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ZEROミッシングリンクⅧ【8】ZERO MISSING LINK 8  作者: タイニ
第六十三章 あなたの夜明け
18/88

17 たった一つの石さえも

サダルメリクのイメージ画ができました。


他にも進めたいのですが、中の人がスランプで絵が描けないので取り敢えずサダルです。

●イラストデイズさんに↓

https://illust.daysneo.com/works/e015356af1324eba450316000b11b671.html





聖堂となった大学講堂に、サダルの少し低い声が響く。


「時はまた大きく変わろうとしています。世界の常識と時代が動くのを知れば、それは世界が変革する兆しです。

去年までは無理だと言われていた事が、もうすでに過去のことになりつつあります。


今日は信仰を知っている者もいない者もいるし、宗教も皆さん違います。普遍的に通じる話もすれば、少し限定的な話もするでしょう。」


こんな大勢の聴衆の前でもサダルは表情を変えない。良くも悪くも無表情である。



「ただ、誰もが皆、今は全ての衣を脱ぎ、人知を超える愛と、英知を持つ存在……それが神とは言いませんが、そんな存在と裸足で向き合って下さい。


天の存在を疑う者は、神が嫌がるほどに自身の中にそれを探し求めてください。しつこいと早々答えてくれる場合もあります。

神も私がしつこくて鬱陶しかったのでしょうね。こっちとしては、呼びかけたなら、相応の答えをくれと。」



「すごいね。僕なんて呼び掛けられたこともないよ。」

ファクトたちと聴きながら、驚いてしまうラムダ。

「正道教的に言えば、呼び掛けられない人なんていないよ。でも大半が気が付かないし、呼び掛けても勘違いする。下準備がないと。知識のベースがないと世の中分からないのと似てる。」

「なら気が付いてないだけかもね。」

「ファクトって頭がいいのか悪いのか分からないな。」

サッと答えるファクトにレサトが驚くが、ファクトは興味が湧いた事にはしつこい探求精神があるのである。むしろくどい。


小さい頃、『なんでSR社はロボットは人間にはなれないと言いながら、人間みたいなロボットを作るんですか?』と胸の内の神に聞きまくって牧師にも聞きまくったが、未だ答えは出ていない。

まだ、SR社には聞いていないので今度シャプレーにでも聞いてみるかとファクトは思う。最近SR社のために頑張ったので教えてくれはしないだろうか。母は地雷なので聞けないし、父ははぐらかして逃げていく。語るだけの理想と違って実社会は厳しいのだろう。


「レサトはバカだよね。」

「そんなことはない。頭いいぞ。美術と音楽以外は。」

「俺と一緒じゃん!」

ファクトは親近感が沸く。

「それと、数学と科学と古典と言語…。あと科学以外。」

「…それ全部じゃ……」

数学ができなくてどうやって大学に通っているのか。エリートではないのか。科学が分からなくて化学ができるのか。




壇上では説教が続く。


「また、聖典を読めば分かります。

もう一度読み直してください。一字見逃すこともなく。旧約からも新約も、読めば必ず聖典は同じ答えに辿り着きます。何教から入ろうと、神を正しく理解していれば自身を奢ることはなく、共にある場所にたどり着きます。一直線に繋がっていくのです。


聖典の真の意味を知れば、今この世にある、ほとんどのことは消えてなくなるでしょう。あなたが固執する全ても。


今の世は不必要なもので溢れています。核と、髄以外は何も残りません。」


サダルは静かに話す。


「本来この地上は宇宙と合わせて、全人類が誰一人飢えることのない生活ができる資源を持っていました。有り余るほどに。元々地球は、世界は、常に人的生産をしなければならないようにできていません。生産と休閑が必要なのです。土地も人も。


そしてもっとよく読めば、全ての人間が『神の似姿』にならなければならないと分かるのです。追随者ではありません。皆が本来、神と…その具現のメシアとの同一体です。ただ、個々ではあるので共同体、共鳴体とも言えます。


聖典には様々なことが書かれ、国や時代で様々な善しとすることや解禁としていることがありますが、性と人の尊厳に関わること以外は、時代に合わせた修道であり科学であって、人類の成長と共に変わるものです。時代で移行していくものなのです。もし、聖典が完璧なら、この科学時代に関してもはっきりと戒めをくれた事でしょう。


示唆は与えられていますが、結局人それぞれ解釈しています。



体は最初に自然の摂理を与えられましたが、堕落によって人は霊と精神性を失い、体も奪われました。


最初の男女が失ったものを、取り戻したのは『()()子』です。旧約の最後の蜘蛛の糸を繋いだのは、全ての歴史を負った救い主であり、かつての選民ではありません。神が必死につないだのに、それ以外の人は付いてこなかったからです。


聖典が行きたかった場所はとはどこでしょうか。



本来私たちは『神の述べる愛』の全てを理解できる、知恵と理知を持っていたはずだったのです。」




上階のファクトたちは呑気だ。

「これ、暗に自分たち(おまえら)バカやんって言ってるよね。」

「何言ってんだよ。議長は自分も含めての話をしてるだろ?一人(たが)わずって言ってんじゃん。自戒の話だよ。()()()だよ。」

「まあ、バカには違いない。数千年同じ荒野を彷徨ってたって話だろ。」

「そんなことを言う議長にももう慣れたけど。」



かつて海を割った人は、目の前に目指すべき神が与えたカナンがあったのに、死が迫る歳になるまで何十年も荒野をグルグル彷徨っていたのだ。そして目前のカナンに入ることもなく。


それは今の私たちに似ている。

無知に砂漠をさまよう人間たち。


それどころではない混乱の全て。





どこかで音がする。


たくさんのサイコスの波。



通帳手形を得られるまで……蜘蛛の糸のような命綱を………

誰も太く紡いではくれない糸を必死で………どうにか血塗れで繋いで………。



倉鍵の病院の深層心理の向こう側。

失くなっていく娘の目や口を、娘の代わりに必死に貼り付けて……。



パチンと何かが弾ける。


月明かり。





「にしても、新教みたいな説教だね。ユラス人分かるのかな?」

「この時代なら、教養としても読んでる人は多いよ。だから、サダルの言葉をきっかけにみんな改宗したんだろ?もともとベースがあるんだよ。」

ユラス人なのにボーとしているレサトの代わりに、リゲルが答えた。改宗したと言ってもレサトも元々はユラス教がベースの文化で、サダルの一存で旧教新教も学んでいる。



壇上のサダルは話を続ける。



「まず、あなた方は選民である誇りを捨てなさい。誰一人違わず。


まだ、戦争が続く世の中を作るなら、男性社会も選民も全て失敗です。自国の、同じように他国の子供が死んでいくのに心が痛まないのなら、選民というあなた自身の中に神はいません。


神はそこに痛みを感じるからです。」



今、全ての国が、自分たちが選民だと思っている。


けれど、選民はどこにもいない。


天が呼びかけても、全てが荒れ野で、全てがあせくせと世を追っている。

いつか消えて行く情報の海にすがって。



「神側に付いて来た選民のために、神は一旦全てを犠牲にしたのに、人はいつもその意味に気が付かず、魔法のような奇跡に浮かれ、復讐を果たしたことに満足し、勝利に酔いしれました。そして、自分の神の、自分の民族が中心の王国を建てようと。自分たちが最良の国を作っていけると思い。


けれど選民は蝋燭です。

他者を照らしていつか消えて行く小さな灯であって、自身が学び得る前に、役割を果たす前に、他者に要らぬ灯を付ければ何の意味もありません。」


内容自体はよく聞く説教だ。


「そして宗教も蝋燭です。

教会や寺院が蝋を灯す意味は、私より皆さんがよく知っているのではないですか。宗教はいつか無くなるものです。私たちが、メシアに並び神の具現体になるまで全てを愛し、全てに尽くし、全て燃え尽きた時、宗教は蝋燭のように消えるでしょう。


人がその教えを全て自身の血肉にすれば、尽きた芯は自身の中に体現されます。


今の人類なら後何百年かかるかは分かりません。できれば千年王国の終わりにはその全てを果たしてほしいですが。人類の霊性も100年前とも、50年前とも10年前とも違います。」



もう世界に電波が行き届いていた時代。そんな100年前は霊現象が増え始め、霊世界が視えるだけでも大騒ぎして神のお告げ扱いだったが、今は公共電波で見られる映像や通信くらいの扱いになっている場合も多い。


「千年王国は幻だと思っている人も多いですし、私も抽象的表現だなと思っていましたが……考えてみればけっこう現実的な期間です。」

千年王国とは、天地が完全な天国になる前の準備期間だ。


それはファクトもなんとなく分かる。

もっと明確に霊が視える、そして霊性を知る世代が増えれば、世界は一気に変わっていくだろう。サイコスもそうだ。

大房コミュ障の不信仰者ジェイですら、犯罪をした人間のモヤが視えたのだ。

人はしたことのマークを掲げて生きていることになる。下手なことはできない。



「歴史が難しいのは、どの国にも言い分があり、どの国にも非もあれば正もあるからです。

ほとんどの国が虐待や虐殺の被害者でもあり加害者でもあったように、無神論が惰性に落ちた神論側から生まれたように、誰もが言い分もあり、正も非も抱えているのです。


なら、答えは他人に見出しても意味がありません。自身が天を見て、自分の幼い位置を知るのです。



今の時代、全てが完璧な国はありません。


だからこそ、あなた方は全てに反省しなければなりません。

あなた方は、誰もが足枷(あしかせ)になったのです。


メシアですら自身の不足を天に嘆いたのに、誰が自身を他者に誇るのでしょうか。


全ての国は、人に自国を誇ることを捨て、これまでを悔い、そして改めて下さい。」



この言葉は、聖典を追い求めてきた者には分かるであろう。



「神はたった一つの石ころからも、選民の王を起こすことができるのです。


同じように、それを蹴散らすこともできるでしょう。


あなたは、そして私も小さな石ころですらない。

何を誇ることがあるのでしょうか。


私は今ここに、聖典に残る民族の名と、ユラス祭司と族長の名を持って立っていますが、奢り高ぶれば、歴史を見誤れば、朽ちた城跡の石垣にも残らない埃となって消えていきます。」


「………」




ユラスの荒野は一体何だったのか。

サダルは少し下を向いて聖典の白い表紙を撫でた。



「神は何かを始める前に、必ず警告や暗示を出します。


それを知る方法は人それぞれですが、霊性がないのなら、時代の動きを見て下さい。歴史に学べば国が興ろうとしているのか滅びようとしているのか、誰がそれを()()()()()としているのかも分かります。

まず、世の万象に対し謙虚になって下さい。


神は『み言葉』と『名前』にもそのヒントを暗示しましたが、昔の選民はそれが分かりませんでした。奇跡が満ちる時を知らなかったのです。


私たちは数千年前の人間よりも賢くなっていなければなりません。でなければ、皆、同じ失敗を繰り返します。


もともと信心を持っている人間は、たとえ自分に天の血統があったとしても、大きな家門の血があったとしても、恵まれている国家や民族に生まれたとしても、そこに自分を誇らないで下さい。


何を誇るべきかは、あなたの霊と心の奥底が知っています。」






一方、南海の養護学校。


今日は学童として登校の職員や生徒と、ユラス教礼拝の中継を見ていたロディアは不思議な気分になる。


遥か昔、まだユラスの名しかなく、ユラスは最初の家系の分家の分家の分家のような家だったが、聖典の一節に正統家系と分離した記録が残った。まだアダムからの直系が兄弟ごとの民族になる前だ。その後、ユラスは数度登場するエピソードがある。世界文明が西側に移る時代に、東に移動したユラスは片言ほどしか後の聖典には出てこない。


けれどロディアは、ユラスはヴェネレより先に神の核心にたどり着いてしまった気がする。先に世界経済を掌握したのはヴェネレ人なのに。その後世界を制したのは遥か昔に新教に改宗したヴェネレ人であって、ヴェネレ教原理派は発展をしていない。


そして新教に改宗したヴェネレ人も、今となってはアジアの激流に付いていけなくなっている。


「先生、これ。」

「わあ!キレイな衣装!」

「これは女の人だから先生にあげる。」

「ありがとう。」

この礼拝を見せる前に聖典歴史の復習をしたので、絵を描くのが好きな生徒がずっと聖典に出てくる人物を調べて、様々な絵を描いている。イコンや美術画ではなく歴史的資料から調べるのが好きな子で、やたら厳密に武器なども書いていた。



妄想チームに好かれそうだとロディアは生徒に優しく笑って、また中継を見た。



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