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これ、ホントに呪いの指輪なの?  作者: 彩田(さいた)
三章 カタアギロ横災編
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3-7 発注



 ラトサリーの左人差指の動きが止まり、ラトサリーは目を開けて窓の方に顔を向ける。窓の外はぼんやりと明るくなり始めていた。ラトサリーは左手を頬から外し、部屋を見回す。まだ薄暗い部屋は静寂に包まれ、ラトサリーの斜向かいで座っているサーブは頭を垂れていた。テーブルの上には皿に乗せられたパンとジャムの瓶と水差し、加えてコップが二人分置かれていた。ラトサリーはゆっくり両腕を上げて背筋を伸ばし始める。


「……っん」


 ラトサリーの口から漏れた吐息でサーブの体はピクっと動く。薄っすらと目を開いたサーブはハッと目を見開き、ガバっと立ち上がる。サーブの勢いで椅子が後ろに倒れる光景にラトサリーは笑みを浮かべ、座ったまま体を捻りながらサーブに声をかける。


「待っててくれてっ、ありがとうっ、サーブ」


 サーブは立ち上がったまま申し訳なさそうな顔をラトサリーに向ける。


「あっ、その、ご、ゴメン、寝ちゃってた……」


 ラトサリーは立ち上がり、腰に両手を当てて体を捻りながら口を開く。


「謝らないでっ。あなたはっ、今日も庁舎にっ、行くんだからっ」


「そう言って貰えると……それで、どう?良い案は思いついた?」


 ラトサリーは体を捻るのを止め、少し曇らせた顔をサーブに向ける。


「全部交換って言う話を飲んでもらうのは難しいと思うの」


「そ、そう……」


 見て分かる程に落ち込むサーブ。その反応を予期していたラトサリーは構わず言葉を続ける。


「それに、新人さんの為に軽い武器を残しておいた方が良いと思うんだけど、どう?」


「そっ、そう言われるとそうだね」


「でも、最初から半分交換とか言う話をすると、二割交換位で話が終わっちゃうと思うの。だから、副部長さんに改めて話をする時は全部交換と言う事で話を始めて、論拠に関してはちょっとだけ話を誇張して欲しいの」


「え?でも……」


「嘘を言うんじゃないから安心して。どれ位って言うのをちょっとだけ大き目に言うだけだから」


「そっ、そう?それなら……でも、上手く話せるか心配だから、君が交渉してくれないかな……」


「大丈夫よサーブ。事前準備に費やす一週間の間にしっかり練習してもらうから。それに、あなたがこの話をしないと説得力が無いの。だから、一緒に頑張りましょう」


 ラトサリーはそう言うと嬉しそうに笑みを浮かべた。





 サーブはラトサリーから言われた通りに動いた。サーブは事務仕事の合間を縫って訓練場に足を運び、訓練の参加者の実力の程を注視した。訓練に来ていた者達は遠巻きに視線を向けてくるサーブが気になって練習に身が入らない様子だった。警護部が訓練場を使用する割り当ての日はサーブは一日中訓練場に留まり、大斧を剣に見立てて素振りを続けた。手合わせを申し入れる者がいればサーブは快く応じ、受けた指示通り短剣で加減して手合わせを行った後「もっと重い武器で素振りをする良いですよ」とラトサリーの指示通り相手に告げた。

 一週間をそのように過ごし、その日当庁したサーブは事務仕事を終えるとロクリフに声をかける。


「ロクリフさん、ちょっと良いですか?」


 ロクリフは手を止めてサーブに顔を向ける。


「はい、何でしょう?」


 サーブは応接用のテーブルで作業するロクリフの向い側に座って口を開く。


「先日の練習用の剣の事ですが、論拠があれば警護部の予算で最大何本購入可能ですか?」


「え?……そうですね……その前に、その……論拠を教えて頂いても良いですか?」


 少し困り気味にそう言ったロクリフにサーブは笑みを向ける。


「そうですよね。練習用の武器を重くして鍛えれば強くなると言う話の論拠は、えっと……王都の訓練場の武器と副団長のレスタさんです」


「そっ……そうですか。それでは、具体的にお聞かせ下さい」


「はい。ここの訓練場にある練習用の武器は、王都の訓練場にある物より……三倍程度軽いんです。一週間程訓練場を見学して、練習量は王都の騎士達と同じ位の者がいましたが、えっと……その人でも王都の騎士と比べると……っ……余りにも脆弱です。ですから、素振り用の武器を重いモノにすれば、戦力を大きく底上げする事が出来るはずです」


「そ、そうですか?……部長はまだ全員を見ていないですよね?」


「えぇ。ですが、まだ見ていない人達は、ケルマー配下の者達に敵わなかったのですよね?一人でもレスタさんか……えっと……レスタさんに次ぐ位の強さの人がいれば、あんな事にはなっていなかった。違いますか?」


 ロクリフは明らかに嫌そうな顔をして口を開く。


「っ、……確かにそうですが、レスタ殿の強さは国中に轟く程です。そんな人と比べてどうこう言うのは理不尽です」


「そうですね。否定はしません。ですが、レスタさんが練習で振っている武器は特注で、王都の練習場の備え付けの武器より、えっと……更に……四、……いや、五倍位重いんですよ」


「え!更に五倍!?」


「えぇ。レスタさんの強さを生み出した要因の一つはそれです。えっと……ここのモノより十五倍程重い武器を素振り出来れば、間違いなく今より強くなりますよね?」


「え……えぇ、そうだと思いますが、そんなモノ、部長でも振れないのではないですか?」


「えっ?振れますけど?」


「っ!……でっ、ですが、そんなモノを急に渡されても、持つ事すら出来ないと思いますが」


「えぇ、ですから。五倍、最悪でも三倍重いモノに交換する所からでも始めないと、えっと……いくら訓練したって強くなりません。それで、どうでしょう?この話、論拠になりませんか?」


 ロクリフはサーブの顔に目を向け、軽く息を吐いて疲れた様子で笑みを浮かべる。


「まぁ、それなりには……それでは、少しお待ち下さい」


 ロクリフは立ち上がると扉へと向かい、部屋から出て行く。サーブが緊張を解いて窓の外に目を向けていると、ロクリフがフレアを引き連れて部屋に戻って来た。ロクリフは先程まで座っていた席に戻り、座りながらフレアに声をかける。


「フレア、後は頼んだ」


「はい、分かりました」


 フレアは返事をしてからサーブに声をかける。


「サーブ部長、今から書類を作成して頂きますので机に移って下さい」


「はっ、はい」


 サーブは立ち上がり、事務机に向かいながらフレアに尋ねる。


「それで、何の書類を作るんですか?」


「発注依頼書です」




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