第24話 閑話 ~魔女と黒竜王~
カクヨムからの転載です。よろしくお願いいたします。
ダンジョンの最下層、その秘匿エリアで黒竜は傷を癒していた。
生きているのが不思議なくらいの深い無数の傷は痛々しいが、瞳だけは爛々《らんらん》と輝いている。 来る日の再戦を誓う炎は、決して揺らぐ事は無さそうだ。
そんな彼に無遠慮に近づく幼女にも見える影は、尊大に感想を漏らす。
「無様だな、黒竜王」
「ちっ、記録の魔女が何の用だ?」
戦いの昂揚を台無しにされた黒竜は、幼女を睨みつける。 もしも万全な状態なら、即座に八つ裂きにすべく行動していた事だろう。
「なに、簡単な問診でも行おうかと考えてな。 久しぶりだろう?」
「ふん、貴様に話す事など無い。 失せろ」
「随分な物言いだな。 とても幼児に敗北したは思えない程に偉そうではないか」
心底馬鹿にした様に視線で舐め回し、ついでに大きな傷を観察するために踏みにじる。
「やはり貴様の刺客か。 アレは何だ? 随分と悪趣味ではないか」
「完全な黒の因子保有者だ。 中々のモノだろう?」
「ホムンクルスとか言うヤツか? 貴様の狂気は我らさえも愚弄するのか」
「心外だなぁ、アレは女神謹製の始祖だぞ? 折角会わせてやったのだ。 感謝しても罰は当たらんぞ」
その言葉に瞳を大きく見開き、驚愕に揺れ動く。
「真か?」
「嘘を言ってどうする。 未確認だが、竜形態になれる可能性すらあるぞ」
「ふっ、ふぁははははは。 姫…いや…女王の器であったか」
「やらんぞ。 アレは私のだ」
眩い光りと共に突然幼女に降り注ぐブレス、だが視界が戻った後には焦げ後すら存在しない状態で佇んでいた。
「無駄な事を。 お前程度では私には傷一つ付ける事は出来んと言うのに」
「忌々しい奴よ。 一度勝ったくらいで調子に乗りおって」
「手も足も出ずに負けた奴の台詞とは思えないな。 だがまあ良い、協定を結ばないか? どうせ共通意識とやらで意識共有も行っているのだろう?」
黒竜は渋面を作り、嫌々ながら同意を示す。
「どこまでも神経を逆撫でする。 それで何が望だ?」
「簡単な事だ。 5年…いや10年ほど見守ってみないか?」
「意味が判らないのだが?」
「ベイナ…あの幼児は成長が著しい。 時を待てば、何れは私に匹敵する力を得るやも知れん」
「そして解剖でもするのか?」
「得られるモノがあればな」
「だが、それまでに鍛え上げる事が出来れば、貴様を屠れるチャンスでもあると言う事か」
「随分と楽観的な解釈だが、概ねそう言う事だ」
幼女は交渉が上手くいった事をほくそ笑んだ。 黒竜は仲間意識が強く、また上昇思考が強いのも特徴的だ。 好戦的なのは欠点かも知れないが、戦闘状況などを意識共有でネットワーク化して解析し、短期間で強くなる特徴もある。
今回の協定は、黒竜達全員との締結とも言えるので、反抗的な態度にも寛容になれるのも当然と言えた。
一方の黒竜王にしてみれば、自身をこんな地の底に押し込んだ憎き魔女の提案であるが、自ずから復讐の機会を与えてきた事には感謝した。 幼児が同族である事は感覚的に判るし、完全な黒の因子を保有しているのであれば、あの戦闘能力にも納得がいく。 更には育てる機会が与えられるのであれば、魔女に対抗出来る戦力にもする事も可能だろう。
黒竜王としては、幼児に頼るのは情けなくも思うが、そこはグッと飲み込む。 いや、何れ女王として立ってもらうには、『記録の魔女』討伐は丁度良いかも知れない。
ここにはいない同族達も、概ね歓迎しているのが窺える。
こんな事をしている場合ではない。 一刻も早く全快しなくては。 そして手取り足取り鍛えていくのだ。
幼児の育成計画を思うと、思わずニヤけそうになるのだが、魔女の前である事を思い出し、難しい顔でやり過ごそうとするも、無駄だった様だ。
「随分とご機嫌な様子だが、頼みがある」
「何だ、まだ望みがあるのか?」
「お前には階層主を辞めて貰いたい」
「どう言う意味だ?」
「ベイナにはこの階層を出て、様々な相手と戦って経験を積んで貰いたいんだ」
「我には協力して貰いたいとの話だったハズだが?」
一気に険悪な雰囲気になる。
「育成は私が担当する」
「貴様っ!」
「まあ何だ、お前は邪魔なんだ。 ここで死んでもらうよ」
黒竜王は、動かない躰を浮かして強引に距離をとる。 思い起こすのは、自身の魔力鎧さえ貫いた幼児の魔術。
貫かれたと言うよりも、切り裂かれた様な印象を受けた魔術。 そこにあるモノを押し退ける様な独特な印象だったが、再現は可能だろう。
礫は…、まあストーンバレットで代用できるハズだ。 勝てるとは思わないが、一泡吹かせてやる。
「積層傾斜装甲術式、起動」
「は?」
魔力鎧さえ貫くハズの石礫は、虚しく放物線を描いて遠ざかっていく。
「つまらない猿真似だな。 興醒めだぞ」
慌てて様々な魔術を叩き込んでいく。
「騒々しいだけだな。 やはりお前には見るべき処さえも無い」
殆どの生物であれば死地となる様な魔術の中を、気軽に散歩でもするかの様に、ゆっくりと近付いてくる。
「化け物めっ!」
「其は死を誘う闇夜なり。 全ては時の彼方へと、朽ちては落ちる暦を汝に強要する」
「何だ、その魔術はっ!?」
黒竜王の全身を黒い影が被ったかと思うと、全てが砂へ、そして塵へ。
魔力鎧を侵食し、魔力耐性を冒涜し、物理耐性をも蹂躙する。
誇り高き黒竜は、最後の力を振り絞って、己れの最後を同族に伝えて終えた。
「黒トカゲには勿体ない魔術だったかな?」
幼女は塵となった黒竜王を一瞥すると、興味無さそうにその場を去った。
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カクヨム版(先行)
魔女転生 ~えっ? 敵は殺しますけど?~
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