2-27 余暇6 使い道
鹿肉を食べ尽くしたカトラは緩んだ顔で息を漏らし、手拭で口元を拭いてからラトサリーに声をかける。
「それでラトサリー。オグマに何か聞いていたって事は、別邸の使い道、何か思いついたって事よね?」
「えぇ。一部分を宮総研の所員さんとご家族の住まいにするのはどうかと思って。オグマさんも家探しが難航していると仰っていたし。オグマさん、どうでしょう?」
「そうだなぁ……あの辺りの治安は良さそうだが、家賃はいくらだ?あんまり高いと払えないぞ」
「それは大丈夫ですよ。家賃は建物を譲り受けた私が決めるのですから、条件次第ですがかなり安く出来ると思いますよ♪」
「それなら良いな……だが、あの広さの廊下とか庭とか掃除するとなると面倒だなぁ」
「それは管理する人に任せれば大丈夫ですよ」
「そうか、管理人がいるなら良いな」
オグマはそう言うとカトラに顔を向ける。
「おい、カトラ。良いよな?」
カトラは椅子に座ってラトサリーに目を向ける。
「ラトサリー?別邸の管理人はあなたが雇うの?」
「いいえ。管理人はルイーゼ様に用意してもらおうと思うの。今回の騒動で夫を亡くした方や孤児になった子達がガイヒア家の邸宅で働くって聞いたから、その方々の中から何人かを別邸の管理人に回してもらえば良いかなって」
「そう。それで、『一部を住まいに』って言っていたけど、後は何に使う計画なの?」
「そうね。管理人さん達には住み込みで働いてもらうでしょ。宮総研の来客用の宿舎でしょ。それと、宮総研の倉庫を兼ねた展示施設にするのはどうかと思うの。将来的にここの敷地だけでは手狭になるでしょうし、王都から視察とか来た時に楽だと思うの。どう?カトラ?」
カトラは呆れた顔をラトサリーに向ける。
「それで、御当主様はこの都合が良すぎる話に乗ってくれると思う?」
「難色を示してきたら、まだ働けない年齢の孤児の養育場所をこっちに移すって言えば乗ってくれるんじゃない?」
「そうねぇ……あとは……」
カトラはそう言うとオグマに顔を向ける。
「オグマ。あなた、雨でもサボらずここに通える?」
「え?まぁ、問題ない……けど、雨の日は倉庫の整理や清掃をする日にするって言うのはどうだ?」
カトラは苦笑いしてオグマを睨む。
「まったく……前向きに検討するわ」
カトラは肩を竦ませ、ラトサリーに笑みを向ける。
「ラトサリー。御当主様から許可を貰えたら、宮総研として話に乗ってあげるわ」
「本当?ありがとうカトラ♪」
ラトサリーの嬉しそうな声を耳にしたサーブはカトラに声をかける。
「あの、カトラさん。ちょっといいですか?」
「ん?何よ?」
「俺とラトサリーは当初の予定通りここに住むんですよね?」
「そうよ。何?あなたは別邸に住みたい?」
「いえ、そうじゃなくて。ここの工事って、いつ頃終わりそうですか?引越しとか片付けとかの予定を勤務予定表に反映させないといけなくて」
「あぁ……そうよね……まだ結構かかると思うわ。来週、親方の師匠って言うのが来て打ち合わせして工程表作るから、それまで待って頂戴」
「はい、わかりました」
サーブは素直に答えるとラトサリーに顔を向ける。
「ラトサリー、それじゃぁ帰ろうか」
「えぇ……って!片付け、終わっちゃった?ごめんなさい、手伝わなくて」
「良いんだよ、難しい話をしていたんだし。それに、オグマさんとカリフさんの手伝い程度でしか参加してないから」
「そう?……それじゃぁ、帰りましょう。オグマさん、カリフさん、お邪魔しました」
ラトサリーは二人に頭を下げてからカトラに顔を向ける。
「ねぇカトラ、今日もこっちで寝るの?今日は別邸のお風呂が女性の日だから、入りに来たら?」
「そうなの?……そうね……それじゃぁ、装備の手入れを終えたら行くわ」
「そう、わかったわ。じゃぁ、また後で」
「えぇ。またね」
馬車に乗り、別邸に戻るサーブとラトサリー。馬車を操るサーブは荷台に乗ったラトサリーに声をかける。
「ラトサリー。今日は良い肉食べれて良かったね。どうだった?」
「えぇ、凄く美味しかったわ。カトラの調味料であんなに美味しくなるなんて、ビックリしたわ」
「そうだね。でも、あの肉は本当に珍しい良い肉なんだよ。普通の鹿では調味料を使ってもあそこまで美味しくならないよ」
ラトサリーは御者席に身を乗り出し、サーブの顔を覗く。
「そうなの?普通の鹿じゃないって、どんな鹿なの?」
「あの鹿はサンダーディアーって言うダラウンカタの固有種だよ。森の入り口で変に目立つ動きをするモノを見つけたら襲ってくる見張りみたいな奴で、見つかったら逃げないと危ないって言われているんだ」
「え?そんな危険な鹿を……カトラは仕留めて来たの?」
「そうなんだよ、それも一人で。流石カトラさん、と言いたい所なんだけど……」
「ん?なんだけど、何?」
「あの鹿、よっぽどの事をしないと出て来ないんだよ……カトラさん、森で何してたんだと思う?」
「そうね……って言うかサーブ、カトラに直接聞けば良かったじゃない。何で聞かなかったの?」
「だって、失敗して遭遇したとかだったら、言わせるの悪いじゃないか」
「そっ、そうね……」
ラトサリーはそう言うと左手を頬に当てようとするが、手を止めてサーブに尋ねる。
「ねぇサーブ。その鹿って、美味しいって言うのは有名なの?」
「うん。森で獲れる獣の中で上位にくる美味しさだって言われているよ」
「そう。それと、倒し方って、どんな方法があるの?」
「そうだね……弓を使えばまぁって所なんだけど、カトラさん、弓を持って行かなかったみたいだし……そうなると方法は限られてくるけど……実際にやろうと思う人は少ないかなぁ」
「それで?どうやるの?」
「えっとね、角から放たれる雷に合わせて鉄の武器を投げて雷を逸らせて、雷が止まる瞬間を狙って仕留める、って言うのが有名な方法かなぁ。でも、自分の素早さと間合いを計算しないといけないから、結構難しいんだよ」
「それは……カトラなら出来そうね。それで、他にも方法はあるの?」
「うん。でもそれは何人かでやる方法だよ。今の所、一人の場合の方法は一つだけかなぁ」
ラトサリーはそう聞くと呆れた様な笑みを浮かべる。
「そう。そう言う事なら……」
「え?もしかして、分かった?」
「えぇ、多分……カトラはワザと見つかる様な動きをしたんだと思うわ」
「え!ワザとって。何で?」
「食べたかったんじゃない?美味しい鹿肉を……」
「え?……でも、皮とか角とか、高い値段がつくし……そっちが理由なんじゃない?」
「私達が到着した時、カトラ自ら解体していたわよね。お金目当てだったらそのまま業者に引き渡すんじゃない?」
「そ…………そうかな……解体を自分でするから金額上げてとか交渉してたとか……」
「解体していた時、先に取り分けて氷が入った番重に入れていたわよね。それで、誰にも渡すなって言っていたじゃない?」
「そ……そうだね……」
馬車に訪れた沈黙は暫く続いた。




