第236話 闘争編 ~えっ? 修行開始ですか?~
カクヨムからの転載です。よろしくお願いいたします。
「ここがお前が言っていた森か?」
「あぁ、ここが蜘蛛に支配された森だよ」
蜘蛛に支配された森にやって来た幼女、ハイガンベイナ6歳です。
ここは以前に傭兵として暮らしていた街の近くにある森で、やって来たのは逃げ出して以来の事である。
「なら早速鍛えてやる」
「修行の開始って事かな? ここにはシャレにならない位に蜘蛛がいるハズなんだけど、危なくないか?」
「一々ビビってんじゃねぇよ。 黒竜からしたら大蜘蛛なんて、ゴブリンと大して変わらねぇよ」
「倒しながら鍛えていくって事で良いのかな? 囲まれた場合は助けてくれたりなんかするのかな?」
「自力で何とかしろよ。 お前もだぞ、小僧」
『小僧じゃねぇです。 なんで私まで…』
「うるせぇ! ツベコベ言ってんじゃねぇ」 ボコッ!
うわぁ、ミーティアの奴、殴られているよ。
「じゃぁ先ずは状況の把握からかな。 魔力探査!」
「イキナリ横着してんじゃねぇよ!」 ボコッ!
「ぐはっ! イキナリ殴る事ねぇだろっ!」
「黒竜らしく、気配だけで把握しろよ。 常識だろ?」
「そんな常識なんて知らないよ! どうしろって言うんだ」
「それくらい自力で何とかしろ! お前もだ、小僧」 ボコッ!
『ぎゃっ!』
気配とか言われてもなぁ。 武術の達人じゃあるまいし、そんな事を急に言われてもどうすれば良いんだか…。
「気配、気配、気配…。 うーむ、さっぱり判らん」
横にいるミーティアを見ると、目を瞑って一生懸命何かを探ろうとしているみたいだが、上手くいかないみたいだ。
だよなぁ。 気配って何だっけ? 存在感を感じるみたいな方法だろうか?
出来る事なら、こんな場所で目を瞑りたくはないんだが、そうも言っていられない。 仕方がないので目を瞑りながら周囲に意識を広げていく。
うーむ、イマイチ判らん。 広げた範囲が狭すぎるのだろうか? いや、それ以前に近くにいるイリスやミーティアの事を感じる事に集中してみるか。
うん、確かにボンヤリとだけど存在を感じる。 小さい方がミーティアで、大きい方がイリスって事かな?
薄目を開けて確認してみるとどうやら正解みたいだ。 再び目を瞑って二人の存在を細かく感じてみる。
ミーティアの方は…何だろう…いるんだけど感じる「圧」が少ないと言うか何と言うか。 いや、違うな。
イリスから感じる「圧」が半端じゃないんだ。 人化しているからサイズは人並みなんだけど、物凄く濃いと言った方が正しいのかも知れない。
なる程、魔力探査だと感じるのは存在と所有魔力って感じなんだけど、気配で見ると存在感その物って感じだ。
魔力探査だと、魔力放出を抑えると探知出来なくなる場合があるんだけど、気配に関しては別物だな。
それに面白い事に、周囲にある木の存在まで感じる。 上手く利用すれば地形の把握まで出来そうだ。 これが気配か…。
さらに範囲を広げてみると、自分の周囲が立体的に把握出来るみたいだ。 背中にも目がある状態と言えば判るだろうか?
「慣れてきたら、目を開けた状態で周囲の気配を探ってみろ。 面白い事が判るぜ」
「ええっ? イキナリ難易度が上がってるんだけどぉ!」
目を開けて意識を広げていくのは非常に難しい。 何といえば良いのだろう? 視覚情報が追加された状態で脳が混乱するとでも言えば良いのか。
でも面白い事って何だ? 全周囲から感じる存在感からパニック寸前だ。
あっ、視界の中で何か動いた様な…。 慌ててそちらに意識を向けてみる。
ん? コレは生物か? 何だろ、害意と言うか何というか良くない感じがする。
いや、待て。 一つだけじゃないぞ。 かなりの数が蠢いている。
「後ろの気配も忘れるなよ」
「えっ? 後ろ?」
慌てて後ろにも意識を広めてみると、そちらからも害意を感じる。 いや、後だけじゃない。 前後左右、あらゆる方向から害意を感じる。
「もしかして、囲まれている?」
「はっはっはっ! 今頃気が付くなんて、鈍い野郎だぜっ!」
「笑い事じゃないだろっ!」
何て事だ。 気配察知の訓練じゃ無かったのかよ! 取り敢えず空中に避難して、体制を立て直すべきか?
「あっ、ベイナ。 お前は飛行禁止な。 近接戦闘の訓練には打って付けだろ?」
「無茶言うなぁぁぁ~っ!」
イリスとミーティアはさっさと空中に避難し、私だけが地上に取り残された。 くそっ、鬼めっ!
包囲網が少しずつ縮まり、もう逃げ場すら存在しない。
「おい、ベイナ。 お前は自分が黒竜だって事を自覚すべきだ。 あんな蜘蛛ごときじゃぁ、傷を追う事すらあり得ないんだよ」
「言ってる意味が判んねーよっ!」
「自分の事を、人間だとか小娘だとか思ってんじゃねぇって言ってんだ。 本来なら牙を突き立てられたって穴が開く事はねぇし、爪で引っ掻かれても傷付く事はない。 それくらいには存在の格が違うって言っているんだ」
「存在の格ってなんだよっ!」
「魂に存在を委ねろ。 てめぇは人間の姿をしているだけの黒竜だ。 本来の姿を思い出せ」
「生まれてから一度だって黒竜の姿になった事なんてないよ!」
くそっ、そんな事言われたって、竜化のやり方なんて知らないよ。 どうすりゃ良いって言うんだよ!
「もたもたしている時間なんてねぇぜ。 もうすぐ連中の攻撃範囲に入る」
「くそっ! どうしろって言うんだよっ!」
気が付くと周囲は、牙をガチガチ鳴らす蜘蛛に取り囲まれていた。
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カクヨム版(先行)
魔女転生 ~えっ? 敵は殺しますけど?~
https://kakuyomu.jp/works/16816927862939210704
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新作:
VRMMOゲームをしていたハズが、気が付いたら異世界にいたんだが… ~人を見たら経験値と思え~
https://kakuyomu.jp/works/16818093086783757902