第257話 閑話 ~ある蜘蛛の女王~
カクヨムからの転載です。よろしくお願いいたします。
ある蜘蛛の女王は焦燥感を感じていた。 圧倒的な上異種による襲撃を今現在受けているからだ。
「何者ナノダ、アレハ…」
今までも、彼女が支配するこの都市を襲撃した者はいる。 それは、腹を空かせたワイバーンの群れだったり、時にはレッドドラゴンだった事もある。
だが彼女は、それらを簡単に撃ち落として食料にしたり追い返したりしてきたので、今まで危機に陥った事は無い。
そう言えば、人間の軍隊が大勢で攻めて来た時には歓喜すらしたモノだ。 大量の食料が向こうからやって来たのだから。
人間どもは都市の奪還を目的としていた様子だったが、笑えるほどに弱かった。 人間など群れるだけしか能が無く、武器や魔術を使ってくるのだが脅威と呼ぶには程遠い存在だ。
人間の中では強力だと思われている剣士も数匹の蜘蛛たちにによって糸で拘束してしまえば、簡単に食料にする事が出来た。
魔術師に至っては複数の人間に護衛されなければ満足な魔術を使用する事も出来ず、数で襲えば簡単に落とす事が出来た。 しかも魔術を使用した場合でも見た目が派手なだけで、我らの魔術耐性を突破した者はいない。
それに馬などの家畜を連れてくるのも、人間の良い所だ。 馬は可食部も多く、餌としては優秀だからだ。
だが最近現れた空を飛ぶ人間の子供は厄介だった。 人間にしては異常に強く、遠方の食料確保に向かっていた空が飛べる狩猟部隊が全滅させられる事になったのが始まりだった。
蜘蛛の中でも、飛行能力を持つ者は限られる。 この都市ではストックしている人間などの食料が心許なくなった事もあって、遠方での狩りなどに使用してのが間違いだった。
空を飛べるモノは大抵強い。 確かに鳥や昆虫も空を飛べるが、可食部が少なく見つけたとしても無視をする事が多い。 何よりすぐに逃げてしまうので、追い掛けたりしないだけだが。
時々現れるワイバーンなどは飛行能力が高く、空を飛べる蜘蛛たちが複数は必要になる相手だ。 しかも空中戦では我らを凌駕するのも忌々しい。
そして、ドラゴンなどは最悪だ。 我々の攻撃が通用しないだけでなく、空中戦も得意ときている。 それにブレスも厄介だ。
この都市を襲いに来た時には、貴重な空中戦力を数多く失ったし、追い返す事しか出来なかった。
だからドラゴンなどの襲撃に備えて訓練なども行ったし、最悪の場合は逃げ帰る事を言明していた。
だがそんな飛行可能な狩猟部隊が全滅したのには衝撃を受けた。 気の短いドラゴンの気を逸らす事は難しくはないし、狩猟部隊の隊長格は指揮能力にも優れている個体が多い。
言わばエリート部隊だったのだ。 だがそんな部隊が、空を飛ぶ人間の子供との交戦を通信してきた後での音信不通。
しかも対象の飛行ルートから、この都市を目指しているらしい事も判明して騒ぎが一気に広がった。
「ヤムヲ得ナイカ…」
そして投入したのが、空戦を得意とする対ドラゴン用のエース部隊。 ドラゴンに対する決戦部隊とも言える存在だった。
ドラゴンブレスの直撃を受ければ墜落するかも知れないが、そんな攻撃をみすみす受ける様な未熟者はいない。 魔術に対する耐性も高く、一般的な方法では撃ち落とされる事など考えられないエース達。
それが魔術耐性を突破する謎の攻撃を受けて、一匹、また一匹と落ちていく。
「ソンナ馬鹿ナ…」
やがて自慢の航空戦力が撃ち落とされて、その子供は都市への攻撃を開始した。
「殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス」
怒りで暴走しそうになる思考を抑えて、女王は自分のブレスの射線上に追い込んだ。
「死ネェェェェェッ!」
渾身の魔力を込めてブレスを放つ。 だが的が小さい事もあって、すんでの所で躱されてしまった。
「チッ、面倒ナ相手ダ」
警戒させてしまったのか、都市の中央には近付こうとはせず外周の戦力を削る事に作戦を変更する子供。
今すぐにも追い掛けて行ってブレスで消し飛ばしたい衝動に駆られるが、貴重な戦力を失い過ぎた。 地上からの防空攻撃は行えるが、航空戦力を育成するにはかなりの時間が必要となるだろう。
苦虫を噛み潰す思いで何とか子供を追い返し、部隊の再編や育成方針を考えている最中に、再びあの子供がやって来た。
しかも今度は、我々の遥か高みにいると思われる上異種を連れて。
見た目は人間の少女の様に見えるが、中身は違う。 あれは蜘蛛の究極進化形態か何かだ。
戦術ネットワークで情報を収集しようとしているのだが、攻撃はおろか接近さえ叶わない相手。 少しでも近付こうものなら、例外なく八つ裂きにされてしまう同胞たち。
「何故ダ…。 何故我ラヲ襲ウ…」
蜘蛛たちにも一応、縄張り意識がある。 だがその事で問題が発生するのは、餌の奪い合いが発生した場合などに限られる。
だがその上位種は、一直線に女王を目指している印象を受ける。
「我ガ国ヲ、乗ッ取ルツモリダトデモ言ウノカ…」
いや、あの上異種の力を以てすればこんな小さな都市など傘下にするなど容易なハズだ。 態々《わざわざ》攻め入る理由が無い。
正直に言えば、勝てるイメージどころか追い返せるイメージすら浮かばない、絶対強者だ。 彼女が望みさえすれば、多くの蜘蛛の女王も傘下に降るだろう。
【蜘蛛の魔王】と恐れられた我ら女王の生みの親にも引けを取らない。
だが、そんな存在など聞いた事も無いし、人間に擬態している理由すらも思い浮かばない。 それに、あの子供の味方をしてるの謎だ。
残されている時間は少ない。 それ程時を必要としなくとも、何れは対面する事になる。
降伏すべきかどうかも悩んだのだが、後を追い掛けてくる子供と黒い女も問題だ。 この段階で気付いたのも問題なのだろうが、子供も女も人間ではない。
あれらも人の姿をした何かだし、友好的ではないのは明確だ。
「我々ハ、何ト戦ッテイルノダ?」
そんな事を考えていると、連中は遂に女王の下まで現れた。 無駄とは思うが、渾身の魔力を込めてブレスを放つ。
だが、そんなブレスさえも剣戟で真っ二つにされて霧散していった。
「ゴメンネ。 ママの望みなのー」
その言葉は、死刑宣告以外の何者でもなかった。
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カクヨム版(先行)
魔女転生 ~えっ? 敵は殺しますけど?~
https://kakuyomu.jp/works/16816927862939210704
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新作:
VRMMOゲームをしていたハズが、気が付いたら異世界にいたんだが… ~人を見たら経験値と思え~
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