第234話 闘争編 ~えっ? 魂ですか?~
「テメエは色々と不完全みたいだな」
「不完全?」
何だか酷い事を言われる幼女、ハイガンベイナ6歳です。
「それじゃあ黒竜の女王になるなんて出来ないぜ」
「いや、頼まれてもなる気なんてないのだが…」
「諦めろ。 黒竜王の命令は絶対だ。 決定事項なんだよ」
「どゆ事?」
「王になった者は、次の王を指定する事が出来る。 我々黒竜はそうやって王族を決定してきたんだ」
「じゃぁ次の王はイリスって事で。 いやぁ短い在任期間だったなぁ」
「そりゃぁ無理だ。 先ず王になった者は力を示して周囲を納得させる必要がある。 だから厳密には、お前はまだ王と決まったワケではない」
「じゃぁ即位を拒否した場合はどうなるんだ?」
「そうだな、拒否した先例なんて存在しないから何とも言えないが、今いる黒竜の中から選ばれる事になるだろうな」
「それなら拒否するって事でよろしく」
「いや、拒否しても結果は変わらない事になると思うぞ」
「と言うと?」
「どのみち王になるためには力を示す必要がある。 その場合、お前よりも優れている事を示す必要があるワケだ」
「つまり?」
「黒竜の有力者たちが、こぞってお前を殺しにくる事になるな」
「話し合いで何とかならない?」
「ならねぇよっ!」
うーむ。 事実上は拒否する権利なんて無いに等しいって事か。 何てはた迷惑な風習なんだ。
「それじゃぁ私にどうしろと?」
「そうだな。 先ずは黒竜としての自覚を持つ事から始めるしか無いんじゃないか?」
「いや、黒竜としての自覚とか言われても…」
「気付いていないみたいだから言っておくが、お前の魂は殆ど黒竜そのものだぞ? しかも僅かながら神格まで得てやがる」
「えっ? 魂が黒竜なの?」
「そうだぞ。 今は無理かも知れないが、慣れれば竜化も出来るハズだ」
「いくら魂が黒竜だからって、竜化とか出来るワケが…」
「いや、存在なんてモノは魂を元に創られているものだ。 だから本来の魂から考えれば、人間の姿をしている事の方が異常なんだよ」
「存在が魂に引き付けられているカンジ?」
「そうだ。 だからお前は、黒竜に出来る事なら全て出来て当然なんだよ。 人の姿をしているのだって人化をしていると思えば矛盾は無い」
そんな事言われてもなぁ。 そりゃぁ黒竜の因子があるから生まれて直ぐに空を飛んだりとかしてたケドさ。
それともこの世界に送り込んだ女神様って、私を黒竜として創って人化させて誤魔化していただけだったりするのだろうか? その方が簡単だったって理由で。
「じゃぁ私は黒竜になる訓練でもすれば良いのか?」
「判っているじゃないか。 まぁ黒竜になると言うよりも慣れると言った方が正解だが」
「結局訓練か…。 でも訓練って何をすれば良いのだろう」
「一先ずは黒竜が得意とする魔術や魔力の運用方法だろうな」
「こんな街中じゃぁ魔術の訓練なんて出来ないぞ。 魔力の運用なら可能かも知れないが…」
「そのためには、小さな大蜘蛛の集落を潰す事から始めようと思う」
「暫くは修行の旅に出るカンジなのか」
「その事だがな、ヘルが面倒を見ている小さい奴も連れていこうかと考えている」
「小さい奴? ハトリの事かな?」
「ハトリ? ああ、あの人化している子蜘蛛の事か。 アレは無視だな。 そうじゃなくて子竜の事だ」
「えっ? ミーティアの事? とてもじゃないが、アイツは他人の命令なんて聞かないぞ」
「嫌がろうが何だろうが連れていくぞ。 《《あんなの》》は黒竜の恥だからな。 お前と同時に鍛えるつもりだ」
いやいや、ミーティアを知らないからそんな事が言えるんだよ。 ゴーイングマイウェイを体言している奴なんだから、素直に従うとも思えないんだけどな。
「で、いつからなんだ? 出来れば少し休みたいんだが」
「甘えるな! 今からに決まってんだろ! どれだけ待たされたと思っているんだ!」
「それにミーティアだって眠っているんだぞ!」
「お前が叩き起こしてこい! 《《あんなの》》でも黒竜の端くれだからな。 一年やそこら眠らなくたって、死にはしないさ」
「えぇー? 私が起こすのか?」
只でさえ寝起きのミーティアって機嫌が悪いんだよな。 しかも私に少しも懐いていないし。
「ほら、さっさと行け!」
「へいへい」
仕方がないので、ミーティアが眠っている寝室に向かう。 すると、ハトリと仲良く眠りについていた。
「どうしよう」
ハトリがミーティアを抱える様に眠っている。 そっとやってもハトリが起きてしまいそうだ。 ミーティアの方は…、まっ良いか。 どちらかと言えば嫌われているんだし。
それよりハトリだよな。 修行に行くとか言ったら絶対に付いてきそうだし。 かと言って一緒に修行とかって、イリスが許可するとも思えないし。
となると説得かぁ。 私ってハトリに弱いんだよな。 お願いされると断れる気がしないし、拗ねられると手が付けられない。
うーむ、何とかやれるだけやってみるか。 起こすのさえ気が引けるケド。
「なぁ、ハトリ。 起きてくれないか?」
ハトリを揺すって起こしてみる。
「んー、眠いのー」
「寝ているところ悪いんだが、話がある」
「何なのー?」
「私とミーティアはこれから修行の旅に出る事になったんだ」
「ハトリも一緒に行くのー」
「いや、そうしたいのは山々なんだが、一緒に行くのは無理そうなんだ」
「ヤダー、一緒に行くのー!」
「いや、だからさ…」
「一緒に行くったら一緒に行くのー!」
「いつまで掛かってやがる。 早くしやがれ」
「げっ、イリス!」
「関係ない人はいらないのー! 出てくのー!」
「ちょっ、ハトリ?」
「うるせぇ!」
そう言ってイリスは、裏拳でハトリを弾き飛ばした。