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ZEROミッシングリンクⅧ【8】ZERO MISSING LINK 8  作者: タイニ
第六十三章 あなたの夜明け
14/88

13 やっぱり怒ってた

後書きに、大陸に関する説明があります。



カーフの勧めでフロアに出て、少しだけ椅子に座って話すことにした。


一連の言葉を聞いて、それこそ罪悪感が募ってくる。


まさかカーフは、大房民がベガスの崇高な仕事をするために集い、アジアユラス友好のために尽力してきたとでもまだ思っているのか。優秀な大房外の第2弾のライブラたちですら、軍仕込みの格闘術が習えると噂を聞きつけて来たのだ。多分。


最初のバカさ加減を見ているので多少は知ってはいるだろうが、大房民はアンタレスでのただ普通な、ただ生きるだけの生活に限界を感じてなんとなく集まった面々というだけだ。ファクトに至っては進路を確定したかっただけである。その他、みんな暇だったり興味半分だったり。半数以上がバイトか無職。


人によっては、ベガスの一部をユラス人たちが仕切っている事も、ユラス人が何なのかも知らなかったであろう。アンタレスに居つくユラス移民に反抗心さえなかったのだ。知らなかったから。


「そんな人たちいた」感覚で、どの辺までがアジアかも分からず、ユラス人は「好戦的でお堅くてなんかあの辺にいる人たち」みたいな。「あの辺」もハッキリ分からない。あの辺だ。どこかあの辺。地図のアジアより左。点で示せない学力。


旧都市復帰も移民事業が行われていることも、試用期間が始まって渦中にいながらも、途中までこれが過去最大の移民政策事業だとも知らなかった者もいる。




リーブラに至っては、義務教育の教科書にも何度も出てくるのに『アジアライン』という言葉すら知らなかったのである。さすがのラムダやセオですら引いていた。


今でも、「で、結局アジアラインはアジアなの?ユラスなの?国境なの?国なの?アジアってどこまで?」と言ってくるが、山脈で隔てられたアジアラインは、主権の防波堤にも壁にもなっている基本アジア圏である。シルクロードのように象徴的な一帯の名称であって、国ではない。なお、みんなアジアがどこまでかけっこう知らない。「アジア」は国際規定上はユラス手前までである。


それほど考えなしに生きているのに、エリスたちや初期の厳しい期間を共に過ごしたアジア人より先に名前を出されてしまった。エリスたち牧師やユラスの役職者は、この事業やセイガや人々のために時に夜を徹して祈りを捧げ、時に断食までしているという。なんだそれ。

雑念の塊ゆえに、長距離走をさせられ黙想だか瞑想なんだかをさせられて、なおかつ怒られているアーツとはわけが違う。なのに申し訳ない。カーフの世辞かもしれないが。




「多分、ファクトたちに会っていなかったら、起こった事を自分の中で消化するのに、あと10年20年はかかっていたかも。」

「いやいや、そんなにあったら、それなりにもっといい出会いはあるよ。」


「でも、この3年で全部が変わった。」

「そうなん?」

カーフたちとの最初の出会いは、彼らが各教科の先生として呼ばれたことだ。


まだ成人にもなっていないのに、生徒は成人大房民。あれこれ愚痴を言ってくる子供な大人で非常にやりにくかったことであろう。何せエリスどころか、カストルにまで逆らうのだ。

サイコス実技の場合、ここまでやってと指導しているのに、「俺らそのレベルじゃないから10分の1くらいの小技教えて」と言ってくる。そのくせ少しいい感じになると、派手な技をしたいと欲を出すので、大房民は本当にめんどくさい生徒であった。



「一緒に時間を過ごすことや、一緒に事業をすることがこんなに良かったと思えたのはアーツが最初だよ。」

え?あれで?


カーフは少し遠くを見るように言った。

「多分、もう少し前の自分だったら、チコ様たちがなんで自分に故郷を任せてくれないのか意味も分からず(くすぶ)ってたと思う。

……自分も幼かったんだ……。あのままだったら、故郷に帰ってもいろんなところに復讐……とかまではいかないけれど、牽制はしていただろうな……。藤湾も今と違う形になっていたかもしれない。」


そこまで!と驚くしかない。ファクトから見ると、自分たちアーツ以外はみんな順調に見えた。みんな優秀で指導することもなく、暇だからチコもアーツを構うのだと。何せユラス民族のエリートたちが中心に多い。学力財力においても家門においても、信仰においても、屈託のない勢いと手順で激進しているのかと思っていた。


それ以前にカーフたちは忙し過ぎた。学校を作っていたのだ。


「北西ユラスは人種も文化も少し違って仲が悪いし……あまり目的も共有できなくて。過去と同じように接していたら、多分私たちはここでも分派を作り始めていたかもしれない…。」


北西ユラスは、初期にシグマやローたちに絡んでいた者たちだ。民族は繋がるが、正確には西寄りのヴェネレや北方国家の文化を持つ。そのためかユラス特有の東洋文化が東方ほど浸透しておらず、よくぶつかっていた。考えればユラスは内戦状態だったのだ。初期からカストルに従った、カプルコルニー領とも仲が悪かった。移住先は数か所あったのに、なぜそんな所からアジアにここの移民を移したのか、とすら思った。



カストルは、ベガス全体に関してはエリスの指示に従い、ユラス人としての動向にはユラス代表のチコに従うようにと、ここに来た全員に言い聞かせている。西アジアや南アジアにはそれぞれの代表指導者に。指導者たちにはエリスとチコにを中心に動くように。


その最頂点のカストルの指示に、「絶対にベガスで実権的政治的分派を作ってはならない」というものもあった。国同士や民族同士を盾にした分派もなしである。移住時に約束されているもので、これに従わなかった場合、アンタレス住民権が奪われ悪質な場合、強制移送、送還になる。

カーフは全く違う思想を持って来る北西ユラスや、話もできないアジアエリートに、こいつらがいなければもっと仕事が進むのに……という思いを抱えながら、それでも耳を閉じて上から与えられた言葉に従っってきた。




聖典の歴史は、『我欲と非協力と憎悪による分裂』だったので、人類はそれを乗り越えなければならないと分かっていたからだ。つまり、先人たちができなかったその過程を越えていかなければならない。


人類が、どこかで誰かが越えなければ、延々と抜け出せないループ。

最初の分裂を、ベガス構築の始発からするわけにはいかなかった。少なくともリーダー側からは。


アダムとエバも始発で自分に負けたのだ。


誕生の分裂ではなく、引き裂く分裂。それは神の痛みだった。



この試練に自分の度量は関係ない。それでも乗り越えるしかないのだ。誰かが。



地域、大陸に関する一番大きなものは、既にカストルやサダルをはじめとする大人たちが越えてきた。

カーフが守るべきものは、このベガスの小さな学校群だ。


何年もうまくいかなかった。

ただの小さな学校なのに。これでも選ばれた温厚派移民が多いというのに。こんな平和な場所ですら、誰かの意固地や欲、怒りで対立と分裂が起こるのだ。地域や国が一つになれるわけがない。





そんな時、能天気な顔で下町ズが少し離れた入管の南海に来たのだ。

しかも居付いている。


チコ総長が連れてきた上に、カウスも加わって直接指導しているという恐ろしい集団。どれほどのものかと思ったら………

上司に逆らって、なおかつ好待遇を求めているだけであった。




「ごめんね。」

「何が?」

もう初めに謝っておくファクト。


「はは。あの頃はすっごく疲弊して死にそうだった…。別件でも忙しかったから何も私たちじゃなくても…って思いはあったけど……」

あったんかい。失望したことであろう。面倒を見れば見るほど、何で俺たちが?となったはずだ。

「……なんか本当に申し訳なくなってきました…。」

もう、ファクト的にはどうしようもない。今度、兄さんたちに文句を言っておこうと思う。


それなのにカーフはスッキリした顔で言う。

「でも、北西ユラスとも今は一緒に仕事ができるし…」


そう、だいぶ前の話だがキファやティガなどアーツ若手組がしつこく絡まれたことがある。そこで、仲介に入ったタウやベイド、タチアナなど年長組が、「オッサンは黙っとけ」扱いされてしまったのだ。まだタウたちも20代半ばを過ぎたくらいなのに。

しかも、かなりえげつない言葉で絡んだのだ。アーツ年長組に。ブチ切れたタウたちだが、特別自治区域ではケンカができない。しかも相手はユラス籍の者たちで国際問題になる。


そんな訳でサラサに直談判し、三分戦形式で格闘技の心得のある者と『アーツVS北西ユラス学生戦』をしたらしい。




結果、オッサン扱いされたアーツ年長チームの圧勝であった。


タウ、イオニア、ハウメア、アクバル、タラゼド……。北西ユラスには兵役経験のある学生もいたらしいが、アーツの圧勝であった。なにせ、いくら兵役のない東アジアだろうと、このメンバーはアジアやアンタレスでもトップアスリートクラスである。女のハウメアも全勝。

それ以来、なぜかケンカをせずに……とは言わないが一緒に仕事ができるようになったらしい。そんな大人気ない年長兄さんたちも、もう30の大台に乗ってしまったり、乗りそうだったり……



「あーーーーー!!!!!」

突然思い出して、ファクトは頭を抱えて叫んでしまう。

「??大丈夫?!」


「……あ、いや。なんか俺のいないところで三分戦があって…。この前もサダル議長たちが河漢メンバーと…。なんでいつも俺のいない時に……」

「はは…」

その話はカーフも知っている。アーツVS北西ユラスに関しては自分も現場にいて、思いっきりアーツを応援してやったのだ。懐かしい。アーツにも手を焼いていたのに、どれほど北西ユラスにムカついていたのか。



「くく…」

と、カーフがなぜか思い出し笑いをしだす。

「………。」

なんだと見てみると、顔を逸らされた。


「だってさ、ファイさんとかも、ベガスの美男美女は本当におもしろくないって、食堂で語ってるし…。全員、展開的三枚目って……」

「…………」

「チコ様や議長のこと、あんな風に言う人初めて見た…。レサトや陽烏さんもその時そこにいたんだけど、本人に直接「そのイケ顔を活かしなさい」って…。確かに誰も活かしてないよね。陽烏さん、言われていることが呑み込めていなかった…。くっ…」

「……。」

大房では普通に言いそうなことなのだが、そんなに意外なのか。カウスもチコに再三言っていると思うのだが。ナオス族、どれだけお堅いんだ。


「それで、今まで対外活動をしなかったレサトが市内の学校を回ってるって聞いて、さすがに驚いた。こんな方法があったなんて。普通に食堂で説教して連れ出すんだよ?」

「なるほど。あの時レサト、ファイにも説教されてたんだね。」


多分、ファイの言うイケ顔範疇にカーフも入っているだろうが、今のファクトは取り敢えず今は聴き役だ。



しばらく話してから、カーフは朝5時にここを出ると、立ち上がった。

「死なないでね。」

と軽く手を振ると、

「ファクトもここをよろしくな。」

と、同じく手を振って去っていた。




もう外は明るくなり始めている。


夜から朝のこのグラデーションのように、気が付くとたくさんのことが変わり始めている。





天を見失うと、人間は変化に気が付けない。


それは水滴が時に大きな岩を作り、時に石をも削るように、短い一点では確かに変わることのない力で、ひっそり見えない速度で変わっていく。




変化とは何だろう。


それは本当に、小さな場所からなのだ。





●西北ユラスのめんどくさい絡み

『ZEROミッシングリンクⅠ』53 帰ってこない

https://ncode.syosetu.com/n1641he/54(下の方に)


●最初のバカさ加減

『ZEROミッシングリンクⅠ』50 知らない期待

https://ncode.syosetu.com/n1641he/51/


●レサトも頑張る

『ZEROミッシングリンクⅣ』99 学校巡回

https://ncode.syosetu.com/n0646ho/100/


●議長VS河漢

『ZEROミッシングリンクⅥ』28 マルシクVSサダル …サダルVSチコ?

https://ncode.syosetu.com/n2119hx/29/



※この物語の『アジア』は大陸一地域の名前です。大陸広域は『セイガ(星河)』大陸です。


最初は、近未来を舞台に「アジア(東洋三国のみ。日本と中国東部が主。舞台の地理的位置は中国湾岸寄り)+アジアの横、大陸中央にある閉鎖国家+西の方に自然豊かな研究所+遠くの方にアメリカ」だけで展開される物語でした。


現在はアジアの名前とおおよその一部文化だけ残して、あとは舞台そのものが空想の世界です。




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