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これ、ホントに呪いの指輪なの?  作者: 彩田(さいた)
三章 カタアギロ横災編
92/119

3-12 指摘2




 サーブはラトサリーを待つ間にその場で出来る鍛錬をしようと思ったが、ミラテースの目が気になって大々的に行えずにいた。椅子に座った状態から尻を僅かに浮かせたサーブは目立たない鍛錬方法を思案していたが、余り時を置かずにラトサリーが薄っすらと目を開いた事に慌てて椅子をガタつかせる。ラトサリーは左手を左頬に当てたまま薄っすらと開けた目をサーブに向ける。


「サーブ、話の前に頼みがあるの」


「な、何だい?」


「今から庁舎の副部長さんの所に行って、こう言って欲しいの。『毒矢を打たれて剣を向けられた』って」


「え?良いけど、そう言うだけで良いの?」


「えぇ。それで、副部長さんに聞かれた事には思った事を正直に答えて、副部長の反応をしっかり記憶に留めて、それから戻って来て」


「わ、分かった」


 サーブは少し不思議そうな顔で立ち上がり、部屋を出て行った。ミラテースはアドエルを抱きかかえながらラトサリーに呆れ顔を向ける。


「アンタ、そうやって人に面倒な事を押し付けるわよね」


 ラトサリーはミラテースに顔を向ける事無く口を開く。


「それはそう見えるだけよ。それに、問題はここからよ」


「何よ、まだ何かある訳?」


「えぇ……ちょっとね……」


「ふーん……そう……」


 ミラテースはそう言うとアドエルを抱えたまま立ち上がる。


「それじゃぁ、私達は中庭に行ってるから」


「わかったわ、いってらっしゃい」


 二人を見送ったラトサリーは再び目を閉じ、左頬を左人差指でポンポン叩き始めた。





 警護部の事務室の奥の部屋でロクリフは書類仕事を粗方終え、お茶を飲んで休憩していた。そこに戻って来たサーブを見てロクリフは目をパチクリさせてカップをテーブルに置き、不思議そうな顔をサーブに向ける。


「部長?どうされました?忘れ物ですか?」


「いえ……違います……家の者から……ここに行くように言われまして……」


 何やら歯切れの悪いサーブにロクリフは首を傾げる。


「家の?って、歓迎会はもう終わったのですか?」


「いえ……それが……その……」


 はっきりしないサーブにロクリフは眉間にシワを寄せて口を開く。


「部長?どうされたのですか?遠慮していないではっきり仰って下さい」


 ロクリフの圧にサーブは慌てて口を開く。


「あっ、あのっ、それが、ど、毒矢を打たれて……」


「はぁ!?毒矢!?」


 驚いて聞き直すロクリフにサーブは苦笑いを見せる。


「え、えぇ、毒矢です……」


 ロクリフはサーブの体に目を向け、無傷である事に安堵の息を吐く。


「ご無事で何よりです。それで、犯人は捕まえたのですか?」


「いえ、それはまだですが……」


「えっ!まだですか!?」


 険しい顔でそう言ったロクリフはガバっと立ち上がると掃き出し窓に駆け寄り、窓を開けてベランダに出ると壁に垂れる綱を引く。


《 カンカン……カンカンカン……カンカン……カンカンカン…… 》


 独特な間隔で鳴らされる鐘の音が庁舎に響く。すると、時を置かずフレアが扉を叩く事無く部屋に飛び込んできてそのままベランダに向かう。フレアはサーブを一瞥するが足を止めず、ベランダに足を踏み入れると同時にロクリフに向かって声を張る。


「どうしたんですか?!外周防壁の門封鎖だなんて!」


 ロクリフは鐘を鳴らし続けながらフレアに顔を向ける。


「フレア、門衛に渡す緊急指名手配書を作る準備をしてくれ。容疑は殺人未遂だ」


「っ!殺人未遂!?わっ、分かりました!」


 目を丸くして返事したフレアが駆け足でロクリフの元を去ると同時に、庁舎の鍾塔の鐘がロクリフの鳴らした鐘と同じ律動で鳴り始める。野太い鍾塔の鐘の音を聞いたロクリフは鐘を鳴らすのを止めて部屋に入ると窓を閉め、サーブに顔を向ける。


「それで、犯人の顔は覚えてますか?」


「そっ……それが……」


「そうですか、見えませんでしたか。それでは衣服か体格か、覚えている事を教えて下さい」


「そっ、それが……サリットさんが……あの……」


「サリット?あぁ、トルビヤ主催の歓迎会って言ってましたよね。なるほど、犯人の姿を見たのはサリットだけですか。分かりました。サリットに衛兵を合流させますので、サリットが何処に向かったか教えて下さい」


「いっ、いえ……違うんです」


「え?違うって、トルビヤ達が犯人を追跡して、部長は門を封鎖する為にこちらに来られたのでは?」


「い、いや、それが……矢を打ったのがサリットさんで……」


「えっ!……っ、そ、それじゃぁ、サリットの追跡はトルビヤ達がしているのですね?それなら……」


 動揺しながらも対策を考えようとするロクリフの言葉をサーブは困り顔で遮る。


「いや、それが、トルビヤさんには剣を向けられまして……」


「えっ!!」


 酷く動揺するロクリフ。サーブは慌てて言葉を続ける。


「いやっ、そんな驚く事ではないんですよ。誰でも簡単に避けられる程度でしたし。多分、手荒な歓迎って所なんだと思いますから。カタアギロではそんな感じだったり……」


 サーブの言葉をロクリフの怒号が遮る。


「そんな歓迎はありません!!」


「ハイ!スミマセン!」


 思わず謝るサーブ。ロクリフはサーブを睨みつけるが、目を閉じて深く息を吐くと再び目を開いてサーブにしかめっ面を向ける。


「それで?部長を襲ったのはその二人って事ですね?」


「い、いや……あと二人……」


「っ!……アイツら……」


 ロクリフは頭を押さえてそう吐き捨てると頭を掻きむしりながら扉へと進む。扉を開けたロクリフは顔だけ部屋の外に出して声を張る。


「おいフレア!犯人はトルビヤ組の四人だ!急いでくれ!」


「はっ……はぁ?!トルビヤ組?!!何があったんです?!」


「話は後だ!急いでくれ!」


「わっ、分かりました!」


「頼んだぞ!それと、ラバン!……おいラバン!……ラバン!どこだ!」


 返事が無い事にいきり立つロクリフにフレアは声をかける。


「副部長。ラバンなら門に遣わす人員を引きつれて早馬の手配に行きました」


「そっ、そうか。分かった」


 落ち着きを取り戻したロクリフは扉を閉め、サーブに顔を向ける。


「部長、申し上げたい事があります」


 ロクリフの気配にサーブは思わず姿勢を正す。


「はっ、ハイ!何でしょうか?!」


 緊張感を漂わすサーブにロクリフは表情を僅かに緩め、長椅子を手で指しながら口を開く。


「とりあえず、お座り下さい」


「は、はい」


 ロクリフはサーブが座った長椅子の左隣の椅子に座り、困り顔で口を開く。


「部長、今後の事を考えて申し上げますが」


「は、はい、何でしょうか?」


「部長は……ご自分の能力の高さに起因していると思われますが、普通を知らなすぎです」


「えっ!」


 驚くサーブに溜め息を軽くついたロクリフは呆れ顔で言葉を続ける。


「レスタ殿との訓練の話を聞いた時に薄々感じていたのですが……例えばですね、今回みたいにサリットに弓で狙われてトルビヤ達に剣を向けられたら、普通はどうなると思います?」


「え?……そうですね……」


 サーブは険しい顔で首を傾げ、先だってミラテースに言われた事を思い返し、口を開く。


「怒ると思います」


「不正解です、普通は死にます」


「っ?え!いやいや、狙ってますって気配をあれだけ出されたら、誰だって簡単に避けますし、あんな防いで下さいって言わんばかりの大振り、誰だって簡単に防げますよ!」


 慌てた様子のサーブにロクリフは呆れ具合を増して口を開く。


「だから……普通は気付かないんですよ、その気配ってモノを」


「えっ!いやいや、そんな事は無いですよ、気付きますって」


「そんな事あるんです!気付かないんです!!それに!剣も防ぐのは簡単じゃないんです!!」


 そう言い放たれたサーブは言葉を失う。その様子を目の前にしたロクリフは呆れ顔のまま口を開く。


「いいですか?部長がこの程度なら誰だって出来るだろうと思っている事を普通の人は出来ないんです。それを自覚して改めて頂かないと、今後行われる部長主導の訓練で全員あなたに壊されてしまいますし、任務で部下が大量に死ぬ事になります」


「えっ!いやっ、大量にって、そんな……」


 納得いかない様子のサーブにロクリフは溜め息をつき、苦い顔で口を開く。


「例えばですよ、部長。部長の謹慎が解かれた初日に処理した書類の量を思い出して下さい。部長はあの量を昼前に終わらせる事が出来ましたよね?」


「えっと……そうですね」


「分担量を決めたのは私ですが、あの量は、新任の若者が半日で処理出来る量はどれ位か考えてあの量だったんです。ですが、私が半日で処理できる量を基準にして、新人の若者ならその半分で大丈夫だろうと考えたら、どの位の量になったと思いますか?」


「そ、そうですね……あの量の……三倍……いや、四倍……」


「六倍です」


「っ!……そ、そうですよね……」


 ロクリフは少し前のめりになって口を開く。


「そう言う事です。自分が余裕で出来る程度から差し引いてこれ位なら他の人もそれなりに出来るだろう、そんな考え方がどれ程危険か、お分かり頂けましたか?」


「は……はい」


「それは良かった。では、今後は各分野での標準と言うモノを学んで、くれぐれも自分の基準を他人に当てはめないようになさって下さい」


「はい、スミマセン……」


 捻り出したかの様な声で詫びを入れたサーブは肩を落として項垂れる。ロクリフはフゥっと息を吐いて背もたれに寄りかかり、困り顔でサーブに声をかける。


「それで、トルビヤ組の捜索ですが、部長はどうされますか?参加なさいますか?」


「そ、そうですよね……」


 サーブはそう呟いてから顔を上げ、申し訳なさげに口を開く。


「それが、家の者から『毒矢で撃たれて剣を向けられたと言って、ロクリフさんの反応を記憶に留めてから戻って来るように』と言われてまして……」


「そ……そうですか……分かりました。では、捜索は手順通り進めておきますので、部長は戻られて下さい」


「すみません、よろしくお願いします」


 頭を下げたサーブは立ち上がり、扉へと歩き出す。ロクリフはサーブを見送りながら立ち上がって腰を捻ろうとするが、足を止めたサーブに声をかけられる。


「あの、ロクリフさん。お願いしたい事があるのですが、良いですか?」


 ロクリフは腰を戻して口を開く。


「っ?何でしょう?」


「あの、役職ある人が襲撃された時って、普通は何日か護衛がつきますよね?それを無しにする事って出来ませんか?」


 ロクリフは目を丸くして固まるが、直ぐに笑みを浮かべて口を開く。


「大丈夫ですよ。では、その人員分は捜索に加えます」


「そうですか♪ありがとうございます♪」


 サーブは笑顔で頭を下げて部屋を出て行こうとするが、ロクリフはサーブを呼び止める。


「部長!」


「っ、なんでしょう?」


 慌てて足を止めて振り返ったサーブにロクリフは朗らかな顔を向けて口を開く。


「私の話を受け入れて下さり、ありがとうございます」


 そう言って頭を下げるロクリフにサーブは慌てて頭を下げ返し、部屋を後にした。ロクリフはサーブが閉めた扉に目を向け、ボソっと呟く。


「黒幕殿に上手く使われたか……」


 そう言って苦笑したロクリフは剣を装着してフレアの机に向かった。




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