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これ、ホントに呪いの指輪なの?  作者: 彩田(さいた)
三章 カタアギロ横災編
99/119

3-19 勝敗




 カリフとカトラがそれぞれ操る馬車は二手に分かれた。

 カリフが操る馬車はガンドの元に向かい、一人で持ち場を守ったガンドを収容した。荷台ではオグマがトルビヤとサリットの間に座り、右手をトルビヤ、左手をサリットの足首にかざし、足を切られた二人に回復術式を施していた。負傷した二人を担いで運んだトルビヤ組の二人はオグマの手伝いに当り、回収した足を切断面に押し当てる役を果たした。別邸に到着したオグマ達はトルビヤとサリットを宮総研が間借りしている一階の部屋に運んで治療を続けた。足首が辛うじて繋がった所で大柄の男と坊主の男は離れの牢屋に移されたが、女性や子供を人質として監禁する為に使われていた牢屋はマイラス邸の小屋より設備が整っていて快適だった。


 カトラが操る馬車は町を東西に分ける川にかかる橋を渡って宮総研に向かった。橋の封鎖は解除されていなかったが、カトラの激しい説得に衛兵達は涙目で馬車を通した。封鎖を突破したカトラは馬車の速度を限界まで上げ、月明かりの下を爆走する馬車の荷台でラトサリー側板につかまって揺れに耐えていた。交差点を曲がった馬車の軋む音にラトサリーは堪らず悲鳴の様な声を上げる。


「カトラ!この道でこの速さは危ないわよ!」


 カトラは後ろを見る事無く声を荒げる。


「文句があるなら今すぐ降りなさい!」


 ラトサリーは御者席の真後ろに飛び移り、御者席の背もたれを掴んでカトラに顔を寄せる。


「むっ、無茶言わないでよ!出来る訳無いじゃない!」


「それなら我慢しなさい!そもそも!これもあなたのせいなんだから!」


「なっ!なんでそうなるのよ!」


「あなたの憂さ晴らしのせいで余計に時間かかっちゃったんじゃない!我慢して待ってあげたんだから、あなたもこの程度は我慢しなさい!!」


「うっ、憂さ晴らしなんて、人聞きの悪い事言わないで頂戴!」


「憂さ晴らしじゃなければ、報復かしら?」


「うっ……」


 ラトサリーは言葉を詰まらせる。カトラは浮かべた笑みをラトサリーに向ける事無く口を開く。


「私としてはどっちでも良いけど、時間を浪費した事には変わりないんだから、我慢しなさい♪」


「っ!浪費だなんて、そんな事無いわよ!あれが確実で最短の方法だったんだから!」


「それは、あなたが自分の手で確実に復讐を果たすには、でしょ♪」


「うっ……そ、そんな事無いわよ!総合的にちゃんと考えたんだから!」


「そうね、考えたんでしょうね♪あの場で仕留めないと逃げられる可能性もあったし、罪に問う事すら出来ない可能性もあったしね。大人しく認めなさい、皆には黙っててあげるから♪」


「…………っ、わかったわよ!」


 ラトサリーはきまりが悪い顔で声を上げ、カトラから体を放して荷台にペタンと座り込む。言い負かして満足した様子のカトラは笑みを浮かべたままラトサリーに尋ねる。


「それで、どうする気?不慮の事故を装ったとは言え殺しちゃったんだから。無罪で済ます策は考えてあるんでしょうね?」


 ラトサリーは座り直しながら口を開く。


「え?考えてないわよ」


「っ?……はぁぁぁぁ??!」


 渾身の呆れ顔で振り向くカトラをラトサリーは慌てて窘める。


「っ!カトラ!前見て!前!」


我に返ったカトラは前に向き直り、改めてラトサリーに尋ねる。


「ラトサリー。あなた、本当に何も考えてないの?何か考えがあると思ったからあなたと四人が庁舎に収監されないように口を挟んだのに」


「そうだったんだ。あなたがあんな事を言ってくれるなんて思ってなかったから、どうしたんだろうって心配したのよ」


「そうね。普通だったらあんな口出ししないんだけど、人手が増えるとなれば話は別よ。しかも使い放題で奴隷扱いしても良いんでしょ♪口でも手でも何でも出すわよ♪それで?何も考えてないって、どう言う事なの?」


 ラトサリーは苦笑いしながら口を開く。


「別に、どうもこうもないわよ。大人しく謹慎するつもりよ。その間に何を優先して進めるか考えるわ」


「あなた……謹慎で済むと思ってるみたいだけど、それで済まなかったらどうする気?」


「えっ?大丈夫でしょ。対峙したマイラスが剣を振り上げたって状況を目撃した人があれだけいれば。あとは指輪のせいって事にでもすれば謹慎も無いと思うわよ」


 カトラは呆れ顔で口を開く。


「まぁ……そうならなかった時は頑張りなさい」


 そう言ってカトラは馬に鞭を入れ、宮総研へと急いだ。

運良く事故を起こさず爆走し続けたカトラの馬車は片輪を僅かに浮かしながら交差点を曲がった。最後の直線に入ったカトラは前方に目を向けると目の色を変えて鞭を強く入れる。更に加速する馬車に慌てたラトサリーは身を御者席に乗りだしてカトラに顔を寄せる。


「カトラ!いくら何でも速過ぎよ!荷台が壊れるわよ!」


 カトラは返事をする事無く馬に鞭を入れる。ラトサリーはカトラの顔に余裕が全く無い事に気付き、眉をひそめて馬車前方に目を移す。月明かりでボンヤリと輪郭を浮かばせた宮総研の門の横で小さい灯りが揺れていた。ラトサリーは笑みを浮かべてカトラに声をかける。


「サーブの方が早かったみたいね♪もう急ぐ必要ないでしょ?速度落としてよ」


カトラは舌打ちをして吠える。


「まだよ!アイツが到着した時間によっては私の勝ちよ!!」


 悔しそうな顔でカトラは鞭を更に振った。



 宮総研に向かって爆走してくる馬車が減速する気配を見せない事に気付いたサーブは灯りを片手に門を開け始める。サーブは門を全開にして馬車の到着を待った。

 カトラは宮総研の門を通る直前で急制動をかけた。馬の嘶きと共に門を通過した馬車は速度を急速に落とし、カトラは手綱と制動装置を巧みに操りながら庭の中程で馬車を停止させた。馬車から飛び降りたカトラはサーブに駆け寄りながら大声で尋ねる。


「サーブ!あなた、ここに到着したのは何時?」


「っ?何時?えっと……」


 馬車の方に小走りで向かっていたサーブは足を緩めて首を傾げ、足を止める。腕を組んで考え始めたサーブに飛びついたカトラは掴んだサーブの両腕を大きく揺する。


「何時?着いたばかり?着いてからどれ位経った?」


 サーブは手に持った油燈が揺れない様に手首を動かしながら口を開く。


「カっ、カトラさん、落ち着いて下さいっ、つっ、着いたのは結構前です」


「えっ……」


 サーブを揺すっていた手を止めたカトラは口を引きつらせ、サーブの腕から手を離してサーブに尋ねる。


「サっ、サーブ?具体的にどれ位前か教え頂戴」


「えっ、そうですね、灯りの油の具合がこれ位だから……三時間前後って所ですかね」


 カトラは俯いて膝から崩れ落ち、地面に両手を付いて項垂れる。サーブは慌てて膝をついて屈み、心配そうにカトラを覗き込む。


「カトラさん!どうしたんです?大丈夫ですか?」


「……他はないの?」


 呟いたカトラの言葉を聞き取れなかったサーブは首を傾げる。


「え?」


 カトラはガバっと顔を上げ、半泣きの顔でサーブを睨む。


「あなたがその時間に到着したって言う他の根拠よ!油の具合なんて見間違えるかもしれないじゃない!」


「えっ……そ、そう言われても、他には……」


 サーブがたじろいで尻をついて倒れた所で二人の元に辿り着いたラトサリーはサーブに声をかける。


「サーブ、どうしたの?」


「いや、それがカトラさんがっ!って!その血はどうしたのラトサリー!」


 カトラの横で足を止めたラトサリーは血で斑模様に染まった服に目を向けて口を開く。


「あ、これ?突入した時に浴びちゃっただけで、怪我はしてないから安心して」


「えっ!君も突入に参加したの?!何で?!」


 サーブは慌てて立ち上がろうとするが、腕をカトラに掴まれ動きを止める。カトラはサーブをグッと引き寄せて詰め寄る。


「後で教えるから!早く根拠を言いなさい!!」


「えっ、えーっと……」


 サーブは目を泳がせながら声を漏らし、困り顔をラトサリーに向ける。


「ラトサリー、助けて……」


「え、えぇ。それじゃぁ、カトラが言ってる根拠って何の事なのか教えて」


「それが、俺が三時間位前に宮総研に到着していた根拠を言えって言われて、灯りの油の具合からそれ位だって言ったんだけど、見間違える事もあるだろうって言われて……」


 ラトサリーは苦笑いをカトラに向ける。


「カトラ、諦めなさい。サーブがそんな事を見間違える訳が無いって事はあなたが良く知っているはずよ」


「っ、で、でもぉ……」


 諦めきれないカトラの目から涙がこぼれ落ちそうな事にラトサリーは呆れ笑いを浮かべ、膝をついて屈むとカトラに微笑みかける。


「仕方無いわね。それじゃぁ、頑張ってくれたお礼に、次回サーブが森で採取した獲物を進呈するわ。それでどう?」


「……三回分」


「それはカトラが勝った時でしょ?」


 カトラは懇願するような目をラトサリーに向ける。


「…………二回分」


「……一回分よ。エサンカさんを呼んで、サーブが到着した時間を証言してもらっても良いのよ?」


 カトラは真っ赤な顔で口を尖らせる。


「わかったわよ……それで我慢してあげるわ」


 カトラは不満気にそう言うとサーブに顔を向け、再び詰め寄る。


「それで!森で獲って来たモノはどこ?何を獲ってきたの?」


「え、っと、それなら保冷室に入れてありますよ」


 カトラは礼も言わずに飛び起きて別棟へと走りだした。呆気に取られたサーブにラトサリーは声をかける。


「サーブ。手紙の通りに狩りに行ってくれてありがとう。御陰で全て上手くいったわ」


 サーブは我に返ってラトサリーに顔を向け、心配そうな顔で改めて尋ねる。


「それで、何があったか教えてくれる?」


「わ、分かったわ。でも、その前に馬を戻しましょう」


「そ、そうだね。それは俺がやるからラトサリーは着替えてきなよ」


「そう?ありがとう、サーブ」


 二人は肩を並べて歩き出した。




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