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これ、ホントに呪いの指輪なの?  作者: 彩田(さいた)
三章 カタアギロ横災編
95/120

3-15 行方3




 完全にやる気を出したカトラの地図への書き込み速度は上がり、ジットリと濡れたカトラの首筋に汗の雫が流れた。オグマとカリフが到着すると、カリフはラトサリーと交代して照明係を、オグマは衛兵とやり取りをする役を担った。

 ラトサリーは荷台の後方に移り、衛兵の油燈の油を補給する役をこなしながらカトラの方に目を向けていた。ラトサリーの目はカトラの頭上に浮かぶ光の球を捉えていた。光の球は大人の頭程の大きさで、光の球から放射状に伸び出る光の糸は二階建ての建物の屋根の高さで等間隔に浮かぶ小さい光の球と繋がっていた。それぞれ上空で浮いている光の球の表面からは光の粒が滲み出て町全体を覆い、光の糸は断続的に輝きを増減させていた。

 オグマとカリフが動く度に彼らの体が光の球や糸に接触するが、彼らはそれに気付く素振りを全く見せなかった。光の球と糸は彼らの体を通過するが消えたり歪んだりせず、カトラも彼らを咎める事は無かった。

 ラトサリーは索敵術式を使うカトラを観察し続けた。ラトサリーが少し気を抜くと光の粒と光の糸は見えなくなり、油の補給に意識を移すと光の球すら見えなくなった。ラトサリーの頭の中で鳴る音は光の粒が見える時に一段と多く鳴った。観察を続けたラトサリーの頭の中で八回程【 テテテッテーテーー♪ 】と鳴る音が響いたが、気を抜くと光の粒が見えなくなる事は変わらなかった。


 地図の右端に印を書き込んだカトラは手を止めるとフゥっと息を吐き、ラトサリーに尋ねる。


「ラトサリー。さっき庁舎で聞いた四人の特徴以上の情報って、何か知ってる?」


「っ……いいえ」


「そう」


 呟くように答えたカトラは地図に付けた印をペンで指し、暫し動きを止めると次の印にペン先を写した。指す印を変え続けて五カ所目でカトラは眉をピクっと動かし、ニタっと笑みを浮かべて呟く。


「見つけた♪」


 カトラは左手を首から離し、ホっと息を吐くと左手の汗を外衣で拭いてから地図の端を切り取った。切り取った地図の裏に書き込みを終えたカトラはペンを地図の上に放り捨て、火照った顔をガンドに向ける。


「ガンド。ちょっとこっちに来て頂戴」


「はっ、はい!」


 ガンドは慌てて御者席から立ち上がり、カトラの元に向かう。カトラは立膝をついて後ろ手で座り直すと地図の切れ端を右手でガンドに差し出す。


「私達は馬車で移動するから。あなたはここに留まって報告に来た衛兵に移動先を伝えて頂戴。移動先はこの紙に書いておいたから。誰かが迎えに来るか、空が明るくなるかしたら帰って良いわよ」


「わっ、わかりました」


 紙を両手で受け取るガンド。カトラは右手で湿った髪をかき上げながらラトサリーに声をかける。


「ラトサリー。ガンドに油燈と油壺を渡して」


「わかったわ」


 ガンドへの指示を聞いた段階で箱の前に移動していたラトサリーは返事をしながら箱の中から油燈を取り出し、油燈に油の充填を始める。準備が整うのを待っているガンドにカトラは右手で髪をクシャクシャとかき分けながら声をかける。


「ガンド、どうしたの?早く降りなきゃ」


「えっ?」


 満面の疑問顔を見せるガンドにカトラは笑いを堪えながら口を開く。


「……えっ?じゃないわよ。状況と指示を考慮して次に何をすべきか考えなさいって教えたでしょ?あなたは馬車から降りて一人でここに留まるの。ここに留まると聞いた時点か、油燈と油壺を用意するって聞いた時点で馬車から降りる動きを見せる位にならないとダメよ」


「えっ!そ……す、すみません、わかりました……」


 狼狽えながら返事をしたガンドは寂しげに荷台から降りる。笑みを浮かべてフゥっと息を吐いたカトラはガンドの背中に目を向けながらカリフに声をかける。


「カリフ、地図を持ってあっちの馬車に移って。移動後は衛兵達への指示出しをやって頂戴。配置は地図に書いておいたから、チャっと終わらせてパっと帰るわよ」


「分かりました」


カリフは平然とした様子で答えると油燈を持って立ち上がり、オグマはカリフが立ち上がると同時に立ち上がってカトラに声をかける。


「俺はこっちの馬車だな?」


「えぇ、お願い」


 カトラは首筋を裾で拭きながら返事をし、オグマはガンドに心配そうな目を向けながら御者席に向かう。カトラの指示出しを見て肩をすくめたラトサリーは油燈と油壺を荷台の上からガンドに差し出しながら微笑みかける。


「ガンドさん。カトラが持ち場を託したと言う事は、ガンドさんの事を評価していると言う事ですからね」


「っ!はっ、はい♪」


「一人で心細いと思いますけど頑張って下さいね」


「はっ、はい!ありがとうございます!」


 すんなりと立ち直ったガンドは笑顔で返事をしてから馬車から一歩離れる。安堵したラトサリーは荷台後方に戻って予備の油燈と油壺の固定を確認してからカトラに声をかける。


「カトラ、動かして大丈夫よ」


「わかったわ」


 気だるげに返事をしたカトラは四つ這いで側板に向かい、側板に腕をかけるとオグマに呼びかける。


「オグマ、出して頂戴」


 カトラの声を受けてオグマは馬に鞭を入れ、カリフが操る馬車が後に続いた。カトラの隣に座ったラトサリーは顔をカトラの方に向けて微笑みかける。


「カトラ、ちゃんと室長やってるのね♪」


「へ?」


 予想外の内容に変な声を出すカトラ。ラトサリーはにこやかに言葉を続ける。


「ガンドさんよ。あなたの事だから新人教育はオグマさんとカリフさんに丸投げしてるんだと思ってたから」


 カトラは苦笑いしながらラトサリーを睨む。


「あなたねぇ……私だってやる事はちゃんとやるわよ」


「そうみたいね。でも、先読みして動けだなんて、ちょっと厳しくない?ある程度経験を積まないと出来ないと思うけど」


 カトラは目をパチリとさせると、ニヤっと笑い返す。


「先読みして灯りの準備を始めた人に言われても、説得力無いわぁ♪」


「えっ、だ、だって、私は、あ、あなたと過ごした時間が長いし……」


 口を引きつらせながら言い淀むラトサリー。カトラは嬉しそうにラトサリーの目を覗く。


「長いって言っても数カ月程度の差じゃない?」


「えっ……」


 言葉を失うラトサリー。困り顔のラトサリーを堪能したカトラは肩をすくめ、ラトサリーから目を外して口を開く。


「これでも結構加減してるのよ。残ったガンドにまで逃げられたら、オグマにバチボコ怒られちゃうから」


「あぁ……そ、そうね……」


「でも、この先を考えると、……ねぇ?」


「そっ、そうね……ま、まぁ、程々にしてあげてね。それで、どこまで移動するの?」


「潜伏先の家の手前の広い道よ。人数が揃ったら、一気に囲んで突入するわ♪」


「いっ!一気にって!ちょっと待ってカトラ、そこは慎重にいきましょうよ」


 慌てるラトサリーにカトラはムスッとした顔を向ける。


「慎重にって、どうヤるのよ?」


「えぇ、二手に分かれて、馬車の組が潜んでいる家の正門で捜索させろって騒いで、注意を引き付けている間に術式で姿を隠して侵入したカトラ達が四人を生け捕り、って感じよ」


「何よソレ、私、そんな凄い術式使えないわよ」


「えっ!?だって、カトラ、あなた孤児院で水の球を術式で隠してたじゃない」


「あぁ、あれね。私が隠せるのは両手で覆える位の範囲までよ。全身なんてとても隠せないわ」


「そ、そう……でも、あなたなら見つからずに侵入出来るでしょ?」


「えー!複数人で潜入なんて面倒じゃない。それに時間もかかるし、却下よ却下♪」


「えっ!でも!証拠も見せずに突入なんてしたら問題になっちゃうわよ!」


「大丈夫よ、そう言う時のやり方ってモノがあるのよ」


「でもっ!死人とか出しちゃったらどうするのよ!」


 手を振って力説するラトサリーにカトラはニヤリと笑みを見せる。


「そこは後で上手く情報操作するのよ♪それにラトサリー、あなた、得意でしょ、情報操作♪」


「えっ、そ、そんな事ないわよ、変な事言わないで頂戴」


 勢いを削がれたラトサリーの肩に手を添えてカトラは嬉しそうに笑いかける。


「まぁ、任せておきなさい♪」


「……分かったわよ。でも、四人は絶対に生きたまま捕まえてね」


「え?絶対って……」


「お願い。生きたまま私の前に連れて来て」


 微笑みながらカトラの言葉を遮るラトサリー。カトラは背筋に走った寒気で思わずラトサリーの肩から手を離す。


「…………善処するわ♪」


 苦笑いを浮かべて答えたカトラは肩をすくめ、ラトサリーの肩をポンっと叩いた。



 二台の馬車は月明かりで明るく照らされた広い道を進み、目的の家がある通りの二つ前の交差点で止まった。カトラは隣の馬車に移り、カリフに作戦と人員配置の説明を始めた。説明を終えたカトラがラトサリーの横に戻って座った頃合いで三組の衛兵達が馬車の後ろに到着した。カリフは二人の衛兵に馬車を渡し、増員要請の為に庁舎へと向かわせた。

さらにカリフは衛兵二人に地図を広げて持たせ、残りの衛兵達に配置の指示を出し始めた。続々とやって来る衛兵達にもカリフから配置の指示が出された。指示を聞き終えた衛兵達は馬車の前方での待機が言い渡されたが、全員が不安と困惑を顔に浮かべていた。


 待機している馬車の上でラトサリー達は突入の準備を整えた。防具一式を装着したラトサリーはカトラから大剣を渡され、持参していたパラマカッディはカトラに奪われた。長い白衣を脱いで膝当てと肘当てを着けたカトラはパラマカッディを剣帯に装着し、長い鉄の棒を手にして出発を待った。

やがてカリフの声が辺りに響き、衛兵達が列をなして駆け出し始める。カトラは片膝をついて座り直し、ラトサリーに声をかける。


「ラトサリー、列の最後尾に続いて動くわよ」


「えぇ」


 ラトサリーの顔に緊張が走った。




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