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これ、ホントに呪いの指輪なの?  作者: 彩田(さいた)
三章 カタアギロ横災編
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3-11 指摘




 サーブはラトサリーに笑顔を向けながら話の続きをしようとするが、ミラテースが自分に向かって歩いて来た事に気付くと口を止めてミラテースを見上げる。ミラテースの顔は一見無表情に見えてその目は人の心臓を凍らせかねない程の冷たさが漂っていた。サーブは慌てて背筋をピシッと伸ば、ミラテースに体を向けると両手を膝に当てて座り直す。ミラテースは爪先をサーブの爪先に当てる様にして足を止め、腕を組んでサーブを見下ろしながら口を開く。


「アンタ……それが本当に歓迎だって思ってる訳?」


「えっ?」


 サーブは目を泳がせると、少しホッとした様子で口を開く。


「え、えぇ。王都でも違う係に移る度にそんな感じでしたし」


「それじゃぁ、王都でも歓迎で矢を打たれたり毒を使われたりしたって事?」


「えっ……いやぁ、毒矢は初めてですけど……カタアギロですから、それ位が普通なんじゃないですか?」


 笑顔で答えるサーブにミラテースの殺気が跳ね上がり、サーブの笑顔が再び固まる。ラトサリーは左手を頬に当てたまま静かに立ち上がり、アドエルの元に足音を立てずに向かう。ミラテースは固まっているサーブを見下ろしたまま静かな口調で尋ねる。


「アンタ……今回と同じ歓迎をラトサリーがされたら、それも『カタアギロだから』と言って笑いながら人に話す訳?」


「っ……」


 サーブは言葉を詰まらせ目を泳がせ始める。ミラテースは舌打ちをすると組んでいた腕を解いて前かがみになり、右手でサーブの襟をつかむ。サーブの眼前に顔を寄せたミラテースは囁くようにして尋ねる。


「アンタ……アドエルが今回のアンタと同じ歓迎をされても、それでも『カタアギロだから』と言って笑いながら人に話すの?」


 サーブはミラテースから目を逸らし、口元を引きつらせる。


「っ……で……でも俺、今まで歓迎ってそういうモノだって思ってたから……」


「は?……じゃぁ、ドートルって人の所もそんなだった訳?」


 呆れた口調で尋ねるミラテース。サーブは目を逸らしたまま溜め息をつく。


「ドートル部長達は……酷い目に遭いましたよ。死ぬかと思いました」


 ミラテースは予想外の返事に首を傾げ、襟を掴んだままラトサリーに顔を向ける。アドエルの隣に座ったラトサリーも予想外の答えに目を丸くしていた。ミラテースはサーブの襟から手を離して身を起こし、腕を組んでサーブを見下ろしながら眉をしかめる。


「死ぬって、何があったの?」


 サーブはゲンナリした様子で口を開く。


「いや、あんまり思い出したくないから……」


 ミラテースはサーブの足首を軽く蹴る。


「良いからっ、話しなさい」


 ミラテースの圧に負けたサーブは溜め息混じりに話し始める。


「いや……酒場で歓迎会って言われて、着いて直ぐに飲み比べさせられて……何人か倒して副部長と対決した覚えはあるんだけど……気付いたら家で朝になってて……頭が痛かったけど非番だったから良かったと思って寝てたら、昼頃に迎えが来て……歓迎会の打ち上げだって言われて酒場に運ばれて……」


 ミラテースから怒気が抜けていく。そんなミラテースの変化に気付かないサーブは深い溜め息をついて続きを語る。


「また飲み比べさせられて……何人か倒して……気付いたらまた朝になってて……頭痛くて気持ち悪いけど仕事に行ったら、次の日じゃなくて翌々日になってて……それなのに『今日はもう良いから打ち上げの打ち上げだ』とか言ってまた酒場に運ばれて……」


 ミラテースは呆れ果てた顔でサーブに尋ねる。


「それで?打ち上げの打ち上げで、何人倒したの?」


「いや……その時は……何人か……倒した記憶はあるんですけど……」


 ミラテースは苦笑いしながら右手で頭を押さえる。ラトサリーはホッと息をついて朗らかな顔でサーブに声をかける。


「何よ、楽しそうじゃない♪」


「っ!全然楽しくなんかないよ!本当に死ぬかと思ったんだから!」


 顔を歪めてそう言うサーブにミラテースは苦笑いを向ける。


「わかったわ。わかったから。だから、これからする私の話を聞きなさい」


 ミラテースはそう言うとクルっと身を翻してサーブから離れ、ラトサリーが先程まで座っていた椅子に腰をかける。ミラテースは足を組んでから右手で首を摩り、困り顔に笑みを浮かべて口を開く。


「サーブ。アンタが良い人だって事は分かってる。でも、普通を知らなすぎるわ。そのせいで今回の事が大問題だと気付いてない」


「ふ?普通、ですか?」


「えぇ、そうよ。だから、これからアンタには普通ってモノを学んでもらうわ。アドエルが危険な目に遭わない為にも、徹底的に学んでもらうわよ」


「は……はい。でも、俺、そんなにダメですか?」


 少しムッとしてそう言うサーブをミラテースは冷たい目で睨む。


「アンタ……それ、本気で言ってる訳?」


「っ!」


 サーブの背中を悪寒が襲う。ミラテースはサーブが怯んだのを見るとラトサリーに目を向け、ラトサリーに尋ねる。


「ラトサリー。知り合いが弓を打ってきて、その矢に毒が塗られていたら、その行いに善意を感じる?」


「そうね……全く感じないわね。悪意しか感じないわ」


「そうよね。普通はそんな感じよね」


 ミラテースはそう言うとサーブに目を向ける。


「でもサーブ、アンタはそれを『手荒な歓迎だ』、そう思ったのよね?」


「え……そう……です。でも、王都でもナイフとか、色々飛んできましたけど、簡単に避けられる様な緩い投げ方でしたし……」


 ミラテースはサーブを指差してサーブの言葉を遮る。


「問題はそこよ」


 サーブは『そこ』が何か分からず首を傾げる。察しの悪いサーブにミラテースは苦笑いして口を開こうとする。しかし、ラトサリーが左手を頬から離した事に気付いたミラテースは眉をひそませラトサリーに笑いかける。


「ラトサリー……アンタ、また私にコイツを押し付けて楽をしようって訳?」


 ラトサリーは肩をピクっとさせて目を泳がせ始める。


「えっ?……何言ってるの?」


 ラトサリーの狼狽え具合を見たミラテースは口角を上げてユラっと立ち上がり、ゆっくりラトサリーへと歩み寄りながら口を開く。


「そういえばアンタ、この前も私を上手く使ってくれたわよね……本当に、良い根性してるわね……」


「こっ……この前って、何の事かしら……」


 目を逸らして答えるラトサリーの前で止まったミラテースは身を屈めてラトサリーの顔を覗き込み、囁く。


「今日はアンタがやりなさい」


「は……はい」


 顔を引きつらせたラトサリーは上ずった声で返事をする。ミラテースは身を起こすと満足気に笑みを浮かべて口を開く。


「ほら、サッサと行きなさい」


 ミラテースはそう言うとラトサリーの足首を軽く蹴り、ラトサリーを見下ろしながら顎でサーブを指す。ラトサリーは困り顔で立ち上がるとミラテースが先程まで座っていた椅子へと向かい、椅子を両手で持ってサーブの隣に向かう。椅子をサーブの隣に置いたラトサリーは椅子に座り、サーブに困り顔を向ける。サーブはラトサリーに困惑した顔を向ける。


「ねぇラトサリー?俺、そんなにダメな訳?」


 困り顔をしていたラトサリーだったが、サーブのその言葉を聞くと思わず苦笑いする。


「いっ、いいえサーブ。ダメではないの。ダメじゃないんだけど……」


「……だけど、何?」


「えーと……何て言ったら良いかしら……この後の対策もあるし……ちょっと待ってくれる?」


 ラトサリーはそう言うと左掌を左頬に当てて目を閉じ、左人差指で左頬をポンポンと叩き始める。サーブはラトサリーが目の前で深く考え始めたのを見て困惑した顔をミラテースに向ける。


「あのっ、俺の問題って、そんなに大変な事なんですか?」


 問われたミラテースは顔を大きく引きつらせて失笑した。




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