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これ、ホントに呪いの指輪なの?  作者: 彩田(さいた)
三章 カタアギロ横災編
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3-4 訓練




 サーブは事務机の上で山になっていた書類の最後の束に目を通し、署名して印章を押すと手に印章を持ったまま両腕を上にあげて背筋を伸ばす。少し体を揺すりながら腕を降ろしたサーブは息を大きく吐き、印章を机の上の小箱に戻して立ち上がると副部長に声をかける。


「ロクリフさん、こちら終わりましたけど、本当に後はお任せしても良いのですか?」


ロクリフは書類から目を離してサーブに顔を向ける。


「はい、お任せ下さい。後の時間は部長の好きになさって下さい」


「すっ……好きにと言われましても……」


困り顔のサーブにロクリフは笑みを見せる。


「今までの方々は何かと理由をつけて帰ってましたよ」


「そっ、それは……それはちょっと……何かやる事無いですか?」


「んー、そうですね……」


 ロクリフは首を傾げて目を閉じ、パッと目を開くとサーブに笑みを向ける。


「ご自分の目で確かめたい事がありましたら見て回られても良いと思いますし、ドートル殿からは『ダラウンカタ開拓の時間を取れるように支援するように』と言われていますので、そちらに着手されても良いと思いますが」


「っ、ドートル部長はそんな事まで……」


 目を丸くさせて驚くサーブを見たロクリフは顔を書類に向け、作業の続きに戻る。サーブは腕を組んで暫し悩み、目をパッと見開くと剣を取ってロクリフに声をかける。


「すみませんロクリフさん、ちょっと訓練場の見学に行って来ます」


「えっ、訓練場ですか?今日は別の部署の使用日ですが」


「えっ?まずいですかね?」


「え?えー……まぁ、覗く位なら大丈夫だと思いますが」


「そうですか♪それじゃぁ、行って来ます♪」


 少し不安そうな顔のロクリフにサーブは会釈して部屋を出て行った。




 訓練場は庁舎の裏手にある競技場に併設されていて、各部署が日替わりで優先使用する取り決めになっていた。部員が集まれる程の広い広間と小部屋で構成される屋根付きの訓練場は競技場で催しがある時は控え室や肩慣らしの場として使われた。

 サーブが見学に行ったその日は出納部が使用する日だった。広間の入り口から顔を覗かせて中の様子を伺うサーブ。広間は閑散としていて、広間の隅で五人程が剣の稽古をしていた。一人で素振りをしていた男は視線に気付いて手を止め、顔を入り口の方に向けて声を上げる。


「入ってきたらどうだ?そんな覗き方をされたら気になって仕方ないんだが」


 声をかけられたサーブは申し訳なさそうに頭を下げながら広間に入り、声をかけてきた男に歩み寄りながら口を開く。


「お邪魔してスミマセン。少し見学をさせて頂いても良いでしょうか?」


「あ?あぁ、構わないが……新入りか?どこの部署だ?」


「自分、警護部で先月こちらに来たばかりなんです。練習場の様子とか練習用の武器とかの揃い具合を見たいと思いまして」


「はぁ、そうか。そんなモノを見たいなんて、変なヤツだな。練習用の武器ならあっちの部屋にあるから好きにしろ」


「はい、ありがとうございます♪」


 サーブは笑顔で返事をすると嬉しそうに指差された部屋に向かい、男はサーブを見送ると素振りの続きを始めた。

 練習を終えた男達は練習用の武器を戻しに汗を拭いながら部屋に向かった。男達が保管部屋に入ると、サーブは壁に掛けてある剣を眺めながら首を傾げていた。先程サーブに保管部屋を教えた男はサーブに声をかける。


「おい、どうしたんだ?」


 サーブは首を傾げながら男に尋ねる。


「あの、ここの練習用の武器って、ここにあるモノで全部ですか?」


「あ?あぁ、そうだが、何か足りないのか?」


「いえ、足りないと言うか、良いモノが無いんです」


「そうか。それなら部署に戻って報告しろ。上手く通れば一カ月位で届くぞ」


「そうなんですか♪ありがとうございます♪」


 嬉しそうに返事をするサーブ。男は部屋にひしめく武器の数々に目を向けながらサーブに尋ねる。


「しかし、これだけ揃っているのに……お前、何を頼むんだ?」


「いえ、普通の剣ですけど、重さが全然足りないんですよ」


「ん?重さ?」


「えぇ。この部屋にある剣を全部持ってみたんですが、どれもこれも軽すぎで……あっ、もしかして、その剣が重い練習用ですか?」


 男は手に持つ剣を指差され、戸惑いながらサーブに剣を差し出す。


「この剣も他のと同じだと思うが……」


 サーブは剣を受け取った瞬間ガッカリした顔になる。


「この剣も軽すぎですね……」


 サーブの落胆振りに男は苛立ちを抑えながら尋ねる。


「お、おい、そんなに重い剣が良いなら大剣でも使ったらどうだ?」


「いえ、大剣は大剣で軽いんですよ。こんな軽いので練習してるから、あの程度の相手に歯が立たないとか言うんですよ……」


 ブツブツ言うサーブに一人の男は苛立ちを顔に滲ませて声をかける。


「おい、そんなに言うなら、ちょっと今から俺と手合わせしろよ」


「え?良いんですか?今日は警護部の番ではないですけど」


「気にするな。当番の部の人間が声をかければ参加出来る決まりになってるからな。ちなみにソイツは執政部だ」


 男は一人の男を指差してそう言うと壁から剣を二振り取り、荒い足取りで広間へ戻って行く。サーブは軽い足取りで男を追い、二人を傍観していた男達も後に続く。広間の中央で足を止めた男はサーブに剣を投げ渡し、サーブを睨みながら口を開く。


「その軽い剣をどれだけ振れるか見てやるよ」


「よろしくお願いします」


 笑顔で応じるサーブに男は顔を益々険しくさせ、両手で剣を握るとサーブに向かって勢い良く踏み込んで上段から力一杯剣を振り下ろす。


《 ギンッ!! 》


 右手だけで持ったサーブの剣は微動だにせず、振り下ろした男の剣は大きくはじき返される。男は体勢を崩して後ろによろめき、驚きと手の痺れで目を泳がせる。サーブは剣の刃こぼれ具合を確認しながら男が構え直すのを待ったが、ふとミラテースの言葉が頭をよぎり、笑顔で男に声をかける。


「良い一撃ですね♪もう一回お願いします♪」


 サーブの言葉に男はこめかみに青筋を浮かばせ、両手で剣を強く握り直して地面を強く踏み込む。剣を大きく振りかぶった男は勢いそのまま全体重をかけて振り下ろす。


《 ギンッ!!!! 》


 右手だけで持ったサーブの剣は再び微動だにせず、振り下ろした男の剣は大きくはじき返され宙を舞う。男は体勢を崩して尻から倒れ、驚きと手の痺れに顔を歪ませる。サーブは男が立ち上がるのを待ったが、ミラテースの言葉が再び頭をよぎり、飛んだ男の剣を拾いに走る。剣を拾ったサーブは小走りで男の元に行き、笑顔で剣を差し出す。


「さっきの一撃より威力がすごく増して良かったですよ♪もう一回やりましょう♪」


 男は顔を青くして尻をついたまま後退りする。二人の手合わせを見ていた男の一人は慌ててサーブに声をかける。


「あのっ!ちょっと……」


「え?何ですか?」


 笑顔を向けてくるサーブに恐怖を覚えながらも男は口を開く。


「あの、その……そっ!そろそろ時間だから!終わりにしてくれ」


「えっ、そうでしたか、それはスミマセン。それじゃぁ残念ですけどこれで終わりですね」


 サーブはそう言うと倒れている男に手を差し出そうと顔を向けるが、他の男達がサーブより先に倒れている男に駆け寄って肩を貸していた。サーブは少し残念な気持ちを押し殺して介抱される男に声をかける。


「ありがとうございました。剣は片付けておきますね♪」


 サーブはそう言って男に礼をして保管部屋に足を向ける。手合わせを止める声を上げた男は躊躇いながらもサーブに声をかける。


「あ、あのっ、ちょっと良いか?」


 サーブは足を止めて振り返る。


「はいっ、何でしょう?」


「アンタ、交流戦には出るのか?」


「え?交流戦?そんなモノがあるんですか?自分、ここに来て少ししか経ってないので分からないです」


「そ、そうか……っ、そ、そういえば、先月警護部に来たって言って……、名前、聞いてな……聞いていませんでしたね」


「あっ!すみません!自分、名乗るのを忘れてました!申し訳ありません!」


 サーブは頭を下げ、姿勢を正して申し訳なさそうに口を開く。


「自分、警護部に赴任したサーブと申します。何卒宜しくお願い致します」



 その日以降、執政部と出納部の部員達もサーブの事をランダレア卿呼びするようになった。




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