3-5 武器の重み
警護部に戻ったサーブはロクリフに声をかけ、訓練場の練習用の武器の交換について尋ねた。『その数量だと総務部を通す必要がある』と言われ、サーブは総務部の部屋に向かった。
総務部の部屋に向かう途中、サーブは自分を二度見してくる他の部員の視線に恐怖が宿っている事にゲンナリしていた。だが、総務部の部屋に近づくにつれ、二度見はされてもその視線に恐怖等の負の感情を感じなくなった事にサーブは気付く。不思議に思いながら歩を進め、総務部に着いたサーブは受付の女性に声をかける。
「すみません、お尋ねしたい事があるのですが、宜しいでしょうか?」
「はい、何でしょうか、サーブ警護部長」
やっと普通の受け答えをしてくれる人に出会えた喜びがサーブを高揚させる。だが、公の場でそれが顔に出るのはマズいと思ったサーブは顔がニヤつきそうになるのを我慢ながら口を開く。
「訓練場にある練習用の武器なのですが、入れ替えたいと副部長に話をしたら総務部に相談するように言われまして。そういう話の担当の方を紹介して頂けますか?」
「えっと……そうですね……」
受付の女性はそう呟くと目を伏せて考え始め、立ち上がるとサーブに笑みを向ける。
「聞いて参りますので、あちらに座ってお待ち頂けますか?」
「はい、分かりました」
女性はサーブに頭を下げ、事務室の奥の方へと向かった。女性が奥の部屋の扉を叩いて入って行くのを見たサーブは自分が持ち込んだ話が小さい話ではない事に気付いて顔を引きつらせた。
警護部の事務所に戻ったサーブは奥の部屋に入り、ロクリフに声をかける。
「戻りました」
「おかえりなさい、サーブ部長。その様子だと却下されましたか?」
「えぇ。『この規模の金額を動かすとなると、重い武器を使って練習すれば強くなると言う論拠が無いと無理』だそうです」
「なるほど。流石はエーグリ部長、的確ですね」
サーブは応接用のテーブルで作業するロクリフの向いの椅子に座って口を開く。
「ロクリフさん。警護部の予算で重い練習用の武器を入手して練習してもらうって言うのはどうですかね?」
「そうですね……練習用の短剣で……破損交換扱いで一本か二本なら部の予算でどうにか出来ると思いますが、そんな本数で効果が明白になるとは思えません」
「そ……そうですよね……それじゃぁ、俺がそう言う練習をしていたから例の男達を倒せる位の力を得た、って言う話をすれば通りますかね?」
「無理です」
サーブに目を向ける事無く即答するロクリフにサーブは顔を引きつらせる。
「えっ……っと、何でです?」
「何でって……」
ロクリフは大きく溜め息をついてサーブをジト目で睨む。
「部長。王都であなたと同じ訓練を続けた人があなたと同じ位強くなりましたか?」
「え?……っと……俺の練習に付き合ってくれたのはレスタさんとマークさんだけでしたから……」
ロクリフの溜め息の音が部屋に響き渡る。
「マークさんって、団長のマーク・スタリスク様の事ですよね?そのお二人以外にいませんか?」
「えっ…………いや…………」
「そうなると、武器の重量ではなく、素質の問題って事で話が終わると思います」
「そっ……そうですか……」
「そう言う事ですので、別の説得方法を考えて下さい。今日はもう御帰宅なさって大丈夫ですよ」
「……はい…………帰って考えます」
サーブは肩を落として帰宅した。
別邸に帰ったサーブは守衛にラトサリーの居場所を尋ね、中庭に向かった。サーブが中庭に入って中庭を見渡すと、女の子達は中央の東屋でジーナと共に編み物をしていた。東屋から離れた長椅子の横で男の子達は横一列に並んで剣を素振りしていた。男の子達の近くの長椅子に腰掛けたラトサリーは左手に短剣を握り、右手を短剣にかざしていた。サーブはラトサリーの剣が布の巻かれた鞘に収められている事を不思議に思いながらラトサリーの元に向かい、声をかけようとする。だが、サーブに気付いた年長の男の子は素振りを止めてサーブに駆け寄った。他の子供達もサーブに駆け寄り、剣の稽古をねだり始めた。予期していない要望にサーブは目を丸くさせながら一瞬ラトサリーに目を向け、子供達に目を戻すと笑みを浮かべて快諾した。稽古する順番を騒がしく話し合う子供達を笑顔で見守るサーブ。ラトサリーは右手を剣にかざしたまま稽古を見守った。
子供達に一通り稽古をつけ終わったサーブはラトサリーの元に向かう。ラトサリーは手にした大剣を下ろしてサーブに笑みを向ける。
「サーブ、お疲れ様」
「うん」
ラトサリーの横に置かれた短剣の鞘が綺麗に氷で覆われている事と、ラトサリーが持っている大剣に鞘の上から布が巻かれている事が気になったサーブは生返事を返す。ラトサリーはサーブの視線が剣に向いている事に気付き、口を開く。
「これ、実験中なのよ」
ラトサリーは嬉しそうにそう言うと左手で持った大剣を少し上に掲げてサーブに見せる。サーブの視線が剣に向いたのを見たラトサリーは改めて右手を剣にかざし、意識を剣全体に集中させる。すると、巻かれた布から冷気が漂い始め、鞘に巻かれた布に氷が発生し始める。氷は歪ながらも鞘の表面を包み始め、鞘の八割方が氷で覆われた所でラトサリーは息を吐いて右手を降ろし、笑顔でサーブに剣を差し出す。
「まだ大きい剣は綺麗に覆えないみたいだけど、これで全体を氷で包めば素振りの効率がグッと増すと思うの♪」
「えっ?それってどう言う?」
不思議そうに剣を受け取るサーブ。ラトサリーは笑顔のまま言葉を続ける。
「あなたに稽古をしてもらうようになってから、素振りした時に頭の中で鳴る音の回数が激減したの。だから、どうすれば素振りの効率を上げる事が出来るか考えてね。もっと重い剣で素振りすれば良いと思ったんだけど、新しい剣を買うのも何だしって思っていたら、これを思いついたの♪」
ラトサリーは目を輝かせながら言葉を続ける。
「最初は包丁で試して、直に付着させると直ぐ剥離するから色々試してる最中なの♪」
嬉しそうに説明を始めたラトサリーは胸元で両手をギュッと握って興奮気味に言葉を続ける。
「さっき短剣で上手に出来たから大剣でもって思ったんだけど、何か勝手が変わった感じなの♪でも、上手く出来るようになったら、何本も重さの違う剣を用意しないでも良いの♪ついでに氷の強度を……」
サーブは満面の笑みでラトサリーの言葉を遮る。
「ラトサリー!俺が悩みを相談する前に問題を解決してくれるなんて、本当に凄いよ♪!」
「え?何?どういう事?」
目を丸くさせるラトサリーにサーブは嬉しそうに言葉を続ける。
「実は、訓練場にある練習用の武器が軽すぎて、重い物に買い替えようとしたら金額が高すぎると言って断られてね。でも、」
サーブは渡された大剣に目を向けながら興奮気味に言葉を続ける。
「この方法だと買い替えの必要が全く無いよね?これで問題解決だよ♪ありがとうラトサリー♪」
ラトサリーは首を傾げてサーブに尋ねる。
「ねぇサーブ。警護部の皆さまは氷の術式をどれ位使えるの?」
サーブの動きと笑顔が固まる。目を泳がせ始めたサーブの顔から笑みは消え、項垂れる。サーブの激変振りを目の前にしたラトサリーは温かい目をサーブに向け、優しく声をかける。
「詳しく聞かせて、サーブ。ね?一緒に考えましょう?」
サーブは頷き、二人は立ち上がって扉に向かって歩き始める。二人は後方でニヤニヤしながら二人を見送るジーナ達の視線に気付く事無く中庭から姿を消した。




