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これ、ホントに呪いの指輪なの?  作者: 彩田(さいた)
二章 カタアギロ到着編
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2-30 折衝




 庁舎に戻ったサーブはまず警護部に向かい、事務方に警備料受領禁止の貼り紙作成を要請した。要請内容に驚いた事務方がサーブに声をかけようとしたが、サーブは既に部屋から姿を消していた。

 サーブは早足に出納部へ向かうと出納部事務室の手前で足を止めて息を整え、事務室に入り受付の男に声をかける。


「あの、すみません。部長は在席されていますか?」


「えっ!いっ、今、部長の部屋で会議中ですが……」


「ありがとうございます」


 サーブは礼を述べてから物凄い速度で奥の扉に歩き出す。


「あっ!ちょっ、ちょっと待って……」


 受付の声を振り払うかの様にサーブは部屋を進み、扉を叩くと扉の向こう側から声が上がる。


「誰だ?」


「失礼します」


 サーブは扉を開け部屋に入って部屋を見渡すと、応接用の四角いテーブルを囲む四人の男達がサーブに目を向けていた。長椅子に座る男はサーブを睨む。


「遅いぞ。今まで何をしていた?」


「っ?ドートル部長?遅いって、何の事ですか?って言うより、部長こそ何をされているんです?」


 ドートルは眉をひそめてサーブに尋ねる。


「お前、部長各位は朝の業務を終え次第出納部に集合って、聞いてなかったのか?」


「え?何の事です?そんな話、聞いていませんが……」


「あ?聞いてない?お前なぁ……」


 益々厳しい視線をサーブに向けるドートル。ドートルの向いの長椅子に座る男は苦笑いしながらドートルに声をかける。


「まぁまぁ、何か伝達が上手く行かなかったのでしょう。それに、こうやって来たのですから。良しとしませんか?」


「んー……そうですね、コリオ殿がそう仰るなら」


 渋々とそう言ったドートルはサーブを軽く睨みながらサーブに手招きをして隣に座る様に促す。サーブは急ぎ足でドートルの元に向かい、申し訳なさげに座りながらドートルに尋ねる。


「それでドートル部長、どのような話し合いをしていたのですか?」


 ドートルは隣の椅子に座る男に目配せをしてからサーブに顔を向ける。


「ケルマーが侯爵家から分離して隠し持っていた金品をどう扱うかの会議だ。今の所……各部の規模に応じて微調整して分けるか、各部が要望を出して執政部が優先度を考慮して分けるか、二案まで絞った所だ」


 ドートルの隣の椅子に座る男はサーブに冷たい目を向けて口を開く。


「新参者の、しかも遅れて来たお前に意見を求めても何も出せないだろ?我々で決めておくから、お前は戻っていいぞ」


 男のぞんざいな口ぶりにケルマーはムッとした顔を男に向ける。


「マイラス執政部長、その発言は横暴が過ぎます!」


 二人の睨み合いが酷くなる気配を察したサーブは慌てて立ち上がり、口を開く。


「ドートル部長、そう熱くならないで下さい。お……自分は頼み事があって来ただけですし、この町に来たばかりの自分では役に立たないと言うのはマイラス部長の仰る通りですから」


 ドートルが呆れた顔をサーブに向けて溜め息をつく横でマイラスは勝ち誇った笑みをサーブに向ける。


「サーブ君。彼は実にわきまえている。後は任せてくれたまえ。それで、頼み事とは何だ?」


「ハイ!それなのですが、出納部長に急ぎで頼みたい事がありまして」


 サーブはマイラスにそう言ってからドートルの向いに座る男に体を向ける。


「コリオ部長、衛兵から三年位前から住民税が五倍位跳ね上がって生活が苦しいと聞きました。余りにも異常な上がり方で、衛兵達から生活がとても苦しいと言われました。ですから元に戻して欲しいのです。税率の管理は出納部の主導ですよね?どうにかならないでしょうか?」


 コリオはホッと息を吐いてからサーブに笑みを向ける。


「その件なら翌月から元に戻るから安心しろ」


「えっ!本当ですか!?」


「あぁ、税率が上がっていた分はケルマーに流れていたんだ。我々もケルマーに逆らう事が出来ずにいてな……その話は会議の冒頭で既に済んでいる」


「そうですか、それじゃぁ、この事は皆に伝えても良いんですね?」


「あぁ、是非そうしてくれ」


「ありがとうございます。あと、出来ればもう一つお願いがあるのですが」


「ん?なんだ?」


「今月分だけでも良いので、皆が税金で取られた分の補填をしてもらえないでしょうか?」


「そうだな……」


 考える素振りを見せるコリオを見たマイラスは苛立ちを隠す事無く口を開く。


「それはこの後話し合う!もう良いだろ、もう出て行きたまえ!」


 マイラスの言葉を聞いたドートルは怒気を宿した目をマイラスに向ける。


「マイラス殿……貴殿の言動、中央に報告されても構わないのですか?」


 マイラスは眉をピクっと動かし、ドートルを睨み返す。


「効率を追求しての事、何か問題でも?貴殿こそ、中央からの任を受けているとは言え口を挟みすぎでは?権威を誤用して会議の邪魔をしたと中央に報告しますよ?」


ドートルの気配に殺気が混ざり始めた事に気付いたサーブは慌てて口を開く。


「ドッ、ドートル部長!抑えて下さい!自分、急ぎの別件がありますので、後は宜しくお願い致します」


 サーブは皆に忙しなく頭を下げて扉へと歩き出す。その時、


「サーブ殿、ちょっと待ちなさい」


 コリオの横に座っていた太った中年男性はサーブを呼び止めると立ち上がり、ゆっくりサーブの横に歩み寄る。サーブは足を止めて振り返り、少し首を傾げて男に尋ねる。


「何でしょうか、エーグリ部長」


 エーグリはサーブの背中に手を当て、扉の方に歩かせながら小声で話しかける。


「君は、もう少し世渡りと交渉術を学んだ方が良いと思いますよ」


「っ?は、はい……」


 唐突な助言に戸惑うサーブの背中をエーグリは軽く叩き、サーブに笑みを向ける。


「行きなさい。別の用事があるのでしょう?」


「っ!ハイ!失礼します!」


 サーブは驚きながらエーグリに頭を下げ、部屋を飛び出す。サーブを見送ったエーグリは扉を閉め、振り返って薄笑いをマイラスに向ける。


「マイラス殿。彼を会議に呼ばなかった理由をお聞かせ頂けますかな?」


 目の奥が笑っていないエーグリに気圧されたマイラスは思わず目を逸らし、焦りながら口を開く。


「っ!そっ、そんな、私は、いや、アイツ、いや、彼は来て日が浅いし、参加しても話について来れないだろうと思って……ほら、時間を無駄に使わせるのは悪いでしょう?」


 都合が良い事を吐くマイラスにドートルは肩を震わせる。ドートルの様子を見て息を軽く吐いたエーグリはドートルに声をかける。


「ドートル殿。サーブ殿は何か別件で急いでいたようですし、ここはマイラス殿の思惑が良い方に傾いたと思って会合を進めませんか?先程までと同様あなたがサーブ殿の代理として発言なされば良いでしょう?」


 エーグリはそう言うと席に戻りながらマイラスに尋ねる。


「マイラス殿?良いですよね?」


「えっ、えぇ、総務部長殿がそう仰るなら……」


 ドートルは肩の震えを止めて息を大きく吐き、エーグリに顔を向ける。


「エーグリ殿、承知しました」


 エーグリはドートルに笑みを返し、座り直して口を開く。


「では会議を再開しましょう。マイラス殿、進行を宜しくお願いします」




 会議が終わり、マイラスは呼び掛けるドートルの声を無視して逃げるように部屋から出て行く。マイラスを捕まえ損ねたドートルの舌打ちが部屋に響いた。コリオは苦笑いしながら書類を持って立ち上がり、ドートルに声をかける。


「ドートル殿、お疲れ様でした。そ、そんなに怒らなくても……」


「これが怒らないでいられる状況ですか?重要な会議に参加させないなんて。それとも、出納部は彼の行いを支持なさるとでも?」


「いっ、いやっ、そう言う訳では……」


 コリオは目を泳がせると慌てて部屋の奥の机の方へ逃げていく。様子を見ていたエーグリはドートルに声をかける。


「ドートル殿。気持ちは分かりますが、致し方ないと言う事はあなたも分かっておられるのではないですか?」


「っ?どう言う事ですか?」


 怒りに燃えるドートルの視線をエーグリは笑みで受け止め、口を開く。


「彼……サーブ殿はこちらに到着してから挨拶回りを最低限しかしていませんよね?」


「っ!そ、それは、そのようですが、それはアイツが到着早々ケルマーの件で奮闘していたからです」


「そうですね。ですが彼は、いや、あなた方は現地の執政部を差し置いてケルマーの件を終わらせてしまった。挨拶ついでに初期段階から協力要請するなりしていれば、彼の自尊心を傷付けずに済んだと思いませんか?」


「っ、確かにそうですが、誰がケルマーの協力者か分からないあの状況では仕方ないではないですか。それ位の事も分からず子供じみた嫌がらせをするヤツと仕事をするなんて、アイツが不憫でなりません」


「そうですね。否定はしません。ですが、その位の事を想定して策を練る時間は十分あったはずです。勿論、あなたにも」


「っ!それは……」


 言葉を詰まらせるドートルにエーグリは笑みを浮かべたまま口を開く。


「過ぎた事は仕方ないですから、王都に戻られる前にその辺の事をサーブ殿に教えておいて下さい。実直なのは良いのですが、それだけでは軋轢が酷くなってこちらも困りますから」


「はっ、はい……分かりました」


 ドートルは肩を落としてエーグリに頭を下げると書類を持って立ち上がり、部屋を出て行く。扉が閉まった音の後、部屋の奥で息を潜めていたコリオはエーグリに声をかける。


「おい、エーグリ。王都の部長さんにあそこまで言っちゃって大丈夫なのか?そもそも、ケルマーの横暴を止める事が出来なかった我々があんな事を言っても説得力が……」


「まぁ……そうだな。でも、あの御仁なら聞き入れてくれると思ってな」


「そ、そうか?何でそう思った?」


「そうだな……あの人、新入りの事を気にかけているみたいだったから、彼の事として話せば大丈夫だと思ったんだ。それに……」


「それに、何だよ?」


 エーグリは苦笑いしながら口を開く。


「ルイーゼ様を助ける為に頑張ってくれた奴の事を見て見ぬ振りするって言うのもどうかと思ってな。少し無理して踏み込みたくなったんだよ」


 そう言ってからエーグリは苦笑いを濃くさせて言葉を続ける。


「だがしかし、『ケルマーをどうにか出来なかった奴らがそれを言うか』とか言われなくて良かった」


 ケルマーはそう言って己の事を鼻で笑った。





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