3-18 突入3 *
この話は出血量が多いのでご注意下さい
オグマは弓を打って来る男達に大声で呼びかけ続けた。容疑者の追跡中と聞いても攻撃を止めない男達にオグマが手を焼いていると、敷地内への突入に成功したロクリフ達がやってきて説得に加わった。ロクリフの名前と声を聞いた男達は攻撃の手を止め、オグマがホッと一息ついた所に家主のマイラスが現れた。苛立った様子のマイラスは庭の彼方此方で倒れている警備兵の姿に気づくと激高し、ロクリフに食ってかかった。
オグマはロクリフにマイラスの対応を任せて遠巻きに静観していたが、ロクリフを不憫に思った衛兵の告げ口によりマイラスの前に引っ張り出された。宮総研が独断で屋敷に突入した事が明るみに出るとマイラスはオグマに凄まじい険相で詰め寄った。オグマは苦い顔で溜め息をつき、目を座らせると『殺人未遂の手配犯を追って入っただけ』との主張を繰り返した。埒が明かずに発狂したマイラスがオグマの胸倉を掴みかかろうとしたその時、マイラス達を囲む輪の外側でどよめきが起こった。
カトラとラトサリーが渦中の四人を引き連れて現れ、警備兵と衛兵の間に起こったざわつきの理由を察したオグマは大声でカトラを呼んだ。カトラとオグマの間を遮っていた者達はザっと横に逸れ、カトラはラトサリー達を引き連れて怒り狂うマイラスの元に真っすぐ進んだ。担がれたトルビヤとサリットに目を向けたマイラスはオグマが呼び込んだ人物を睨み、カトラを指差しながら怒号を浴びせる。
「お前!許可も無く俺の屋敷に入りおって!!それに!俺の部下をこんなにして!どうしてくれるんだ!!」
カトラは左手で持っていた抜き身の大剣をオグマに渡しながら後ろの四人の男達を顎で指し、息を軽く吐いてからマイラスに笑みを向ける。
「あぁ、手配犯確保を妨害した奴らね。職務妨害の現行犯って事で、後で拘束するからヨロシク♪」
「何だと!ふざけるな!!」
マイラスの怒鳴り声と共に飛んできた唾にカトラは露骨に嫌な顔をしながら一歩下がる。マイラスは袖で顔を拭うカトラに詰め寄ろうとするが、そこに抜き身の短剣を右手に持ったラトサリーが割って入る。
「あなたは警護部部長殺害を企てた罪で拘束されます、マイラス・テルティア子爵。大人しくして下さい」
マイラスはラトサリーを睨みつけて怒鳴る。
「なんだお前は!」
ラトサリーは剣を持ったまま悠然と礼をして口を開く。
「そう言えば挨拶がまだでしたね。ラトサリー・ランダレアと申します」
マイラスは眉をピクっと動かし、蔑みを込めた目でラトサリーを睨む。
「お前が例の呪われた女か。俺の家を汚した挙句に虚言まで吐きおって!タダで済むと思うなよ!」
ラトサリーは怯む様子を一切見せずマイラスの目を見据えながら口を開く。
「タダで済まないのはあなたです。四人から話は聞きました」
「はっ!何を聞いたか知らんが、そんな奴らの戯言が通るとでも思っているのか?」
「勿論です。あなたの家の中で罪人が捕縛された事実は変わらないのですから。それに」
ラトサリーはそこで言葉を止めるとマイラスの前に一歩大きく踏み込み、笑みを浮かべるとマイラスの喉元に顔を寄せて囁く。
「これから捕縛されるあなたに何が出来ると?あなたは私に捕縛されて処刑されるのですよ」
「貴様……小娘がこの私を捕らえると言うのか?」
いきり立つマイラスにラトサリーは笑みを浮かべながら鼻で笑い、更に囁く。
「えぇ。これから見下した相手に無様に屈服させられる気分は如何です?」
ラトサリーはそう囁くとマイラスの右手に目を落とす。マイラスは口をわななかせてラトサリーを睨みつける。
「……調子に乗るなよ、男爵家風情が!」
「そちらこそ、人の手を借りないと何も出来ない軟弱で貧弱なウジ虫のくせに、調子に乗らないで頂けますか?」
「きっ!貴様―――!!」
マイラスは声を荒げて腰の剣に手をかけて剣を抜こうとする。その動きをいち早く捉えたラトサリーは力の限りの声で叫ぶ。
「キャーーーーーーーーーッ!!!!」
叫ぶと同時にラトサリーは倒れる様にしゃがみ込みながら右手を振り上げる。
《 スンッ! 》
ラトサリーが右手で握っていた剣が振り上げられ、剣を振り切ったラトサリーは尻をついて倒れる。剣を抜いたマイラスは地面に転がったラトサリーが挑発的な笑みを向けてくる事にいきり立ち、剣を大きく振りかぶるが、
《 グジュリッ 》
左太腿から右胸まで切られたマイラスの切断面が開く音と共に鮮血が溢れる。
「ガッッッ!ギャーーーーーー!!!!」
マイラスの絶叫と共に臓物が地面にビチャビチャと落ち、綺麗に切られた剣を右手に持ったまま不自然に崩れ落ちたマイラスは白目をむいて体を痙攣させ始める。吹き出た血を浴びたラトサリーは目の前に転がったマイラスに目を向け、
「キャッ!キャーーーーーーーーーッ!!!!」
叫んだラトサリーはマイラスの亡骸から顔を背ける。屋敷の警備兵達は家主が惨殺された事に慌てて剣を抜き、ラトサリーを囲み始める。カトラはラトサリーの背後に身を移し、警備兵を鉄の棒で牽制しつつラトサリーに大声で呼びかける。
「ラトサリー!何やっているの!」
「けっ、剣を抜かれて!怖くてよろけたら剣が当たっちゃって!」
ラトサリーは叫ぶ様にして返事をすると左手で目を覆い、肩を震わせ始める。ロクリフは動揺しながらも警備兵とラトサリーの間に割って入り、ラトサリーに声をかける。
「あ、あの、夫人?お、お怪我はないですか?」
ラトサリーは目を覆いながら口を開く。
「どっ、どうしましょう。私、殺されそうになったとはいえ、マイラス様を……」
ラトサリーは叫ぶ様にしてそこまで言うと言葉を詰まらせ、地面に突っ伏して背中を震わせ始める。困り顔のロクリフはラトサリーとマイラスを交互に見ながら右手で頭を掻き、深く息を吐いてからラトサリーに声をかける。
「夫人。故意でないとは言え、あなたがマイラス殿を殺してしまった事は事実です。調査が済むまで拘束させて頂きます」
ラトサリーは肩をビクッと大きく震わせるとゆっくり身を起こす。
「っ……わ、わかりました」
ラトサリーはそう返事をすると左手で目を覆ったままゆっくり立ち上がる。ロクリフはラトサリーを衛兵の方に向かうように手で促すが、カトラは鉄の棒をロクリフとラトサリーの間に突き出して口を開く。
「副部長さん、自宅謹慎で良いんじゃない?正当防衛なんだから」
「っ!」
驚くロクリフにカトラは横目を向けてニヤリと笑みを見せる。ロクリフは目を泳がせ、困り果てた顔で溜め息をつく。
「…………そうですね。では、一旦そうしましょう」
「それじゃぁ、ラトサリーは私達が送り届けるわ。それと、あの四人も連れて行くわよ。治療しないといけないから」
「えっ!いや、そっ、それなら怪我をしている二人だけお願い……」
カトラはロクリフの顔を見ながら鉄の棒で足元の敷石を突く。
《 ゴッ!! 》
敷石を砕いて貫いた鉄の棒にロクリフは顔色を変えて言葉を失い、その隙をついてカトラは口を開く。
「このまま運ばせた方が効率良いでしょ?ラトサリーの住居に牢屋もあるし、良いわよね?」
「…………分かりました。お願いします」
渋々了承したロクリフにカトラは笑顔で手を振り、オグマに呼びかける。
「オグマ!行くわよ!」
オグマは呆れ顔で首を縦に振るとトルビヤ達に移動を促した。




