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これ、ホントに呪いの指輪なの?  作者: 彩田(さいた)
二章 カタアギロ到着編
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2-25 余暇4 受渡



 門の外でルイーゼが乗る馬車を見送ったサーブとラトサリー。馬車が見えなくなると二人はホッと息を吐いて玄関に戻り、玄関の前で足を止めると建物を見上げた。サーブは建物に目を向けたままラトサリーに声をかける。


「ねぇ……どうしよう……」


 ラトサリーはサーブを横目で見ながら苦笑いを浮かべる。


「どうしようも何も……カトラに相談しないと」


「そうだね……でも、カトラさんが良いって言ったら……ここで暮らす事になるんだよね?大きすぎない?」


「えぇ……大きすぎるわね。でも、宮総研も込みなら……カトラなら無駄なく上手に使うんじゃない?」


「だよねぇ……それじゃぁ、カトラさんの所に行こうか。俺は馬車の準備をするから、ラトサリーは何か持っていく物があれば持って来て」


「分かったわ」


 サーブは小走りで厩舎に向かい、ラトサリーは扉へと進んで建物に入った。





 サーブが警護部の者達の家族情報をまとめている間、ラトサリーは中庭の東屋でルイーゼとお茶を飲みながら雑談する事になった。ラトサリーは食堂に赴いてジーナにお茶の準備を頼み、東屋に戻りながら自身の事をどの程度話すべきかと思案した。だが、その労力は無駄となった。ジーナがお茶を運んで戻った後、ルイーゼはこれまでのケルマー侯爵に対する不満を語りだし、ラトサリーが相槌を打つのも難しい程に言葉を重ねていった。ルイーゼが喉を潤す為にお茶に口をつけた隙をついてラトサリーは話題を変えようと試みたが、そのどれも上手くいかなかった。ラトサリーは笑顔を崩さないよう注意しながらエリーに目配せして助けを求めたが、エリーは済まなそうに頭を下げて苦笑いを返した。愚痴の途中、ケルマーが悪用していた別邸を処分したいと言い出したルイーゼ。折角だし引き取れと言われたラトサリーは『夫に相談してみます』と述べるに止めた。

 ケルマーへの恨み事を吐き終えたルイーゼはカップをエリーに差し出し、『それに比べて……』と呟くと気配を急変させ、今度は顔を輝かせてドートルの事を語りだした。お茶を入れ終えたエリーは困った顔をラトサリーに向け、ラトサリーは苦笑いを返した。ドートルの大人の風格と紳士的な気遣いに感銘を受けたと語るルイーゼだったが、よくよく聞くと好みの顔だったようだ。ドートルが独身か分かる前に入れ込むルイーゼを落ち着かせようとラトサリーは口を挟もうと試みたが、そのどれも上手くいかなかった。恋と言うモノを体験する前に政略結婚させられたルイーゼの狂乱は留まる事が無かった。ルイーゼはお茶に口をつける事もせずドートルの良さを語り続け、ラトサリーは内心ゲンナリしている事が顔に出ないよう必死に笑顔を繕った。

 ルイーゼは似た様な事を繰り返し話し続けてようやくお茶に口をつけ、落ち着いた所でラトサリーにサーブとの事を聞いて来た。誰かと恋の話を繰り広げる事も無く育ったルイーゼにとって、目の前の女性は恰好の獲物だった。顔を引きつらせたラトサリーはエリーに目を向けて助けを求めたが、そのエリーも聞く気満々だった。ラトサリーはお茶が冷めたから取り替えると言って離脱を試みるも、エリーにポットと取り上げられ逃亡に失敗した。身を乗り出すかのようにラトサリーに迫る二人。ラトサリーは溜め息をつき、頬を赤らめながらサーブとの出会いから話そうと口を開いた。その時、開いた扉からサーブが現れ、気付いたラトサリーは顔を真っ赤にして口を止めた。エリーはサーブに目を向けて舌打ちし、ルイーゼは残念そうに溜め息をついた。

 戻ったサーブは三人の雰囲気の異様さに首を傾げながらエリーに書き込んだ紙を差し出した。エリーは受け取ろうと手を伸ばすが、ルイーゼはサッと手を伸ばしてその紙をもぎ取った。食い入る様に紙に目を向けるルイーゼだったが、急に肩を落として顔を曇らせた。エリーとラトサリーはルイーゼの落胆振りに苦笑いを浮かべ、サーブは不思議そうにルイーゼを見つめた。ルイーゼはフラっと立ち上がり『情報大義であった』と俯きながら口にすると力なく扉へと歩き出した。エリーはラトサリーに苦笑いを見せてからサーブに頭を下げ、駆け足でルイーゼの後を追った。状況を理解出来ないサーブはラトサリーに目を向け、ラトサリーは苦笑いを返して立ち上がった。二人はルイーゼを見送る為に後を追い、サーブはルイーゼが重い空気を漂わせている事に首を傾げた。馬車に乗り込む前にルイーゼは振り向き、虚ろな目で『別邸の件の返事は急がない』とだけ述べて馬車に乗り込んだ。極度の落胆ついでに譲渡の件を忘れてくれる事を期待していたラトサリーは頭を押さえ、何事かとラトサリーに尋ねたサーブは話を聞かされ顔を引きつらせた。





 別邸の使い道を話し合いながら荷馬車で宮総研に向かうサーブとラトサリー。橋を渡って西側の町に入り、幾度か道を曲がった所でラトサリーは荷台から顔を御者席に出してサーブに声をかける。


「鍛冶屋さんの先の道を右に曲がって真っすぐ行ったら宮総研よ」


「わかった。ありがとう」


 サーブはラトサリーの案内の通りに荷馬車を進め、右折して真っすぐ延びる道の向こうに目を向けて首を傾げる。


「ん?……何だろう……」


「ん?サーブ、どうしたの?」


「いや、何か……庭に人だかりが出来てるんだけど」


「え?人だかり?」


 ラトサリーは怪訝な顔をして荷台から身を乗り出し、前方に目を向ける。


「あぁ……言われてみれば。って言うかサーブ、この距離で直ぐ気付くなんて凄いわね」


「いやぁ♪君に凄いって言われると嬉しいな♪」


「でも、何かしらね?」


「そうだね。少し急ごうか」


 サーブはそう言うと馬に鞭を入れた。



 開かれた宮総研の門を通ったサーブは馬車の速度を落とし、母屋の手前で馬車を止めた。二人が馬車の上から人だかりの中央を覗くと、カトラと見知らぬ男二人が獣の解体をしていた。臓物の処理は既に済み、一人の男は剥ぎ終えた皮の処理、もう一人の男は骨に刃を入れて大まかに切り分け、カトラは骨ごと切り分けられた部位から肉を切り取っていた。カトラはラトサリー達に目を向けると大きな声で呼びかける。


「二人とも!早くこっちに来て手伝って!」


 状況を把握出来ないまま二人は馬車から降りてカトラの下に向かう。カトラはサーブに顔を向けると包丁を投げ渡す。


「小分けにして配れるように切り分けて。大きさは……小鍋に入る位で。そこに骨切り包丁あるから。それと、そこの番重に入ってる肉には手を付けないで頂戴♪それは誰にも渡しちゃダメよ!!」


「っ、はい、わかりました」


素直に返事をしたサーブに笑みを見せるカトラ。ラトサリーは怪訝な顔でカトラに声をかける。


「カトラ、この状況は何事?」


「見ての通り、仕留めた鹿を解体して物々交換するのよ♪あなたは受け取る係をヨロシク。私は肉を入れる係をするから♪」


 ラトサリーはカトラを囲む人達の手元に目を向けると、皆それぞれ何か入った袋と空の容器を持っていた。ラトサリーは呆れ顔をカトラに向ける。


「そう……わかったわ」


 ラトサリーはそう言うと肉を待つ人達に向かって笑顔で声を張る。


「皆さーん!来た順で一列に並んで下さーい!」


 ラトサリーの声を受け、集まっていた人達は声を掛け合いながら列を構築し始める。列が出来上がるまでカトラから状況の詳細を説明してもらおうと思っていたラトサリーだったが、怒号が飛ぶ事も無く列が即座に完成した事でその目論見は崩壊した。驚きを隠せないでいるラトサリーに列の先頭の女性は首を傾げながら声をかける。


「ちょっと、お嬢さん?どうしたんだい?早く始めておくれよ」


「っ、はいっ!スミマセン」


 ラトサリーは慌てて返事をすると差し出された麻袋を受け取った。





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