第179話 旅立ち編 ~えっ? 後始末ですか?~
「とーなのー」
「うぎゃぁぁぁ~っ!」
侯爵軍が虐殺されるのを見守る幼女、ハイガンベイナ6歳です。
虐殺とは言っても、侯爵軍も何も好き好んで逃げ回っているワケではない。 防具と武器を奪われ、抵抗する手立てが無いのだ。
尤も忠義に厚い一部を除いては、我先に逃げ出しているのだが。
そして全てを抹殺しようとしているハトリとしては、逃げる者たちから始末している。 彼女は彼女なりに考えているのだ。 どうやったら全てを屠れるのかを。
いや、別に少しくらい取り逃したって問題ないんだけどね。 私やヘル、それにミーティアだっているのだから。
だがまぁハトリが殺る気になっているのだから水を差す必要は無いだろう。
蜘蛛の子を散らすように逃げ惑っている侯爵軍だが、それをシープドッグの様に先回りして斬り殺し、円形に押し止めている。 流石に視界が広いな。
対する侯爵軍は、逃げれば殺されると判っていながら円の中心に大将を守る形で防御しているのだが、それでも時間の問題である事は理解している様だ。
中には「武器さえあれば」なんて声も聞こえてくるのだが、手元に剣があっても逆転の目は無いんだけどね。 見た目のセイか、ハトリを舐めすぎだ。
大体、戦争をしに来ておいて何も出来ずに武装解除された自分たちを、見つめ直した方が良いんじゃないかな。 どう考えたって無能な集団じゃん。
この国の貴族って弱い相手には偉そうにするわりには、本当に無能なのが多いな。 ニートのオモチャになる程度の実力しか無いのだから、もう少し謙虚に生きれば良いのに。
しかも「降参だ」とか言って助かろうとしている奴もいるし。 ホントに馬鹿だ。
これが普通の貴族同士の戦争なら、爵位がある貴族なんかは捕虜として拘束されて終了なのだろう。 だって戦争ってお金が掛かるから、少しでも身代金で回収したいとか思うからね。
でも民衆相手に負けた場合などは身代金を受け取る手段が無いのだから、処刑されるのが常である。
そして今回のケースで言えば、そもそも身代金なんて受け取るつもりが無いのだ。 お金が欲しいのならば、侯爵家そのものを襲撃して根刮ぎ奪えば良い話だからね。
私達にしてみれば、身代金に関係する諸々の手順を省略出来るし、それに根絶やしにすれば後顧の憂いを断つ事だって出来る。
だから逃げ回っている侯爵軍に生き残る可能性なんて無いのだから、無駄な抵抗なんて止めれば良いのに。
なんて考えている間に、そろそろ円も小さくなった。 そろそろ終盤かな?
「とーなのー」
「うぎゃぁぁぁ~っ!」
「まっ、待て。 もしも侯爵様を害したりすれば、今後はマズイ事になるぞっ!」
「どーなるのー?」
「そっ、そうだな。 皇帝陛下が黙っていないハズだ」
「皇帝? 前に剣聖を殺した時は、黙って見ていたのー」
「はっ? 剣聖? そう言えば帝都が以前襲撃されたと聞いたが、お前たちだったのかっ!」
「しかもさっさと帰ってくれって感じだったのー」
「いや、だが我々は忠実な臣であって見殺しにされるハズは…」
「剣聖は忠臣じゃなかったのー?」
「いや…彼は…」
うーむ、童女に論破されるおっさん。 うん、哀れだ。 これはアレだな。 少しくらいは現実を教えてやろう。
「ハトリさんや。 皇帝が文句を言ってくるなら今度は皆殺しにするから、気にせずやっちゃって」
「はいなのー」
「嫌だぁぁぁ~っ!」
最後の望みが皇帝だったのか。 無様だな。 あっ、そうだ。 侯爵家を襲撃するためにも侯爵本人からは情報を引き出しておきべきだろう。
「あっ、ハトリ。 侯爵だけは残しておいてくれる? 手間でなければだけど」
「侯爵なんて知らないのー」
「わっ、我こそが侯爵家当主、オマル・スワルである」
「必死だなwww」
「見た目はただのおっさんなのー」
「丁重な扱いを希望する」
「ハトリさんや、いつもより丁寧に拘束してくれ」
「判ったのー。 亀甲縛り、二式なのー」
「ぎょうぇぇぇぇ~っ!」
「女帝さまと呼ぶのー」
「あっ、二式になると女王から女帝になるんだ。 後はいらないから殺しておいて」
「判ったのー。 剛剣乱舞なのー」
「うぎゃぁぁぁ~っ!」
侯爵軍が消滅するまでには大して時間が掛からなかった。
「さて、最後の生き残りのオマル君、感想は?」
「こんな事をしておいて、無事で済むと思うなよ」
「おっ、言うねぇ」
「たとえ皇帝陛下がおいでにならなくとも、我々には貴族連合軍がある」
「具体的にどこの誰が加入しているか教えてくれる?」
「ふっ、今更怖気づいても遅い」
「ねぇねぇ、どこの誰なの? 判らないと殺しに行けないじゃん」
「お前は何を言っているのだ?」
いやいや、お前こそ何言ってんだよ。 敵を殺すのは常識だろ?




