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これ、ホントに呪いの指輪なの?  作者: 彩田(さいた)
一章 王都編
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8:宮総研到着と所長



8 宮総研到着と所長



 書物庫に入った三人は奥へと進み、扉を通るとそこは中庭だった。ノートは中庭の奥の建物を指差しながらラトサリーに顔を向ける。


「あそこが宮総研じゃ♪」


種類豊富な草花が植えられた中庭の先に三階建てで綺麗な石造りの建物があった。その建物の短手側に増設されたようにピッタリ付いている石造りで二階建ての建物の煙突から黄色い煙が立ち上っていた。ノートとサーブは窓が全て開け放たれている二階建ての建物の短手側にある入り口の方へ歩き出す。ラトサリーは庭の草花に目を向けつつノート達の後に続き歩き出すが、直後ノートは振り返ってラトサリーに声をかける。


「あぁ、花壇のモノには触らないように気を付けるのじゃよ、危ないヤツもあるのでな♪特に黒い煉瓦の花壇はすこぶる危険じゃ、命の保証をしかねる」


 そう言われてラトサリーは花壇を見渡す。歩いている手前の花壇の煉瓦は薄茶色で、薬や香料になる馴染みのある草木が植えられていた。奥の方にある黒い煉瓦の花壇は腰高の柵で囲まれ、見たことの無い黒い花や蔓が不自然に動いている木など不穏なものが植わっていた。ラトサリーは花壇から距離を取りながらノートの後を追った。




 建物の玄関に着き、ラトサリーとサーブはノートに入るように促され扉を通る。

 室内に間仕切壁は無く、屋根まで吹き抜けで壁面は窓の部分以外は全て棚になっていた。二階に位置する高さに回廊が廻り各所柱で補強されていた。玄関左側に回廊への階段があり、同じ位置にある地下への階段の奥の方から重い金属音が漏れ聞こえていた。食堂で見かける位の大きさのテーブルが柱の間隔に合わせて均等に配置され、各テーブルで研究員が二・三人程作業していた。テーブルも棚も良く分からない品物で埋まり不気味な気配を発していた。部屋の奥に暖炉があり、黄色い炎が揺らめいていた。ノートはその暖炉の横にある扉を指で差す。

 

「あの部屋じゃ」


 そう言ってノートはテーブルの間を通って少し熱気が籠った部屋を奥へと進んで行き、二人はそれに続く。研究員は次々とラトサリーに視線を向けるが、宮廷内ですれ違った者達のそれとは何やら気配が違った。テーブルから漂ってくる異臭に二人は顔がしかめると、

【 ティロン♪ 】

 ラトサリーの頭の中で音が鳴る。別のテーブル横を通るとまた音が鳴るのでラトサリーは怪訝な表情を浮かべる。


(ここの所そこまで鳴らなくなっていたのに……)


 一足先に奥の扉に着いたノートはノックをし、扉を開け振り返る。


「さあ、入られよ」


 ノートに促され二人が通った扉の先は、先程までの怪しさが一切無かった。豪華で煌びやかな装いの広い部屋に大きな窓から光が差し込み、貴金属で装飾された調度品が輝いていた。部屋の中央に大きなテーブルがあり、その奥にある長椅子の前の壁は本棚になっていて重厚な装丁の本が並んでいた。入った扉の左方向に目をやると部屋の隅に格調高い事務机があり女性が椅子に座っていた。

 ラトサリーの父と同年代であろうその女性にノートは声をかけようとするが、女性は入ってきた客人を見ると直ぐに立ち上がりラトサリーの元へ駆け寄る。聡明な顔立ち、調度品以上に存在感のある髪留めで留められた綺麗に編んだ金髪、見ただけで手入れを丁寧にされていると分かる肌、光で煌めいて見える質の良い布地にフリルと巧みな刺繍で装飾されたドレス。それらの印象を吹き飛ばす位の親近感でその女性はラトサリーに声をかける。


「良く来てきくれたわね、待ってたわ♪」


女性は満面の笑顔でラトサリーの右手を両手で握りその手をブンブン振る。


「所長のフレールよ、よろしくね♪」


フレールはそう言ってラトサリーを部屋中央にある大きなテーブルへと引いていく。成り行きを見て呆れているサーブを察してノートは彼をテーブルへ進ませる。テーブルまでラトサリーを連れて来たフレールは椅子を引いてラトサリーに笑みを向ける。


「さぁ座って頂戴♪サーブもそこに座って♪」


 有無を言わせず客人を座らせてからフレールはノートに声を掛ける。


「ノート先生、準備は整ってそうでしたか?」


「先程見た限りではもう一声という所じゃったが……見て参ります」


 そう言ってノートが先程の部屋へ歩き出したと同時に別の扉が開き、配膳台を押した使用人が入ってくる。すでに座っている客人を見て多少慌てた様子をみせる使用人だったが、気を取り直してお茶の準備を始める。



「さてと……」


そう言って椅子に座ったフレールはラトサリーに微笑みかける。


「急だったのに来てくれて本当にありがとうね♪」


 ラトサリーは改めて立ち上がり礼をする。


「いえ、お招き下さり感謝致します。ラトサリー・ランダレアと申します」


「あら、真面目ねぇ♪まぁ、まずはお茶でも飲んで頂戴♪」


 フレールはそう言ってラトサリーに手で座るように促す。ラトサリーが座り直す横で使用人はお茶の入ったカップを配り始める。フレールはお茶を口にしてからラトサリーに話しかける。


「文献を見つけられなかったから実物相手に色々試験してみようと思ってね。設備が整っている所でやった方が良いと思って呼んだらすぐ来てくれて、本当に嬉しいわ」


「そう仰って下さり恐縮です」


「……指輪が外れるか心配なのは分かるけど、そんなに緊張しなくても良いのよ♪」


「……そう仰られましても」


 そう言ってラトサリーは困惑の眼差しをサーブに向ける。


「大丈夫ですよラトサリー、所長殿は堅苦しいのは大嫌いとか言ってざっくばらんな接し方を強要してくる変わった方ですから」


「っ!サーブ!王妃様にそんな!!」


「あら、知ってたの?道理で。家名を名乗らなければ所長で通せると思ってたのに、残念……」


「ですから変に合わせる方の負担を考えて下さいといつも言っているではないですか……」


 呆れ顔で王妃に苦言を呈するサーブにラトサリーは鋭い視線を向ける。


「……サーブ様、王妃様の意向とはいえ言葉の選択は慎重になさって下さい」


「…………スミマセン」


「そこは『申し訳ありません』です」


 ラトサリーの指摘でサーブが極度に気まずそうな顔になった所にノートが戻る。


「フォーッフォッフォッフォッ♪早速自ら対処しとるのか、勤勉じゃのぅ♪」


 ソファーの後ろからノートから冷やかす様に声をかけられ、先程のやり取りを思い出したラトサリーの顔は気恥ずかしさに包まれる。フレールは興味津々な顔をノートに向ける。


「あら。『自ら対処』って何の事?面白そうね♪」


「それがのう♪」


 ノートが先程の件を話し始めようとしたので、ラトサリーは真っ赤な顔でノートを睨みつける。


「ノート様!」


「いやいやフォッフォッ♪……まぁ、お嬢ちゃんがサーブより一枚上手という事ですじゃ」


「ふふっ、そのようね♪まぁ、その話は後でゆっくり聞かせてもらう事にして……ノート先生、状況は?」


「持ち込む段に入った所じゃったわ」


「そうですか、ありがとうノート先生♪」


 ノートに礼を述べてからフレールはラトサリーに顔を向ける。


「もう少し時間があるみたいだし、お茶を飲んでしまいましょう♪」


 フレール所長に促されお茶に口を付けるラトサリー。


(…………このお茶、……?)


 ラトサリーはカップを不思議そうに見つめて動きを止める。その様子を見たフレールは少し残念そうにラトサリーに声を掛ける。


「あら、口に合わなかったかしら?まぁ、ちょっと普通の調合ではないお茶だから仕方ないけど……」


「決してそのような事は!……知っている味にとても良く似ているお茶だったもので、つい……」


「あら、そうだったの。このお茶は友人から教えて貰った特別な調合のお茶なのだけど……アイナ・クロスという人を御存じかしら?」


「…………母の旧姓です」


「母?……って……アイナの……!!」


 そう言ってからフレールはノートに引きつった笑みを向ける。


「………………副所長?」


ノートは悪い笑みを返す。


「なーにーかーなー?」


「……彼女の名前を伏せてサーブの婚約者とだけ報告したのはこういう事ですか?」


「フォッフォッ♪その方がおもし……感動的だと思ってなぁ♪」


目の奥が笑っていないフレールのこめかみに青筋がクッキリ浮かぶ。


「……副所長、減俸半額三か月」


「ホッホゥ♪それは痛いわ!ついでに踏んづけて折檻してくれても良いぞ♪♪」


「しません!!減俸半年!!!」


「所長のケチィ!!!!」


 宮総研責任者達のやり取りに呆れ顔のサーブに対し、母の名前が出てきた事に驚くラトサリー。副所長の減俸半年が確定して一区切りついた所でラトサリーはフレールに切り出す。


「それで王妃様、母とはいつ頃?」


「そ、そうだったわね。って、フレールで良いわよ♪……あなたがアイナの娘だったとはね、取り乱して御免なさいね♪彼女とは、私が嫁ぐ前にノート先生のクラスで一緒だったのよ」


「嫁ぐ前、ですか」


「そうなの。いわゆる政略結婚だったんだけどね。お別れする少し前にアイナがこのお茶を教えてくれたの。頭を回す『ここぞって時』に、ってね」


「『ここぞ』ですか……私もそう言われていますが、今がその『ここぞと言う時』という事なのですか?」


 フレールは少し神妙な顔になり、ラトサリーから目を反らして口を開く。


「……えぇ。今回指輪の件が報告されて調査したのだけど、有力な情報が無くてね……本人に来て貰って、それでも解決できなかったら宮総研の名誉に関わる事にもなってしまうし。正に『ここぞと言う時』なのよ。でも……」


 そう言ってフレールは改めてラトサリーに目を向ける。


「その本人がまさかアイナの娘だなんて。彼女が解決できない事となるとかなり不味いのよねぇ……ねぇラトサリー、アイナの見立てを教えてくれる?」


「あの……母はかなり前に亡くなっていますので……」


「っ!……そうだったの、御免なさい。嫁いでから連絡も出来ないでいたから……」


「お気になさらないで下さい。誰にも教えるなと言っていた調合を教えたと言う事は、手紙のやり取りすら出来なくなると判断したと言う事でしょうし」


 涼しい顔で答えるラトサリーにフレールは目を丸くし、嬉しそうな顔をラトサリーに向ける。


「……さすがアイナの娘ね」


 フレールが感嘆の声を発したその時、胡散臭い部屋への扉からゾロゾロと入って来る研究員たち。小さい壺やら椅子やら何やら持った研究員達はラトサリーに目を向け、と言うより指輪の主に目を向け怪しい笑みを浮かべる。フレールはカップを取り、お茶を一気に飲み干して立ち上がるとノートに声をかける。


「ノート先生、始めましょうか」




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