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これ、ホントに呪いの指輪なの?  作者: 彩田(さいた)
二章 カタアギロ到着編
68/120

2-22 余暇1



 男達の処刑の見届けを前任者とドートルに頼んだサーブは侯爵家別邸に戻り、処刑された男達の家族の裁定に着手した。

収監されていた中の半数程の大人の女性と数人の子供は処刑された。それらの者達は悪事に積極的に加担し、強奪物を貪り、囚われていた家族に酷い仕打ちを加えていた。

孤児となった子供は侯爵家が侍従として育てる事になった。これは当主のルイーゼからの提案で、手荒に扱われる事が無いよう取り計らうとの約束により成立した。

夫が何をしていたか知らなかった女性とその子供には状況説明が行われ、身の振り方はそれぞれに委ねる事となった。夫の所業故に暮らしが困難になった場合は迷う事無く庁舎に赴き相談する様にと告げられた。その窓口は数年維持される事となり、転職の斡旋や移住の費用提供等の元資は侯爵家から出された。

全ての裁定はエサンカ達の情報を基に行われた。サーブは庁舎と侯爵家邸宅と別邸を何度も行き来して事後処理に奮闘した。細かい処理も加わり、全てが粗方片付くのに五日程かかった。異動先での初任務を終えたサーブはベッドに潜ると次の日の昼まで出て来なかった。





 襲撃を受けた宮総研の片付けは難航していた。

横転して破損した馬車は庭の端に運ばれ、カトラに倒された男達の一時保管場所とされた。夕刻に派遣された衛兵が男達の亡骸を回収していった後、血で汚れた荷台はカトラによって洗浄された。翌日、破損具合の確認が行われたものの修理可能か判断が難しい程度の壊れ方だったので、他が片付くまで放置する事になった。

横転した馬車を引いていた二頭の馬のうち、一頭は軽傷だったので治療して宮総研で用いられる事になった。カトラの一撃を受けたもう一頭は虫の息だったので処分される事になった。オグマが血抜きをする間にカリフは近隣への挨拶回りに出かけ、挨拶がてら肉が欲しいか声をかけた。襲撃された事実とその際に響いた音のせいで最初は怯えていた住民だったが、カリフの甘い顔と話術で緊張を解き、肉と聞いて態度を一変させた。その結果、かなりの人数が宮総研に集まり、手伝いに加わる者も現れた御陰で庭には解体した馬の骨も残らなかった。カトラの手元には馬のモモ肉が握り拳程の大きさ一塊だけ残された。オグマとカリフはカトラが『足りない、アッチも絞める』と涙目で厩舎に向かうのを止める為に時間を無駄に浪費した。

 母屋の床は血が床組みの隙間に流れ込んで地下室まで滴る程だったので張り直しが必要と判断された。開口部を堅牢にする工事と並行して行われる事になったが、軍でも容易に突破出来ない程度の強度を要求された職人達は苦戦していた。据え付けた窓と鎧戸を耐衝撃試験と言って飛び蹴りしたカトラによって三回程壊され、親方は諦めて自らを育てた師匠を招集した。だが、その師匠が到着するのが翌週以降と言う事で、母屋の大工作業はそれまで完全に止まった。厩舎の補強工事は折り合いがついていたので補修工事と共に継続される事となった。

 カトラが粉砕した庭の通路の補修は直ぐに終わった。馬肉を分けた近隣の家に外構の職人がいたからだ。不良在庫の煉瓦で半日かからず補修を終えた職人は馬肉のお礼と言って鴨の干し肉とワインを持って来てカトラに渡した。結果、彼とその家族はカトラの飲み仲間となった。

 ラトサリーの観察と監視の任務の体裁を整える為に誰かを別邸に送る事が検討された。だが、人員不足と判断して警護部に人を出してもらう事になった。サーブはエサンカに声をかけ、エサンカと親交がある人員を別邸の警護に追加させた。

 宮総研の補修と並行してカトラは研究員の募集を行い、街の掲示板に募集を募る広告が貼られた。採用条件は『森に入れる強さを十分有すると試験で認められた者、強力な回復術式使用者で読み書き計算まで出来れば尚良し』だった。報酬が庁舎職員の基本給の倍以上である事に加えて出来高に応じた報酬まで払われると言う事で、多くの者が試験に備えて準備を始めた。

 宮総研の工事延長のせいで何も進められなくなった三人は数日程別行動する事になった。オグマとカリフは自分たちの住居探しに出かけ、カトラは一人で森の下見に赴く事にした。リュックサックに一泊出来る程度の荷物を詰めて出発したが、森に近い門を通ろうとすると衛兵に止められた。小柄な女性が一人で森に向かう事を心配しての制止だったが、宮総研の名前を出すと衛兵は顔色を変えてカトラを通した。





 目を覚ましたサーブはベッドから降り、体を捻りながら部屋を見渡す。誰もいない部屋の窓から入る日の光を見て寝すぎた事に気付いたサーブは慌てて着替えに手を伸ばす。だが、休日である事を思い出し、安堵の息を吐いて着替えに腕を通す。外から子供がはしゃぐ声が聞こえるのでベランダに出て中庭を覗くと、子供達が楽しそうに駆け回っていた。サーブは部屋に戻り、テーブルにあったパンを口に放り込み、身なりを整えると部屋を出て中庭に向かった。

 静けさが漂う廊下を進んで階段を下りたサーブは玄関扉の横の当直室で待機する護衛に労いの声をかけてから中庭に向かう。扉を開けて回廊に出たサーブは足を止めて庭を見渡す。七・八人程の子供達が楽しそうな声を上げて中庭を駆け回っていた。その中にはアドエルの姿があり、二手に分かれて何か競っているようだった。庭の隅にあるベンチでミラテースは隣に小さい女の子を座らせ、子供達を追いかけるアドエルを見守っていた。中庭に入って来たサーブに気付いたミラテースは視線を向け、視線に気付いたサーブはミラテースに頭を下げて彼女の元に向かう。サーブは子供達の邪魔にならないよう庭の端を進んだが、サーブに気付いた子供達は駆け回る足を止め、嬉しそうな声を上げながらサーブの元に走り出す。何事かとサーブは足を止めて子供達を待ち構えた。子供達はサーブを囲み、目を輝かせながらサーブを見上げる。サーブは子供達に微笑みながら口を開く。


「みんな、どうしたんだい?」


 サーブの問いかけに子供達は互いに目を向け合い、やがて一人の男の子に視線が集まる。サーブより頭一つ程背が低い男の子は好奇心を伺わせる笑みをサーブに向ける。


「ね、ねぇアンタ、すっごく強いんだってな?手合わせしてくれよ!」


 他の男児達も同じ顔でサーブを見上げる。サーブは一瞬目を泳がせるが直ぐに笑みを浮かべ、男の子の頭に手を置く。


「いいよ。それじゃぁ練習用の武器持って来て。俺の分も良いかな?」


「わっ、分かった♪持って来る!」


 男の子は嬉しそうに走り出し、建物に駆け込む。サーブは他の男の子達の目が訴えかけてくる事を察し、男の子達に微笑みかける。


「手合わせしたい子は練習用の武器持って来な♪」


「「「うっ、ウン!」」」


 男の子達は満面の笑みを浮かべて返事をすると走り出し、中庭から姿を消す。男の子達を見送ったサーブは残った女の子達を引き連れミラテースの元に向かう。くつろいだ様子のミラテースはサーブより先に戻って来ていたアドエルを横に座らせ、近づいてくるサーブに顔を向けてニヤリと笑う。


「アンタ、なんで躊躇したの?」


「いや……その……」


 サーブは困った顔をしながら右手で自分の首を摩り、ミラテースが座るベンチの横で止まるとミラテースに飛び切りの苦笑いを見せる。


「手合わせの誘いを受けたのが久しぶりすぎて……」


 ミラテースはサーブを見たまま固まり、肩を震わせ始めると口を押えてサーブから顔を逸らす。サーブがどうしたモノかと悩んでいるとアドエルと目が合い、首を傾げて来るアドエルにサーブは思わず笑みを零す。サーブの後ろにいた女の子達はアドエルに歩み寄り、アドエルを椅子から降ろすと手を繋いでもう一つあるベンチに向かう。ミラテースはアドエル達を目で追い、女の子達の気配に胸を撫で下ろす。ミラテースの笑いが治まったのを見たサーブは先程とは違う苦笑いをミラテースに向ける。


「ミラテースさん、笑いすぎだと思います……」


 ミラテースはサーブに顔を向け、再びニヤリと笑う。


「だって、理由がそんなだったから……思わず、ね♪」


「ね♪って……まぁ……それで、ラトサリーは一緒じゃないんですか?」


「えぇ、彼女だったら厨房にいるわよ」


「厨房?手伝いとかですか?」


 サーブの問いにミラテースは少し困った顔をする。


「えぇ……手伝いと言うか……実験をしているって言うか……」


「え?実験?」


「まぁ、見に行けば分かるわよ」


「そっ、そうですね。それじゃぁ、行って来ます」


 サーブはそう言いながら向きを変えて歩き始める。ミラテースは慌ててサーブに声をかける。


「えっ?待ちなさいって!子供達の手合わせ!」


「あっ!そうでした♪」


 照れ笑いを向けて来るサーブにミラテースは肩をすくめた。





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