読んでいそうな小説や漫画の題みたいではある。甘々な。


だが残念ながら、ファクトはそんな物語の相手役になれるような見た目でも性格でもない。どちらかといえば、異世界で無双したいタイプである。その中でもさらに、モテはゲームクリアに向けての結婚ルート制覇の為であり、普段はスライムや剣の種類分けをしたい派だ。最後に、全種類アイテム全キャラを揃えてコレクションにご満悦したいのである。

そしてできれば生まれ変わりループで、全てのルートとそのステージをクリアーして地図、仲間、敵、中ボス、ラスボス様々なファイルブックを作るのである。


「篠崎さんも花子さんみたいにバカになったの?」

「……心星くんは本当につれないんだね………。でも、それがいいんだけど!」

「フラれたくせに。ほんっとバカ!」

「緑は黙ってて。」



「……もしかして…、ヒューマノイド?」

じっと見ていたムギがやっと気が付く。

「あら、この子分かるんだ。」

「っ!?」

確定回答で、ザっとムギが構えた。

「ムギ、大丈夫だよ。」

「あ、ベガスに入ってるってことは何かしら許可は取ってるってことだよね…。」

しかもシリウスといる。保証付きだろう。

「賢い!」

「……でも、無印だよ?」


アンドロイドの『無印』とは、アンドロイドと認識できる『(はん)』がないことだ。判がないのは、公のアンドロイドか公務につく特殊アンドロイドだけだ。

「SR社じゃないでしょ!」

「この子なんで分かるの?ムギちゃんって言うの?」

「SR社が無印でこんな目立つアンドロイド作るわけないし、機密公務に就くならこんなチャラけたのにするわけない。大房民なの?おかしいよ。こんなアンドロイドがうろついてるなんて!」

「おおぶさみん?でも、ムギちゃんはやっぱり賢いんだね。」

『大房民』は下町ズのためのスラングである。主に自虐のための。


「しーぃ。誰にも言わないでね。」

「言わないよ!」

「安心して。シリウスはちゃんと把握しているから。緑ッコも監視してるし。」

「そうだよ!私がいるでしょ?安心しなさい!」

いると言っても緑の花子さんだ。大丈夫なのか。むしろ花子さんが世話の対象である。



「今日は緑野花子さんしかいないの?オリジナルは?」

ファクトはシリウスときちんと話したい。

「失礼だね。私の何が不満なの?」

「聞きたいことがあるんだけど。メールに返信くれないだろ?」

「今、私に言いなさい!」

花子さんは任せろと自身の胸をたたく。



シリウスにアンタレスは大丈夫なのか聞きたい。

ベージンのアンドロイドの拠点にも連合軍が入るのか。


そうすればモーゼスが動くのではないか。

でも、こんな込み入った話はアナログデジタル時代のアンドロイド、花子さんには話せない。大丈夫だとは思うがセキュリティー抜け抜け感が凄いし、何十年も眠っていたのにここ1、2年に急に動かしたから、酷使し過ぎてガタが来そうな気がする。

この前、ジャミナイに「あなたもっといいクラシックを準備しなさい」と偉そうに言ったそうな。保存状態のいいクラシックなんて、プレミア付きで下手したら現行モーゼス・ライトよりも高い。もちろんジャミナイは無視である。勝手にウチの在庫に居ついたくせに遠慮がないと怒っていた。


「私を見つめてそんなにかわいい?」

首をかしげてぶりっ子して言う花子さん。

「………。」

ムギが「うわ~、ホントにこいつヤバっ」という顔で見ている。ファクトに至っては、本当にこのロボット壊れたんじゃないかと、痛々しくなってきた。もう、シリウスである理由がない。そもそも本当にシリウスなのか。

「ぶりっこキャラ2人も要らないんだけど。」



そんな中、篠崎さんは近くの段に座り、南海の賑やかな向こうの方を見て、それから空を眺めた。


「ベガス、賑やかで楽しいね。」

「ほんと?ロボットでもそう思う?」

篠崎さんはおそらく今は単独行動機。正確にはシリウスやSR社の保護以外は他のシステムに繋がらず、好きに動いている機器だ。


少しだけ暑さが引いたベガスの空気に当たる篠崎さんは、普通に佇んでいればそこらの女子大生と変わらなく見える。知的だ。しかも、皮膚などSR社の物を付けてもらったせいか、肌がきれいすぎず、白過ぎず、生々しいというのか……シンプルに言えば自然だ。


判もないし知らなければ普通の女性と間違える人もいるだろう。


だからこそ人は男女関係を立ち止まり、結婚の承認過程を通して相手がアンドロイドか確認する必要があると感じる。でないと人間と知らずに通じてしまうこともあるかもしれない。教会や役所を通じれば、霊性の在る無いを確認できるし、あちこちに相手を作らないことで身を守れる。役所は他の仕事が多いので、霊性専門の場所で確認した方がいい。お役所仕事にされることもあるからだ。



「心星くん。私、人間もアンタレスもバカだと思ってたんだけどね……」

「ひど…」

諜報員であり、アンタレスを内部分裂をさせるつもりだった機種がまたそんなことを言ってもいいのか。改心しているのか、シリウスはちゃんと篠崎さんの内部を調整したのか。アンドロイドがそんな倫理観でいいのか。やたら人間を蔑むのは国際法違反である。


「心星君もおバカさんなんだよ。でも心星君と会って、ちょっと気が変わった。バカでも好き!」

さらにバカにされている気がする。


「ファクトモテるね……。」

ムギが呆れてしまう。

「いや、普通の人にモテたいんだけど。なんでだろ?」

一般人にもモテなくはないが、3日キープできないモテ具合である。



「あのね、ファクト。」

「ファクト???!」

篠崎さんがファクト呼びに変えるので、花子さんがご立腹だ。


「モーゼス……。彼女はとっても彼女のモデル体に似ているの。」

「モデル?」

大元の『北斗』のことか、シェダルのことか。


「その片側のモデルに似てる。」

「片側?……」


すると今度は、緑の花子さんが答えた。

「一方は私について来てしまったから………」

「『私』……?」

シリウスに?


「人間は二人で一つでしょ?」


シェダルの中の1つはモーゼスに、1つは……シリウスにという事だろうか。



「私は政治的にはモーゼスに会いたくないのに…、会って解決しないといけない。まだずっと………彷徨っているから………」

花子さんはそう言うと、スーと倒れてしまった。


「え?!花子さん!!」

「緑!」


近くにいるだろう軍を呼ぼうとするが、篠崎さんが止める。

「ジャミナイを呼んで。」

「ジャミナイ?」

「彼の持ち物でしょ?」

「そうだけど……」

そもそもジャミナイはベガスに入れるのか。彼はリゲルの従兄のジャンク屋で、ゴツイ上にオレンジと緑に染めた逆モヒ頭である。持っている服も正気じゃない。店ではタンクトップとダボダボなズボンを履いているだけだ。見た目が既に犯罪である。


「私もう行かないと……」

そうこうしているうちに、ムギはメンカルの人たちとの少し遅い会食の時間になった。心配そうに状況を見るが、ムギは先に出ようとする。


と、その前にファクトはムギを止めた。



「ムギ。最初に話してた件、大丈夫だよ。」

「最初に?」

アジアラインに行けないことだ。


「それぞれできることがあるからさ、俺らはこっちを守ろうよ。」

「………」

ベガスも重要案件だ。明日の最終日はシリウスのスピーチがある。他に、本当はカストルを迎えたかったが、締めをするのは東アジアの人間とエリスだ。


「ムギ、みんながいない分もさ。」

「……うん、分かった。」

ムギは少し考えてからしっかりと頷いて、呼んだバイクで去って行った。





20分後に「店番いないから店を出ると閉めないといけないだろ!」と、文句を言いながらジャミナイが迎えにやって来た。車で南海駐車場まで来たらしいが、よくベガスに入れたなと感心する。


ベガス郊外まで篠崎さんも送ってもらうことになり一緒に乗るが、ジャミナイはニューロスと気が付いていないようだった。


ベガスの先まではファクトも付き添った。




●篠崎さんは大学生活がしたいアンドロイド

『ZEROミッシングリンクⅦ』27 ベージンもあなたが好き

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