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これ、ホントに呪いの指輪なの?  作者: 彩田(さいた)
一章 王都編
9/98

9:実験開始 粘液 砥石





 部屋に入ってきた研究員達に向かってノートは声をかける。


「では、これより指輪外しに取り掛かる。順番は先日くじで決めた通りじゃ。見事外す事に成功した組には所長から素敵なご褒美があるぞぃ、気張っていけぃ!!」


「「「はい!!!」」」


「あ、ちなみにワシも参加するからのぅ、ワシに順番を回さんように頑張るのじゃよ♪」


「「「……はーい」」」


「と言う事でじゃ、所長、ワシは準備の為に少し席を外させて頂くぞぃ」


「わかりました、ノート先生。こちらは私が見ておきますので」


「ちなみに、ワシが成功しても素敵なご褒美は貰えるのかの?希望を言っても良いのか?うへへ♪」


「……却下。と言いたい所ですが」


 渋い顔で答えるフレールだったが、神妙な顔になりノートに頭を下げる。


「……先生、本気でお願いします」


 ノートは軽く溜め息をつき、フレールに渋い笑みを向ける。


「所長よ、ワシらが暗くなっていたらお嬢ちゃんが不安になるであろう……いつも通りの明るい所長でいなさい」


「そうですね……すみません先生」


「で、ワシの希望通り踏んづけて折檻してくれるのかのぅ???」


「……すみません先生、処刑していいですか?」


「ヒィィご勘弁をぉぉ!!」


 そう言って逃げるように部屋から出ていく副所長を皆が白い目で見る中、フレールは呆れたように笑いながら研究員達の方を向く。


「テーブルと椅子の準備をして頂戴♪」


 フレールが指示すると、研究員達は持ち込んだ小さく頑丈そうなテーブルと丸椅子を大きなテーブルの近くに移動させる。


「さぁラトサリー、こっちに来て♪サーブはそこで見てなさい」


 フレールに言われるままラトサリーは丸椅子へ移り、サーブは椅子の向きを変えて座りなおす。ラトサリーが座った所でフレールは研究員達に声をかける。


「では、くじ引き一番手の組。前へどうぞ♪」


 呼び掛けに応えて進み出る二人。一人は手に壺を、もう一人は桶と手拭いを持ち、壺の中身の説明を始める。


「こちらは、とある生き物の粘液で作った液体です。こちらを潤滑剤として使用します」


 ラトサリーは二人に残念そうな顔を向ける。


「すみません、とある生き物とはナマズとかカタツムリとかですか?油や化粧水も含めて潤滑剤は試しました……」


 そう聞いて多少険しい表情を見せる研究員だったが、一人が気を持ち直し不敵な笑みをラトサリーに向ける。


「粘液をそこまで試していたとは、中々やりますね……ですが今回用意したのは特殊な製法で作られた物ですから、試す価値はあると思いますよ」


 そう言って研究員は壺をテーブルに置き蓋を開ける。壺から生臭い異臭が漂い出し、ラトサリーが顔をしかめると同時に【 ティロン♪ 】と彼女の頭の中で音がする。


「そ、そうですね……試さないとですよね……」


「そうですよ♪さぁ、まずは壺に手を入れて十つ数えるまでそのままにして下さい」


 ラトサリーは覚悟を決めて右手をテーブルの上の壺に手を入れ、ネッチョリした感触に眉をひそめ口元を引きつらせながらゆっくり数える。手を引き上げ濡れたままの右薬指の指輪を左手で摘まみ粘液をすり込むように指を動かす。ニュチャニュチャっと言う音と感触を我慢し、しっかりすり込んだ所で指輪を外すように力を加える。

【 デロデロデロデロデン 】

 外れない時の音が聞こえたのでラトサリーは溜め息をつき研究員に告げる。


「……ダメみたいです」


 その言葉を聞いたフレールは声を上げる。


「第一組、残念!失敗!!」


 フレールの宣言に二人は肩を落とし、手桶の上でラトサリーの手を洗い手拭いで拭いてから研究員達の後ろへ戻っていく。壺を持っていた別の三組も落ち込んだように後ろに下がっていく。研究員達の動きを見てフレールは口を開く。


「潤滑剤の組は断念という事ね、では別の案の次の組、前へどうぞ♪」


 次に進み出た三人組の一人は小脇に小さい箱を抱え、その男は他の研究員と違い体格が良く筋肉質で職人のような服を着ていた。研究員の服を着た男は一歩前に出て説明を始める。


「今回は城内の武具管理部から助っ人を呼んで参りました。最高硬度の武器を研ぐ道具で指輪を削ってみようという計画です。削り落とす最後の方だけ少し痛いかもしれませんが我慢して下さい」


 削ると聞いてラトサリーは残念そうな顔で職人に質問をする。


「すみません、町の金物屋さんにヤスリで削ってもらってヤスリの方が削れてしまったのですが、大丈夫ですか?」


 職人は少し考え、質問を返す。


「嬢ちゃん、どこの町の金物屋だい?」


「城から東に行ったラークヒルのスレインさんという金物屋さんです」


 職人は苦い顔になり、二人の研究員に小声で相談し始める。


「おぃ、スレインって俺の兄弟子だぞ。あの人のヤスリでダメとなるとマズイぞ……」


「そこは何とか試してみるだけでもお願いします……」


「試すのは良いけどよぉ……この砥石、かなり高価だけど弁償してくれるのか?」


「高価って、いかほど?……」


「…………」


「「……!!!!」」


 研究員二人は申し訳ない顔を所長のフレールに向け何かを訴えかける。フレールは視線に気付き溜め息をつく。


「いいわよ、今はケチな事を言っている場合ではないし」


 研究員二人の顔はパァっと明るくなり、二人は職人に準備するよう促す。職人は箱をテーブルの手前に置き、箱から出した布をテーブルに敷き、砥石を手に取ってからテーブル中央を指差す。


「嬢ちゃん、指輪が嵌っている手をこの上に乗せてくれ」


 職人にそう言われ、ラトサリーは右手を大きく開き、手の平を下にしてテーブルに手を置く。


「ふーむ……これだと削りにくいかなぁ……嬢ちゃん、手を持たせてもらって良いかな」


「は、はい」


 ラトサリーが手をテーブルから少し浮かせると、職人は取り出したもう一枚の布をラトサリーの手首に巻いて結んで留める。テーブルに敷いた布を職人は自らの左手にフワっと被せ、その手でラトサリーの右手薬指を掴み、指輪を削りやすい位置で固定する。


「では、始めるぞ。削って指輪の傷が薄くなるかどうか見てみよう」


 そう言って職人は水の術式で砥石を湿らせながら丁寧に砥石で削り始める。数刻削り続け、職人の手にある布から水が滴り始めた頃、職人は表情を曇らせて手を止める。ラトサリーの手を離した職人は砥石の研磨面を指でなぞると大きな溜め息をつく。


「だめだ、砥石が完全に負けてやがる……」


 吐き捨てるように失敗を伝えた職人の後ろで研究員二人は肩を落とし、それを見たフレールは声を上げる


「第二組、残念!失敗!!」


 研究員と職人は濡れたテーブルとラトサリーの右手を拭いて撤収していく。うなだれる研究員に砥石を突き付け何か言っている職人の横から次の順番の研究員が進み出た。




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