第235話 闘争編 ~えっ? 別れですか?~
「何をするんだイリス! 大丈夫か、ハトリ?」
「大丈夫なのー」
殴り飛ばされたハトリを心配する幼女、ハイガンベイナ6歳です。
「私に何か、言いたい事でもあるのか?」
「当然だろ、イリス。 何も殴る必要なんて無かったハズだ」
「聞き分けの無いガキを殴るのは当然だろ? 教育だ」
「何が教育だよ!」
「考えの相違だな。 お前の甘い考え方がガキを付け上がらせている事が何故判らない?」
「口で言えば判る話だ! 殴る必要なんて無い!」
「お前も性根から鍛え直す必要がありそうだな」
「何を! ぐふっ!」
気が付いた時には、私も腹を殴られていた。 苦しい。 息が出来ない。
「反応が鈍い。 お前、見えてすらいなかっただろう?」
「くっ!」
反論の予知すら無い。 確かに私は近接戦闘は苦手だが、反応すら出来ないとは思わなかった。
「期待ハズレなんて言葉が生温いくらいだな。 そんな実力でどうやって黒竜王に勝ったんだか。 どうやら単なるマグレだったのかも知れないな」
「くそっ」
あの時は無我夢中だったてのもあるが、周囲を気にする必要すら無かったからな。 反物質弾頭を使用するのすら躊躇う理由が無かったし、何より大空での戦いだった。
遠距離攻撃だけでやり合っていたし、防御よりも避ける事しか考えていなかった。
だがこんな室内の戦いではそうはいかない。 いや、それ以前に黒竜って人化してもこんなに強いのか? 勝てるビジョンが微塵も思い浮かばないぞ。
「お前の魂の大きさは竜王クラスなんだがな。 普通なら今の攻撃だって無視出来るハズなんだ」
「魂の大きさだとぉ?」
「安心しろ。 お前を鍛え直して、最低でも黒竜に相応しいレベルにしてやるよ」
どうやら修行するのは決定事項らしい。 まぁ半分は覚悟していたから良いとしても、ハトリと分かれるのは辛いな。
「なぁ、ハトリと一緒に鍛えて貰う事は出来ないか?」
「無理な相談だな。 そこの子蜘蛛は強くなったとしても高が知れている。 足手まといにしかならねぇよ」
「そう言う事ならぁ、ハトリちゃんは私が鍛えましょうかぁ?」
「はぁ? 何を言っているんだ、ヘル?」
「私ならぁ、ハトリちゃんを強く出来ると思うのですぅ」
本来なら嬉しい申し出なのだろうが、何だか少し不安を感じちゃうんだよな。
「具体的な方法が何かあるのか?」
「ハトリちゃんも神格を得れば良いと思うのですぅ。 まぁ街の一つでも犠牲にすれば何とかなると思うのですよぉ」
何だろう。 何をするのか詳しく聞きたい様な聞きたくない様な…。
「まぁ、任せて貰えば何とかするのですぅ」
「そ、そうなのか。 じゃぁ私が修行している間は任せた方が良さそうだな」
別々に修行するのは少し寂しいケド、仕方がない事でもあるんだよな。
「ところでイリス、私の修行期間はどの位を予定しているんだ?」
「そうだな。 黒竜である事を自覚させるだけだから1年もあれば十分じゃねぇか」
「最大で1年か…。 ヘル、悪いんだがその間、ハトリを頼む」
「良いですよぉ」
「なぁハトリ、お互い鍛えて強くならないか?」
「うーっ、ハトリも強くなれば、ママと一緒にいられるのー?」
「ああ、当然だ。 なぁイリス、蜘蛛の殲滅は、別に私一人でやらなくても構わないんだろう?」
「ん? そうだな。 本来なら一人でやって貰いたいところだが、力を証明出来るんならどうでも良いぜ。 それに一人で殲滅出来る位までは鍛える予定だしな」
「と言う事だハトリ。 お互いに強くなって、一緒に討伐旅行に出掛けよう」
「判ったのー。 ハトリも強くなって、ママと一緒に旅行に行くのー」
「ああ、約束だ」
「約束なのー。 破ったら針千本なのー」
そう言ってハトリをシッカリと抱きしめた。 イリスやヘルが言っている修行がどんなモノかは知らないが、約束は絶対に守る。
「ママ…」
「ハトリ、ほんの少しだがお別れだ」
「ママ! ハトリは絶対強くなるの!」
「ああ、私もハトリに負けないくらいに強くなる。 競争だぞ」
「うん、判ったのー!」
名残惜しいが、いつまでもこうしているワケにはいかない。 そっとハトリの頭を撫でてから私は館から出る事にした。
「おい、さっさとしろ。 お前には生まれてきた事を後悔するくらいに鍛えてやるからな」
「その後悔なら前世で経験済だ。 それより世話になったオルレアン嬢に出立の挨拶をしてくる。 それ位の時間はあるんだろ?」
「手短に済ませろよ」
「了解だ」
その後、私たちはそれぞれが修行の旅に出掛ける事をオルレアン嬢に告げ、館を後にした。
「なぁ、修行ってどこでするんだ?」
「そうだな。 どうせなら蜘蛛が支配している場所にでも行って、実地で鍛えようかと思っている」
「休憩とかどうするんだ? 適当な場所があるとも思えないんだが…」
「休憩? 何を寝ぼけた事を言ってやがるんだ? 黒竜なら1年や2年位なら必要無いだろ?」
「いや、せめてトイレ休憩はさせてくれよ!」
「そんなのは殺し尽くせばいくらでも出来るだろ? 甘えてんじゃねぇよ」
「そんなぁ」
生まれてきた事を後悔させるってのは、どうやら本気だったみたいだ。