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これ、ホントに呪いの指輪なの?  作者: 彩田(さいた)
三章 カタアギロ横災編
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3-8 発注交渉




 総務部に赴いたサーブは受付の女性に声をかけ、作成した書類を両手で渡す。女性は笑顔で書類を受け取り、書類に目を通し終えるとサーブから目を逸らしながら立ち上がりサーブに何も告げないまま奥の部屋に駆け込む。一人取り残されたサーブは首を傾げ、一歩下がって総務部の部屋の様子を眺め始める。そうして、サーブが周囲を眺める事に飽きた頃合いで女性が早足で戻って来てサーブに声をかける。


「お待たせしました。あちらの奥の部屋にお入り下さい。話の続きはエーグリ部長がなさるとの事です」


「はっ、はい。ありがとうございます」


 サーブは女性に頭を下げ、手で示された部屋へと向かう。事務員達が何やら目を向けてくるのを気付かない振りをしながら扉の前に辿り着いたサーブは扉を叩く。


「どうぞ」


 扉の向こうの男性の声を受けてサーブは扉を開き、部屋に入る。部屋の奥の机から立ち上がったエーグリは部屋の中央にある応接用のテーブルに向かいながらサーブに声をかける。


「そちらにお座り下さい」


「はっ、はい」


 サーブはエーグリから手で示された長椅子に腰をかけ、エーグリはサーブの対面の椅子に座った。エーグリはテーブルの上に書類を丁寧に並べ、サーブに顔を向ける。


「サーブ殿。発注依頼書、拝見致しました。あなたが僅か一週間でロクリフ副部長を説得してここまで話を進めて来るとは、正直驚いています」


「え?どういう事ですか?」


 戸惑うサーブにエーグリは微笑みながら口を開く。


「今回の話は結構な金額が動く話でしたので、ロクリフ殿を納得させる事が出来ずに依頼書の作成まで辿り着けないか、上手くやっても来年以降だろうと思っていたもので」


「そ、そんな大変な話だったんですか?王都ではこれ位の話は直ぐに動いてくれていたのですが」


「っ、それは王都だからですよ。それと、それはあなたが王都の警護部で重宝されていたと言う事なんだと思いますよ」


「え?そうなんですか?確かに警護部の皆さんには良くはしてもらっていましたが、重宝されていたと言われましても……」


「やはりあなたはそう言う事に気付かない人ですか……」


 エーグリはそう言って苦笑すると足を組んで座り直し、真面目な顔で口を開く。


「まぁ、その話は別の機会にしましょう。今回はこの発注の件です。依頼では練習用の武器全てとの事ですが、どれだけあるか把握されているのですか?」


「はっ、はい。短剣が五十、長剣が四十、大剣が十、槍が四十、斧が五、大斧が一、訓練場の保管部屋にあった武器はこれで全てです」


「それで、全てを交換する必要があるのですか?」


「えっ……っと……ですね……はい。理由はそちらに書いてある通りです」


 サーブは書類を手で指し、エーグリは書かれている申請理由に目を向けて苦笑いする。


「これをあなたに言われると、我々としては苦しいですな」


 そこには『ケルマー配下の者に手も足も出なかった脆弱な戦力の底上げの為』と書かれていた。エーグリは苦笑いしたまま口を開く。


「ただ、全て交換する必要が本当にありますか?全てを同時に使う事は無いでしょうし、特に大斧はそもそも使われているのを見た事がありません。それに、新人は普通の重さの武器から練習を始める必要があると思うのです。ですから、大斧を除いた全体の一割を交換して様子を見る、と言うのは如何でしょうか?」


「っ……っと……ですね……大斧ですが、先日、剣の替りに大斧で素振りしたのですが、余り練習にならなかったので交換か新規購入して頂きたいです」


「っ……あれで素振り…………で、ですが、新規購入となると、もはや貴方専用と言う事になってしまいますから、申し訳ありませんがサーブ殿はご自身で素振り用の武器をご用意なさって下さい」


「そうですか。大斧に関しては分かりました。ですが、……っと……ですね……他の武器に関しては、警護部では全て同時に使う事がありますので一割では困ります」


 エーグリは組んでいた足を解いて椅子に深く座り直し、真顔になって口を開く。


「ですが、それは年に一度の全体訓練の時だけですよね」


「確かにそうですが……えっと……ですね……小隊での訓練の時等は、かなりの数量を使いますし、使用する武器に偏りがあると足りなくなります。せめて八割を交換して頂けないと困ります」


 エーグリは眉をひそめて口を開く。


「いっ……いや、そこは対戦の組み合わせを調整するとか、上手くやればどうにかならないですか?それに、斧使いと大剣使いなんて少ないでしょう?斧と大剣は一割で良いですよね?」


「えっと……それはそうですね。えっと……ですね……でも、そう言う考えでしたら、短剣と長剣と槍は九割交換して頂かないと困ります」


 エーグリは眉間のシワを濃くして口を開く。


「うっ……そ……それなら……斧と大剣は一割、その他は六割、これでどうです?」


「え♪……っと♪……ですね……分かりました。とりあえずそれで良いですが、効果を実証出来たら残りは新規購入して頂けますか?新人用は残す形で」


 エーグリは口元を歪ませながら口を開く。


「え?……っと、保管場所次第ですが、その時は前向きに検討しましょう」


「え♪……っと……ありがとうございます。それでは、えっと……冬に開催される競技会で効果を御覧頂けると思いますので、楽しみにしていて下さい♪」


 サーブが笑顔でそう言うと、エーグリは息を大きく吐いて椅子の背もたれに寄りかかり、疲れた顔に笑みを浮かべて口を開く。


「それで、サーブ殿。これで交渉は成立した訳ですけど、黒幕殿の思惑通りに事は運びましたか?」


「え……っ!えっ!な、何の事ですか?」


 立ち上がろうとしていたサーブはそう言いながら足を滑らせ椅子に尻から倒れる。酷く驚き戸惑うサーブを見たエーグリは失笑する。


「とぼけられても困ります。あなたの受け答え、後ろの誰かに囁かれた言葉をそのまま口にしているかの様でしたよ」


「いやっ、それはっ、気のっ、気のせいですよっ」


 サーブの白々しく否定する姿にエーグリは益々失笑する。


「わかった、わかりましたから。そう言う事にしておきますよ♪」


 サーブは慌てながら再び立ち上がり、エーグリに頭を下げる。


「エーグリ部長、ありがとうございました!」


「いやいや、こちらこそ。有能な相方様にも宜しくお伝え下さい」


「はっ、はい♪」


 サーブが満面の笑顔で返事をしたのでエーグリは堪らず爆笑する。サーブはその理由に気付かず目を丸くさせ、エーグリは苦しそうに腹に手を当てながら口を開く。


「サ……サーブ殿、有能な……相方の事は……シラを切らないと……」


「あっ……スミマセン……」




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